ハワイは、芸術の中心からは遠く離れていますが、
人種の多国籍、多民族性においては、他の国にはない特色を持っています。
そしてそれは、それぞれの民族の受け継いでいる文化遺産や芸術に対する理想を、共有することができるということです。
ハワイ原住民・アメリカ人・中国人・韓国人・日本人・フィリピン人・北欧人、
ここに住むすべての人々が、どの民族にも共通する芸術を通じて交流することで、
私たちの先祖が生み育ててきた、この国ならではの文化にも気づくことができることでしょう 。
1927年4月、ホノルル美術館の開館式でのアナ・ライス・クックの言葉です
オアフ島の宣教師の家に生まれ、実業家のクック氏と結婚したアナは、夫の事業が成功を収めると美術品の収集を始めます。
そして、その美術品のコレクションをもとに、自分の家だった場所に、伝統的なハワイ様式で美術館をつくります。
それが、現在のホノノルル美術館の始まりでした。
当時のハワイは、カメハメハ大王が統一ハワイ王朝を確立し、サトウキビの栽培で活況を呈していました。
サトウキビづくりのために、中国、朝鮮、フィリピン、日本 等々からたくさんの労働者が移住してきました。
(1943年のパール・ハーバー・真珠湾攻撃の20年近く前のことです。)
今のハワイといえば、色とりどりの布をまとった観光客であふれ,人気店の前にはたくさんの人が列を作って並んでいます。
街中には乗り合い馬車のような観光バスが走っていて、たくさんの観光客の足になっています。
でも、よく考えればそれも、そんなに昔からのことではないのでしょう。
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私はひとり、「レアレア(無料の観光バス)」に乗って、ロイヤルハワイアンセンターから美術館に向かいました。
公園や港やハワイの出雲神社なんて所も通って、ワイキキ海岸とは反対の山側まで走ると、そこにホノルル美術館がありました。
二頭の動物が出迎える、伝統的なハワイ様式の立派な建物です。
そこを入ると、まずカフェがあり(食事だけでもOK)そこでお茶を頂いたから、その先のギャラリーに向かいました。
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最初のギャラリーのドアを開けると、アジア美術コレクションの部屋が広がっていました。
近くの島々で使われていたものでしょうか、ユニークな民芸品の数々が目を引きます。
手の込んだ木彫りの作品は、どれも緻密な手仕事でできています。
芸術品というより何かの儀式か、装飾のためのものだったのでしょう、
どことなく原始的な稚拙さもあって、親しみを感じます。
これは、上の写真4頭の馬の彫り物の一部分です。
最近私の彫っている木彫と比べると、なんという緻密さでしょうか。
アジアの島々のレベルの高い木彫りの技術が、人々の暮らしの文化をも育んでいたのでしょう。
一つの国の展示が終わると、次の部屋が現れます。
そこでは、また新たに趣の違う文化が展開されます。
インドやタイやカンボジアです。
少しずつ、特色の違う仏像がならんでいます。どこかで出会ったことのあるような仏像たちです。
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部屋は国ごとに展示を変えながら、回廊のようにくねりながら次々に続きます。
収集品の数の多さ、その選択眼の確かさ、素晴らしい展示空間 ただただ感嘆するばかりです。
カンボジア、ラオス、ベトナム、の彫刻や金属細工
そして、部屋はさらに、中国、朝鮮、フィリピン、沖縄 日本 と続きます。
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これらの「アジアコレクション」だけでも、2万余点の品々がが飾られています。
そのほとんどが、コレクターからの寄贈品である、ということも驚きです。
個人のコレクションから美術館が始まり、さらに多くのコレクターの寄贈品が集合体になって、
この美術館が成り立っていることがわかります。アメリカやヨーロッパではよくあるスタイルnあのだそうです。
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この美術館の特色は、回廊式ギャラリーの外に,美しい中庭があることです。
言い換えれば、いくつかの中庭を囲むようにギャラリがつながっていて、
次のエリアへの導入の役割を果たしています。ここでお茶を一服,ということでもあります。
これは、日本館の正面の仏像です。
日本館には、狩野派の絵画や絵巻もの、桃山時代の「洛中洛外図」や女性の装束なども展示されています。
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ここまでのアジアコレクションを見るだけでも、小半日はかかりました。
さらに、ヨーロッパやアメリカのエリヤをみるとなると、もう一日が必要です。
私は、一日目をアジアコレクションの見学に当て、次の日,もう一度ここを訪れることにしたのでした。
そこには、ギリシャ、アッシリア、エジプト アフリカ 等々、古代の作品から、
現代アメリカ、現代ヨーロッパの美術まで、1万5千点ものコレクションが網羅されてるのでした。
もちろん、ピカソやマチスやセザンヌやゴッホ にも出会えました。
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ハワイは、若い男女が波乗りを楽しみ、遊びに興じるところ・・、
そんな印象を払拭してしまうような、奥行きの深い素敵な美術館でした。
太平洋の真ん中のハワイという地域の力強い文化の構成、
素敵なものに出会った時の、あの何とも言えない心地よさで、私は再びレアレアに乗ったのでした。