自転車ひとり旅★

自転車大好きなTVディレクター日記。

飯村家のとうきび。

2014年08月26日 10時22分44秒 | おしごと日記



数年前のこと。
ひょんなことから、永六輔さんのプライベート旅のお供をすることになって、
北海道のあちこちを回った。


旅の中、名寄という町で、飯村さんという農家と出会った。
飯村さんは情熱の人で、
過疎化するふるさとに元気を取り戻したいと活動していて、
その意気に触れた永さんが、お忍びで公演会をしたのだった。


農家の方々は、ラジオを聞きながら仕事をするのが常だそうで、
とくに永さんのラジオは盤石の人気を誇っている。
その永六輔さんが来るとあって、
小さな公民館は住民総出のにぎわいとなった。
飯村さんは「こんなに集落が元気なのは久しぶりです」と、たいそう喜んで、
それ以来、毎年夏になると、
なぜか私にも自分が育てた野菜を送ってくれるのだった。



ある年。
はじめて、飯村家の野菜が届かなかった。
心配して手紙を出したが、なしのつぶてだった。


半年ほどして、手紙が届いた。
「息子がバイク事故で下半身不随になり、さらに癌もみつかり手術した。
 せっかく希望の就職先が決まり、一人暮らしを始めたばかりだったのに。
 家族で懸命にやっているが、このさきどうしたら良いかわからない」
ということが乱れた筆で書かれていた。


入院、手術。
飯村家の家計が苦しいのは分かっていたけれども、
飯村さんの性格を考えると、お金を送るわけにもいかない。
もはや、私に出来るのは、
飯村さんが見たら元気が出るような番組を作ることだけだった。



今年。
ひさしぶりに飯村家の野菜が届いた。
そこには手紙が添えてあった。
「息子が退院しました。
 下半身は動かなくなってしまったけど、
 実家に戻るとぜったい引きこもりになるからイヤだと言って、
 1人暮らしをしています。
 就職先だったトヨタさんが、仕事に戻らせてくれるそうなので、
 ホッとしています。
 飯村家にも元気が戻って来ました。
 気にかけてくれて本当にありがとう!」


命の明滅。
ああ、私は今年の飯村家のトウキビの味を、
決して忘れまい。