「武満徹 - Visions in Time展」 東京オペラシティアートギャラリー 6/10

東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿3-20-2)
「武満徹 - Visions in Time展」
4/9-6/18



没後10年を迎えた武満徹(1930-96)の展覧会です。良く知られた作曲家としての武満だけではなく、絵画や詩、または映画など、総合芸術家としての武満にスポットを当てた企画でした。



会場には、武満の自筆楽譜や映画のポスターから、彼がインスピレーションを受けた(もしくは親交のあった。)芸術家の作品までが並びます。「彼が関心を示した多用な領域からの展示品によって多層的多面的に紹介する」(公式HPより。)ということで、紹介される芸術家はクレーやルドン、それにサム・フランシスやイサム・ノグチまでと多種多様です。そう言えばこの会場の雰囲気、以前に世田谷美術館で開催された瀧口修造展と良く似ています。瑞々しい緑色の飛沫が迸る堂本尚郎の「宇宙」(1999)を見ながら、それを「無限に動く世界の実相」と称した武満の言葉を読む。「夢の縁へ」(ギターとオーケストラのための)が、デルヴォー(「水のニンフ」が展示されています。)へのオマージュとして作曲されていた。そして、クラインよりも詩的なブルーだと述べたサム・フランシスの「ブルー#2」(1961)の美しさ。あたかも自分が武満になったような感覚で作品と対面していく。また、私としてはクレーの「大聖堂」(1932)や、ルドンの「眼を閉じて」(1890)などが拝見できたのも嬉しいところでした。



武満の曲をヘッドホンで聴くコーナーもあります。尺八の音色に耳を傾けながら、黒光りする御影石の質感が素晴らしいイサム・ノグチの「黒い太陽」(1967-69)をしばし眺めていく。近いようで遠い音楽と美術の関係が、ここでは一つになっています。中央部分の空洞から風が抜けてくる感覚。それが尺八の伸びやかな音にのって靡いている。太陽が息を吸ったり、吐いたりする様子。そのリズムがまた武満の音楽のリズムとなって頭の中を駆け巡る。心地良い瞬間です。



音楽面では、自筆楽譜や御代田の作曲室の展示に見応えがありました。ドビュッシーやベルクの楽譜が積まれた木製の机。鉛筆が整然と並んでいます。それに、楽譜への書き込みも非常に整っている印象を受けました。律儀な方であったのでしょうか。また楽譜では、図形楽譜と呼ばれるものが印象的です。デザイナー杉浦康平との共作で進められたこれらの作品。そこに、音楽が視覚化されたようなイメージは湧いてきませんが、どれもまさに楽譜の絵画とでも言えるようなものばかりでした。

アートギャラリーだけではなく、コンサートホールなどオペラシティ全体を挙げての企画です。主催者側も大変力が入っていることと思います。ただ、私の期待が大き過ぎたようです。展覧会自体にはやや構成の甘い部分があったようにも感じられました。会場で紹介された武満の音楽や言葉はとても少ない。また映画のコーナーは殆どポスターの紹介で終っています。もう少し映像を交えることは出来なかったのでしょうか。(いくらゴールデン・シネマ・ウィークがあったとはいえ。)武満のインスピレーションを核として、それを取り巻いたアートを提示していく。その世界はあまりにも広かったのかもしれません。やや消化不良気味にてまとまっていた印象も否めませんでした。

久々に武満が聴きたくなってきました。オペラシティが今年の目玉にも据えている展覧会。今月18日までの開催です。(ぐるっとパスを使いました。)
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