「神坂雪佳展」 日本橋高島屋8階ホール 6/4

日本橋高島屋8階ホール(中央区日本橋2-4-1)
「京琳派 神坂雪佳展 - 宗達、光琳から雪佳へ - 」
5/24-6/5(会期終了)



全く未知の作家でしたが、「弐代目・青い日記帳」のTakさんのご推薦とあれば見逃すわけにはいきません。明治から昭和にかけて琳派を継承し、さらには独自のスタイルへと発展させた神坂雪佳(1866-1942)の展覧会です。雪佳以前の琳派の系譜(宗達、光琳など。)と、自身の日本画、工芸などが幅広く展示されています。大変失礼ながら、デパートの企画だとは思えないほど見応えのある展覧会でした。

 

雪佳の絵画では、生き物を描いた作品の方が私は好みです。まずは、パンフレット表紙にも掲載されている「金魚玉図」でしょう。ガラス器越しに映った金魚の姿。淡い朱色と黄色がたらし込み(他の作品にも多用されています。)によって滲むように交じり合っています。それにしてもこの金魚、何とも不格好です。ふくよかな体と、ギョロッと睨むような目。また、下部に大きく余白がとられた縦長の構図のせいか、どう見ても金魚がガラス器に入っているようには思えません。丸い器は月で、天から金魚が降りて来ている。言わば、金魚来迎図。とても滑稽でユニークな作品でした。

「白鳳図」は非常にアニメーション的です。細部はむしろ大胆に描かれ、見事な羽がダイナミックに伸ばされている。崖の岩場の表現は、独特のたらし込みによって重々しい質感を生み出し、それに対する白鳳はあくまでも鮮やかな白が目立っています。そして特に面白いのは、この白鳳が見せる表情でした。妙に曲がって尖るクチバシはどこかアヒルのよう。横を向いてツーンとすましていますが、今にもこちら側を向いて「ガーガー」と鳴きそうな気配です。



雪佳は琳派を継承した単なる日本画家ではありません。絵画以外にも、陶器や呉服などに意匠を施しています。ここでは、私の趣味にも合う清水六兵衛(五代)の手がけた「波の図赤楽茶碗」が魅力的でした。温もりが感じられる赤茶けた器に、大きく飛び上がった白波。またこの波の描写は、先の「白鳳図」の白い羽ともどこか似ています。赤茶色と白の組み合わせの妙と、ダイナミックな波の描写。ともに美感として危うさすら感じさせるほど大胆です。遊び心にも溢れていました。



「琳派の意匠」と題された最後のコーナーには、もうとんでもなく可愛らしい犬の作品がありました。それがこの「狗児」(百々世草から。)です。ぶてっと座り込む二匹の子犬。何やらにゅっと首を突き出した先には、小さなカタツムリが一匹。(これもまた可愛い!)そして、奥で控える茶色の子犬は、ぼんやりとこちらを見ています。(少し眠そう?)そして、剛胆な3本の竹。雪佳の描く木や植物は、どれもシャープな線の妙味よりも面の素朴な味わい(たらし込みを含めて。)が魅力的ですが、これもまるで書のような描写です。画面がぐっと引き締まります。思わず笑みがこぼれてしまうような作品でした。

「なごみの琳派」として知られる芳中なども展示されていました。もちろんこちらも少しでしたが楽しめます。(「光琳画譜」の鳥がまた最高に可愛い!)海外から、ある種の「逆輸入」にて再評価されてきた作家とのことですが、もっと多くの作品を見たいとも思いました。
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