「長澤英俊展 - オーロラの向かう所」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館さいたま市浦和区常盤9-30-1
「長澤英俊展 - オーロラの向かう所」
7/18-9/23



1940年に旧満州で生まれ、現在はイタリアに拠点を置いて活躍する彫刻家、長澤英俊の業績を紹介します。埼玉県立近代美術館で開催中の「長澤英俊展 - オーロラの向かう所」へ行ってきました。

感想に入る前に本展の概要を抜き出しておきます。

・会場は埼玉県立近代美術館と川越市立美術館の二つ。(各半券で二会場目の観覧料が200円引。)また長澤の育った埼玉県川島町の遠山記念館でも「長澤英俊展 - 夢うつつの庭-」を同時開催。
・作品数は埼玉県美15点、また川越市美5点、遠山記念館10点。
・主会場の埼玉県美では主に1970年以降に展開された彫刻を展観する。

まずはじめに触れておきたいのは、今回紹介される長澤の彫刻の何れもが非常に巨大であるということです。実際、彼の作品は屋外で展示される機会が多いそうですが、そうした面から鑑みても、埼玉県美という箱が、作品に見合うだけのスペースを提供していたのかということは甚だ疑問であると言わざるを得ませんでした。同美術館は絵画などを見るには申し分ありませんが、率直なところ、何故にこの箱の中でという印象は最後まで拭えません。もし屋内で彼の作品を味わうのであれば、最低でも木場のMOTの天井高程度は必要ではないでしょうか。如何せん手狭過ぎました。

では会場云々についてはさておき、作品の感想を以下に挙げておきたいと思います。

「緑の影」(2000/鉄、真鍮、セラミック、水)
最初の展示室に置かれた巨大なオブジェ。4本の鋼材が横に斜めに交錯して四方に延びる。横向きの鋼材は他に支えられて宙に浮いていた。床面と鋼材同士の連結する箇所には皿が置かれ、中には水が入っている。水を導入することで、鉄の逞しい質感に、どこか瞑想的な世界を呼び込んだ。語弊はあるかもしれないが、もの派的な雰囲気を感じる。

「ゼロ空間」(1992/石、蜜蝋)
蜜蝋を塗り固めた細い部屋に置かれた何点かの石。まるで京都の長屋にでもあるような庭園の趣きがあった。

「ゼノビア」(1994/ブロンズ、シルク、蜜蝋)
4本の支柱からなる箱状のオブジェにシルクの幕が垂れる。中には蜜蝋の塊が置かれていた。空調の風によってシルクが揺れる様が美しいが、やはりこれは外の風に当ててみたかった。

「縦の目」(2007/木、鉄)
5本の木材を弓のように連結させた作品。危ういバランス感によって起立しながらも、そのしなる木材には激しい力が漲っている。展示室奥から窓の外を伺って狙い打つような姿勢が印象に残った。

「空の井戸」(2003/木、鉛、鉄、ワイヤー)
鉛のシートが天蓋の如く宙に釣り下がる。その質感は素材に反して非常に軽やか。本来はもっと高い場所に掲げるべき作品とのこと。その点でも天井高などの制約の多い本会場は残念。



「意識の構造」(2007/木、鉄、大理石)
何本かの木材がねじれるようにして組み合わさっている。中央の空洞には大理石がまるでご神体のように鎮座していた。



「イリデ」(1993/大理石、鉄、真鍮)
フリーエリアの地階センターコートに展示。大理石を支点に鉄の板が上方へと起立する。上部に下がる真鍮パイプはまるで虹のよう。吹き抜けスペースの力も借りたせいか殆ど唯一、作品と美術館のスケールとがマッチしていた。

やや難解なタイトルなどの意味は、会場配布の展示ガイドなどで丁寧に説明されていました。いつもながら簡単なワークシートなど、展示に少しでも親しみを覚えるような埼玉県美の工夫は好感が持てます。



図録などで写真を見る限りにおいては、やはり借景に優れた遠山記念館の展示が一番魅力的なように思われました。なお今回の共催展に限り、日時限定にて、普段はアクセスに難のある同記念館への無料バスが、川越市美、及び川越駅から運行されています。(時刻表は遠山記念館HPを参照。9/20以降はこちら。)そちらを利用するのも手かもしれません。

既に遠山記念館で展示があったようですが、図録などに掲載されていたデッサンの紹介などもあって良かったような気がしました。



今月23日までの開催です。また本展は以下のスケジュールにて巡回します。

「長澤英俊展 - オーロラの向かう所」
国立国際美術館(大阪):2009.10.10~2009.12.13
神奈川県立近代美術館葉山館(神奈川):2010.1.9~2010.3.22
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