陶芸工房 朝

アトリエ便りです。どうぞよろしく。

藤袴考

2014年09月22日 | 野草

 

 藤袴は昔から人々に親しまれた野の花で、万葉集や源氏物語の中にも登場します。

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 今ではいろいろな園芸種が出回っていて、どれが古来株なのか私たちには判らなくなってしまいましたが、1998年、「京都の大原野の古池の堤防で発見」された藤袴こそ古来からの純正種である、と京都では「藤袴プロジェクト」を立ち上げ、その普及活動を展開しています。

 

 実は我が家にも、由緒の正しい純正藤袴の子孫がいます。

 数年前、静岡科学館「るくる」の館長さんから頂いたもので、京都から持ってきた株を館長さんが育て、その子孫を分けて下さったのです。 この藤袴、背の高さが二メートルもあり、長く伸びた茎の先にくしゃくしゃと地味な花をつけますが、可憐とかたおやかという感じではありません。とても大柄なものです。 

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2メートル程もある藤袴の夕方のシルエット)

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 源氏物語の中では夕霧がそっと藤袴の枝を玉鬘に手渡して、次の歌を贈ります。

        同じ野の露にやつるる藤袴 

         あはれはかけよ かことばかりも

   (あなたと同じ野の露に濡れて萎れている藤袴です。

    優しい言葉をかけてください、ほんの申し訳にも)

 ままならぬ世間の人間関係に疲れた自分の姿を、萎れた藤袴の花に託したものなのでしょうが、我が家の真正藤袴を見る限り、もののあわれという感じとは無縁の野性的なイメージです。本当にこんな大きな藤袴の花を手折ったのでしょうか?

 平安の頃には、この花を切ってドライフラワーのように吊り下げ、その香りを着物に染み込ませる習わしがあったとか、確かに強い香がします。そういえば蝶のアサギマダラは、この花の香りとクマリン酸(長期飛行に必要な毒性のある物質)にひかれて、上空から舞い下りてくるのだそうです。今年も2頭のアサギマダラがこの花に群れていました。

きっと、藤袴もアサギマダラも万葉の頃から同じような姿で生の営みを続けてきたのでしょうね。

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(藤袴の花に止まるアサギマダラ 2014,09,20撮影)


彼岸花

2014年09月20日 | 日記・エッセイ・コラム

 朝晩が涼しくなったと思ったらすくすくと茎が伸び、彼岸に合わせるように花が咲き始めました。赤いヒガンバナも白いヒガンバナもその規則制に変わりはありません。

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 白い花は、一株頂いて植えたのがいつの間にか増えたのですが、赤い花は毎年同じ場所に同じように自然に生えてきます。

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  「彼岸」とは、煩悩を超えた向こうにある涅槃のことらしいのですが、この季節に天界から降ってきたように咲く赤い花を「彼岸の花」に見立てたのでしょう。ひがんばなの別名「曼珠沙華」も「槃若波羅蜜多」の「PARAMITA」の意味とのことです。

 しかし、赤い花は何かおどろおどろしく「死」のイメージと重なります。そんなことを思うのは、寺山修司の歌が頭にあったからかもしれません。

    川に逆ひ 咲く曼珠沙華 赤ければ

    せつに地獄に 行きたし今日も  (寺山修司)  


萩の花

2014年09月16日 | 野草

 庭の萩がどんどん伸びて2メートリを越す長さになりました。花すだれのようになった花房の間を、黄色い蝶がヒラヒラ・ヒラヒラ舞っています。萩は黄蝶の食草なんです。

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  ひらひらと 蝶の舞いおり 萩の花


重陽の節句

2014年09月09日 | 日記・エッセイ・コラム

 9月9日は五節句の一つ「菊の節句」、古くから「重陽節」として親しまれてきました。重陽とは、陽の数字「9」が重なることから名づけられものだそうです。

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   今日はお茶のお稽古日でした。

 京都旅行をしていたメンバーが、菊の節句にちなんで、京都鶴屋鶴寿庵の「重陽」という和菓子を買ってきてくれました。本日は、中秋の名月と菊の節句にちなんで写真のような主菓子でお点前を頂きました。ささやかな贅沢です。

 お茶に使う和菓子の世界は、吟味した素材を丁寧な手仕事で仕上げた美しいものが多く、お茶の文化の奥の深さを垣間見る思いがします。

 


揚羽蝶

2014年09月07日 | 日記・エッセイ・コラム

 夏の間に蔓延った雑草が、まるで緑の敷物のように庭を覆ってしまいました。「少し涼しくなったことだし」と、思い立って朝から草取り。草ばかりでなく、山法師やえごの木のような落葉樹は、もう葉を落とし始めていますから枯葉の掃除も一仕事です。

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 時折、雨交じりの強い風が吹いて、枯葉をさーと吹き飛ばします。その強い風と一緒に何かが私の目の前に落ちてきました。

アゲハチョウです。死んだ蝶かと思ってよく見ると、交尾中の生きた一対です。どこかから吹き飛ばされてきたのでしょうが、その凄みのある光景に思わずぎょっとさせられました。

 いきものの命がけの営みの凄さとでもいいましょうか・・・ 

   夏蝶の やさしからざる 眸の光   飯田蛇笏