喫茶 輪

コーヒーカップの耳

詩集『茉莉花』

2022-05-27 15:29:29 | 
牧田栄子さんからお贈りいただいた詩集二冊のうちの一冊、
『茉莉花』(1999年・澪標刊)を読み終えた。



一部二部三部に分かれていて、一部の「茉莉花」は阪神淡路大震災を経験してのもの。
自宅は全壊だったとのこと。
茉莉花などの花の名前がたくさん出てくる。そしてトンボ、虹、雨など柔らかなイメージのものがモチーフに選ばれている。
微妙な心のありようが優しいタッチで描かれている。
震災後の荒んだ世の中に、この詩集はささやかではあっても救いの言葉になったのではなかっただろうか。
彼女自身が大きな被害を受けながら、自らの心のありようと、世間のありようを優しい目つきで眺めておられる。
巻頭の「帰還」です。
←クリック。

家を建て直されたんですね。
そして「ヤツデ」という詩の前半。
《 壁と塀の僅かの隙間から 光を探す手の姿して ヒョロンと自生していたのを 家を解体する日に 作業の若者が手袋を外して 土ごとくるんで持たせてくれた 借家のベランダに鉢植えした ヤツデはその日から 全身に新しい太陽を浴び (後略) 》

被災者でありながら、被災者顔しない。
この詩の最後はこうです。
《「余分なものはみんなすてて きれいさっぱり」 そうしていこう そうして 生きていこう 》

第二部は「しぐれに」。
身の回りのこと、家族のこと、日常の些事の中から巧みに、しかし初々しくポエジーをすくい上げての詩篇。
作品は上げないが「コンビニ」という詩のユーモアは貴重。

第三部は「一枚の絵」。
取り立てて事件が起こるわけではない。平凡な日常の中での自然や周りの人との心の通い合いを丁寧にソフトに描いていくその手つきが優しい。
巻末の「夏が終る」をどうぞ。

    風が 
  わたっていくよ と
  あなたはつぶやいた
  その声が聞こえたかのように
  ゆれていく水面を
  わたしも見ていた
  ただそこだけが
  鮮明にやきついたまま
  夏が終る


荒んだ心がおだやかになる詩集でした。
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