迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

熱研清爽。

2023-08-02 22:58:00 | 浮世見聞記


「京鹿子娘道成寺」が觀たくて、淺草公會堂で行はれてゐる尾上右近の自主公演「第七回 研の會」に出かける。


正月に“道成寺物”の舞踊が觀たくて出かけた先も、やはり淺草公會堂だったのは何かの因縁か。

あの時は「男女道成寺」だったが、今回は原曲の「京鹿子──」、思へば十數年ぶりに觀る舞踊劇で、それはつまり、上演に堪え得る役者がそれだけ業界から拂底してゐることを示してゐる。

かつては年に一度は木挽町で掛かってゐたが、これからは何かの節目で辛うじてお目にかかれるばかりの希少狂言になるかナと思ってゐたが、さうか尾上右近と云ふ音羽屋正流の役者がゐたかと、制作發表の記事を見た時に思はず膝を打つ。



振りは道行から鐘入まで、大勢の所化は出さず能力の二人立ちで、舞薹面の華やかさにはやや欠けるが、ここで觀た正月興行のやうに、血色の惡い大部屋どもがゾロゾロ出て来てド下手な花傘踊りなどを見せられるよりかは、はるかに良い。


(六代目尾上菊五郎の白拍子花子)

踊りは直線的で、早間になると粗っぽさのチラチラするのが氣にはなったが、いかにも才氣に富んだ若い役者の、その煥發さが表れたものと思へばまァ觀てゐられる。


(同)

幕切れ後には幕外にて歌舞伎への熱意をぶつけた“口上”があり、



そのなかで冩真撮影を許可する場を設けたのは、觀客心理をくすぐる上手い気遣ひだ。





芝居は現行歌舞伎における夏場の定番「夏祭浪花鑑」、恩ある武士のドラ息子のために運命を振り回される大坂庶民の悲劇、主演の會主以下、連日の猛暑を上超すばかりの熱量溢れる芝居ッぷりで、この夏初めて清々しさを覺える。

かういふ“アツイ”なら大歡迎だ。


(右・十五代目市村羽左衛門の團七九郎兵衞、左・六代目菊五郎の一寸徳兵衞)

それにしても名跡(なまえ)だけは上方の役者が扮する釣船三婦、年齢(トシ)だけは喰ってゐることを何かと勘違ひしてか、やけに余裕ぶった芝居をするわりにどこかの新喜劇に出て来さうな老人にしか見へず、それよりはるかに年若な三河屋義平次の役者のはうが、老爺の演技がよっぽどしっかりしてゐるのを面白く思った。


さて、團七九郎兵衞は夜の長町裏で、強慾な義父をやむを得ず殺害してしまふ。


(左・二代目實川延若の團七九郎兵衞、右・六代目大谷友右衞門の三河屋義平次)

義理の父とは云へ、親殺し──

近頃に實父を殺めた歌舞伎役者がゐたが、さう云ばこの「夏祭浪花鑑」は、當時大坂で實際に起きた魚屋の親殺し事件が元ネタである。








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