「一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 」 板橋区立美術館

板橋区立美術館板橋区赤塚5-34-27
「御赦免300年記念 一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 」
前期:9/5-9/23 後期:9/25-10/12



江戸元禄期を代表する画家、英一蝶の画業を回顧します。板橋区立美術館で開催中の「一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 」へ行ってきました。

まずは本展の概要です。

・幕府によって三宅島へ流罪となった英一蝶の、「御赦免」(将軍代替による大赦)の300年を記念しての展覧会。
・英一蝶単独の企画展としては、1984年の同館で開催された展示以来のことである。(だからこそ「リターンズ」。)
・新出の作品を含む、全50点にて、一蝶の画業を初期から晩年まで網羅している。
・入口より向かって左の第1室に、三宅島配流前、及び配流中に描かれた作品を、また右の第2室に大赦後の作品を展示している。
・ごく一部の作品に展示替えあり。(後期は9/25から。出品リスト。)

江戸時代の絵師の中でも、一蝶ほどその境遇に興味深いものはいないかもしれません。当初は狩野派に学びつつも、すぐさま又兵衛や師宣らの風俗画に開眼。芭蕉らと親交を結びながら流行作家として活躍するも、あらぬ罪にて三宅島へ配流され、12年間の流罪生活をひたすら絵を描いて過ごし、大赦後も江戸にて画業生活を続けた一蝶は、まさに時代に翻弄されつつも、絵を描き続けた逞しい文化人とでも言えるのではないでしょうか。なお遅れましたが、会期初日に、千葉市美術館長の小林忠氏の講演会を拝聴してきました。そちらでも一蝶の業績、また人となりに関する詳細な話がありましたので、何とか会期末までにはまとめて記事にするつもりです。

それでは以下、私の見た前期展示の中からいくつか印象深い作品を挙げておきます。

「立美人図」(千葉市美術館)
一蝶が影響を受けたという師宣風の立ち美人図。艶やかな秋草の示された上着を少したくし上げて見やる様が颯爽としていて凛々しい。

「鉢廻図」
一蝶ならではの愉悦感に満ちた一枚。片足で立ち、口の先には杯をのせてくるくると廻す大道芸人の姿が描かれている。ここで注目すべきはそれを見やる子どもの何ともはしゃいだ様。手を高くあげ、指を指して大喜びして楽しんでいる。これほど子どもの姿を生き生きと捉えた絵師は他にいるのだろうか。



「投扇図」(板橋区立美術館)
鳥居の隙間をめがけて扇子を投げ入れる男たちの様子が描かれている。元々は運試しでこのような遊びの風習があったそうだが、殆ど酔っぱらっているかのように騒いで投げ込む彼らの姿は、まさに屈託のない庶民の日常を捉えているようで興味深い。

「六歌仙図屏風」(板橋区立美術館)
六曲一双の大画面に六人の歌仙をのびやかに配した作品。何故これほどの空間が必要なのかと思うほどに広々とした野山の景色が描かれている。連なる山やあぜ道など、絵具の濃淡で仄かに示した風景描写もまた見事だった。ちなみにこの作品は板橋区美の新収蔵品でもある。



「布晒舞図」(遠山記念館)
ちらし表紙にも登場する遠山記念館蔵の重要文化財。長い晒し布を器用に操って踊る舞人の姿が描かれている。それにしてもこの軽やかなステップを踏む動的な表現こそ一蝶の真髄ではないだろうか。伴奏をとる者たちの快活な様子もまた楽しい。賑わいが伝わってくる。

「虚空蔵菩薩像」
一蝶は配流時代、生活のために庶民のニーズがあった仏画を数多く描いた。本作も新島の地に残っていたという菩薩像。限りある絵具を用い、細やかな彩色を施す一蝶の胸の内には如何なるものがあったのだろうか。

「吉原風俗図巻」(サントリー美術館/前期)
三宅島時代、江戸の注文主の要請に応じて、一蝶がその賑わいを想像して描いた吉原の風俗図巻。吉原へ乗り付ける人物の姿から、楼閣の内部で宴に興じる者までが見事な描写力で示される。彼の地を半ば憧れて描いたのかもしれない。いつも以上に筆がのっているように思えた。

「田園風俗図屏風」(サントリー美術館/前期)
淡彩で描かれた何らの変哲もない農村の景色が雄大に示される。やはりここで興味深いのは、驟雨に襲われて一つの屋根の下に大勢の人が集う雨宿りの描写。本展では東博所蔵の「雨宿り図屏風」も後期に出品されるが、一蝶はよほどこの光景が好きだったに違いない。

「富士山図」(山梨県立博物館)
富士山図とありながら、山よりもその手前の渡し場に集う人々が主役になっている作品。雄大な景色の中でも人の営みに目を向ける一蝶ならではの視点を感じる。



「阿弥陀来迎図」
本展で一番衝撃的な作品。二十五にも及ぶ菩薩が濃密な極彩色で描かれている。一蝶と知らなければ、明治以降の近代日本画かと見間違うほどにエキゾチック。思わず牧島如鳩の作品を連想してしまった。これは必見。

その苦難に満ちた生き様とは裏腹に、快活極まりない人物描写に独特の諧謔味の加わった、見て思わず笑みがこぼれてしまうほどに愉しいのが一蝶画の特徴です。ちなみに図録の装丁はシンプルながらも洒落ていました。即決で購入です。(巻き替えで展示されていない部分も全て図版が掲載されています。)

ところで今週末以降も、恒例の講演会が二回続きます。何れも豪華講師陣による無料とは思えない充実のプログラムです。興味のある方は参加されては如何でしょうか。(なお会場が手狭なため、間際になると座れない場合があります。例えば開始30分前など、ある程度余裕を持って行かれた方が賢明です。)

記念講演会(会場:板橋区立美術館講義室、定員:先着100名、聴講無料・申込不要、時間:何れも午後3時より1時間半。)

10/03(土)「一蝶って浮世絵師なの?」小澤弘(江戸東京博物館都市歴史研究室長)
10/10(土)「英一蝶研究のあれこれ」 河合正朝(慶應義塾大学名誉教授)

展示替え作品は僅かですが、早速、後期展示が先日より始まりました。お見逃しなきようご注意下さい。

また美術の窓の9月号は完全に本展に準拠しています。こちらもおすすめです。

「美術の窓2009年9月号/生活の友社」

アクセスの難など問題になりません。全ての江戸絵画ファン必見の展覧会です。10月12日まで開催されています。
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )