迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

忘夏苦汗。

2023-07-12 19:22:00 | 浮世見聞記


東京メトロに乗ったつひでに、今月二日に閉館した中野サンプラザを見納めに、中野驛まで足を伸ばす。


忘流の忘師について日本舞踊をかじってゐた昔、ここの一室を借りて行はれた一門の温習會(おさらいかい)に一度だけ参加した際に、来たことがある。


季節はちゃうど夏、師匠形見の絽の黒紋付を着て、素踊りを踊った。

曲目なんて、もふ忘れた。

古典の骨法を改めてしっかり身に付けやうと、かなりしっかり稽古したつもりだったが、立派なのは觀世骨の扇ばかり、いろいろな意味で手應への無い結果に終はった。

いや得たものはあった、一つだけ。


「この一門も、私の居場所ではないな」──


急逝した師匠について、口先ばかりのお悔やみばかり聞かされることに、いい加減うんざりしてゐた折でもあった。


その年のうちに、私はこの一門も離れた。


新しいものを得るためには、旧(ふる)いものを棄てる必要もあることを、この時に學んだ氣がする。


もちろん、中野サンプラザにはその後行くことはなく、せいぜい電車の車窓から、視界にチラリと入る程度だった。 


件の建物は、近日取り壊しになると云ふ。

構はん。

さっさとやれ。







コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 炎日行路。 | トップ | 名優総天然色。 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。