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梅雨入りの翌日は、
梅雨明けを先取りしたやうな、暑い晴天。
白く光る街では、
當世流に白く塗った女性たちの顔は白く照り返され、
明太子のやうに真っ赤な口紅は、
一際あざとく冴えわたる。
二階の窓から眺むれば、
空は西へ傾く太陽に、
旅情色へと染まりはじめる。
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“思へば限りなく 遠くも来ぬるものかな”
私は居ながらにして、
かなたへの旅人となる。
陽の当たらぬ眼下の庭では、
なにかの意地でその日をつなぐ老婆が、
腰をかがめて草をむしる。
はて。
草ならば昨日、むしり尽くしたはずではなゐか……?
さうさう、
読むのを楽しみにしてゐた本があった。
古書店の店頭で、
吹き出すほどの廉価で手に入れて、
そのままになってゐた、高価(たか)ひ本。
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そのままにしておいて、
楽しみにしていたもないのだが、
「躰は二つにならぬ」のじゃ。
あるお節介焼きは云った。
「歳をとったら、寂しくなるわよ」
寂しがるから、歳を喰ふのである。
気遣ひなら御無用。
私に他力本願など無い。
梅雨明けを先取りしたやうな、暑い晴天。
白く光る街では、
當世流に白く塗った女性たちの顔は白く照り返され、
明太子のやうに真っ赤な口紅は、
一際あざとく冴えわたる。
二階の窓から眺むれば、
空は西へ傾く太陽に、
旅情色へと染まりはじめる。
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“思へば限りなく 遠くも来ぬるものかな”
私は居ながらにして、
かなたへの旅人となる。
陽の当たらぬ眼下の庭では、
なにかの意地でその日をつなぐ老婆が、
腰をかがめて草をむしる。
はて。
草ならば昨日、むしり尽くしたはずではなゐか……?
さうさう、
読むのを楽しみにしてゐた本があった。
古書店の店頭で、
吹き出すほどの廉価で手に入れて、
そのままになってゐた、高価(たか)ひ本。
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そのままにしておいて、
楽しみにしていたもないのだが、
「躰は二つにならぬ」のじゃ。
あるお節介焼きは云った。
「歳をとったら、寂しくなるわよ」
寂しがるから、歳を喰ふのである。
気遣ひなら御無用。
私に他力本願など無い。