しずおかアードギャラリーで、「モダン・デザイン工業とルーシー・リーの時代」という講演をきいた。講師は、東京国立近代美術館の金子賢治氏。
ルーシ・リーが生まれたのは1902年、当時、ヨーロッパでは、陶土を使って成型し焼成するという「陶芸」は、一般的なものではなかった。焼き物は工業生産される磁器が中心で、モダン・デザインというのは、工業生産される「物」を指しての言葉であった。
バーナド・リーチは、1920年代に、日本に来て陶芸の技術を学び、窯や土や焼成の方法をイギリスに持ち帰っている。ちょうどその頃、美術学校を卒業し、轆轤のとりこになっていたリーは、本格的に陶芸を始めることになる。しかし、日本のような伝統的な「陶芸」の歴史のないヨーロッパでは、むしろ工業デザイン的な要素が強く、彼女の初期の作品には、そうした影響が強く現れている。
当時、「バウハウス」は、イギリスの「モダンデザイン」の実践的な場であった。ウイリアム・モリスやマッキントッシュ等、日本でもよく知られている作家が現れ、斬新なデザインの世界を展開する。純粋美術から生まれた応用美術の世界が、華麗に花開いた時代である。当時、ここで作られた「もの」の中には、現代もなお評価の高い製品が多くある。
物を部品ごとに分解して生産し接続する、デザイン的な成型の技術や、鉱物の調合による釉薬の開発、そしてモダニズムが生まれ、ハンス・コパーのような作家が現れる。ルーシー・リーは、そのハンス・コパーと14年間もアトリエを共有し、「彼からたくさんのことを教えてもらった」と語っている。
そんな時代背景の中で生き、制作された彼女の作品を見ると、デフォルメされた大きな口や細くて長い首や、すわりの悪そうな高台の微妙なバランスが、妙に親しみのあるものに見えてくるから不思議である。