山本義隆さんが副題「原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」をつけ、『リニア中央新幹線をめぐって』をみすず書房から出版した。静岡県在住の私として、また大井川の電源開発や旧中川根町の「水返せ運動」を研究した者として、必然的に読まなければならないものであり、発売と同時にすぐに購入し、今朝読み終えた。単なるリニア中央新幹線批判の本ではない。副題に示されるように、原発事故とコロナ・パンデミックをもたらしたものは何かを追究しながら、それらが資本主義の終焉ないしは再考を迫っていることを指摘し、リニア中央新幹線の建設問題を広い視野で捉えようとしたものである。
近年、科学史に関する研究書を次々と刊行し、また日本近代の科学技術の歴史を繙いた山本義隆さんならではの視点にもとづいた壮大な内容である。そしてその背景には、近代日本に対する批判的精神、その批判を生み出す正義感があることを、私は感じた。
序章から第三章までがリニア中央新幹線に関する論考である。リニア中央新幹線に関する文献を渉猟し、それらを整理し、また推進する側の文献を批判しながら、リニア中央新幹線のどこに問題があるのかを剔抉していく。
序章は、「なぜいまリニア中央新幹線を問うのか」である。
山本義隆さんは、「福島の原発事故とコロナのパンデミックを経験した私たちが現在の日本社会の基本的なありように対してしなければならない総点検の一環」としてリニア中央新幹線をとりあげなければならない、と主張する。
そしてリニア中央新幹線の経緯、ゼネコンの工事の受注と談合、大井川の水問題や南アルプスの自然破壊などを概観する。
第一章は、「リニアは原子力発電を必要とする」である。
山本義隆さんは、リニアには莫大な電力が必要であること、リニアの構造、超伝導と液体ヘリウム、すなわちリニア中央新幹線を高速で動かすための技術的な条件について説明する。その説明は素人にも分かるようになっている。
超伝導状態を維持するためには毎日液体ヘリウムを補給する必要があること、超伝導線を液体ヘリウムで冷却しなければならないのでそのためにかなりの電力が必要であること、液体ヘリウムはアメリカから入手せざるをえず、価格は高く、資源としては不安定であることを指摘する。
驚くことに、リニアは磁気で浮上するということになっているが、その状態に達するまではゴムタイヤで地上を走行する、ゴムタイヤであるから摩耗やパンクがあり、また車内の照明などは灯油による発電機を使用するというように、「最先端技術」といいながら、在来の技術に依存するというのだ。実験でも事故が発生していて、山本さんは「リニアは高速性を過度に重視するために、走行の安定性・安全性を犠牲にしている」と断じる。
そして電力を過度に必要とするリニアについて説明し、「リニア中央新幹線の運転・営業は原発の再稼働や新設を不可分であり、それゆえリニア中央新幹線計画は、本来なら福島の事故の時点で即見直さなければならなかった時代錯誤のプロジェクトなの」だと指摘する。
第三章は、「6000万人メガロポリスの虚妄」である。
山本さんは、東京一極集中を問題にする。コロナが首都圏や関西圏で猛威を振るうのは、そうしたところに人口も経済も、そして文化も集中するからであることを証明した。リニア中央新幹線は、さらにそれを推し進める。全国に新幹線網をつくるというなかで、ストロー効果により、いなかから都市、とりわけ東京圏に人が吸い寄せられていったことを根拠に、リニア中央新幹線がさらに人々を東京に集中させると指摘する。
JR東海はリニア中央新幹線は災害時に役立つようなことを言っていたが、実際新幹線は人を運ぶだけで救援物資を運ぶわけではない。東日本大震災のときには、東北新幹線は役立たず、救援物資は日本海側を迂回するローカル線を活用して運ばれたというのだ。在来線こそ、いざというときに役立つことを示したのである。
第三章は、「リニアをめぐるいくつかの問題」である。
まず環境破壊と残土。リニア中央新幹線は地中深く、空気抵抗の関係から大きな穴を掘り進める。掘った土が大量に出される。その残土をどうするか。また地下水系に多大なる影響を及ぼすことが推定されている。
山本さんの主張に付け加えれば、毎秒2㌧の水が大井川源流から消えるというJR東海の試算があるが、これとてどれほどの確度があるのか不明である。毎秒2㌧と言えば莫大な量であり、大井川流域の上水道、工業用水、農業用水の総計に匹敵するといわれる量である。それが失われるというのだ。また残土。静岡県の南アルプスの地下を通るわけだが、そこから掘り出された残土は河川敷におかれるという。私はふつうの人が入れない大井川源流部などに行ったことがあるが、大井川周辺の山々の崖崩れはまことに凄まじい。あちらこちらが崩れ、その土砂が大井川を埋めている。ただでさえ崩壊しやすい岩質のうえに、気温の高低差や降雨により、山崩れは源流部の広域にわたって起きている。その惨状を見れば、残土の問題は重大である。JR東海は、そんなことを顧慮すらしない。
山本さんは、安倍晋三=自民党・公明党政権がJR東海に、財政投融資により無担保で3兆円を融資し、それも30年間元本返済を猶予し、おまけに金利は0・8%、そして不動産取得に関する税を免除するという、前代未聞の優遇を行っている。通常ありえない融資である。もしこれが焦げ付きでもすれば、それは国民にそのつけがまわされることになる。なんてことだ。
山本さんはここで、他のリニア中央新幹線批判本にない説明を加える。技術ナショナリズム、大国ナショナリズムである。技術者や権力者は、「かつて世界に誇る新幹線を実現させたのと同様に、世界ではじめて超伝導リニアを実現させ、最高速度の世界記録を樹立し、世界をあっと言わせて、今一度世界の鉄道業界のトップに立ちたい」と思っているのだ。これはリニア中央新幹線が必然的に持つ影の部分をまったく無視する言説である。
第四章は、「ポスト福島、ポスト・コロナ」である。
ここは山本さんの、おそらくもっとも重視したところだろう。
山本さんは、「原発やリニアに代表される集権的にエネルギー浪費社会に代わるべき社会として分散型適量生産社会が提起され」ていることを重視する。もう資本主義のままでは、新自由主義に彩られた資本主義では、社会は存続し得ないという研究が次々と出されている。
社会は変わらなければならない。「集中に対して分散を重視し、時間軸に対して空間軸を上位に置き、過剰なるスピードを求めないことは、成長経済を根底的に見直すことなのです。それはエネルギーの時間への転換がすでに極限に接近している現在、逃れられない課題として提起されている」のであって、とするならリニア中央新幹線建設などというのは、愚の骨頂ということになる。
『近代日本150年』に記した日本の科学技術の歴史を背景に、日本経済史をふり返り、そこに見られる歪みを指摘し、リニア中央新幹線が「中央官庁(運輸省-国交省)と地域独占企業としての鉄道会社と車両メーカーとゼネコン、そして中央と地方の有力政治家と中央の大学の御用学者たちが一体となって、ときには事故情報を隠蔽し、安全神話をふりまき、マスコミを抱き込み、地元の危惧や反対の声を無視して推進されているので」あって、それは原発と変わらない構造を持っている。
まさにリニア中央新幹線の建設は、新しい社会に変わらなければならない時代に、日本の歪みが凝縮された形で存在し、その歪みを維持したまま奈落の底に飛び込んでいくような事業なのである。
山本さんは、本書で、過去から未来に向けたパースペクティヴのなかにリニア中央新幹線建設問題を位置づけ、様々な問題点を指摘する。リニア中央新幹線を理解し、批判し、考える絶好のテキストとなるであろう。
多くの方々が手に取ることを望む。
ロイター記事。東京オリンピックは中止せよ!それが私の意見である。それは大方の日本人の意見でもある。
日本の与党幹部は12日、コロナウイルスの問題が深刻化した場合、今年の東京オリンピックを中止することも選択肢の一つであると述べた。
これに対し、東京オリンピック組織委員会は、オリンピックの準備に携わるすべての人々が、夏の開催に向けて完全に集中しているとの声明を発表した。
自民党の二階俊博幹事長は、TBSの取材に対し、「これ以上(五輪開催が)不可能だと思われるなら、断固として中止しなければならない」と述べた。中止は「もちろん」選択肢の一つであるとした上で、次のように述べている。「オリンピックが感染症を蔓延させるものだとしたら、何のためのオリンピックなのか」。
日本では第4波のコロナウイルス感染症が発生しており、東京が夏季大会を開催できるのかどうかという疑問がここ数週間で再び浮上してきた。政府や組織委員会の関係者は、一貫して大会は開催されると述べている。国際オリンピック委員会(IOC)の広報担当者は1日、「我々は憶測でものを言うことはない。我々は、今年の東京2020オリンピックの成功に向けて完全に集中し、コミットしており、7月23日の開会式に向けて全速力で取り組んでいる」と述べた。
しかし、与党の重鎮が発言したという事実だけで、国内ニュースでは彼の発言がトップで報道された。
「五輪中止」は、日本のTwitterのトレンドになっており、木曜日の午後の時点でユーザーから5万件近くのツイートが寄せられている。菅義偉首相の後ろ盾であり、率直な発言で知られる二階氏について、「この人が言うなら、五輪中止は現実味を帯びてきた」と@marumaru_clmがツイートした。また@haruha3156.は、「すごい!中止だ、中止だ、中止!」とツイートした。
その後、二階氏は自らの姿勢を説明する文書を発表した。「東京オリンピック・パラリンピックを成功させたいと思います。同時に、何があっても(大会を)開催するのかという質問に対しては、そうではない。それが私のコメントの意味です。」
菅首相は、オリンピックに向けて感染症の拡大防止に全力を尽くすという政府の姿勢に変わりはないと述べ、中止という選択肢もあるのではないかという記者の質問には答えなかった。
日本ではCOVID-19の感染が増加しており、東京での新規感染者数は木曜日に729人に急増し、2月初旬以来の最多数となった。東京、大阪をはじめとするいくつかの県では、今月、バーやレストランの営業時間を短縮するよう求める準非常事態宣言が出され、さらに4つの県が追加されることになったと地元メディアが報じている。
二階のコメントについて問われた東京オリンピック組織委員会は、声明で次のように述べている。「菅首相は、東京2020大会の開催に向けた政府の関与を繰り返し表明してきました。国、東京都、東京2020組織委員会、IOC(国際オリンピック委員会)、IPC(国際パラリンピック委員会)など、すべてのパートナーが今夏の大会開催に向けて全力で取り組んでいます」とコメントしている。
7月23日に延期された大会では、海外からの観客がいない状態で開催されるため、ソーシャルディスタンスの取り方などの制限を盛り込んで準備を進めてきた。
規模を縮小した聖火リレーがすでに行われている。
共同通信社によると、日本のワクチン担当大臣である河野太郎は、別のテレビ番組で「実現可能な方法で(大会を)開催する。またそれは観客がいない場合かもしれない」とも述べた。日本の最高医学顧問である尾身茂は、パンデミックが突然変異株によって引き起こされる第4の波に入ったことを認め、京都大学の西浦博史教授は雑誌のコメントでオリンピックの延期を求めたという。
日本共産党の小池晃議員は、ツイッターで二階のコメントに反応し、大会開催はすでに「不可能」であり、中止を早急に決定すべきだと述べた。国際通貨基金(IMF)の高官が水曜日に発表したところによると、大会の中止または延期は、おそらく日本経済に大きな打撃を与えないが、東京のサービス業にはより大きな影響を与えるだろうという。