新たなる「奇想」(辻惟雄の新刊二点)

同時に二冊の新書を上梓されたとは驚きました。辻惟雄の新刊、「奇想の江戸挿絵」(集英社新書ヴィジュアル版)と「岩佐又兵衛」(文春新書)です。血みどろに大スパーク(?)した表紙も書店で目立っています。

「奇想の江戸挿絵/ 辻惟雄/集英社新書」

系譜、図譜と続いた、奇想シリーズの第3弾ということで良いのでしょうか。幽霊や生首、それに妖怪といった、薄気味悪くておどろおどろしいモチーフの登場する江戸時代の版本を、豊富な図版を引きながら丁寧に紹介しています。また当時の表現だけでなく、例えば北斎の幽霊画と現代の漫画を対比させて見るなど、今に共通する要素を挙げる辻流の解釈も鮮やかです。それに、読本のあらすじを簡単な辞書風にまとめた部分も良く出来ていました。読本初心者の私にも助かります。

「岩佐又兵衛 - 浮世絵をつくった男の謎/辻惟雄/文春新書」

謎に満ちた又兵衛の生涯を、実証的でありながら、あたかも推理小説を読むかのような展開をもってまとめあげた一冊です。冒頭の「山中常盤物語絵巻」と「舟木図屏風」の詳細なカラー図版からして圧倒されますが、少し中をのぞいたところ、特に後者の屏風をこれまでの解釈より180度転回して又兵衛作と断じる第5章が実にスリリングでした。ちなみに又兵衛の展覧会は2004年に千葉市美などでも開催されていたそうですが、これを読むと新たなる視点を加えた大・又兵衛展を望みたくなってしまいます。

なおこの夏、東京国立博物館で「対決展」がはじまりますが、その際には氏の講演会も予定されているそうです。情報を転載しておきます。

「対決 巨匠たちの日本美術展 記念講演会」
日時:2008年8月2日(土)13:30-15:00
場所:東京国立博物館 平成館大講堂
演題:「美と個性の対決」
講師:辻惟雄(『國華』名誉主幹、美術史家、MIHO MUSEUM館長)
定員:各回とも380名(事前申込制。詳細は公式HPにて。)
聴講料:各回とも無料。

以下は、2年前のバーク・コレクション展で聞いた講演会のメモです。拙いまとめ方ですが宜しければご覧下さい。

「バーク・コレクションの魅力」@バーク・コレクション展記念講演会(2006/2/5)

しばらくはこの2冊で江戸絵画にどっぷりと浸れそうです。まずは書店にてどうぞ。

*関連エントリ
「絵にしか描けない美しさ - 伊藤若冲」@ギョッとする江戸の絵画(NHK教育、2006/11/6)
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