都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「現代中国の美術展」 日中友好会館美術館 6/18
日中友好会館美術館(文京区後楽1-5-3)
「中国第10回全国美術展受賞優秀作品による 現代中国の美術展」
5/20-7/2
全国巡回中(新潟市美術館や茨城県近代美術館にて開催済。)の「現代中国の美術展」が、今、文京区の日中友好会館にて行われています。「新世紀を邁進する現代中国の美術の底力を感じ取ることができる」(パンフレット)ということで、先日少しのぞいてきました。
この展覧会は、1949年から4年に1度のペースで開催中されている中国最大の公募展(全国美術展)の入選作品から、さらに選りすぐりの95点が集まったものです。そして今回は、最近に開催された2004年の作品が展示されています。もちろんジャンルも、中国画(日本画の技法と殆ど変わりません。)や油彩画、それに水彩画から漫画までと多種多様です。また総じて大きめの作品が多く、見応えも十分でした。
まず目立つのはリアリスム絵画です。ともかく、画家の技巧を誇示するかのような超写実的な作品が多く目につきます。そしてその中では、パンフレット表紙にも掲載されているロン・ジュンの「モナ・リザ(微笑のデザイン)」があまりにも圧倒的でした。一見しただけでは油彩画とは分からないほどの精巧さ。くっきりとした目鼻に長く端正に伸びた黒髪。口元が少し緩んでいる。眉毛の質感から衣服の綻び、それに爪の先までが極めて丁寧に表現されています。それにしてもこのリアルさは不気味です。美しさを通り越して、居心地の悪さすら感じてしまう作品でした。まるで実体のない、お化けを見ているかのような錯覚さえ与えます。
ヤォ・ジェンホワの「レンズの前の少女」は、水彩表現にてリアリスムを追求した作品です。燦々と降り注ぐ明かりに照らし出されたチベットの光景。民族衣装を身に纏っているのでしょうか。カラフルなスカートが美しく照り出しています。そして手前の石段や段上の門の装飾の質感。写真からなぞって色を付けたのではないかとさえ思ってしまうほどです。この徹底した写実性。ただひたすらに驚かされました。
社会的なテーマを扱う作品よりも、身近な光景を捉えた中国画や版画の方が魅力的です。私がまず惹かれたのは、水墨画と中国画の技法を織り交ぜた趙建成の「西部は歌う」でした。衣服の模様が抽象的に描かれ、墨と顔料が美しく溶け合っています。そして画面から浮き出したリアルな顔の表情。何枚か張り合わされた紙の質感もまた美しい。また版画では張白波の「紅晴日」が一推しです。中国が誇る万里の長城。それを無限に連なる山々と重ねて捉えています。赤茶けた大地に降り積もる雪。作品自体が大きくなく、小さな画面に折重なる山々が描かれているのもまた魅力です。見ていて肩の凝らない、素朴な味わいが好印象でした。
さて、中国の政治体制を考えると当然ではありますが、いわゆるプロパガンダ的な作品も多く見受けられます。民族衣装を身につけた多くの人々が五星紅旗の元で笑顔を見せる「民族団結」や、「中華民族の決起を示した」(キャプションより)という「帰還者」(神舟5号の宇宙船が描かれています。)などはその一例と言えるでしょう。それに、北京で開かれた本展には、旧日本軍が南京で降伏文書に調印した光景を描いた巨大な歴史画が展示されていたそうです。また、いわゆる社会派的な作品も多く展示されていましたが、一言で示せば、その殆どは社会のひずみに深く切り込むことなく終っています。あまり面白いものがありません。いくら公募展だからとはいえ、総じてこれほど体制の臭いがする展覧会もそうない。しかもそれがまたタイムリーに制作されている。これには一種の恐怖感すら覚えてしまいます。
とは言え、絵だけを見れば、非常に優れた作品がいくつも並んでいました。また政治色の強い作品が展示されているということは、ある意味で今の中国の社会の有様を包み隠さずに示していることにも繋がります。その点も含めて見ておきたい内容かと思いました。来月2日までの開催です。
「中国第10回全国美術展受賞優秀作品による 現代中国の美術展」
5/20-7/2
全国巡回中(新潟市美術館や茨城県近代美術館にて開催済。)の「現代中国の美術展」が、今、文京区の日中友好会館にて行われています。「新世紀を邁進する現代中国の美術の底力を感じ取ることができる」(パンフレット)ということで、先日少しのぞいてきました。
この展覧会は、1949年から4年に1度のペースで開催中されている中国最大の公募展(全国美術展)の入選作品から、さらに選りすぐりの95点が集まったものです。そして今回は、最近に開催された2004年の作品が展示されています。もちろんジャンルも、中国画(日本画の技法と殆ど変わりません。)や油彩画、それに水彩画から漫画までと多種多様です。また総じて大きめの作品が多く、見応えも十分でした。
まず目立つのはリアリスム絵画です。ともかく、画家の技巧を誇示するかのような超写実的な作品が多く目につきます。そしてその中では、パンフレット表紙にも掲載されているロン・ジュンの「モナ・リザ(微笑のデザイン)」があまりにも圧倒的でした。一見しただけでは油彩画とは分からないほどの精巧さ。くっきりとした目鼻に長く端正に伸びた黒髪。口元が少し緩んでいる。眉毛の質感から衣服の綻び、それに爪の先までが極めて丁寧に表現されています。それにしてもこのリアルさは不気味です。美しさを通り越して、居心地の悪さすら感じてしまう作品でした。まるで実体のない、お化けを見ているかのような錯覚さえ与えます。
ヤォ・ジェンホワの「レンズの前の少女」は、水彩表現にてリアリスムを追求した作品です。燦々と降り注ぐ明かりに照らし出されたチベットの光景。民族衣装を身に纏っているのでしょうか。カラフルなスカートが美しく照り出しています。そして手前の石段や段上の門の装飾の質感。写真からなぞって色を付けたのではないかとさえ思ってしまうほどです。この徹底した写実性。ただひたすらに驚かされました。
社会的なテーマを扱う作品よりも、身近な光景を捉えた中国画や版画の方が魅力的です。私がまず惹かれたのは、水墨画と中国画の技法を織り交ぜた趙建成の「西部は歌う」でした。衣服の模様が抽象的に描かれ、墨と顔料が美しく溶け合っています。そして画面から浮き出したリアルな顔の表情。何枚か張り合わされた紙の質感もまた美しい。また版画では張白波の「紅晴日」が一推しです。中国が誇る万里の長城。それを無限に連なる山々と重ねて捉えています。赤茶けた大地に降り積もる雪。作品自体が大きくなく、小さな画面に折重なる山々が描かれているのもまた魅力です。見ていて肩の凝らない、素朴な味わいが好印象でした。
さて、中国の政治体制を考えると当然ではありますが、いわゆるプロパガンダ的な作品も多く見受けられます。民族衣装を身につけた多くの人々が五星紅旗の元で笑顔を見せる「民族団結」や、「中華民族の決起を示した」(キャプションより)という「帰還者」(神舟5号の宇宙船が描かれています。)などはその一例と言えるでしょう。それに、北京で開かれた本展には、旧日本軍が南京で降伏文書に調印した光景を描いた巨大な歴史画が展示されていたそうです。また、いわゆる社会派的な作品も多く展示されていましたが、一言で示せば、その殆どは社会のひずみに深く切り込むことなく終っています。あまり面白いものがありません。いくら公募展だからとはいえ、総じてこれほど体制の臭いがする展覧会もそうない。しかもそれがまたタイムリーに制作されている。これには一種の恐怖感すら覚えてしまいます。
とは言え、絵だけを見れば、非常に優れた作品がいくつも並んでいました。また政治色の強い作品が展示されているということは、ある意味で今の中国の社会の有様を包み隠さずに示していることにも繋がります。その点も含めて見ておきたい内容かと思いました。来月2日までの開催です。
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