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「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常(二宮敦人)」という本はとてもオススメ!

2017年09月14日 01時00分00秒 | 
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「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」という本は、実は妻が東京藝術大学の美術学部の大学生という著者が、その藝大生の日常があまりにも新鮮で驚くことばかりなので、この東京藝術大学について調べ、美術学部生だけでなく音楽学部生にもインタビューを行い、その赤裸々でカオスな日常や実態をまとめたものです♪

 本書を読むと、まさに東京藝大はカオスな日常で驚くことばかりで、また美術学部と音楽学部ではまったく性格が異なるというのも面白かったですね♪

 美術や音楽を極めたい方や、東京藝大に入学したい方はとても参考になる本だと思います♪

主な興味深かった内容は以下となります♪

・東京藝大の場所や雰囲気
・東京藝大受験の実態
・日本画専攻の日常
・口笛世界チャンピオンの日常
・からくり人形制作者の日常
・東京藝大生の恋愛
・指揮者の日常
・工芸科の日常
・打楽器専攻の日常
・仮面ヒーロー「ブラジャー・ウーマン」
・声楽科の日常
・三味線演奏者「川嶋志乃舞さん」の日常
・東京藝大の学園祭

 特に東京藝大の志願倍率は平均で7.5倍もあり、最難関の絵画科は17.9倍もあるとは驚きましたね♪
東京大学理科三類の4.8倍よりはるかに高いです^_^;)
ただセンター試験結果よりも、実技試験結果が大きなウェイトを占めるようです
そして美校の現役合格率は約2割と少なく、平均浪人年数が2.5年というのには驚きましたね。

 また東京藝大の学生は、学生の本分として美術や音楽にかなり時間を費やしているようでそれは素晴らしいと思いましたね。
授業がない日は1日9時間ピアノ等を練習するようです。

 しかしながら、この東京藝大からは何年かに一人天才がでればいい、他の人はその天才の礎と学長から言われるというのも驚きましたね♪

それから、毎年9月初旬に開催される学園祭はその才能ぶりを一般の方が体験できるようでぜひ行ってみたいと思いましたね♪

「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」という本は、東京藝大の一部についてよく理解でき、とてもオススメです!

以下はこの本のポイント等です♪

・藝大のメインキャンパスは上野にある。上野動物園。国立科学博物館。東京文化会館。国立西洋美術館。様々な文化的施設が立ち並ぶ街だ。広場では大道芸人が曲芸をしていたり、錦鯉や盆栽の展示販売会が行われていたりする。アメヤ横丁というパワフルな商店街もあれば、一日中エロ映画を流しているオークラ劇場という怪しい映画館もある。駅から広場を抜けて歩いていくと、芝生の中に彫刻がたくさん並んでいるのに気がつく。藝大の学生や教授の作品がさりげなく飾られているのだ。

・藝大に近づくにつれ喧噪が遠ざかり、緑が増えていく。赤レンガの堀の中、校舎が現れた。キャンパスは二つに分かれていて、道路を挟んでそれぞれの校門が向かい合っている。上野駅を背にして左側は美術学部、”美校”と呼ばれている。絵画、彫刻、工芸、建築・・・いわゆる美術に関する学科がこちらのキャンパスにある。右側は音楽学部、”音校”だ。ヴァイオリンやピアノ、あるいは声楽など、いわゆる音楽に関する学科がこちらのキャンパス。音楽と美術の両方を擁しているのが藝大の特徴の一つでもある。実際にその境界線に立ってみると、不思議な感覚を覚える。行きかう人の見た目が、左右で全然違うのだ。音校に入っていく男性は爽やかな短髪にカジュアルなジャケット、たまにスーツ姿。女性はさらりとした黒髪をなびかせていたり、抜けるような白いワンピースにハイヒールだったりする。大きな楽器ケースを持っている学生もちらほら。みな姿勢が良く表情が明るいため、芸能人のようなオーラを放っている。バッハと同じ髪型の中年男性も見かけた。どうやら教授のようだが・・・。対して美校の学生たちは・・・ポニーテールの髪留め周りだけ髪をピンクに染めている女性。真っ赤な唇、巨大な貝のイヤリング。モヒカン男。蛍光色のズボン。自己表現の意識をびりびりと感じさせる学生がいる一方で、まるで外見に気を遣っていないように見える学生も多い。ぼさぼさ頭で上下ジャージだったり、変なプリントがされたTシャツだったりが通り過ぎる。数人に一人は眉間に皺を寄せて呟き、影を背負ったような顔をしている。数分も眺めていれば、歩いてくる学生が音校と美校のどちらに入っていくか、わかるようになってくる。

・美校の中は、いい意味で荒っぽい。守衛所の前には巨大なトラックが止まっていた。宅配便のトラックなのだが、よく街で見かけるタイプではない。サイズはタンクローリーほどもあり、荷台が横に跳ね上がる。中には引っ越しと見まがうほどの量の荷物が詰め込まれていて、学生が駆け寄って来ては宅配便のお兄さんと一緒に運び出している。おそらく美術用の材料か、作品だろう。男子学生も女子学生も、力を合わせて大きな荷物を運んでいく。少し歩いた先には石だの木だのが大量に転がっている。「3年 野村」などと名前だけ書かれて野ざらしになっているのだ。材料置き場なのだろう。遠目からは粗大ゴミ置き場に見えるが・・・。不思議なのは、彫像がやたらと多いことだ。茂みの中とか建物の影とか、とにかく所狭しと林立している。

・彫刻棟の中に入ってみよう。そこはまるで工場だった。天井からは2トンの物体を持ち上げられる強力なクレーンが吊り下げられ、巨大な加工機械が並んでいる。大きな木を切る機械、石を削る機械と、なんでもありだ。部屋は広く天井も高く、小さめの体育館ほどの空間がある。教授も4年生も、1年生もみんな一緒に肩を並べてここで彫刻を作るそうだ。時々、教授たちが回ってきてアドバイスをしてくれた、あるいは自分から教授に質問しにいくこともある。棚にはノコギリだとか、ペンキ缶だとか、いろいろな道具が並んでいる。大小様々なサイズのチェーンソーもあった。

・工場っぽい外見はどこまでも続く。例えば金属加工を行う部屋では、金属を裁断する機械や、金属を削る機械が置かれている。八人掛けのテーブルほどもある機械で、ばっちんばっちんと鉄板を切っていくのだ。脇では面をつけて火花を散らしながら、溶接をしている人の姿も見える。鋭い音が響きわたっている。謎の実験装置のようなものが何台も並んでいる。宇宙船の一部のような金属で覆われた四角い箱型。扉は固く閉ざされていて、バルブが据え付けられている。これは陶芸で使う窯だった。点灯しているオレンジのランプは、燃焼中であることを示しているそうだ。たまに中で爆発が起きるらしい。爆発って・・・。版画研究室を覗くと、部屋の中にまるで喫煙所のように区切られ、密閉されたスペースがある。銅版画のために作られた場所だ。銅板に薬品をかけ、化学反応を起こして絵を描くのである。この際に有毒ガスが発生するため、隔離されているというわけだ。これもなかなか怖い。染織を行っている教室には、銀色の壁で覆われたシャワー室のようなものがある。これはスチームルーム。強烈な蒸気を吹きかけて、染色するための設備だ。お隣にはぼこぼこ泡立っている大釜。聞くと、水酸化ナトリウム溶液を沸騰させているらしい。とても危ない。その脇には小さめのプールが3つ。布を抱え、大釜とプールを行ったり来たりしている女性の姿が見える。布を薬品と冷水に交互に漬け込むことによって行う染色があるそうだ。あたりには様々な色合いの布が洗濯物のようにかけられていて、棚には薬品の瓶がずらり。硫酸だとか塩酸だとか、劇薬の名前もある。建築科には構造実験室という部屋があり、そこでは破壊実験を行っている。物体に圧力をかけたり、引っ張ったりする機械が置かれていて、これで素材の強度を計り、建築の設計に応用するようだ。稼働中は轟音が響く。僕はいつのまにか、美術の裏側に入り込んでいた。確かに茶碗を作るには巨大な窯が必要だし、金属を曲げるには特別な機械がいる。日常の道具はこうした異世界からやってきていたらしい。ものを作るとはこういうことだったのか・・・。そりゃあガスマスクくらい生協で売っているはずだ。

・校舎内で目立つのは、いくつも並んでいる小さな個室。ビジネスホテルのように、扉がずらりと廊下の両側に並んでいて、それぞれの部屋からかすかに音楽が響いている。扉には覗き窓がついていて、中を見ることができた。部屋は防音壁に囲まれていて、ピアノや譜面台が置かれている。女性が一人、一心不乱にピアノを弾いていた。廊下にはベンチがあり、部屋が空くのを待つ学生がそこに座り、退屈そうに携帯を眺めていた。なるほどこれは練習室だ。肩を並べて彫刻を作ることができる美校とは違い、音校での練習は個人単位になるわけだ。扉の見た目は大差はないのに、その向こうには全く違う世界が広がっている。ヴァイオリインを一人で弾く程度の六畳ほどの空間もあれば、自動販売機8つ分くらいの大きさのパイプオルガンがデンと据えられた部屋もある。邦楽科の練習室は入るとふすまがあり、それを開けると畳敷き。能や日本舞踊を舞える舞台が設置されていた。蜂の巣のような練習室がある一方で、コンサートホールも6つある。中でも最大のホールが奏楽堂だ。この奏楽堂、座席数が千百席!音校の生徒数は4学年を合計しても千人弱だから全員余裕で収容できてしまう。さらにオペラ座のようなバルコニー席があり、オーケストラピットまである。楽屋なんて8室もある。奏楽堂に入ると、見上げるほど巨大な美しい装飾の施された木枠が目に飛び込んでくる。パイプオルガンだ。「藝大のオルガンの中でも奏楽堂にあるものは億の値段ですね」

・「音楽は一過性の芸術だからね」「つまりその場限りの一発勝負なのよ。作品がずっと残る美校とは、ちょっと意識が違うかもしれない。あと、音楽って競争なの。演奏会に出る、イコール、順位がつけられるということ。音校は順位を競うのが当たり前というか、前提になっている世界なんだよね」美術でもコンクールなど順位がつく場もあるとはいえ、競争意識は音校に比べてゆるいようだ。妻もこんなことを言う。「美術って、みんな一緒に並べて展示できるからいいよねー」美術の作品はずっと残る。だから今、評価されなくてもいつか評価される可能性も、共に残り続けるのだ。

・音校卒業生の柳澤さんが教えてくれた学生時代の話。「私、月に仕送り50万円もらってたなあ」「え、50万?」「音校は何かとお金がかかるのよ。学科にもよるけど。例えば演奏会のたびにドレスがいるでしょ。ちゃんとしたドレスなら数十万はするし、レンタルでも数万。それからパーティー、これもきちんとした格好でいかないとダメ」音楽業界関係者のパーティーは頻繁にあるそう。そこで顔を売れば、仕事に繋がるかもしれないのだ。

・「楽器も高いものが多いですからね。ヴァイオリンやピアノは特に高いと思いますよ」器楽科でハープを学ぶ方が言う。「ハープって、よく上流階級っぽいなんて言われますけど、まだ庶民的なほうではないかと思います。高くても一千万ですから。ちゃんとしたのを買おうとすれば300万円くらいかな・・・うーん、それでも高いですかね。でもヴァイオリンは、ものによっては億いっちゃいますからね。何だか金銭感覚麻痺してきますね。ヴァイオリン専攻の友達に「ちょっとトイレ行くから楽器見てて」なんて言われると・・・そんな責任負えないよ、ってなります。だって手の中に家があるんですよ、家が!」わなわなと手を震わせていた。器楽科ホルン専攻の方もこう話す。「いい楽器を使わないと、受験でも不利なんです。僕は浪人した時にローンを組んで、新しいホルンを買いました。定価が130万円で、少し負けてもらいましたけど、それでも100万円はしましたね」楽器は高いけれど、自分で作るわけにはいかないし、そんな時間があれば練習をすべき。

・藝大が屈指の難関校であることをご存じだろうか。僕も初めは知らなかったのだが学生たちに話を聞いているうち「難関」の片鱗が感じられ、今では恐ろしさすら感じるようになった。東京大学理科三類の平成27年度の志願倍率が4.8倍、百の枠を約500人が奪い合った。難関の名にふさわしい倍率と言えるだろう。対して藝大の最難関、絵画科の同年度の志願倍率はなんと・・・17.9倍。80の枠を約1500人が奪い合う。藝大全体でならした倍率でも7.5倍に達する。なお昔は60倍を超えたこともあったという。

・「そもそも、ある程度の資金力がないと藝大受験は難しいんだよ。もともとは私は器楽科のピアノ専攻を目指してたから、大阪か東京まで新幹線でピアノの塾に通ってた。月謝と交通費だけでも相当のお金がかかるよ」「地元にも、もちろんピアノの教室はあるけど。音校を受けようと思ったら、藝大の先生に習うのがほぼ必須なのよ。高校の音楽の先生やそれまで習っていたピアノ教室の先生なんかにお願いして紹介してもらうの」藝大で実際に教えている教授、あるいは元教授-。そういった方を師匠と仰ぎ、レッスンを受けるのが当たり前なのだ。教授のコネが必要という話ではない。試験の採点は、師匠を除いた残りの教授陣によって行われる。藝大に合格するにはトップレベルの実力が必要で、それを身につけるにはトップレベルの指導者に習う必要があり、トップレベルの指導者には藝大の教授であることが多い。そうくことのようだ。他の受験生がそうしている以上、自分も同じようにしないと戦えない。

・「うん、君には才能があると思うけど、3浪は必要だろうね」妻が藝大彫刻科を志した時、先生にそんなことを言われたという。妻は奮起し、何とか一浪ですべり込むことができたが、美校で3回の浪人はさほど珍しいことではない。美校の現役合格率は約2割。平均浪人年数が2.5年。美校の場合は、藝大の教授にレッスンを受けるのが当たり前、という風潮はない。しかし独学が可能かというとそうでもなく、美大受験予備校に通うのが一般的だ。ここでデッサンなどの練習を積む。それはもう、3年ほどみっちりと積んでようやく合格圏が見えてくる。5浪、6浪の人も当然いて、同級生でも年齢が10歳近く離れていることもざらだという。なお、この中には「仮面浪人」も含まれる。例えば、私立の美大にいったん入学する。普通に授業に出ながら同時並行で受験対策も進め、藝大に合格後、私立をやめて藝大に入るというやり方だ。「藝大って国立じゃないですか。学費が安いんです。私立に入っても2年生までに藝大に移ることができたら、金銭的にお得なんですよ。けっこうそういう人います」

・音校では事情がちょっと違う。肩を壊してピアノを断念した方によると、浪人する人は少ないそうだ。「それは、金銭的な事情?」「それはもちろんあるけれど、もっと大きいのは時間の問題かな。卒業が遅くなったら、それだけ活躍する時間が限られちゃうから」「・・・え?それって”選手生命”があるってこと?」「演奏家は体力勝負だもの。ハードなのよ、コンクールの前に掌一杯の砂糖を食べるピアニストもいるくらいだから。年とともに体力は衰えていくでしょう。入試に何年もかけたら、もったいないのよ。だったら他の大学に入って、早くプロとして活動し始めたほうがいい」やっぱりプロ野球選手だ・・・。「巨人軍」にこだわるより、他球団に活躍の場を求めたほうが大成することもある。

・そんな受験生たちの前に立ちはだかる藝大の入試は、一体どういうものなのだろうか。多くの学科では実技試験が大きなウエイトを占めている。「一応、センター試験も必要なんだよね?」そう聞くと妻は頷く。「でも、あんまり重視されないよ」「どれくらい取れればいいの」「科にもよるけど、彫刻では7割くらいを目指すべきみたい」「で、何点取れたの?」少し照れる妻。「・・・自己採点では3割くらい・・かな」「・・・」「へへ」センター試験はマークシート方式なので、問題を見ずに適当に塗りつぶしたって2割前後は取れるはずなのに。妻は続ける。「先輩で、センター1割しか取れなかった人いたらしいよ」「問題を作っている人が聞いたら泣いちゃうね」「でも、実技の順位が上から3番目くらいだったんだって。それで絵画科に合格」「・・・」あくまで重要なのは実技試験なのだ。ただ合否ラインぎりぎりで実技の得点が拮抗している場合は、センター試験の得点が高い方から合格になるようなので、ちゃんと勉強するに越したことはない。

・実技試験は、複数の段階に分かれている学科がほとんどで、当然ながら一次試験で落ちれば二次試験には進めない。また学科によって異なるものの、三次試験や四次試験では筆記試験が課されることが多い。「一次試験はほんの5分くらいの演奏で合否が決まるの。そこで落ちたら筆記試験の勉強もぜーんぶ無駄になっちゃう。一発勝負よ」「一次では半分以上、ごっそり落とされるんですよね。部屋に入るとですね、周りをずらりと教授陣が10人くらいかな、取り囲むように座っていて、難しい顔でこっちを見ているんです。あら探しをする目ですよ。そこで「じゃ、始めて」と。緊張感ありますね」器楽科ファゴット専攻の方はそう振り返った。「事前に課題曲が21曲与えられまして、その中から当日に4曲かな、指定されて演奏するんです。二次試験になるとピアノ伴奏つきでこれをやります」しかし音楽家たるもの、演奏は全て一発勝負だ。一発勝負に弱くては話にならない。「

・「試験には新曲視唱というものがあります。初見の楽譜が渡されまして、しばらく目を通して、それからその場で歌う、という試験です。いかにリズムや音階を正確に教えるか、がカギになりますね」作曲科の方は思い返すように首をひねりながら少しずつ続けた。「楽譜の冒頭だけが与えられて、その続きを自分で作って書くという試験もありましたね」いかにも作曲科らしい試験だ。「打楽器専攻にも他とは違うテストがあります。リズム感のテストです。1、2、3、4と口で言いながら足踏みをして、裏拍で手拍子するんです。一定のテンポで10秒くらいやらされますかね、それで判断されます」加えて多くの科では筆記試験がある。大きく分けて「和声」と「楽典」である。「和声はね、音楽理論だよ。和音ってあるでしょう?いくつかの音をいっぺんに出すこと。この和音、どの音とどの音を組み合わせたら綺麗な音になるか、どう和音を続けたら美しい音色になるか、ちゃんと法則があるの。その法則を覚えて、応用して問題を解いていく。なんかね、数学みたいな感じ。私は苦手だったな、凄くややこしいのよ」「楽典は音楽の文法問題ですね。楽譜を書いたり、読んだりするのに必要な知識です。そんなに難しくはありませんが、たまに凄く変な問題が出ることも・・・。僕が受けた年には、「全音符の書き順を答えよ」って問題がありましたよ」

・では美校はどうなんだろう?僕は過去問を調べてみた。「人を描きなさい(時間:2日間)」平成24年度の絵画科油画専攻、第二次実技試験問題である。二日間ぶっ続けではなく、昼食休憩の時間もあるため、試験時間は実質12時間ほどだが、それでも長い。問題は学科によって異なるが、一次試験では鉛筆素描、つまりデッサン。二次試験では学科の専門性に応じた問題が出されることが多い。絵画科油画専攻なら油絵で何か描かせる、彫刻科であれば粘土で何か作らせるという具合だ。一次試験に1日、二次試験い2日といった具合に、試験は何日間かにわたって行われる。まるで中国の官吏登用試験「科挙」だ。どんな様子なのか、妻に聞いてみた。「教室に入ると、席をくじ引きで決めるんだ。部屋にモチーフの石膏像が置かれてて、それを素描するんだけど、席によって書きやすい角度とかがあるのね。私は得意な角度の席が当たったから、ラッキーだった!」「角度によって有利不利があるの?」「うん。かなり違うよ。ちょっとでも見やすい角度にするために、イスの脚に少年ジャンプ挟んで座る人もいた」「ジャンプは持ち込み可なんだ・・・試験時間は長いんだよね」「うん。そのデッサンは6時間だったかな」「長いね!」「でも足りないくらいだよ」

・藝大の過去問に目を通していると、たまに首をひねりたくなるような問題文に遭遇する。「・・・の状態を、下記の条件に従い解答用紙に美しく描写せよ」こんな表現はまだ序の口だ。
「問題1 自分の仮面をつくりなさい」
この問題には注釈がついている。
「※総合実技2日目で、各自制作した仮面を装着してもらいます」
さらに問題の続きには、
「解答用紙に、仮面を装着した時のつぶやきを100字以内で書きなさい」とあり、その隣にまた注釈。
「※総合実技2日目で係の者が読み上げます」
これらの不思議な問題の意図は、平成23年度建築科の問題文にある一節を読めば理解できるかもしれない。「・・・しなさい。なお、この試験はあなたの構想力、創造力、表現力を考査するものであり、正解を求めるものではありません」
何か抽象的なものを測ろうとしているようだ。藝大のレベルは総じて高い。音校なら演奏技術、美校ならデッサン力。そういったいわば基礎の部分にまずは高い能力が求められる。だが、それはできて当たり前。なぜなら努力で何とかなる部分だから。藝大が求めているのは、それを踏まえたうえでの何か、才能として表現できない何かを持った学生だ。「光るものを持っている」と審査する教授に思わせることができないと、合格点は得られないようである。

・「音楽環境創造科には、「自己表現」って試験科目があるのよ」「自己表現?」「何でもいいから、自分をアピールするの。私の友達は、ホルンで4コマ漫画をやったわ」「えっ、どういうこと?」「4コマ漫画を画用紙に書いて、持ち込んだの。それで1枚ずつめくりながら、ホルンで台詞の部分を吹いたんだって。台詞っぽく聞こえるようにね」「・・・その人はどうなったの?」「合格したわ」「・・・」「あとね、こんな課題もあったって聞いた。鉛筆、消しゴム、紙を与えられてね、好きなことをしなさいって言われるの」「それは何となくアートっぽいね」「うん。私の友達は、黙々と鉛筆の芯を削りだした。それからその芯を細かく砕いて、顔にくっつけていったの」雲行きが怪しくなってきたぞ。「最後に、紙を顔に叩きつけた。バーンって。紙に黒い跡がつくでしょ。それを自画像って主張して提出したんだって」「・・・その人はどうなったの?」「合格したわ」たとえ思いついたとしても絶対に実行できない。

・「旅行に行った時、大変だったのよねー」妻のお母さんが、腕組みしながら苦笑した。「ルーヴル美術館でね。本当に、全然動かなくなっちゃって」妻の母、妻、妻の妹、妻の従姉妹。4人で海外旅行に行き、ルーヴル美術館に入った。その一角で、妻は全く動かなくなってしまったという。「踊り場にある、あの彫像。「サモトラケのニケ」。あれをずっと見てて。1時間くらい見てたかな、まだ見る?って聞いたら、見るって言うわけ。じゃあもう、好きなだけ見なさいって」なんと、妻はえんえん5時間以上も「サモトラケのニケ」だけを見つめ続けたという。同行者がすっかり飽きてベンチで昼寝し始めるなか、ただ一心不乱に。人が芸術に触れる時、時間の流れは少し普段と変わってしまうようだ。ルーヴルのダリュ階段踊り場、紀元前に作られた彫像の前で立ち尽くす妻を想像して僕はそんなことを思った。

・演奏者は練習をし、指揮者は楽譜と向き合う。膨大な時間をかけて。「だから、本番を迎えることができた時点で仕事の半分は終わったようなものですよ」「本番では、指揮者はどんなことをするんでしょう?」「オーケストラを物理的に助けるのが仕事になります」物理的、の言葉には、まるで外科医が傷口を縫うようなニュアンスがあった。「なかには合わせにくい、難しい曲もあるんですよ。小節ごとに拍子が細かく変わってしまう曲とか。そんな時、たとえばホルンが落ちるとしますよね。あ、落ちるというのは、リズムがわからなくなって演奏が止まってしまうことです。その時、ホルンに教えてあげるんです。指や表情、目で「今、ここだよ」と伝えるんです。そうして復帰させる。」もちろんそれは演奏の真っ最中。指揮棒は振りながらの作業だそうだ。「他にも、みんなで音を出すタイミングを伝えたり、リズムがずれてしまっている人を助けたり。全体に目を配って、発生する弱点を助けます。指揮者はよく「交通整理」なんて表現しますね。そうやって全員で海を泳ぎ切るんです」交響曲という海を、息を合わせて泳ぐオーケストラ。1時間近いその大海の中で、落伍しかける人を救い上げ、疲れた人を励まし、そして力を合わせ、事前に何度も何度も楽譜を読んでイメージしたゴールへと導いていく。「指揮者の棒の技術が関わってきますね。拍子をわかりやすく伝えられるとか、やりたいことがちゃんとわかるだとか、そういうことです。棒といっても腕だけの動きじゃなくて、体全体です。全身の使い方が重要ですし、途中で息切れしないスタミナも必要です。あと、大事なのは呼吸ですね」ピアノの方も同じようなことを言っていた。「ピアノで大事なのは呼吸です。音楽はもともと、歌から始まったんですよ。ですから歌でいう息継ぎみたいなものがピアノでも必要なんです。息継ぎがない演奏は聞き苦しくなっちゃうんですね」「管楽器ならもちろんですし、弦楽器にだって呼吸はあります。全部の楽器に呼吸がある。その呼吸を僕たちは伝え合い、共有して一体になるんです。音楽の流れに合った呼吸をして、音楽の表情を作っていくんですよ」打楽器専攻の方もこう表現していた。「楽器とも、仲間とも、お客さんとも一体になって演奏しますし、しなくちゃならないって思ってます」思えば演奏する人も、聴く人も、コンサート会場にいる誰もが呼吸をしているのだ。指揮者の情熱を核として、信頼が引力となって、楽器と一体化するまでに自分を高めた奏者たちが次々と重なってオーケストラになり、それが聴衆をも巻き込んで一つの呼吸する存在になる。「そうやって、うまく噛みあって、響きあった時・・・いや、そんな言葉ではとっても足りないんですけど・・・とにかく本番で心が一つになって演奏ができた時、ものすごく幸せなんです。これをやるために生きているんだって、思います」ため息をつきながら、うれしそうに笑う。やっぱり楽しくてやっているんだ・・・いや、楽しいからできるんだ。

・彫金は、主に装飾品や飾り金具を作る技術だそうだ。金属をねじって曲げ、磨いてピアスにしたり、鋼鉄でできた鉛筆型の器具で金属板に複雑な模様を彫りあげたりする。「彫金はですね、金とか銀とか、場合によってはプラチナとか、貴金属を使うので材料にお金がかかるんですよね。だから、学生はみんな相場を毎日チェックしてます!安い時に買いだめしておくんですよ」一つ作品を作るのに、材料費だけで数万円かかってしまうそうだ。「仕上げで銀をヤスリでこすると、銀の粉が出るじゃないですか。私たち、受け皿をおいてその粉を溜めるんですよ。業者に買い取ってもらえるんです。最初は捨てちゃってたんですけど、先輩に「お金捨ててるんだよ!」と言われて、本当にその通りだと思って」僅かな粉でも無駄にはできない。文字通りの金銀財宝。「彫金をやるようになってから、貴金属のありがたみを感じるようになりましたね。料理屋さんに行っても食器の素材がわかるんです。このスプーン、本物の銀だ!とか。さすが高級店だって、テンション上がっちゃいます。本物は重みがあるんですよね」

・「楽器による個性ですか、そういうの、あると思いますよ!ヴァイオリンの人はみんな、気が強いと思います。なんかこう、芯があるとうか。それからピアノの人は練習の鬼」こう分析するのはハープ専攻の方だ。「ハープはどうでしょう?」「ハープはそうですね、案外男っぽくてサバサバしてる人が多いです。性根がすわってるというか。やっぱり重い楽器を自分で運ぶからかな。オーケストラの授業が終わった時なんかも、ヴァイオリンの人はさっさと楽器を片づけて帰っちゃいますけど、私たちは腕まくりして「よし、いっしょ運ぶか」みたいな」ハープ演奏者が楽器を運んでいたら、ドアを開けて押さえておいてあげると、大変好感度が上がるそうである。「コンバスは、変人ぞろいですかね・・・」コントラバス専攻の方はさらさらの黒髪を揺らしぽそりと言う。「つかみどころがない人が多いです。そもそもコンバスなんて楽器を選んでいる時点で、みんなちょっと変なんですよ」「オルガンは、真面目で静かな感じの人が多いかもしれません」オルガン専攻の方がゆっくり考えながら答えてくれる。「オルガン専攻の学生って、ミッションスクール出身の人が多いんですよ。ミッションスクールでは賛美歌を歌いますから、そこでオルガンと出会うんです」「確かにキリスト教系の学校でもないと、なかなか触れる機会がありませんね」「はい。そういうところってだいたい女子校なんですね。そのせいか恋愛に抵抗があるような人が多いです。恋愛よりも練習に時間を使いたい、とか」

・「あの、声楽科がチャラいって本当なんでしょうか?」僕は開口一番聞いた。声楽科3年生の方は子供のように笑った。「そうですね、人との距離感は近いかもしれません」その方は口ひげを少しだけ伸ばし、チェックのシャツを着ている。爽やかで、人を警戒させない程度に隙があり、垂れ目の笑顔は人懐っこい。ラテン系の俳優を思わせる。「例えば声楽実習という授業があるんですが。これってオペラの稽古なんですよ。課題曲が与えられて、ペアを組むんです。で、オペラってたいてい男女の恋愛の物語なんで、ペアも男女で組みます。それで一緒に稽古します」「そうか。実際に愛の台詞を、歌で交わすんですね」「はい。感情たっぷり込めて」「仕草とか、そういう演技も・・・?」「はい。体が触れ合うことも多いですよ。それが練習ですから」「あの・・それって、恋愛の練習をしているようなものですね」「そうなんですよねえ」レッスンならまだしも、自主練だったらどうなるだろう。男女が密室に閉じこもり、愛の歌を共に歌う。努力し、励まし合い、時にはぶつかり合ったりしながら共通の目標に向かって進んでいく。そこには特別な絆が生じるはずだ。何が起きても不思議ではない。なるほど。人との距離感が近いのだ、物理的に。美術よりも音楽の方が人と近い。そこまでも僕も感じていた。しかし音楽の中でも、声楽だけは楽器を持たない。何ら介在せずに、生身一つで他者と相対しなうてはならないのだ。

・「僕ら、知らない人に声をかけるのとか苦じゃないですよ。基本、人が好きですし」とても聞き取りやすい低い声で続ける。「稽古の時って、ピアノ専攻の人に伴奏をしてもらうことが多いんです。で、それは自分でお願いしにいくんですよ。だからみんな、入学直後から可愛い子に目をつけて。ペアになって練習してもらえないかって話しかけます」「ペアになったら、ずっとその人に伴奏をしてもらうんですか?」「基本的に、1年間はペアですね。互いの練習の日が合わないとダメなんで、「この日、空いてない?」って聞くわけですよ」「それって、ほとんどナンパじゃないですか」「はい、ナンパにも応用できるでしょうね。ほんと、対人能力が高い人は多いですよ。それを活かして居酒屋やキャバクラでバイトしてる子もいます」「それで、恋愛上手になっていくわけですね・・・」「はい。伴奏の人と恋愛関係になる人もいますし。もちろん声楽科の中で付き合う人も多いです。別れたり三角関係になったり、恋愛のごたごたは多いですねー」これは複雑になりそうだ。オペラのペアも、付き合っている者同士でなるとは限らない。互いに別々と異性とペアになって練習することになれば、穏やかではいられない日も多いだろう。

・音校の学生には、練習とバイトで一日が終わるという人も多い。ピアノ専攻の方は、自主練は毎日、休日の練習時間は9時間と言っていた。「声楽科の僕らは体が楽器ですから。人にもよりますが、自主練は2時間くらいで限界なんです。喉を消耗してしまうんですよ。痛めるわけにいかないんで、早めに休みます。実は声って、成熟してくるのは30歳から40歳くらいと言われているんです。僕らの喉はまだ成長段階で、無理をしてはいけないんです」ピアノなら酷使できても、喉は無理なのだ。「じゃあ、残りの時間は?」「遊びに使ったり。他には体を鍛えてます。ジムに行ったり、体幹を鍛えないといい音が出ないんです。肉体は大事ですね。プロではステロイド注射してる人なんかもいますからね」まるでアスリートである。実際体格は立派だ。長身で、逆三角形に引き締まっている。「あとはやっぱり勉強ですね。学ぶのは主に語学です。言葉を知らないと、歌えませんから」「あ、なるほど。何か国語くらい勉強するんですか?オペラだとやっぱりイタリア語?」「イタリア語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、英語、このあたりは必須ですね。あとは人によって中国語とか・・・言葉はできるに越したことはないです」さらりと言ってのける。入学したばかりで外国語ができない時は、日本語訳で歌うことから始めるそうだ。

・確かに藝大生は凄い。音へのこだわりには舌を巻くし、日々身につけている技術も到底真似ができない。だけど、それって社会で役立つのだろうか?卒業してから、食べていくことができるのだろうか・・・。「アーティストとしてやっていけるのは、ほんの一握り、いや一つまみだよね」楽理科卒業生の方があっさりと言った。「他の人は卒業後、何をしているの?」半分くらいは行方不明よ」「・・・え?」「行方不明」まさかと思って調べたが、これがほぼ事実なのだ。平成27年度の進路状況には、卒業生486名のうち「進路未定・他」が225名とある。彼らは今、どうしているのだろう。フリーターになったり、旅人になったり、バイトをしながら作品制作を続けたり・・・と、いろいろなパターンがあるようだが、文字通り詳細は不明だった。「そもそも私のように就職活動をして、会社に入る人が少数派なのよ」卒業生486名のうち、会社員や公務員など、いわゆる就職した人数が48名。毎年1割にも満たない。就職先は音校なら楽団、劇団など。それ以外なら放送局、音楽事務所、それから自衛隊音楽隊など。美校であれば広告代理店、デザイン会社、ゲーム制作会社など。「それ以外では進学する人が多いわ。とにかく、何らかの形で芸術をずっと続けようとする人がほとんど」4年間という期間は芸術を学ぶには短いのか、大学院に進学して勉強を続ける学生は多い。美校では「とりあえず院に行ってから先を考える」というタイプも珍しくない。音校であれば「クラシックの本場を見る」ため、留学する人もいる。平成27年度は168名が進学している。全体の約4割だ。「進学」と「不明」が8割を占める。それが藝大生の進路なのだ。

・「何年かに一人、天才が出ればいい。他の人はその天才の礎。ここはそういう大学なんです」入学時、学長にそう学生は言われたという。「ある意味、就職してる時点で落伍者、といった見方もあるのよ。就職するしかなかった、ということだからね。あいつは芸術を諦めた、みたいな・・・」活躍している藝大出身者はたくさんいる。例えばレディー・ガガの靴を手がけたシューズデザイナー・大河ドラマのテーマ曲の作曲家。ディズニーシーの火山を作った彫刻家もいれば、ディズニーランドのショー音楽制作者もいる。多くの藝大生が目指すのはやはり作家だ。作品を売って食べていける画家、工芸家、彫刻家、作曲家。あるいは、演奏で食べていける演奏者、指揮者・・・。しかしそんな存在はほんの一握り。何人もの人間がそこを目指し、何年かに一人の作家を生み出して、残りはフリーターになってしまう。それが当たり前の世界だという。

・「芸術学科はいろんな年代の人がいるのが面白いですよ。60代の人もいますからね」「定年後に美術を学びたいって入ってくる人がいるんですよ。土木の仕事をやりながら通っている40歳の人や50代の人もいます。年齢層はかなり広いですね。60代の方は、誰よりも熱心に授業を聞いていて、凄いなって思いますよ」「歳の違う方とは、どんなふうに接するんですか?やっぱり少し、やりづらかったりします?」「いえ、むしろ年齢差は気にならなくなります。同級生なんで、会ったら「よっす」って感じですよ。たまに、みんなで飲みに行ったりも・・・」

・藝大の学園祭、それが毎年9月の初旬に行われる「藝祭」だ。よく晴れ渡った日、解説役に妻を連れ、僕は上野にやってきた。「藝祭はまず、御輿パレードから始まるんだよ」藝大の新1年生たちが音校・美校混成で8チームに分かれ、それぞれに御輿を製作。同じく自分たちで作った法被を身につけて、上野公園を練り歩くのが毎年の恒例だそうだ。驚くべきはこの御輿のクオリティ。「・・・何これ。本当に1年生が作ったの?」「そうよ」「製作期間って夏休みの間だけでしょ?」「そうよ。デザインや立体見本(マケット)はもっと前から作るけど」「し、信じられない・・・」熊にまたがりこちらを見下ろす金太郎。角を振りかざして暴れ回る猛牛。悠然と御輿にまたがる、ぬらりとした大山山椒魚。ギリシャ風の神殿に絡みつき、海底に引きずり込もうとする大蛸-その質感。迫力。細部の完成度。怪獣映画が撮れるレベルだと思う。「発泡スチロールでできてるんだよね?」「そうよ。頑張ってみんなで削って、作るんだ」「とてもそうは見えない・・・」優秀作は、上野商店街が20万円ほどで買い取ってくれるという。それぞれのチームが着ている法被もオリジナルだ。印刷から裁縫まで、全て自分たちで行う。印刷はシルクスクリーンという版画技法を用い、縫製はミシン。まるで浮世絵を背負っているような見事な法被が出来上がる。御輿パレードが終わると御輿は上野公園の噴水前広場に集結する。ここでアピールタイムだ。学長を含め審査員たちが見守るなか、各チームが思い思いの手法で自分たちの御輿を用いたパフォーマンスを披露する。先端・音環チームが、御輿が割れるギミックを仕込んだかと思えば、声楽・建築チームはレ・ミゼラブルの歌をプロ並みの美声で歌いながら行進する。各科の得意技を惜しみなく繰り出しての応酬が続く。サービス精神満点のアピールが終わると、「開口一番」の時間になる。これは藝祭の開幕宣言とでもいうべきもので、学長の挨拶から始まって御輿の表彰へと続く。「学長、よそりくお願いいたします」司会の声に頷き、宮田学長が柔和な笑顔で登壇する。マイクを手に取る。そしていきなり、絶叫!「お前ら、最高じゃあああああああああァ!」やんややんやの大喝采。学長、扇子をぶん回しながら続ける。「毎年見とるけど、今年はとぉーくによかった!最高!素晴らしい!ええか、これからの日本には、お前らの力が必要なんじゃああああァ!ニッポンの文化芸術を背負うのは、お前らじゃああああァ!以上ッ!」会場大ウケ。かくして3日間の藝際の幕が上がる。

・音校の藝際では、構内のホールでコンサートが開催される。「常に、どこかで何かしらの演奏会やってるみたいだよ」妻の言うとおり、全部で6か所あるコンサート会場では、朝から夜まで、ほぼ引っ切りなしに演奏が続く。プログラムを見ると、その切れ目のなさに驚くこと間違いなし。種類も、オーケストラ、合唱、オペラ、室内楽、尺八、三味線、能楽、ガムラン、口笛ライブ、作曲科による新曲お披露目など、盛りだくさん。どれを聴きに行こうか迷ってしまう。すでにプロとして活動している学生も多数存在するくらいだから、質は高い。何より全て無料なので人気も凄まじい。どの演奏会も超満員で、整理券は必須だ。そして整理券は朝から並ばなければまず手にできない。廊下では立ち見ならぬ立ち聴きをしている人がいて、それすら長蛇の列ができているくらいである。すっかり藝大のファンになってしまって毎年来ている人もいるという。そういった方たちは最前列に陣どり、曲が終わると「ブラボー」と叫ぶそうだ。愛着と感謝をこめて学生からは「ブラボーおじさん」と呼ばれている。

・学園祭なので出店もある。焼き鳥、カレー、角煮丼といった食べ物と一緒にソフトドリンクが売られている。「薫製部」が出している手製の薫製は絶品だ。面白いのは各店の内装が妙に凝っているところ。例えば彫刻科の出店は料亭のような雰囲気だし、油画の出店は思いっきりパブである。音校の出店ではゲリラ的に演奏が行われていて、こちらも楽しい。突然、横に楽器を持った学生が現れて、演奏が始まったりするのだ。フルートの演奏やカンツォーネを聴きながらだと、ちょっとしたおつまみでも凄く美味しく感じられる。

・藝大と地続きの上野公園の広場では、藝際アートマーケットが開かれている。小さな店が立ち並び、藝大生が自らの作品を販売しているのだ。掘りだし物がたくさんあるということで、いつもたくさんの人で賑わっている。木から削り出された箸、Tシャツ、漆の塗りもの、ピアス、指輪、服、置物、絵、謎のオブジェ・・・。とにかくありとあらゆるものがあって、見ているだけでも楽しい。

・学園祭といえばミスコンテスト。藝大にもミスコンはあるのだが、これが何とも濃い。濃すぎる。全員が変化球しか投げてこないのだ。ミス藝大はチーム戦のかたちを取っている。モデル、美術担当者、音楽担当者の3者でチームが組まれ、美を追求した作品を作りあげるという仕組みだ。各チームは事前に簡単な紹介文とPR動画を公開し、当日は舞台でパフォーマンスを行う。「次のパフォーマンスは、チームC、お願いします」司会が言う。妻と僕は固唾を飲んで舞台を見守っていた。「これ、PR動画で「黄金の国ジパング」って言ってたやつだよね」「うん」PR動画は、どこか縄文時代を思わせる空間から現代の都市まで、泥団子を手にした女性が歌いながらさまようというものだった。モデルは黄金の国ジバングの女王であり、金の泥団子を献上させる儀式を行うと説明が付記されている。何が何だかさっぱりわからない。厳かなヴァイオリンの生演奏のなか、いよいよモデルが姿を現す。「・・・金色だけど」「金色だね」全身に金箔を貼ったその姿はまるで全裸の宇宙生物だ。モデルは一切まばたきをせず、常にぼんやりと虚無を見つめている。なぜ金箔を貼るのだ。普通にしていればきれいな人なのに。「これより女王に、玉込めの儀式を行います」アナウンスとともに、音楽が激しいロックに変わった。全身黒タイツの男たちが大量に現れる。男たちは股間に文字通りの金色の玉を掲げている。ゴムのボールを金色に塗装したのだろうか?それぞれ玉を2個持ち、妙な踊りを舞いながら、かわるがわる金塗りの女王に近づいて、玉を乱暴に押しつける。悲鳴を上げて喘ぐ女王。男たちは玉を押しつけると、無責任にもどこかへ消えていく。やがて儀式が終わると、女王だけが大量の玉とともに残される。そして女王は一人、舞台を去っていく・・・。「美しさって何かしら?自分たちの美ってあるのかしら?」そう、言い残して。

・藝大はとても少人数な大学である。学生数は美校合わせた合計でも約2千人しかいない。学科ごとに分けると、より少なさが実感できる。例えば指揮科の入学定員は1学年たったの2人。美校では建築科で15人、彫刻科で20人、音校でも楽理科23人、作曲科15人とおおむね10人から30人ほどの学科が多い。器楽科などは入学定員が98人なので多く感じられるかもしれないが、たくさんの楽器専攻が含まれているからである。ピアノ、オルガン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ハープ、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、サクソフォーン、ホルン、トランペット、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバ、打楽器、チェンバロ、リコーダー、バロックヴァイオリン。全部で21種類!98人が21の専攻に割り振られるので、同じ専攻の同級生は必然的に少なくなる。

良かった本まとめ(2017年上半期)

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