「夢と追憶の江戸 - 高橋誠一郎浮世絵コレクション名品展」(前期展示) 三井記念美術館

三井記念美術館中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「慶應義塾創立150年記念 夢と追憶の江戸 - 高橋誠一郎浮世絵コレクション名品展」(前期展示)
9/19-10/12(中期:10/14-11/1 後期:11/3-11/23)



塾長代理をつとめるなど慶応義塾との縁も深く、また日本の浮世絵研究の礎を築いた高橋誠一郎(1884-1982)の浮世絵コレクションを概観します。三井記念美術館で開催中の「慶應義塾創立150年記念 夢と追憶の江戸 - 高橋誠一郎浮世絵コレクション名品展」へ行ってきました。

まずは本展の概要です。

・福沢諭吉の門下生で、慶応塾長代理の他、東博館長、また日本浮世絵協会会長を務めた高橋誠一郎の浮世絵コレクションのうち、約300点を展観する。公開は16年ぶり。
・展示は総入れ替えの三期制。前、中、後期で全て作品が入れ替わる。(各100点ずつ)
・構成はオーソドックスな時系列での作品紹介。奥村政信、鈴木春信から歌麿、北斎、広重を経由して、芳年や清方までを総覧する。

ともかく今回の展示で見るべきは、その摺りの良質な保存状態に他なりません。とりわけ冒頭、通常であれば茶碗を展示する第1室に並んだ、例えば師宣や春信、歌麿らの発色は、それこそしばらく前に松濤で開催された「伝説」の浮世絵展、ミネアポリス所蔵の「Great Ukiyoe Masters」に匹敵するのではないでしょうか。よくぞ国内のコレクションでこれほど良い物が残っていたと感心することしきりでした。

それでは前期展示品より印象に残った作をいくつか挙げてみます。



菱川師宣「衝立のかげ」
第一展示室冒頭に登場する。これぞ今回の高橋誠一郎コレクションの良質な摺りの状態を象徴するかのような作品ではなかろうか。あたかも今、水彩を施したかのような瑞々しい色味にて、男女の愛の交歓(キャプションより。)を表す。衝立ての黄、畳の芝色はもちろん、衣装の文様の桃色までが見事な発色で示されていた。いわゆる春画集の巻頭を飾った一図であるらしい。



鈴木春信「風俗四季歌仙 水辺梅」
闇夜の下、梅の木に登って枝を折る少年と、それを見やる少女の姿が描かれている。二人の関係は如何なるものであるのだろうか。背景の漆黒に映えた深緑色の衣装が眩い。

鳥居清長「色競艶婦姿 床入前」
高橋誠一郎コレクションのみに現存が確認されるという珍しい一枚。まだ八頭身を描く前の清長によって、遊女と女中が言葉を交わす様が描かれている。もちろん色味も上々。

喜多川歌麿「高名美人六家撰 難波屋おきた」
茶屋の看板娘を得意の大首絵の手法で表している。盆に入れた茶碗を両手で持ち、その上をなぞるように見つめる女性の表情が慎ましい。髪の部分の発色の鮮やかもまた美しかった。



東洲斎写楽「三世市川高麗蔵の志賀大七」
懐手で刀を持った「悪」(キャプションより。)の侍をお馴染みのポーズで描いている。それにしても驚かされるのは背景の雲母摺の状態の良さ。剥離が皆無であった。

葛飾北斎「富嶽三十六景 甲州三坂水面」
岩肌の露出した夏の富士の景色を湖越しに描く。湖面には逆さ富士が映り込んでいるが、よく見ると冬山になって雪化粧をしているのが面白い。夏と冬を一つの光景の中におさめこんだ。北斎らしい機知を感じさせる。

月岡芳年「日向の景清」
芳年の珍しい肉筆画が展示されていた。能の「景清」の物語の一場面を表す。大きな月を背景に、平家の残党で盲目でもあるという景清本人が琵琶を奏でていた。どことない哀愁が漂っている。

月岡芳年「松竹梅湯嶋掛額」
前期の芳年は計6点。(うち肉筆1点。)お馴染みの月百姿や血みどろ由来の奥州云々も良いが、江戸の大火を題材に、ドラマテックな表現で描く本作が一番印象に深い。激しい炎を背景に、大勢の火消しを下に従えるように配して、風になびいて梯子をのぼるお七の姿が描かれている。何でも恋の執念のために自ら火をつけたらしい。まさに決死の形相をしていた。

前述の通り、最初の第一室にいきなりハイライトがやって来ますが、だからと言ってその後の流れが著しく尻つぼみになるというわけでもありません。また各作品毎に詳細なキャプションがついていました。画題への理解も深まります。

なお残念ながら三期共通の通し券はありませんが、各有料半券を持っていると二回目以降は団体料金に、また土曜と日曜対象のナイトミュージアムでは通常の300円引きにて入場することが出来るそうです。

前期:9/19-10/12 中期:10/14-11/1 後期:11/3-11/23(各出品リスト

ちなみに今回出展の浮世絵コレクションについては、以下のリンク先に全点のサムネイル図像が掲載されています。ご参考までにご覧下さい。

高橋誠一郎浮世絵コレクションについて@慶應義塾図書館デジタルギャラリー(DG KUL)

意外にも館内は余裕がありました。前期は10月12日まで開催されています。(展覧会自体は11月23日まで。)
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