「連合」という全国の労働組合の結集体は、労働組合としての本質を放擲した。労働組合は、労働組合法第一条の「この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。」とあるように、労働者の地位向上のための組織である。
しかし、今回の「残業代ゼロ法案」は、労働者の生活を破壊する可能性をもった悪法である。当初は、年収1075万円以上の者だけに残業代を支払わないという、これは企業にとっては大きな助け船であるが、いずれはその年収制限はどんどん下げられてくるだろう。
「連合」は、すでに労働者と敵対する組織となりはてた。当初からその動きは存在したが、ついにその本性が露わになったということだ。
『神戸新聞』社説も、今回の「連合」幹部だけの決定を批判する。
残業代ゼロ法案/不可解な連合の方針転換
働く者を守る労働組合として首をかしげる判断だ。
「高度プロフェッショナル制度」として一部専門職を残業代支払いの対象から外す労働基準法改正案について、連合の神津里季生(りきお)会長が安倍晋三首相と会談し、一部修正の方向で一致した。事実上の容認である。
傘下の労組からは批判の声が上がる。連合は前身の計画を小泉政権が2006年に閣議決定して以来、「残業代ゼロ法案」として10年以上、反対してきた。組織決定を得ず転換したのでは、混乱が生じて当然だ。
社会問題化した長時間労働を肯定するとの批判がある法案を、なぜ認めるのか。執行部はきちんと説明する必要がある。
法案は年収1075万円以上の一部専門職を対象に、残業代支給や深夜割り増しなどの規制をなくす。本人と労使が合意すれば導入でき、健康確保策として、年104日以上の休日取得など3項目から一つを選ぶ。
神津会長は休日取得を義務づけ、さらに健康診断や労働時間の上限設定など4項目から一つを選んで加えるよう求めた。
安倍政権は「働き方改革」を掲げており、秋の臨時国会で法案審議入りの可能性は高い。可決される前に修正を勝ち取ろう、との判断という。
しかし、年104日の休日は全労働者平均より10日も少ない。他の健康確保策を組み合わせても、過重労働の抑止効果がどこまであるのか疑問だ。
ひとたび労働規制を緩和すれば、経済界は対象者の拡大を政府に働きかけるだろう。今回の改正案の対象は給与所得者の4%程度だが、年収や職種の見直しによって対象が広がることは十分に考えられる。
連合には、そうした事態を招かないよう歯止めをかける責任がある。そのことをしっかり自覚しなければならない。
民進党は連合とともに法案に反対してきたが、今回の方針転換を明確に知らされず、はしごを外された格好だ。連合が政権との協調を重視したといえる。
安倍政権は「政労使」の会談の場を設け、連合を取り込んできた。しかし労働組合は政権の諮問機関ではない。働く者を守る原点に立ち返り、労組としての一線を守るべきだ。