
1990年代に放流されたとされるニジマスのため在来のオショロコマが全滅したとして北海道新聞などで報道され、一時期とても有名になった知床の渓流がある。その根拠は2002年10月22日と25日に電気ショック機エレクトロフィッシャー(スミス・ルート社製)を用いてニジマス大小203個体を駆除したという記録である。このとき河川型とおもわれるブラウントラウト48.3cm も同時に捕獲されている。耳石径に沿ったSr/Ca比の変化が無いことから、これはシートラウトとなったものが遡上したのではなく恐らくは放流されたブラウンと思われた。かって豊富に生息していたことが確認されているオショロコマはこの時1匹も確認されずニジマス(ブラウントラウト?)により完全に駆逐されたものと推定された。これをうけてその後もニジマス徹底駆除が行われ、羅臼町環境保護科が2003年に近くの別の渓流からオショロコマをこの渓流に移植している(よく考えてみると、この移植もかなり問題点が多い)。
この報道に反発する函館のフライ釣り愛好者(ニジマス放流容認派の方たち?)数人が実際にこの渓流に調査に入ったが渇水期のせいかニジマスもオショロコマも確認できていない。しかしHP写真でのいでたちや報告をみる限り、彼らにはこのような渓流でオショロコマを釣る技術や知識は無かったと思う。一般的に入れ食い状態で生息する川でオショロコマを釣るのはしばしば容易だ。一方、オショロコマ釣り歴30年以上の経験から、この川のような環境悪化河川や個体数のきわめて少ない水域でオショロコマを釣るのにはかなりの経験と知識、熟練を要すると言える。
2006-11-5 晴れ のち曇り
この日、この渓流は夏場の渇水期とは打って変わってまあまあの水量の渓流に変身していた。繰り返し行われた入念な電気ショック機による駆除にもかかわらず、この川のニジマスはまだ生き残っていた。まず、下流域で42cm の老熟ニジマス1♂を釣った。(帰宅後腹を裂くとまだ未熟な精巣があり、胃はほとんど空っぽでトガリネズミ??の骨盤骨から大腿部とおぼしき骨が入っていた。)。これとは別にもう1匹ニジマスをかけたが取り込み中に針がはずれ逃げられた。同一水域で良型オショロコマ成魚3♂♂1♀を釣った。上流域では細く浅いチョロ川で幼魚数匹と若魚数匹を目撃した。その上流でやや渓相がよくなった水域ではかなり若魚と成魚がみられた。これらのオショロコマは手早く撮影後、すべて丁寧にリリースした。これらが移植されたものか、本来この渓流に生き残っていたものかは不明。この時の状況と私たちの見解はオショロコマの森第一巻知床編に詳細に記録してあるので重複を避ける。なお、知床や斜里川で見られるように放流ニジマスはブラウントラウトと同様にシートラウト化し、海に出たあと隣接する河川などに産卵のため遡上して分布を拡大する可能性(いわゆるスチールヘッド)を指摘しておきたい。実際に知床にはそのような川がある。
1990年代とは異なり、今現在(2008年)は在来種の保護意識の普及や、外来魚放流による弊害の顕著化、琵琶湖産稚アユの全国への移植に対する問題提起 etc. .....といった状況の変化をしっかり認識すべきである。このブログでもニジマス放流河川の悲惨な現状を繰り返し示してきた。今後はオショロコマなど貴重な在来種の生息する水域にニジマスを放流するのは断固おこなうべきでないと思う。近年、本州方面でも天然アマゴや天然イワナ、在来の魚類の貴重性が強く認識されるようになり、漁協などによる放流にも多少の配慮がなされはじめたのは喜ばしいことと思う。ただ、外来魚放流や国内産養殖魚の移植はこれまでの歴史やその結果としての現状をよく踏まえて柔軟に対処すべきである。ブラウントラウトやカワマスも相当の歴史のある水域によっては拡散の可能性がない限り、現状維持もある程度仕方がないと思われる。決して単純思考に陥って画一的に考えるべきではないと思う。北海道においては、幸い貴重な生態系がしっかり残っている水域も多いが、現状の把握はいまだきわめて不十分である。これまでのように、これを際限なく破壊し続けるのはもはやこれまでにして、今後は大切に次世代にゆだねてゆくのは私たちの義務ではなかろうか。
この記事は2008年にオショロコマの森にアップしたものですが、Mobile me 中止によりデータがWeb 上から消滅してしまいました。このブログにとって重要なメッセージが込められており再録しました。











この渓流は、その後、やっと復活してきた河川環境、周囲環境を完全大破壊して巨大魚道が造られました。一体何のための魚道なのか、魚道作成を企画した人にも考えはなかったと思います。もともとサケマスの遡上はなかった渓流です。いやはや、ニジマス放流だの在来オショロコマ云々などといった議論はまったく陳腐なものになってしまったという笑うに笑えない落ちがあるのです。そのうち 再録します。

