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へぇ、10と8で“そばの日”なの。
苦しい語呂合はせねぇ……。
ええ、お蕎麦は好きよ。
饂飩よりもね。
中華そばも好きではあったけれど、田舎のチンピラ崩れみたいな不衛生なのが厨房に立つのが主流になってからは、すっかり興醒めして……。
あ、さう。
日本蕎麦の話しね。
大阪で暮らしてゐた頃、京都の寺町通りにある鰻の寝床のやうなお蕎麦屋さんの鰊蕎麦が、大好きだったわ。
それから、京都駅の東海道線ホー厶にある立ち食ひ蕎麦屋の鰊蕎麦も。
さう。大切な思ひ出の味よ。
大阪は、関西は、わたしの第二の故郷ですから。
でもねぇ、江戸の蕎麦っていふと、まるで印象がないのよ。
もちろん、食べたことあるわよ。
でも、「美味しい」と思った記憶がないの。
半可通がしたり顔で暖簾をくぐるやうな老舗なんて、もとより興味ないしね。
安くて、手軽で、おいしく食べられる──
さういふお蕎麦がいいわ。
歌舞伎の戦前の名優が、蕎麦を食べる芝居をやると劇場の近所の蕎麦屋が大繁盛したなんて傅説があるけれど、お蕎麦と庶民とのつながりをよく示した一例だと思ふわ。