迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

白昼覗きからくり。

2018-06-07 23:45:41 | 浮世見聞記
梅雨入りの翌日は、

梅雨明けを先取りしたやうな、暑い晴天。


白く光る街では、

當世流に白く塗った女性たちの顔は白く照り返され、

明太子のやうに真っ赤な口紅は、

一際あざとく冴えわたる。




二階の窓から眺むれば、

空は西へ傾く太陽に、

旅情色へと染まりはじめる。



“思へば限りなく 遠くも来ぬるものかな”

私は居ながらにして、

かなたへの旅人となる。




陽の当たらぬ眼下の庭では、

なにかの意地でその日をつなぐ老婆が、

腰をかがめて草をむしる。

はて。

草ならば昨日、むしり尽くしたはずではなゐか……?




さうさう、

読むのを楽しみにしてゐた本があった。

古書店の店頭で、

吹き出すほどの廉価で手に入れて、

そのままになってゐた、高価(たか)ひ本。



そのままにしておいて、

楽しみにしていたもないのだが、

「躰は二つにならぬ」のじゃ。



あるお節介焼きは云った。

「歳をとったら、寂しくなるわよ」

寂しがるから、歳を喰ふのである。


気遣ひなら御無用。

私に他力本願など無い。
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