「細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション」 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
「細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション」
4/20-6/6



日本有数の文化財コレクションを持つ永青文庫の名品を総覧します。東京国立博物館で開催中の「細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション」へ行ってきました。

実は殆ど下調べをせず、失礼ながらもあまり期待をしないで出かけてしまいましたが、実際に接するとまさかこれほど見どころの多い展覧会だとは思いませんでした。信長の書状から武蔵に長次郎、また大観に春草や中国古代の鏡、そしてガンダーラ仏から何とセザンヌと、古今東西、それこそバラエティーに富んだ作品が東博平成館にずらりと勢揃いしています。まさに壮観の一言でした。

展示では前半部に戦国以来の近世細川家の同時代の甲冑や能、茶の優品、また後半には細川家15代当主の護立が収集した白隠画、それに近世絵画の他、古代中国の美術品が並ぶ構成となっています。それでは以下、印象に残った作品をいくつか挙げてみました。



「鵜図」宮本武蔵(江戸時代)*~5/9
武蔵筆と署名の入った唯一の作品。墨の陰影も巧みなストロークで木にとまる鵜を描く。その気丈な表情が面白い。

「東海道勝景図巻」谷文晁(江戸時代)*通期、途中巻替あり。
江戸時代に多く描かれたという名所の景観図巻の一つ。尾張徳川家12代当主、斉荘の命を受けて東海道の景色を描いた。写実性も高さも見どころの一つ。

「松竹梅図釜」伝芦屋(室町時代)*~5/9
細川家所有の釜では最も古いものとされている。どっしりとした釜の表面には梅があしらわれていた。

「油滴天目」(金時代)*通期
細やかな銀色の斑紋が光る天目の名品。これだけ斑紋がはっきり浮き出ているのも珍しい。

「富士三保清見寺図」伝雪舟(室町時代)*~5/9
画面奥に高らかにそびえる富士を見据えながら、前景にのびる三保松原を描く。山間に建つ清見寺の描写は細かく、右へ広がる海とのコントラストも絶妙だった。ちなみに本作は近年、修復がなされたとのこと。その様子が永青文庫WEBサイトに掲載されている。*伝雪舟筆「富士三保清見寺図」の修復が完成しました。



「乞食大燈像」白隠(江戸時代)*通期
今回のハイライトの一つは白隠画。計20点近く出ていたが、中でも印象に深いのがこの「乞食大燈像」。大徳寺の開創である妙超が乞食の群れに混じって修行をしたという逸話から、その様子を戯画的に描いている。まるで化け物のような姿に驚いた。



「黒き猫」菱田春草(明治43年)*~5/16
お馴染みの春草の代表作として名高い「黒き猫」が前期期間中に出品されていた。実物を見たのは今回が初めてだが、図版で知っていたイメージとは全く違って驚いた。実物の猫の毛羽立ち、もしくはその立体感はまさに絶妙。一転しての平面的な柏の葉との対比も抜群だった。また金彩の施された柏の葉は予想以上に雅やか。一見、地味だが、巧みな筆さばきには終始感心させられた。



「髪」小林古径(昭和6年)*~5/9
こちらも図版ではその質感を味わえない古径の代表作。しっとりと濡れた黒髪の線描の艶やかさと言ったらたまらない。



「支那の踊り」久米民十郎(大正9年)*通期
本展で一番衝撃的だった問題作。昨年、約90年ぶりに永青文庫で発見されたというエピソードでも知られる傑作、「支那の踊り」が展示されている。長い爪と細長い指を立て、あたかも魔物のように体をくねらせて踊るこの人物の奇怪極まりない描写には心底驚かされた。久米は関東大震災のため30歳の若さで亡くなったせいか、現存する作品が多くないとのことだが、是非他の作品も見てみたい。しかしまさか今回の展示で日本の知られざる洋画家に釘付けになるとは思わなかった。



「金彩鳥獣雲紋銅盤」(前漢時代)*通期
ちらし表紙にも大きく取り上げられた今回の目玉の一つ。騎馬や動物文、鳳凰などが金銀の象嵌によって精緻に描かれている。その細かな線は肉眼では分からないほど。通称「細川ミラー」と呼ばれ、海外でも評価の高い作品とのことだが、効果的な照明から浮かび上がる鏡の姿は息をのむほどに美しさかった。

伝来の品々が並ぶことで、細川家とともに、それに関連する歴史を追っているような感覚を与えられるのも興味深いポイントです。非業の死を遂げた細川ガラシャの生き様をはじめ、信長が直接、細川藤孝におくった書状、また細川の客分でもあった武蔵、さらには三斎が長次郎に焼かせたという器など、作品にまつわるエピソードも満載でした。

また会場で一つ感心したのは名刀ともに出品されていた鐔の展示方法です。ケースに置いて見せる方法が一般的かと思いますが、今回はアクリルかガラス板に挟んで、その両側を鑑賞出来るように工夫されています。効果的な照明をはじめ、鐔がこれほど魅力的に思えたのは初めてでした。

それにしてもこれだけの名品が、あの手狭な永青文庫のどこに収蔵されているのでしょうか。一部、熊本の公立美術館にも寄託収蔵されているそうですが、まさかこれほどのお宝がかの地に眠っているとは思いもよりませんでした。

なお会期中には、特に近代絵画を中心に展示替えが予定されています。(出品リスト)5月後半以降では春草の「落葉」の他、古径の「鶴と七面鳥」なども見どころになるのではないでしょうか。また館内は空いているというわけではありませんでしたが、東博特別展にしては余裕がありました。

6月6日まで開催されています。また本展は東京展終了後、京都(10/8~11/23)と九州(2011/1/1~3/4)の国立博物館に巡回する予定です。
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