先週ご紹介した“ツバメウオ“もそうですが、海の中には鳥と名前が被るものが色々います。
ウミスズメやシマアジ、この他に部分的に“カラス”や“スズメ”“ホオジロ”“カツオ“”セグロ“”アカハラ“が付くモノ等、数え上げたらきりがありません。
中でも、海の中で“ヤマドリ”・・・この名前は、ダイビングを始めた当初かなりインパクトがありました。何故こんな名前が付いたのか?未だに良く分かりません。
しかし、“顔付きがキジ科の“ヤマドリ“ に似ているから”と言う説が有り「成る程」と思わせる部分もあります。
《ヤマドリの♂です。大きな背鰭は普段閉じています。》

さて、この“ヤマドリ”と同じネズッポ科に、アカオビコテグリと言う魚がいます。
どちらも大島ではポピュラーな部類に入り、7・8月には繁殖行動(放精放卵)も観察されています。
長年観察していると、実に様々なドラマが見えてきます。そんな中で、幾つか面白い出来事をご紹介しましょう。
彼らの繁殖行動は放精放卵、昼間活動する魚達が寝床に戻り、まだ夜行性の生き物達が動き始めない夕暮れ時、何処からともなく何時も決まった所に集まってきます。
其処は水深24メートル、広さは30畳程の小さな岩等が点在するガレ場・・・。
♀の個体数が多く、♂のバランス(数や強さ)が取れている時には、何匹かの♂が3~5匹の♀をテリトリー内に持ち、其々の場所で繁殖行動を繰り広げます。
反対に、♀の数が少ない時は大変です。♂達は少しでも多くの♀を確保する為に、熾烈な戦いを繰り広げます。
そして優劣が決まると、勝った♂はテリトリー内の♀を順番に回り放精放卵を繰り返します。
《背鰭を大きく広げ、一生懸命♀を誘っています。シーズン中は毎晩こんな光景が見られます。》

しかし、あぶれた♂も簡単には引き下がりません。勝った♂の繁殖を邪魔するのです。
基本的にネズッポの仲間は殆ど泳がず、海底を這う様に移動し生活しています。
しかし繁殖の時には、♂が♀を胸鰭に乗せて海底を離れ、1~2m浮き上がった所で放精放卵をします。
海藻や岩陰に隠れた♂は、ペアの気分が高まって浮上を始めると頃合いを見計らって、海底から物凄い勢いでアタックします。
当然、寄り添って上昇していたペアは、バラバラになり海底へ降りてしまいます。♂の方は、邪魔をした相手を追い払い、再び♀を放精放卵に誘います。余程何度も妨害され気分を損なわれない限り、目的を達成するまで諦めないのです。
《海底から1m以上浮上し、長い時はこの状態が1分以上続きます。》

さてある日の夕方、私達が観察をしていると・・・い~ぃ感じで浮上を始めたペアが居ました。
すると例のごとく海藻の影から飛び出す奴が・・・
しかし、邪魔をした相手をみて私達は、呆気に取られてしまいました。何と!邪魔をしたのは“ヤマドリ”の♂だったのです。同じネズッポ科に属するとはいえ、繁殖の相手ではありません。単なる嫉みか?はたまた余程仲間にモテナイ♂だったのでしょうか?
それから私達は、このヤマドリ♂を“ジャマドリ”と呼ぶ事になりました。
又ある日の事、♂が♀にアプローチして「さぁ、そろそろ浮上を始めよう」とした矢先、岩陰にいた別の♂が♀と一瞬で入れ替わった事が有りました。
そして何と!まんまと大きな♂の胸鰭にチャッカリ乗って一緒に浮上を始めたのです。
見ていた私達は、目が点になってしまいました。しかし、流石に途中で気付いた大きな♂は慌てて?海底に降りてしまい、凄い剣幕でチビ♂を追い払ったのでした。
さて、騙したチビ♂は、大♂の放精までさせたかったのでしょうか? だとしたら、凄い作戦ですね。
こんな感じで、海の中でも子孫繁栄に向け様々な生き物達が日々戦いを繰り広げています。
滞在時間に限りある海の中、生態観察は中々難しいのですが、出逢えた時の感動は何物にも代え難いものが有ります。
機会が有れば、皆さんもダイバーの仲間入りをして、こんな魅惑的な世界を覗いてみませんか? 私達、”海チーム”がご案内致しま~す。

画像・文 海チーム KY