「田口和奈『その中にある写真』」 TARO NASU GALLERY 6/3

TARO NASU GALLERY(港区六本木6-8-14 コンプレックス北館2階)
「田口和奈『その中にある写真』」 
5/26-6/17

今年2月の佐倉市立美術館の「カオスモス」展でも拝見した、田口加奈の個展です。美しくポーズをとる女性たち。モノトーンタッチの大きなポートレート作品が5点ほど並んだ展覧会です。



簡単に言えば、田口の作品は非常に凝っています。まず遠目からだと、どれも女性を写し出したモノクロ写真のように見えてきますが、近づくと驚くほど精緻な油彩画が元になっていることが分かります。つまり、自らの絵画を撮影した写真。それが作品の最終な形なのです。しかし、その元となる油彩も、既成の写真から絵画に起こして描写したもの。こうなってくると、作品が一体、写真なのか絵画なのか分からなくなります。写真と絵画の曖昧な境界線。もちろん、その間に揺れる妙味が独創的な面白さを生み出します。ちなみに作品はどれも錯視的です。油彩絵具の重い質感が強くにじみ出ていながら、写真のシャープな質感も押し出されている。強いて言えば、写真と絵画の両方の良い部分を足して合わせた。これは確かに引き込まれます。

「カオスモス」展では、少し展示場が大き過ぎたようにも感じましたが、今回の個展では、ポーズをとる女性の存在感がダイレクトに伝わる展示です。面と向かってこれらの女性に対峙していくこと。作品によっては、描写の精緻さに幾分バラツキがあった(非常に良く出来ているものとそうでないものが混ざっているようにも思いました。)ようにも感じられましたが、総じて高い美感を誇ります。湿った髪の毛、甘い口元。そしてうつろな目。どれも個が剥き出しにされていない。あくまでも静かにポーズをとるだけの女性たち。生気が抜かれている。ゾクゾクするような冷たい感触が伝わってきました。

6月17日までの開催です。これはおすすめします。
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「佐藤好彦個展『 1 : 4 : 9』」 ヴァイスフェルト 6/3

ヴァイスフェルト(港区六本木6-8-14 コンプレックス北館3階)
「佐藤好彦個展『 1 : 4 : 9』」
5/12-6/10



既製品を反復し、または変形させることで、思いがけない造形の面白さを提供する佐藤好彦の個展です。高さ2メートルはゆうに超えるだろうという巨大なスピーカー。それが真っ白な展示室に一つだけドーンと置かれています。まずは、奇妙で謎めいたその存在感に圧倒される展覧会です。

このスピーカーの名前は「Model 432001」。大小様々な振動板が、まるで目のようにいくつも付いています。そして裏側にも同じような振動板がたくさん群がっている。またスピーカーからは、どこかで聴いたような音楽や英語の会話、それにけたたましい警報音などが流れていました。音は、表と裏の両方にてステレオが完成する仕組みになっているのか、狭い展示室に不気味なサラウンド効果をもたらします。ともかく、その形、大きさともに、奇異で不思議です。これは一体何を意味するのでしょう。

その答えは、タイトルと形、そして流れてくる音にありました。ドーンと立った分厚い板のような存在感。これは、かの有名なSF超大作「2001年宇宙の旅」に登場する「モノリス」のイメージなのです。そして1:4:9とは、まさに「モノリス」と同様に、27.5×110×147.5(センチ)の大きさを表すという仕掛け。そう言われてみれば、スピーカーから発せられる音が、あたかも「モノリス」を取り巻く磁場のような役割をしているようにも感じられます。また、これが「モノリス」のイメージだと気がつかなくても、その事物の存在感は強烈です。まさに磁場に吸引されていく感覚。もちろんスピーカー自体のクオリティーも非常に高い。これだけ作り込んであると、さすがに作品の魅力も増すと言うものです。

「モノリス」に遭遇した衝撃の体験をスピーカーで味わえる(?)展覧会です。今週の土曜日、10日までの開催です。
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