迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

国土はなんぴとのものなるや。

2017-08-21 10:38:29 | 浮世見聞記
京浜急行線「仲木戸駅」から徒歩四分、熊野神社で奉納された横越社中の土師流里神楽を、午前中から夜にかけて大いに堪能する。





午前中は「黄泉醜女」の続きにあたる「禊払(みそぎはらひ)」、



午後は稲荷大神(いなりおおかみ)が紀千箭(きのちのり)に自分の弓を渡して稲荷山の鬼を退治するやう命じる「稲荷山」、



大国主命(おおくにぬしのみこと)が治める豊葦原中つ国(とよあしはらなかつくに)の返還を求める二人の使者の順番を、籤で決める「神集記(しんしうき)」のあと、



一人目の使者である天菩比神(あめのほひのかみ)は大国主命の息子、建御名方(たけみなかた)の策略で酔ひ潰され、交渉に失敗する「菩比の上使(ほひのじゃうし)」



と続く。


日が落ちて神楽殿に灯が入り、夏祭りらしい雰囲気になってきたところで、第二の使者の天若日子(あめのわかひこ)は大国主命の娘、下照比売(したてるひめ)の美貌に動揺し、さらに下女(おかめ)に唆されて高天原からの使者である雉を射落としたことで却って自身も命を落とす、「天の返し矢」が始まる。



男がオンナによって運命を転落させる内容は、現代にも通じる“深さ”があって、面白い。


そしてなんとも喧嘩っ早ゐお兄さんたちが威勢良く担ぐ神輿が宮入りしたあと、



最後の演目「天孫降臨(てんそんこうりん)」が始まる。



話しはこれまでと変わり、猿田彦と天宇受売命(あめのうずめのみこと)が夫婦となる話しだが、わたしは前半の、



道慣らしの百姓と猿田彦とが、「どけ」「どかない」で喧嘩となる場面が好きだ。



川崎の稲毛神社の奉納神楽の時も感じたが、登場する神々を当時の権力者たちに置き換へて見ると、神話や伝説でぼかされた古代人の姿が、生々しいまでの現実味をもって、我々の前へ浮かび上がってくる。

日中に上演された「神集記」「菩比の上使」「天の返し矢」は、「国土奉還(こくどはうかん)」といふ一連の神楽のそれぞれ一幕で、国土を巡る駆け引きは、そのまま大王と敵対する豪族たちとの領土争ひの実際を暗示してゐるのではないか──


土地をめぐる争ひは、古今東西、規模の大小を問はず、生き物の抗ひがたき“業”のやうだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« にじむ篝火佐渡寶生。 | トップ | てつみちがゆく──引退して新... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。