「トリノ・エジプト展」 東京都美術館

東京都美術館台東区上野公園8-36
「トリノ・エジプト展 - イタリアが愛した美の遺産 - 」
8/1-10/4



東京都美術館で開催中の「トリノ・エジプト展 - イタリアが愛した美の遺産 - 」へ行ってきました。

まずは本展の簡単な概要です。

・世界屈指エジプト・コレクションを誇る、イタリア・トリノのエジプト博物館の所蔵品を日本で初めて紹介。(同博物館の所蔵品は全3万5千点。)
・出品作数は約120点。小品の装飾アクセサリーから木棺、ミイラ、それに石碑や大型の彫像までを多様に展示。
・定評のある当地博物館の彫像ギャラリーの演出方法を再現。(米アカデミー賞受賞の美術監督による。)よって照明などにも要注目。

それでは展示の章立て順に印象深い作品を挙げます。

第1章「トリノ・エジプト博物館」
小品をメインにした展示。「トトメス3世のシリア遠征パピルス」の他、新王国時代のピンセットやパレットなど。

「トリノのエジプト・ギャラリー」(1881年)
いきなり登場するのは重厚な西洋絵画。何故にエジプト展で絵画がと思いきや、19世紀のトリノ・エジプトギャラリーの様子を描いた作品とのこと。立派な飾り棚に入って横たわるミイラが雰囲気を醸し出す。うまい導入だ。

「王の胸像の習作」(前4世紀)
石灰と漆喰によって出来た王の小さな胸像。彩色こそないものの、うっすらと微笑みを浮かべる様子は人間味がある。

第2章「彫像ギャラリー」
今回のハイライト。門外不出の「アメン神とツタンカーメン王の像」など。当地博物館の展示演出を再現した空間に、神秘的な大型石像群がガラスケースなしで浮かび上がる。

「ライオン頭のセクメト女神座像」(前1388~前1351年頃)
火を噴くともいう戦闘的な復讐の神、セクメト神の坐像。言うまでもなく頭部がライオンの形になっている。上には太陽の円板を掲げたお馴染みのポーズをとっていた。当時、この形の作が何百と作られていたとされるのが興味深い。



「アメン神とツタンカーメン王の像」(前1333~前1292年頃)
都美随一の吹き抜けスペースに鎮座する門外不出のツタンカーメン。思っていたほど大きくはなかったが、主神アメンに寄り添う少年王ツタンカーメンの姿は何やら微笑ましい。相似形の顔をしたその出立ちは、まるで両者が親子であるかのよう。アミン神の背中に小さく伸びたツタンカーメンの手が両者の絆を示していた。作品の状態も良く、石の輝きもまた美しい。

第3章「祈りの軌跡」
万物に「神」を感じたエジプトの信仰を紹介する。太陽神ラーの他、神である動物をモチーフとした小像など。

「青銅製の猫の小像」(前664~前332年)
小さな猫が両足を揃えて座り込んでいる。元々エジプトでは獰猛なライオンを像にすることが多かったが、時代が下るに連れて多産を意味する猫の像が多く生産されたらしい。



「ハヤブサ、トキ、ジャッカルの小像」(前2~前1世紀)
何れも木で出来た小さな動物の彫像。彩色の状態も比較的良好。このような小動物にまで「神」を見た古代エジプトの人々の思いは如何なるものだったのか。万の神は何も日本のものだけではない。

「王を守護するイシス女神の像」(前664~前332年)
透かし彫り風の羽を付けたイシスが小さな王を守るようかのような仕草をして立っている。凹凸もある羽の造形はかなり精巧だった。

第4章「死者の旅立ち」
ミイラをおさめた人型棺各種。ミイラを作る際に用いられた容器(カノポス容器)。



「タバクエンコンスの人型棺」 (前990~前970年頃)
驚くほど文様が鮮明に残っている木製の棺。朱色がかった彩色も美しい。

「神殿の庭師メンチュイルデスの人型の内棺」(前850~前750年頃)
正面より作品の裏へ回り込み、蓋の内側を見て大いに驚かされる。当時の発色もそのままに、天空の神ヌウトが見事な描写で描かれている。

「プタハ・ソカル・オシリス神像」(前332~前30年)
一風変わった小さな神像。ダチョウの羽と牡羊の角を持ち、顔を金で塗った神が、何やらにやりと笑うかのような仕草で佇んでいる。他の神像と比べるとかなり不気味だ

第5章「再生への扉」
「子供のミイラ」。再生を願って副葬された護符など。

「木製の女性像」(前1550~前1070年頃)
飾りの全くないシンプルな女性像。左足を前にして、細身のシャープなシルエットを際立たせるポーズをとる。王家の人間ではない者の像であるらしい。エジプトというと権力者、支配階級の像のイメージが強いので、こうした普通の人間のそれもあるとは意外だった。



「ロータス文様のファイアンス製容器」(前1550~前1070年頃)
白を基調とした石の像が目立つなかで、また一際異なった青色の輝きを放った小鉢。エジプトでは宇宙が現れる太古の淵を意味しているらしい。

実際のところ、自分にとってエジプトは時間も場所も非常に遠く、これまでもエジプト云々の展示は殆ど見たことがありませんが、大型の彫像やミイラはもとより、キャプションでも説明されていた小ぶりのエジプトの神像など、なかなか目を惹くものの多い展覧会で楽しめました。また上でも触れたように、スペースに制約の多い都美にしては、館内の展示演出が大変に優れています。暗室にスポットライトで浮かび上がる彫像の他、壁面にガラスを用いてそのイメージを広げるなどして、手狭な箱の存在を意識させず、作品へ集中出来るような環境が用意されていました。

「芸術新潮2009年09月号/新潮社」

久々の人気の都美の大型展です。会期末ということで混雑も激しくなっています。(先だってのシルバーウィークでは最大1時間待ちの行列が発生したそうです。)これからの方は時間に余裕をもっての観覧をおすすめします。(待ち時間情報)なお残すところあと一回のみ(10/2)ですが、金曜夜間(20時まで)は比較的余裕があるそうです。

10月4日までの開催です。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )