2018/11/3
・ごく平凡な母と娘が、あっという間に過ぎ去っていく人生にちょっとだけ抗う話。
・序盤。母親の周りの時間が、彼女を置き去りにして、暴力的な速さで流れていく。
・まるでそういう呪いにかけられてしまったかのように翻弄される。
・もちろん、それは人生の誇張された姿。
・光陰矢のごとしとは言うけれど、轟音をたてながら走る列車のように人生が過ぎ去る。抗いようがない。
・ただ、それでも娘は抗う。母親と全く同じ人生を繰り返しているように見えて、ほんの少しだけ違う。
・それは、ほんの少しだったとしても進歩とか希望とか言っていいんだと思う。
・「平凡な人生にも価値はある」と言うだけなら簡単で、本作は「こんな状況でもそれ言える?」という人生の否定から始まって、最後には「それでも価値はあるんだ」と肯定している。たぶん。
・結局、娘も同じように時間の流れに弾き飛ばされてしまうんだけど、息子なのか、更にその子供なのか、いつか、あのパートのおばちゃんコンビに一矢報いることを期待したい。
・「人はなぜ生きるのか」という根源的なテーマをこんなにわかりやすくておもしろくできるのはすごい。
・わかりやすくておもしろいと、客としてはそれで満足しちゃうんだけど、それだけじゃないことは強調しておきたい。
・生々しさといとおしさを両立している、奇跡のような認知症の母親。
・その母親役、おぐりまさこさんの表情変わる瞬間でいちいち泣きそうになる。何をどう準備したらあんな演技になるんだ。
・あと、おぐりさんが当たり前のように劇場の受付をやってて心底びっくりする。
・娘役の米山真理さんのガキンチョぶりが全力のガキンチョで笑った。
・ものすごい速さで二人の周りの時間が流れるわけだから、この母娘に共感すればするほど、ジェットコースターに乗っている感覚になるのもわかる。
・昼に見た『裸足のベーラン』は「人はどうしてムダにしか見えないことをやるのか?」と悩む話だったと思うけど、本作では「それは人生が一瞬で終わってしまうからだよ!」と喝を入れているように感じた。
・時間の流れに棹差すためのアイテムが、ある作品ではお人形だし、ある作品では野球だったりお酒だったり、もっと言えば日常の些細な出来事全部だったりする。
・だとすると、人生無駄なことなんか何もないというのもホントなのかもしれない。
※おぐりさんと言えば一人芝居『如水』。会場でもらった上善如水ステッカー。なんか気に入ったのでPCに貼ってみました。