藤袴は昔から人々に親しまれた野の花で、万葉集や源氏物語の中にも登場します。
今ではいろいろな園芸種が出回っていて、どれが古来株なのか私たちには判らなくなってしまいましたが、1998年、「京都の大原野の古池の堤防で発見」された藤袴こそ古来からの純正種である、と京都では「藤袴プロジェクト」を立ち上げ、その普及活動を展開しています。
実は我が家にも、由緒の正しい純正藤袴の子孫がいます。
数年前、静岡科学館「るくる」の館長さんから頂いたもので、京都から持ってきた株を館長さんが育て、その子孫を分けて下さったのです。 この藤袴、背の高さが二メートルもあり、長く伸びた茎の先にくしゃくしゃと地味な花をつけますが、可憐とかたおやかという感じではありません。とても大柄なものです。
(2メートル程もある藤袴の夕方のシルエット)
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源氏物語の中では夕霧がそっと藤袴の枝を玉鬘に手渡して、次の歌を贈ります。
同じ野の露にやつるる藤袴
あはれはかけよ かことばかりも
(あなたと同じ野の露に濡れて萎れている藤袴です。
優しい言葉をかけてください、ほんの申し訳にも)
ままならぬ世間の人間関係に疲れた自分の姿を、萎れた藤袴の花に託したものなのでしょうが、我が家の真正藤袴を見る限り、もののあわれという感じとは無縁の野性的なイメージです。本当にこんな大きな藤袴の花を手折ったのでしょうか?
平安の頃には、この花を切ってドライフラワーのように吊り下げ、その香りを着物に染み込ませる習わしがあったとか、確かに強い香がします。そういえば蝶のアサギマダラは、この花の香りとクマリン酸(長期飛行に必要な毒性のある物質)にひかれて、上空から舞い下りてくるのだそうです。今年も2頭のアサギマダラがこの花に群れていました。
きっと、藤袴もアサギマダラも万葉の頃から同じような姿で生の営みを続けてきたのでしょうね。
(藤袴の花に止まるアサギマダラ 2014,09,20撮影)