「フランスの浮世絵師 アンリ・リヴィエール展」 神奈川県立近代美術館葉山館

神奈川県立近代美術館葉山館神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
「オルセー美術館・フランス国立図書館所蔵 フランスの浮世絵師 アンリ・リヴィエール展」
9/5-10/12



19世紀末のジャポニスムに影響を受け、木版やリトグラフにて主に自然を描いたフランスの『浮世絵師』、アンリ・リヴィエール(1864-1951)の画業を回顧します。神奈川県立近代美術館葉山館で開催中の「アンリ・リヴィエール展」へ行ってきました。

まずは本展の概要です。

・2006年、リヴィエールの遺産を管理していた人物により、コレクションがまとめてフランス政府に物納された。その際、日仏で所蔵品を共同研究。今回はその成果を披露する展覧会である。
・エッチング、木版画、リトグラフ、水彩画、写真他、170点余りの作品を展示する。その殆どは日本初公開。
・リヴィエールだけでなく、彼に影響を与えた日本の浮世絵師、広重や北斎の作品も一部合わせて紹介する。(リヴィエール自身の所有していた浮世絵コレクションなど。)
・作風に共通点があるとされる同時代、もしくはそれ以降の日本の版画家も紹介。吉田博や川瀬巴水など数点。

それでは各章毎に印象に残った作品を挙げていきます。(なお会場のスペースの都合上、実際の順路は1→2→4→3→5部でした。)

第一部「カフェ『シャ・ノワール』初期作品と影絵劇」
1881年、パリ・モンマルトルのカフェ、「シャ・ノワール」発行の週刊新聞編集者となったリヴィエール。多くの芸術家が集ったカフェで次第に挿絵画家としての頭角を表していく。また「シャ・ノワール」で上演された影絵劇の舞台監督も務めた。

「ギロチン」
断頭台の下で無惨にも転がる頭部を描く。モノクロームの中の暗鬱な表現は、後のリヴィエールの風景版画には見られない世界だ。

「傘下の埋葬」
雨中の葬列を表した一枚。縦方向にて傘をさして連なる行列の構図は、早くも浮世絵の独特な遠近法を思わせるものがある。雨を示す直線の描法もまた浮世絵的。



「星の歩み」
影絵劇をまとめたリトグラフ集。大きな満月を背景に、星屑の散る海の夜を幻想的に描く。船が斜めに連なり、まさに影絵のように月の前で両手を掲げる人物の様子は、あたかも象徴派絵画のようだ。なお本展では影絵劇を約10分超の映像でも紹介している。
 
第二部「ブルターニュ 自然の風景」
ジャポニスム影響下のもと、熱心に浮世絵を研究したリヴィエール。多色摺り木版、もしくはリトグラフにて、自らの愛したブリュターニュの景色を描く。また彼は時間や天候によって変化する風景の差異にも関心を持った。波や海を半ば定点観測風に表していく。

「海、波の研究」
エメラルドグリーンにそまる岸壁越しの海を表す。滲み出るような色味が素晴らしい。

「ブリュターニュ風景」
風光明媚なブリュターニュの景色を多様に示した版画群。広がる景色に巴水版画的な旅情を感じた。また一部、構図上の相似点として、北斎の作品なども合わせて展示してある。



「時の魔術-最後の陽光」
縦長の構図に表すブリュターニュの森。上部の葉には夕陽が煌めく。ボナールの絵画を思い出した。



「時の魔術-落日」
ブリュターニュの海辺の夕景を描く。ともに繊細なグラデーションによって示された水色の海と朱色の空のコントラストが美しい。



「自然の様相-海の夜」
ちらし表紙にも使われた作品。画像ではまるで昼のようだが、既に藍色を帯び始めた夜の海の下、月明かりを背にした帆船が悠然と進んでいく。透明感にも溢れた海の水の質感はもとより、月の光の滲むマストの陰影なども非常に細やかに表されていた。

第三部「世紀末パリ」
近代化する19世紀末のパリの風景、特にエッフェル塔の建築される様子を版画で記録する。



「エッフェル塔三十六景-トロカデロからの眺め」
「富嶽三十六景」に倣って、エッフェル塔を様々な視点から捉えた連作集。まだ組み上がったばかりのエッフェル塔の雪景色が物悲しい。

「エッフェル塔の工事現場」
リヴィエールの写真家としての側面を垣間みる一枚。自らカメラをもってエッフェル塔の建築現場を撮影した。塔にのぼって作業するペンキ工の姿などを、自身の写真と同じ構図の版画で示している。

四部と五部については、リヴィエールの作品というよりもその周辺、また影響を俯瞰するセクションです。よってここでは概略のみを挙げておきます。

第四部「リヴィエールと日本」
リヴィエール自身が所有していたという約800点の浮世絵コレクションより、春信や広重作の数点を展観する。彼が抱一編の「光琳百図」までを所有していたことには驚かされた。

第五部「近代日本絵画とリヴィエール」
リヴィエールと日本との関係の紹介。画家本人は来日したことがなかったが、富本憲吉が彼の版画をロンドンで見て、その影響下のもとに木版の制作をはじめたことがあった。吉田博の海を描いた一連の木版シリーズが特に美しい。またイギリスへ渡り、当地を木版で示した漆原木虫の「ストーンヘンジ」なども興味深かった。

実際、影響を受けた技法、それに構図の他、リヴィエールと日本の浮世絵との関係は非常に深いのは言うまでもありませんが、その反面のまるでモネの行為を連想させる風景の定点観測をはじめ、象徴派風の夢幻的な海景版画など、必ずしも日本一辺倒ではない、半ば西洋と日本の折衷的な表現にこそ稀な魅力があるように思えました。

なお出品リストはありません。県立美クラスの展覧会なら尚更のこと、せめてWEBにでも公開していただけないものでしょうか。また葉書も少なく、その辺は残念でした。



リヴィエールが数多く描いた海の風景は、美術館脇に広がる海の景色と連動します。実のところ、私はここの箱自体をそれほど好きではありませんが、まさにこの場所ならではの展覧会だと感じました。



本展の関東巡回はこの葉山のみです。版画ファンの方は是非ともおすすめします。

10月12日までの開催です。
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