「開館20周年・美術館設立60年記念 所蔵作品選 175/3000」 茨城県立近代美術館

茨城県立近代美術館水戸市千波町666-1
「開館20周年・美術館設立60年記念 所蔵作品選 175/3000」
4/19-5/25



半年間の空調改修工事を終えてリフレッシュオープンした同美術館による、全館規模のコレクション名品展です。約3000点にも及ぶという所蔵作品より、近代日本画、洋画、版画、陶芸、または戦後美術など、選りすぐりの175点が一堂に会しています。

構成は以下の通りです。ご当地の作家、横山大観、中村彝、小川芋銭らの展示が際立っていました。

プロローグ「美術館の歩み」:五百城文哉「袋田の滝」など。3点。
第1章「明治初期の日本画」:橋本雅邦、松本楓湖など。6点。
第2章「横山大観と五浦の画家たち」:横山大観「春曙・秋夜」、下村観山「竹林七賢図」、菱田春草「落葉」など。左記の代表作を含む約10点。
第3章「明治の洋画」:浅井忠、黒田清輝、藤島武二ら。8点。
第4章「中村彝とその周辺」:水戸生まれの画家、中村彝の作品(8点)他。
第5章「西洋美術」:クールベ、モネ、シスレー、ドーミエなど約10点。
第6章「小川芋銭」:茨城県牛久の画家、「河童の芋銭」こと小川芋銭の墨画、淡彩を展示。10点。
第7章「大正から昭和戦前期の洋画」:萬、梅原、安井、岸田、須田、里見、岡など。約25点。
第8章「近代の日本画」:竹内栖鳳、小林古径、奥村土牛、速水御舟など約15点。
第9章「板谷波山と茨城の工芸」:県陶芸美術館蔵の波山作品など。約5点。
第10章「永瀬義郎と創作版画」:桜川市出身の版画家、長瀬とその周辺。恩地、浜口など。13点。
第11章「戦後美術の展開」:具象、抽象、立体を問わず、戦後の日本美術を辿る。約45点。



まず圧巻なのは誰もが知る水戸出身の巨匠、横山大観の二点の大作、「春曙・秋夜」(1905)と「朝霧」(1934)です。前者では、冷ややかな空気感と凛と佇む松林などがお馴染みの朦朧体によって描かれ、後者ではあたかも「生々流転」を見るかのような川辺の光景が、白桜や松林も細やかなタッチにて見事に表現されています。また、その二点の大観にも引けを取らない存在感を示しているのが、菱田春草の「落葉」(1909)です。こちらも春草の代表作として挙げられる充実した作品ですが、視点を低く捉えた、どこか図像的にも感じる木立の光景が、一枚一枚に異なった色遣いで示された落葉などとともに静かに表されています。また全体を包み込む淡い色彩感、例えばその場の霧などを感じる霞んだ気配も絶品です。前景にすくっと立ち上がる松の枝もまた美しいものでした。

 

先にも触れた通りこの展覧会では、茨城と縁の深い作家の展示が充実していますが、とりわけ第4章の中村彝(水戸出身。敷地内にアトリエの復元展示あり。)と、第6章の牛久の画家、小川芋銭は見応えがあります。中でも一推しなのは、牛久沼のほとりで農耕に勤しみながら絵を描き続けた「半農半画」の画家、小川芋銭(1868-1938)です。彼は終生、沼辺の生き物や魑魅魍魎の世界を描き続け、また河童のモチーフが多かったことから別名「河童の芋銭」と呼ばれていたそうですが、その素朴な表現の生む幻想の世界には強く惹かれるものを感じます。「狐隊行」(1930)や「水魅戯」(1923)における、精霊や妖怪たちのほのぼのとした様子と言ったらたまりません。「狐隊行」では、余白を利用した沼を望む墨と朱の点描の巧みな湖畔にて、松明をもった狐が列を作って駆け巡っています。たとえ絵の中とは言え、このような水魅山妖を見た芋銭にはきっと自然への素直な愛情を持っていたに相違ありません。



西洋絵画の名品では、国立新美術館でのモネ展にも出品のあったモネの「ポール=ドモワの洞窟」(1886)やシスレーの「葦の川辺」(1890)が魅力的です。モネでは、サーモンピンクに輝く岩場がエメラルドグリーンの海と鮮やかな対比を描き、シスレーでは燦々と降り注ぐ陽光の眩しい田園の風景が、力みのない軽妙なタッチにて健康的に描かれています。また、西洋より日本に目を転じると、生い茂る椿が森のように深い緑に覆われている須田国太郎の「椿」(1940)、瑞々しい木立に卓越した水墨の技を見る竹内栖鳳の「水郷」(1941)、または暗鬱な空の下で林が刺々しく立ち並ぶ速水御舟の「寒林」(1925)などにも見入るものがありました。ここで御舟を見られるとは嬉しいサプライズです。

展示品の約2割強を占める最終章「戦後美術」は、数の割に印象に残るものが多くありませんでしたが、それでも茨城の画家、例えば筑西市出身の柳田昭による、寂れた用水路の光と水の質感を高い写実力で描ききった「水温む頃」(1996)や、デュビュッフェを思わせるタッチにて能の舞いを披露する人物をエキゾチックに示した下館出身の画家、森田茂の「黒川能 春の舞」(1990)などは興味深いものを感じました。また片岡、舟越、堂本ら、他の美術館でも目にする機会の多い作家もいくつか紹介されています。



コレクションは時にその美術館の質をストレートに表しますが、開館20周年という記念年を飾るのにも相応しいラインナップであったと思います。小川芋銭という画家に出会えただけでも行った価値は大いにありました。

  

水戸駅南口より桜川沿いを千波湖方面へ歩くのも悪くありませんでしたが、約15~20分程度かかるので、バス、タクシーの方が確実かもしれません。

5月25日まで開催されています。

*関連エントリ
笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4
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