<金曜は本の紹介>
「科学の扉をノックする(小川洋子)」の購入はコチラ
この本は作家の小川洋子さんが、個人的な好奇心を満たすために^_^;)、第一線の科学者たちを訪れて見学・対談し、科学の面白さ・楽しさをとても分かりやすく伝えるものです。
具体的には、以下の内容です。
特に、地球や我々の身体ができるには炭素や窒素が存在しない宇宙初期ではできないこと、トレーニングの話はナルホドと思いましたね。
・国立天文台准教授 渡部潤一 宇宙を知ることは自分を知ること
・鉱物化学研究所所長 堀秀道 鉱物は大地の芸術家
・筑波大学名誉教授 村上和雄 命の源”サムシング・グレート”
・財団法人高輝度光科学研究センター特別研究員 古宮聰 微小な世界を映し出す巨大な目スプリングエイト
・京都大学名誉教授 竹内郁夫 人間味あふれる愛すべき生物、粘菌
・東京大学総合研究博物館教授 遠藤秀紀 平等に生命をいとおしむ学問”遺体科学”
・阪神タイガーストレーニングコーチ 続木敏之 肉体と感覚、この矛盾に挑む
以下はこの本のポイント等です。とてもオススメな本です!
・宇宙のはじまりの頃には水素しかありませんでした。この段階ではまだ地球は絶対にできないですね。地球は岩石ですから。この第一世代が水素を燃料にして燃やした灰が、窒素や炭素や珪素や、鉄になるんです。これらは全部お星様の中でできたものです。この星たちが爆発して欠片となり、ばら撒かれたものが第二世代、第三世代の宇宙を作り、惑星ができ、地球ができ、我々の身体もできたわけです。我々の身体の炭素や窒素は、50億年以上前に、どこかの星でできたものなんです。しかもその星は爆発して、今はもうなくなっているんです。星が爆発して死に絶える時、その欠片たちを人間の中に託した。人間が死ぬとそれらは地球の中を循環し、いつか地球が滅びる時、宇宙にばら撒かれ、また別のどこかの星で何かの役割を果たす。「結局、一度誕生した物質は、無にはならないのです。」死んだ人も枯れた花も干上がった川も、無にはなり得ない。姿を変えて宇宙を巡り続ける。宇宙を探索することは、自分自身とは何者であるかを探索することに等しくなる。
・地震ということでいえば、鉱物は予知に関しても威力を発揮する可能性が高い。「地震は地殻が動くわけでしょう。地殻が何で出来ているかというと、鉱物なんです。ですから、鉱物が役に立たないはずがないんです。絶対に役立ちます。アンモニウムを含む鉱物はわりと少ないのですが、それが発見されている場所は、アンモニウムを多く温泉の付近です。そして地質構造上、日本列島をちょうど真横にちょん切るような断層帯、中央構造線といいますが、それにぴったり重なるんです。アンモニウムは地下深度、かなりマグマに近いところから来ていると考えています。そうでなかったら、大規模な断層帯に沿ってアンモニウムが分布することはないわけですからね。ですから地震予知の一つの方法として、温泉中のアンモニウム量の異常を調べる、というのがあると思います。
・稀な性質ですが、鉱物の中で水晶には圧電現象という特別の性質があります。圧力を加えると電気を発生し、逆に電気を加えると結晶が振動したりします。花崗岩の主成分は水晶です。岩盤の半分は水晶でできていると思ってもいいくらいです。それが地震の前、何らかの圧力を受けるか、ずれが生じるかしますと、電気的な現象が起きてもおかしくないんです。そこから生じる電波的な現象が、電磁波を攪拌することも当然考えられます。
・消化酵素が出てくると、出てこない場合に比べて分解スピードは約1億倍以上になるんです。酵素は昔は魔物と呼ばれていました。その酵素を作る情報が遺伝子に書いてあるわけです。遺伝子のスイッチがオンにならなければ、消化酵素は作れません。こうしてすごいスピードで分解されたタンパク質は、アミノ酸という部品に分解されます。そのアミノ酸は全生物共通なんです。豚であろうが、微生物であろうがタンパク質であれば1つの例外もなく、わずか20種類のアミノ酸を材料として共有しているのです。今度はその共通な部品を材料にして、人間に必要なタンパク質を組み立ててゆくわkです。この場合も、どんなタンパク質をどれだけ作れ、という情報は遺伝子に書いてあるんです。分解と合成、両方に遺伝子が働いているのです。遺伝子の働きのおかげで、豚用のタンパク質を人間用に作り変えることができるということらしい。それが可能なのも、アミノ酸を共有しているからだろう。人間が豚でも鹿でもウニでも好き勝手に食べて無事でいられるのは、神様がタンパク質の部品を共通にしておいてくれたおかげなのだ。
・大腸菌から人間まで、すべて同じ遺伝子暗号、同じ遺伝子暗号解読表を使っているんです。これはすごいことでしょう。人類は皆兄弟だと言う人がいますが、それどころかすべての生き物がDNAでつながっている。同じ言葉を同じ文法で喋っている。そのことが、科学的に証明されているのです。だからこそ私たちは、糖尿病の薬”ヒト・インシュリン”を大腸菌から作ることだってできるのです。人間のホルモンや酵素、遺伝子のコピーも大腸菌から作られる。大腸菌のおかげで何人ものノーベル賞受賞者が出ているんです。だから私は、呼び捨てにせず、大腸菌様、と呼んでいます。
・どの遺伝子が笑いによってオンになり、どの遺伝子がオフになるか、ほぼ分かりだしているんです。大変エキサイティングですよ。笑いのような心の働きによって遺伝子が動くというのは、世界最初の試みです。この実験はアメリカの糖尿病学会誌に、論文になって載っています。それをロイター通信が全世界に発信してくれたので、外国のテレビからも取材があるんです。この実験が進んでいきますと、薬の代わりにお笑いビデオを出すような病院が出てくるかもしれません。だから私は、笑いは副作用のない薬だ、と言っているんです。
・指向性が強く、とてつもなく明るく、いろいろな波長を持っている。このような性質の光を手に入れたことで、人間は物質の構造を原子レベルで見られるようになった。放射光は、かつて目にすることのできなかった微小の世界を、人間の瞳に映して見せてくれる、魔法の光、ということになる。
・進化の”当初の狙い”と最終的に出来上がったものの役割が異なる事態も、決して珍しいことではなく、むしろそれこそが進化の常道となっている。中でも勘違いの中の勘違い設計変更の最たるものの例として、耳と手足が挙げられている。頭が地面から遠く引き離され、直接地面の振動を拾えなくなった我々哺乳類の仲間は、音を空気から集めざるを得なくなった。そこで高性能の耳が必要になってくるのだが、2億年前の初期の哺乳類が”ヘッドハンティング”したのは、顎間接の蝶番だった。上下の顎を接続するために存在したはずの骨が、5000万年くらいの時間をかけて、耳の奥に閉じ込められ、鼓膜の震えを拾うためのテコに化けた。なお、新たな蝶番として、脳の側面を守る側頭骨と、下の歯を生やすための歯骨があてがわれた。
・また、手足についても、最初から陸上の生活を目指して進化したのではなかった。4億年前から3億5000万年くらい前の間に、ユーステノプテロンという魚類が、たまたまひれに骨と筋肉を備えたことから話は始まる。それは他の魚にできない水中姿勢の制御や、手の込んだ遊泳をするためだった。ところが水が干上がったか何か、とにかくある偶然により、ひれの中に骨のある魚が生き残る状況が発生した。骨付きのひれが、陸上を歩く四肢に作りかえられていったのだ。
・野球選手は大腿部が大きいんです。下腿三頭筋、ヒラメ筋、二頭筋、四頭筋などたくさんの種類の筋肉があって、それらが大きいものですから膝に過度の負担を掛けることになる。トレーニング科学の面から言えば、膝が壊れる、壊れやすくなるのは当然の結果です。ウサギ跳びのようにあそこまで深く膝を曲げる必要はない、膝の角度90度でしっかりトレーニングしておけば、何の問題もないんです。スクワットというトレーニングがありますが、あれも一番下までフルスクワットでやる必要が野球選手にあるのか、となれば、そこまでやる必要はない。そういうことがスポーツ科学の進歩によってだんだん分かってきたわけです。
・トレーニング技術の発達ということで言えば、胴部の進歩も見逃せません。今、バランスボールと呼ばれているものがありますね。バランスディスク、バランスパッド、チューニングボール等などたくさんあるのですが、これは重宝します。ただの空気の球であるにもかかわらず、素晴らしい道具です。腹筋、背筋、あらゆる筋肉のエクササイズができますし、あの上に乗ってバランスを取るトレーニングもできます。鉄腕と呼ばれた西鉄の稲尾和久さんは、漁師のお父さんの手伝いで小船に乗って櫓をこいでいた経験からバランス感覚を養った、と言われています。それを今はバランスボールを使ってやっているわけです。
・毎年、新人が入ってきますよね。秋、ドラフトがあって、年が明けてチームに合流した時、どのチームでも必ず一人、二人脱落するんです。それを避けるために、ドラフトで入団の返事をもらうとすぐに、まずドクターチェックに入ります。そのデータがトレーナーや僕らトレーニングコーチに全部入ってきます。その時点で、身体に関することがすべて分かります。隠していたことも、本人が気づいていないことも全部明らかになるんです。それに対応しながら、タイガースのトレーニングはこういうことをやっていますよ、だから年明け一月に始まる新人合同自主トレまでに、これぐらいのことは準備しておきなさい、そうでないと怪我をしますよと厳しく書いた冊子、4、50ページのものを作成します。合わせて分かりやすいDVDも配ります。で、1月の初めに新人全員が集まって練習がスタートする。そこで例えばオフの間に走っていて捻挫したなど、新たにでてくる故障もありますから、トレーニングの内容もそれに合わせて万全の状態で春のキャンプに合流できるようやっていくわkです。キャンプが終ればオープン戦。これは毎日地方を回りますがそれにも全部ついてゆきます。そして4月からのシーズンインですね。シーズンが終ればすぐに秋季練習。その次は、前年入団したばかりの1年生を集めてトレーニング。まあ、こんな調子で1年が過ぎてゆきます。ありがたいことに、どんどん仕事をくれるんです。
・まず大事なのは、オフの間にしっかり高負荷の筋力トレーニングをしておかなければならない、ということです。ここである程度貯金しておかないと、シーズンに入ってから筋力を上げるのが難しいんです。シーズン中は、オフに蓄えた貯金を使ってコンディショニングしてゆくのです。キャンプに入るとスキル練習、グランドレベルの練習が多くなりますので、筋力をねらった高負荷のトレーニングを目いっぱいすることはできなくなります。ですから筋力トレーニングはオープン戦の半ばくらいから、1週間に1度くらいずつ、ポン、ポン、ポンと刺激を与える感じになります。
・トレーニングコーチの目から見て、この選手は伸びるな、あるいは伸びないなと分かるものだろうか。「分かります。悲しいくらい分かります。その選手の運動能力だけでなく、性格や人生観がものすごく影響します。野球は結局、人間がするものです。選手たちは時に、技術コーチに言えないことを、僕らトレーニングコーチにぶつけてきます。僕らは彼らの肉体を見るのが仕事ですが、なぜか自然と身体以外の面、例えばプライベートのことや人間関係など内面の問題の受け皿になっているんです。ああ、お前は今、こういう精神状態で野球をやっているんだな、とそこから始まります。ある意味、本音が出るんです。ただ、それを監督には言いません。選手たちは監督に伝えてもらうことを願っているわけじゃありませんから。僕は監督、コーチのそばにいますけれども、選手たちと向かい合っている時間の方が長い。僕に求められているのは、受け止めることなんです。ですから僕の肩書きはトレーニングとなっていますが、単にトレーニングだけでは済まされないものがある。一体、トレーニングコーチって何なんだろう、コンディショニングコーチかな、と分からなくなる時があります。
<目次>
1章 渡部潤一と国立天文台にて 宇宙を知ることは自分を知ること
図版◆宇宙のすがた
2章 堀秀道と鉱物科学研究所にて 鉱物は大地の芸術家
図版◆おもしろい鉱物たち
3章 村上和雄と山の上のホテルにて 命の源”サムシング・グレート”
図版◆核とDNA
4章 古宮聰とスプリングエイトにて 微小な世界を映し出す巨大な目
図版◆空中都市のSpring-8
5章 竹内郁夫と竹内邸にて 人間味あふれる愛すべき生物、粘菌
図版◆細胞性粘菌の不思議なライフサイクル
6章 遠藤秀紀と国立科学博物館分館にて 平等に生命をいとおしむ学問”遺体科学”
図版◆引き継がれる遺体たち
7章 続木敏之と甲子園球場にて 肉体と感覚、この矛盾に挑む
図版◆身体を動かす主な筋肉
あとがき
取材アルバム
プロフィール
面白かった本まとめ(2010年下半期)
<今日の独り言>
Twitterをご覧ください!フォローをよろしくお願いします。
「科学の扉をノックする(小川洋子)」の購入はコチラ
この本は作家の小川洋子さんが、個人的な好奇心を満たすために^_^;)、第一線の科学者たちを訪れて見学・対談し、科学の面白さ・楽しさをとても分かりやすく伝えるものです。
具体的には、以下の内容です。
特に、地球や我々の身体ができるには炭素や窒素が存在しない宇宙初期ではできないこと、トレーニングの話はナルホドと思いましたね。
・国立天文台准教授 渡部潤一 宇宙を知ることは自分を知ること
・鉱物化学研究所所長 堀秀道 鉱物は大地の芸術家
・筑波大学名誉教授 村上和雄 命の源”サムシング・グレート”
・財団法人高輝度光科学研究センター特別研究員 古宮聰 微小な世界を映し出す巨大な目スプリングエイト
・京都大学名誉教授 竹内郁夫 人間味あふれる愛すべき生物、粘菌
・東京大学総合研究博物館教授 遠藤秀紀 平等に生命をいとおしむ学問”遺体科学”
・阪神タイガーストレーニングコーチ 続木敏之 肉体と感覚、この矛盾に挑む
以下はこの本のポイント等です。とてもオススメな本です!
・宇宙のはじまりの頃には水素しかありませんでした。この段階ではまだ地球は絶対にできないですね。地球は岩石ですから。この第一世代が水素を燃料にして燃やした灰が、窒素や炭素や珪素や、鉄になるんです。これらは全部お星様の中でできたものです。この星たちが爆発して欠片となり、ばら撒かれたものが第二世代、第三世代の宇宙を作り、惑星ができ、地球ができ、我々の身体もできたわけです。我々の身体の炭素や窒素は、50億年以上前に、どこかの星でできたものなんです。しかもその星は爆発して、今はもうなくなっているんです。星が爆発して死に絶える時、その欠片たちを人間の中に託した。人間が死ぬとそれらは地球の中を循環し、いつか地球が滅びる時、宇宙にばら撒かれ、また別のどこかの星で何かの役割を果たす。「結局、一度誕生した物質は、無にはならないのです。」死んだ人も枯れた花も干上がった川も、無にはなり得ない。姿を変えて宇宙を巡り続ける。宇宙を探索することは、自分自身とは何者であるかを探索することに等しくなる。
・地震ということでいえば、鉱物は予知に関しても威力を発揮する可能性が高い。「地震は地殻が動くわけでしょう。地殻が何で出来ているかというと、鉱物なんです。ですから、鉱物が役に立たないはずがないんです。絶対に役立ちます。アンモニウムを含む鉱物はわりと少ないのですが、それが発見されている場所は、アンモニウムを多く温泉の付近です。そして地質構造上、日本列島をちょうど真横にちょん切るような断層帯、中央構造線といいますが、それにぴったり重なるんです。アンモニウムは地下深度、かなりマグマに近いところから来ていると考えています。そうでなかったら、大規模な断層帯に沿ってアンモニウムが分布することはないわけですからね。ですから地震予知の一つの方法として、温泉中のアンモニウム量の異常を調べる、というのがあると思います。
・稀な性質ですが、鉱物の中で水晶には圧電現象という特別の性質があります。圧力を加えると電気を発生し、逆に電気を加えると結晶が振動したりします。花崗岩の主成分は水晶です。岩盤の半分は水晶でできていると思ってもいいくらいです。それが地震の前、何らかの圧力を受けるか、ずれが生じるかしますと、電気的な現象が起きてもおかしくないんです。そこから生じる電波的な現象が、電磁波を攪拌することも当然考えられます。
・消化酵素が出てくると、出てこない場合に比べて分解スピードは約1億倍以上になるんです。酵素は昔は魔物と呼ばれていました。その酵素を作る情報が遺伝子に書いてあるわけです。遺伝子のスイッチがオンにならなければ、消化酵素は作れません。こうしてすごいスピードで分解されたタンパク質は、アミノ酸という部品に分解されます。そのアミノ酸は全生物共通なんです。豚であろうが、微生物であろうがタンパク質であれば1つの例外もなく、わずか20種類のアミノ酸を材料として共有しているのです。今度はその共通な部品を材料にして、人間に必要なタンパク質を組み立ててゆくわkです。この場合も、どんなタンパク質をどれだけ作れ、という情報は遺伝子に書いてあるんです。分解と合成、両方に遺伝子が働いているのです。遺伝子の働きのおかげで、豚用のタンパク質を人間用に作り変えることができるということらしい。それが可能なのも、アミノ酸を共有しているからだろう。人間が豚でも鹿でもウニでも好き勝手に食べて無事でいられるのは、神様がタンパク質の部品を共通にしておいてくれたおかげなのだ。
・大腸菌から人間まで、すべて同じ遺伝子暗号、同じ遺伝子暗号解読表を使っているんです。これはすごいことでしょう。人類は皆兄弟だと言う人がいますが、それどころかすべての生き物がDNAでつながっている。同じ言葉を同じ文法で喋っている。そのことが、科学的に証明されているのです。だからこそ私たちは、糖尿病の薬”ヒト・インシュリン”を大腸菌から作ることだってできるのです。人間のホルモンや酵素、遺伝子のコピーも大腸菌から作られる。大腸菌のおかげで何人ものノーベル賞受賞者が出ているんです。だから私は、呼び捨てにせず、大腸菌様、と呼んでいます。
・どの遺伝子が笑いによってオンになり、どの遺伝子がオフになるか、ほぼ分かりだしているんです。大変エキサイティングですよ。笑いのような心の働きによって遺伝子が動くというのは、世界最初の試みです。この実験はアメリカの糖尿病学会誌に、論文になって載っています。それをロイター通信が全世界に発信してくれたので、外国のテレビからも取材があるんです。この実験が進んでいきますと、薬の代わりにお笑いビデオを出すような病院が出てくるかもしれません。だから私は、笑いは副作用のない薬だ、と言っているんです。
・指向性が強く、とてつもなく明るく、いろいろな波長を持っている。このような性質の光を手に入れたことで、人間は物質の構造を原子レベルで見られるようになった。放射光は、かつて目にすることのできなかった微小の世界を、人間の瞳に映して見せてくれる、魔法の光、ということになる。
・進化の”当初の狙い”と最終的に出来上がったものの役割が異なる事態も、決して珍しいことではなく、むしろそれこそが進化の常道となっている。中でも勘違いの中の勘違い設計変更の最たるものの例として、耳と手足が挙げられている。頭が地面から遠く引き離され、直接地面の振動を拾えなくなった我々哺乳類の仲間は、音を空気から集めざるを得なくなった。そこで高性能の耳が必要になってくるのだが、2億年前の初期の哺乳類が”ヘッドハンティング”したのは、顎間接の蝶番だった。上下の顎を接続するために存在したはずの骨が、5000万年くらいの時間をかけて、耳の奥に閉じ込められ、鼓膜の震えを拾うためのテコに化けた。なお、新たな蝶番として、脳の側面を守る側頭骨と、下の歯を生やすための歯骨があてがわれた。
・また、手足についても、最初から陸上の生活を目指して進化したのではなかった。4億年前から3億5000万年くらい前の間に、ユーステノプテロンという魚類が、たまたまひれに骨と筋肉を備えたことから話は始まる。それは他の魚にできない水中姿勢の制御や、手の込んだ遊泳をするためだった。ところが水が干上がったか何か、とにかくある偶然により、ひれの中に骨のある魚が生き残る状況が発生した。骨付きのひれが、陸上を歩く四肢に作りかえられていったのだ。
・野球選手は大腿部が大きいんです。下腿三頭筋、ヒラメ筋、二頭筋、四頭筋などたくさんの種類の筋肉があって、それらが大きいものですから膝に過度の負担を掛けることになる。トレーニング科学の面から言えば、膝が壊れる、壊れやすくなるのは当然の結果です。ウサギ跳びのようにあそこまで深く膝を曲げる必要はない、膝の角度90度でしっかりトレーニングしておけば、何の問題もないんです。スクワットというトレーニングがありますが、あれも一番下までフルスクワットでやる必要が野球選手にあるのか、となれば、そこまでやる必要はない。そういうことがスポーツ科学の進歩によってだんだん分かってきたわけです。
・トレーニング技術の発達ということで言えば、胴部の進歩も見逃せません。今、バランスボールと呼ばれているものがありますね。バランスディスク、バランスパッド、チューニングボール等などたくさんあるのですが、これは重宝します。ただの空気の球であるにもかかわらず、素晴らしい道具です。腹筋、背筋、あらゆる筋肉のエクササイズができますし、あの上に乗ってバランスを取るトレーニングもできます。鉄腕と呼ばれた西鉄の稲尾和久さんは、漁師のお父さんの手伝いで小船に乗って櫓をこいでいた経験からバランス感覚を養った、と言われています。それを今はバランスボールを使ってやっているわけです。
・毎年、新人が入ってきますよね。秋、ドラフトがあって、年が明けてチームに合流した時、どのチームでも必ず一人、二人脱落するんです。それを避けるために、ドラフトで入団の返事をもらうとすぐに、まずドクターチェックに入ります。そのデータがトレーナーや僕らトレーニングコーチに全部入ってきます。その時点で、身体に関することがすべて分かります。隠していたことも、本人が気づいていないことも全部明らかになるんです。それに対応しながら、タイガースのトレーニングはこういうことをやっていますよ、だから年明け一月に始まる新人合同自主トレまでに、これぐらいのことは準備しておきなさい、そうでないと怪我をしますよと厳しく書いた冊子、4、50ページのものを作成します。合わせて分かりやすいDVDも配ります。で、1月の初めに新人全員が集まって練習がスタートする。そこで例えばオフの間に走っていて捻挫したなど、新たにでてくる故障もありますから、トレーニングの内容もそれに合わせて万全の状態で春のキャンプに合流できるようやっていくわkです。キャンプが終ればオープン戦。これは毎日地方を回りますがそれにも全部ついてゆきます。そして4月からのシーズンインですね。シーズンが終ればすぐに秋季練習。その次は、前年入団したばかりの1年生を集めてトレーニング。まあ、こんな調子で1年が過ぎてゆきます。ありがたいことに、どんどん仕事をくれるんです。
・まず大事なのは、オフの間にしっかり高負荷の筋力トレーニングをしておかなければならない、ということです。ここである程度貯金しておかないと、シーズンに入ってから筋力を上げるのが難しいんです。シーズン中は、オフに蓄えた貯金を使ってコンディショニングしてゆくのです。キャンプに入るとスキル練習、グランドレベルの練習が多くなりますので、筋力をねらった高負荷のトレーニングを目いっぱいすることはできなくなります。ですから筋力トレーニングはオープン戦の半ばくらいから、1週間に1度くらいずつ、ポン、ポン、ポンと刺激を与える感じになります。
・トレーニングコーチの目から見て、この選手は伸びるな、あるいは伸びないなと分かるものだろうか。「分かります。悲しいくらい分かります。その選手の運動能力だけでなく、性格や人生観がものすごく影響します。野球は結局、人間がするものです。選手たちは時に、技術コーチに言えないことを、僕らトレーニングコーチにぶつけてきます。僕らは彼らの肉体を見るのが仕事ですが、なぜか自然と身体以外の面、例えばプライベートのことや人間関係など内面の問題の受け皿になっているんです。ああ、お前は今、こういう精神状態で野球をやっているんだな、とそこから始まります。ある意味、本音が出るんです。ただ、それを監督には言いません。選手たちは監督に伝えてもらうことを願っているわけじゃありませんから。僕は監督、コーチのそばにいますけれども、選手たちと向かい合っている時間の方が長い。僕に求められているのは、受け止めることなんです。ですから僕の肩書きはトレーニングとなっていますが、単にトレーニングだけでは済まされないものがある。一体、トレーニングコーチって何なんだろう、コンディショニングコーチかな、と分からなくなる時があります。
<目次>
1章 渡部潤一と国立天文台にて 宇宙を知ることは自分を知ること
図版◆宇宙のすがた
2章 堀秀道と鉱物科学研究所にて 鉱物は大地の芸術家
図版◆おもしろい鉱物たち
3章 村上和雄と山の上のホテルにて 命の源”サムシング・グレート”
図版◆核とDNA
4章 古宮聰とスプリングエイトにて 微小な世界を映し出す巨大な目
図版◆空中都市のSpring-8
5章 竹内郁夫と竹内邸にて 人間味あふれる愛すべき生物、粘菌
図版◆細胞性粘菌の不思議なライフサイクル
6章 遠藤秀紀と国立科学博物館分館にて 平等に生命をいとおしむ学問”遺体科学”
図版◆引き継がれる遺体たち
7章 続木敏之と甲子園球場にて 肉体と感覚、この矛盾に挑む
図版◆身体を動かす主な筋肉
あとがき
取材アルバム
プロフィール
面白かった本まとめ(2010年下半期)
<今日の独り言>
Twitterをご覧ください!フォローをよろしくお願いします。