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小倉宗さん(アトリエ笑)と長谷川良夫さん(アベイユ)の偶然!~アートインナガハマ~

2024-10-06 17:39:39 | アート・ライブ・読書
 「アートインナガハマ」は湖北・長浜市の市街地に全国から芸術家や作家が集まり、持ち寄った作品を展示販売される年に一度のイベントです。
AIN(アートインナガハマ)は今年で38回を迎え、すっかり長浜の地に根付いた芸術の秋の始まりを告げるイベントになっています。

当方が最初にAINを訪れたのは、当時習っていた陶芸の先生の作品を見にいったのが始まりで、その頃は圧倒的に陶芸作家の出展が多かったように記憶します。
2007年に小倉宗さんというアクリル画家を知ってからは、毎年お会いして作品を見たり買ったりするのがAINの楽しみのひとつになっています。



まだイベント開始前で準備中の小倉さんのブースに押し掛けたのですが、それには理由があります。
「まどろみ」という作品がもし出店されていたら押さえてしまいたかったからでした。

最初に小倉さんの作品や個展の情報をUPされているnorikoさんのインスタで「まどろみ」を見ていい作品だなぁと魅かれる。
「まどろみ」は大阪は高槻市の「ギャラリーからころ」で開催された小倉さんの個展で実物を見て増々気に入り、AINで再会できるのを熱望していました。
小倉さんのブースに「まどろみ」があるのを見つけて、速攻で購入を申し出て待望の入手となった次第です。



とてもゆったりとした時間を過ごす女性と猫は、小さな子供と母親が和やかで優しい時間を過ごしているように見え、その絵からは愛情が溢れているように感じます。
小倉さんの絵画には幾つかのシリーズがありますが、こういう穏やかで優しい作品もよく描かれるテーマのひとつかと思います。



今年はもう1枚購入しており、「くるりん」という絵を購入しました。
これは新居祝いのプレゼント用に買ったのですが、初日の午後の段階でかなりの絵が売れていて、再訪した時は残り数枚となっていて人気の高さに感心します。



ブースにCDがあったので何か聞いてみると、小倉さんの1975年と1977年のライブの音源なんだそうです。
オリジナルで小倉さんが作詞作曲されていてボーカル&ギターを担当されています。
10代?の頃の若い声は随分と印象が異なりつつも、多才さが伝わってくる音源です。



街中を巡りながら何度か足を運んだのは「アベイユ」という障がいのあるアーティストのマネジメント・プロデュースを行う芸術家プロダクションです。
お話を伺うと、障がい者の支援施設ではなく、アーティストとしての社会進出をサポートしてプロの芸術家への道を支援しているプロダクションだそうです。

多様で個性に溢れる絵画を中心にTシャツやカバンや小物などのグッズも販売されており、8人のアーティストの作品が展示。
精密に描かれた絵やカラフルに塗り込まれた絵、力強くもほのぼのさを感じさせる絵など表現は多岐に渡り見応えがあります。



絵本も販売されており、長谷川良夫さんの「日だまりのアイロニー」を手に取ってみると、個性的な絵の面白さと添えられている短い文章に感じ入る。
言葉は思わず笑ってしまうものや、本のタイトルにあるようなアイロニーが込められた言葉もあり、その言葉の感覚から伝わってくるものは大きい。

ブースにおられた方が今日長谷川さんがAINに来られているということでしたので、ダメ元でもし戻られたらサインをもらえませんかとお願いしてみる。
不躾なお願いにも関わらずサインを頂くことができ、無理なお願いをして申し訳なかった気持ちと苦心しながら書いて頂いたサインに感動する気持ちが交差していました。



エ~そんなことあるの!?と驚いたのは、PE袋に入った長谷川さんの本をぶら下げて小倉さんのブースに行くと、以前に長谷川さんと小倉さんは二人展をしたのだと言われます。
同じ本を持っているよ!とのことでしたが、アベイユの数おられる作家の中から選んだ作品(本)を巡る偶然に驚くばかり。

AIN 2日目の話...
新居祝いに小倉さんの絵をプレゼントした処、小さな額に入った絵も一緒に並べたいと更に2枚追加で購入したとのこと。
禿ユミンの「きっとね」のミニ版でとても綺麗な作品です。



もう一点は浮酔絵師の小倉さんらしく「のんべえ」。
小倉さんの絵が我が家から別の家へと増殖し始めています。





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芥川賞受賞作『バリ山行』松永K三蔵を読む

2024-09-01 18:16:31 | アート・ライブ・読書
 山登りをされるほとんどの方は、その山の登山ルートから自分が登る(登りたい)登山道を選んで登るのが一般的な山行かと思います。
しかし、中にはバリエーション・ルートという地図に載ってもなく、登山道でもない道を登るスタイルを好まれる方がいるそうです。

小説の中心人物の波多は、前の会社で業務外の面倒な社内のお付き合いを断っていた結果、「総合判断」でリストラされた経験がトラウマとなっている。
波多には共働きの妻と幼い子供がいることから、会社の人とうまくやって会社員を続けて家計を守ることを気にしている。

もう一人の主要人物の妻鹿は、誰かと徒党を組むこともなく、自分の仕事をやるだけと周囲からは孤立している。
しかし、それは苦にもならず、儲けにならないような仕事まで引き受け、週末は毎週のようにバリ・ルートで山行している。



山行では整備された登山道を行くのが正しいコース、街(会社・家庭など)では人とうまくやってお付き合いしていくのが社会人としての正しい生き方とされる。
正しそうなルートから外れることの不安は誰もが感じているが、反面外れていないと思いつつも不安を感じているのが現代人ではないでしょうか?

多数の人が感じている不安感は、バリ山行によって緩衝されるのか?一時的な現実逃避なのか?
山の中で一人ぼっちになることは、時に怖いこともありますが、そこにはとても満たされる何かがあると素人低山トレッカーの当方も感じることがあります。

この小説には文章のあちこちに山好きのアイテムが折り込まれ、登山初心者が廉価品の服でスタートして、海外ブランドの服にアップグレードしていく描写には苦笑い。
登山アプリのハンドルネームがハタゴニアだったりタモンベルだったりするのもあるよなぁ~と和ませる。
また、会社の同僚の女性に谷口さんがいたり、明るい性格の後輩の栗城くんや服部課長や植村部長、妻鹿の同僚の花谷さんなどオヤ?と思わせる名前が出てきます。
花谷さんは、2013年に第21回ピオレドール賞を受賞された花谷泰広さんを連想させます。

日本人のピオドール賞では、これまで3度受賞された平出和也さん(2008年は谷口けいさんと受賞)と平出さんと一緒に2度受賞された中島健郎さんがおられます。
K2西壁を登攀中の滑落事故はとてもショッキングな事故で、危機にも冷静に判断される二人に起こった事故は大変残念なことでした。

最後に、芥川賞のような純文学小説の世界に登山小説はアリか?
その回答はこの小説が語ってくれます。


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最恐ホラー映画「サユリ」~根岸季衣にジャニスが降臨?~

2024-08-27 05:55:55 | アート・ライブ・読書
 暑い日が続いていますのでホラー映画でも見てゾッとしてやろうと思い、「サユリ」という映画を鑑賞しました。
映画館のあるモールのお店に注文した商品が届いていて取りに行く用事があり、せっかくなので映画でもと思い、面白そうな映画を探して見たのが「サユリ」でした。

「サユリ」は人気ホラー漫画を映画化したものですが、押切蓮介さんという漫画家さんは知らず、映画を撮られた白石晃士さんも知らない人と全く情報なしでの鑑賞となる。
夜に目が覚めて一人でトイレに行くのが怖くなるような映画かと思いきや、そう展開していくのか!と違った意味で楽しめる映画でした。

 

幸せ感いっぱいの家族が夢のマイホームを手に入れて引っ越してくるが、楽しい新生活とは裏腹に怪奇現象が次々と発生する。
大黒柱の父と母、長女・長男・次男の3人の子供に祖父と認知症の祖母だが、次々に命を落としていきますので仏壇には遺影が〇個も並ぶ。



この苦境に立ち向かったのは根岸季衣の演じる祖母で、認知症から突然覚醒して奪われた家族の復讐に立ち上がる。
覚醒した根岸季衣は、まるでジャニス・ジョップリンのような風体で力みなぎって霊サユリに立ち向かいます。
根岸季衣は覚醒後ずっとタバコを吸っていますが、タバコはジャニス愛飲のマルボロではないみたいですね。



最後の対決は奇想天外な展開となり、この後の現実世界はどうなるのだろう?とその後が気になりますが、しっかり話は落ち着く。
コミカルな展開やスラング、暴走していくスト-リー展開は、ミシェル・ヨーのエブエブ(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)が思い起こされる。



映画が終わった後にパンフレットを購入しようとすると、既に長蛇の列が出来ていて買うのに随分と手間取りました。
上映中の館内も当方が見に行くような観客がガラガラの映画と比べると観客が多く、こういう映画に人気が高いのかなとも感じる。



中学生の長男の彼女役を演じた霊感のある少女役の近藤華も重要な役割を演じていて、恋の物語の序章にもなっています。
怖いのを思い出して夜ひとりでトイレに行けなくなるような映画ではなく、最後はどうなるんだろうとハラハラするエンタメ感たっぷりの映画でした。


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映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」~アポロ11号の月面着陸はフェイクだったのか?~

2024-07-24 17:20:20 | アート・ライブ・読書
 世の中には陰謀論やフェイクの話が多く流れており、近年ではコロナの発生原因やワクチンにICチップが入っているなどの陰謀論が渦巻いていました。
直近では某大統領候補が銃撃されたのはヤラセだったといっている人もいる反面、公式に公開されている情報が一概に正しいと言えないのも事実ではないでしょうか。

人類は宇宙人とのファーストコンタクトは済ませており、地球上のあちこちで宇宙人が暮らしている説などは夢があります。
しかし、本当に重要な機密情報や争乱の元になる情報は決して公開されることはないでしょう。
そんな中、昔からアポロ11号の月面着陸は捏造ではないのか?ハリウッドで撮影した映像ではないか?といったムーンホークス(インチキ)説があるようです。



公開されたばかりの映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」ではそんな陰謀論を逆手に取って奇想天外なエンターテイメントに仕上げています。
時は1969年、アメリカは宇宙開発でソ連(現ロシア)に後れを取り、ベトナム戦争は泥沼化、是が非でもアポロ計画を成功させなければいけない時期です。

政府は、PRマーケティングのプロであるケリー(スカーレット・I・ヨハンソン)を雇い、スポンサーを集めメディアを巻き込んだイメージ戦略を展開します。
そのために、月面着陸に関わるスタッフにそっくりな役者を雇って演技させたり、予算を確保するために議員の懐柔などをしていきます。
最後はアポロ計画を失敗できないニクソン大統領の側近から“月面着陸のフェイク映像を撮影する”との極秘ミッションを受けるという難題に臨みます。



映画の内容は見てのお楽しみになりますが、この映画は予告動画を見た時に是非見に行きたいと思わせる仕掛けがありますね。

・予告動画にT.レックスのゲット・イット・オン のギターリフが流れて煽られる。
・NASAの発射責任者のコール(チャニング・テイタム)が着ている黄色いセーターが「宇宙大作戦(スター・トレック)」のジェームズ・T・カークを連想させる。
・同じく青いセーターはMrスポックを連想させ、トレッカーのハートをくすぐります。
・ジャズのスタンダード・ナンバー「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」は、クリント・イーストウッドの映画「スペース カウボーイ」エンディングでも流れる曲。
 (月に到達した宇宙服姿のトミー・リー・ジョーンズの後ろでフライ・ミー・トゥー・ザ・ムーンが流れ、アポロ11号の月面着陸の映像と思わず対比してしまう。)
・劇中のセリフで“キューブリック監督に任せればよかった。”とスタンリー・キューブリックの名を出して嘆くシーンが出てくる。
 (世界中に流れた当時の月面着陸の映像はキューブリックが撮ったという都市伝説がある)

映画を見る前にいろいろと思いを巡らせ、いい意味で想像を裏切られるのは楽しい事です。



アポロ11号の月面着陸は、陰謀論だの嘘だのフェイクだと散々言われながらも、映画ではNASAの全面的協力を得て撮られたそうです。
月面着陸を成し遂げるまで、政治的・経済的な問題と技術課題を克服しながらも、映画自体はラブ・ストリーになっているのがアメリカ映画らしい。

この日、観客は座席数102席に対して当方も含めて6人。
しかも隅の席にみなさん座られていましたので、ほぼ当方の貸し切り状態で映画鑑賞出来ました。
やはり映画は、映画館の大きな画面・大きな音響で見ると“映画を見た感”が高まって楽しい時間を過ごせますね。




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やまなみ工房『岡本俊雄』展~湖のスコーレ~

2024-07-15 19:17:17 | アート・ライブ・読書
 『アールブリュット』は本来は「正規の美術教育を受けていない人による芸術」の意ですが、日本では障がい者の表現手段として受け入れられています。
生の芸術と呼ばれるアールブリュットは、伝統や流行・教育などに左右されず自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した芸術ともされます。

長浜市の黒壁ストリートにある商業施設の“湖のスコーレ”では定期的に「やまなみ工房」の作家による美術展が開催されており、作品の販売もされています。
今回の美術展では岡元俊雄さんという墨汁と割り箸1本のみを使用して人物画を中心に描画される作家さんの作品展となります。



写真で紹介される岡元俊雄さんの描画スタイルは、肩肘を付いて寝転びながら描く独特のスタイルで、その絵は荒々しく力感のある絵です。
人物の眼差しは絵を観るこちらを見つめるような視線で、その視線の先から何かを問いかけているのか?はたまた何かを伝えようとしているのか?



展示された絵の9枚は「男の人」というタイトルが付いており、「女の人」が2枚、「イス」が1枚でもう1枚は「デビィッド・ボウイ」の絵です。
展示室の西面の壁には「男の人-Man-」の絵が展示されており、対面の東面の奥には「女の人-Woman-」が展示されて対を成している。


「男の人-Man-」2022

YouTubeに公開されている制作風景を見ると、まず細い線で目・鼻・口や顔の輪郭を描き、その後に墨を塗り重ねていくようで、飛んだ墨の飛沫も絵の一部になっています。
涅槃像のように半身の状態で横になっていて、よく絵のバランスがとれるものだなぁとも思いますが、手の届く位置は墨が塗り重ねられて色が濃くなっているようにも見えます。


「女の人-Woman-」2021

岡元さんは甲賀市の「やまなみ工房」に所属されていますが、集団生活が苦手なため作品倉庫を専用のアトリエにしてもらって作品作りをされているといいます。
絵を描きながら物思いに耽ったり、放心したように仰向けになって転がったりと、自分だけのアトリエで自由な時間を過ごされているようです。


「男の人-Man-」2018 「イス-Chair-」2012

絵を年代に沿って見直してみると、基本の表現は同じでも、少しづつ描き方が変わってきているようにも見えます。
下の絵は重ね塗られた部分が多く、闇に包まれた人間の目だけがこちらに視線を送ってきているような作品です。


「男の人-Man-」2022 「男の人-Man-」2020 

今回の展示会では2枚だけ出品されている「女の人」です。
岡元さんは工房の見学者の中にお気に入りの女性を見つけると、途端に赤ん坊のような笑顔になったりもするようです。


「女の人-Woman-」2021

岡元さんは絵を描く時にお気に入りの音楽を聴きながら描かれるそうですが、今回唯一名前のある人物がデビィッド・ボウイです。
アールブリュットの作家さんでデビィッド・ボウイをモチーフにされる方がおられますが、ボウイを見ていると描きたい衝動が湧いてくるのかもしれませんね。


「デビィッド・ボウイ」2018

アールブリュットの作家の方は、作品が完成した時のイメージで描かれているのか、その時その時の感覚で描いておられるのでしょうか。
完成すると、塗りたくったような絵に見えて実は刺戟を感じる絵になっていたりするので、観る方の受け取り方の自由さという面白さがあります。


「男の人-Man-」2021 「男の人-Man-」2020 

余談になりますが、お中元用の洋菓子を「たねや」さんに買いに行った処、「アート×和菓子 Limited Edition2024」と題する商品がありました。
「やまなみ工房」と「たねや」のコラボ商品のシリーズがあり、福祉とアートと商品が一体化するPJは滋賀県ならではの良さを感じます。


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キュビスム展―美の革命ピカソ、ブラックからドローネ、シャガールへ ~京セラ美術館~

2024-07-04 05:50:00 | アート・ライブ・読書
 京都市左京区岡崎の京セラ美術館で開催されている「キュビスム展」の終了日が近づいてきましたので、平安神宮の大鳥居の横にある京セラ美術館を訪れました。
「京セラ美術館」は元は「京都市美術館」の名で知られており、2020年のリニューアルに伴って京セラが命名権を取得して現在の名前になったようです。

訪れるのは「京セラ美術館」になってからは初めてで、「京都市美術館」時代の「ルネ・マグリット展」以来になります。
今回のキュビスム展は、全14章に構成された約112点の作品が展示され、日本では50年ぶりとなる大規模なキュビズム展と紹介されています。



京セラ美術館は、1933年に開館したという現存する日本の公立美術館では最古の建築物で、帝冠様式という和洋折衷の建築様式の建物です。
外装はクラシックな造りとなっており、内装は西洋のお城の内装ような見事さです。





「キュビズム以前 その源流」ではポール・セザンヌの「4人の水浴の女たち」などキュビズムに影響を与えたとされる作家の作品が展示されている。
セザンヌはモネやルノワールと印象派で活動していたとされますが、グループを離れて伝統的な絵画の約束事にとらわれない独自の絵画様式を探求したとされます。
そういったセザンヌの試みはブラックやピカソに影響を与え、後に「セザンヌ的キュビズム」と呼びいる作品につながっていくという。


ポール・セザンヌ「4人の水浴の女たち」

新しい表現の可能性を見出そうとしたパブロ・ピカソやアンドレ・ドランはアフリカやオセアニアの造形物に美的価値観を見出したといいます。
この時代の前衛芸術家たちが伝統的な規範に挑戦するための拠り所として「プリミティヴィスム」に影響を受けたというのは実に興味深い話です。


ヨンベあるいはウォヨの呪物(コンゴ民主共和国)


ダンの競走用の仮面(コートジボワール)

アフリカやオセアニアの造形物に影響を受けたピカソがプリミティヴィスムに影響を受けたとされる作品が「女性の胸像」とされます。
仮面のような顔のラインと突き出した鼻。
伝統的な西洋画の域を逸脱した作品ですが、ピカソにしてはまだ青青の時代や薔薇色の時代からキュビズムに移行し始めた頃の作品のようです。


ピカソ「女性の胸像」

ピカソと共にキュビズムを牽引したというジョルジュ・ブラックは“私たちはザイルで結ばれた登山者のようでした”と結びつきの深さを語ったといいます。
初期キュビズムと呼ばれる時代は、セザンヌやプリミティヴィスムの影響を受けていたといい、ブラックも「大きな裸婦」という作品を残しています。


ジョルジュ・ブラック「大きな裸婦」

キュビズムはこの後、「分析的キュビスム」や「総合的キュビスム」と呼ばれる時代に入ります。
作品はどんどんと抽象画化していき実験的な手法へと変わっていきますが、その時代のピカソとブラックの作品は見分けが付かない状態になります。


パブロ・ピカソ「肘掛け椅子に座る女性」


ジョルジュ・ブラック「ギターを持つ男性」

キュビズムは、新しい表現を求める若いっ芸術家たちの間に瞬く間に広がり、多くの追随者を生んだといいます。
その中からフェルナン・レジェとフアン・グリスの二人はキュビズムの発展に欠かすことのできない芸術家とされます。


フェルナン・レジェ「形態のコントラスト」


フアン・グリス「ヴァイオリンとグラス」

アポリネールによって「オルフェウス的(詩的)キュビズム」の発明者と呼ばれたのはロベール・ドローネーとソニア・ドローネーの夫妻。
異質な要素を同一画面に統合する「同時主義」という手法は、古代(三美神)と現代(エッフェル塔)が同一画面に登場する「パリ市」に顕著に表れています。


ロベール・ドローネー「パリ市」

第8章の「デュシャン兄弟とピュトー・グループ」ではニューヨーク・ダダの中心人物のマルセル・デュシャンの作品が出てきます。
ダダは、既成の秩序や常識に対する否定・攻撃・破壊といった思想を特徴とし、同時多発的かつ相互影響を受けながら発生した芸術運動です。
ダダイズムはヨーロッパやアメリカではっせいしますが、根底には意味のない芸術とするのは第一次世界大戦によるニヒリズムがあるといいます。


マルセル・デュシャン「チェスをする人たち」

同じ章にフランシス・ピカビアの作品があり、聞いたことのある名前だなぁと思っていたが、この方は横尾忠則さんが「芸術の父」として憧れてきた作家でした。
おそらくは横尾忠則関係の本かなんかで読んで記憶の片隅に残っていたのだと思います。


フランシス・ピカビア「赤い木」

この辺りから黄金比・非ユークリッド幾何学・四次元の概念・運動の生理学分析とキュビズムを理論的に結び付けようとする理論が出てきます。
理論や概念的に観る近代美術には正直ついていけない部分があり、その難解さに悩まされますが、美術は結局はその作品が好きか嫌いかの判断でいいのだと思います。


マルク・シャガール「ロシアとロバとその他のものに」

モンパルナスの習合アトリエ「ラ・リュッシュ(蜂の巣)」にはフランス以外の国から若く貧しい芸術家が集い、キュビズムを吸収しながら独自の前衛的表現を確立していったとされます。
その中には当時のロシア(ベラルーシ)から来たマルク・シャガールやイタリア人のアメデオ・モディリアーニなどがいたといいます。


アメデオ・モディリアーニ「女性の頭部」

20世紀初頭のロシアにはフランスのキュビズムとイタリア未来派が同時期に紹介され「立体未来主義」として展開したといいます。
ロシア・アヴァンギャルドの画家ミハイル・ラリオーノフの「散歩:大通りのヴィーナス」は最近見たアールブリュットの作家の作品のように見えて驚きました。


ミハイル・ラリオーノフ「散歩:大通りのヴィーナス」

第一次世界大戦によってダダイズムが芽生えたのと同様に、フランス人芸術家の多くが前線に送られ、キュビズムに大きな影響を与えます。
ピカソは非交戦国のスペイン出身だったため戦地には行かず、大戦中のキュビズムを担ったといいます。


パブロ・ピカソ「若い女性の肖像」

キュビズムを代表する作家は大戦後、「秩序への回帰」と呼ばれる保守的風潮によって、複雑で実験的な試みを避け、伝統的な技法の絵画に変わっていったようです。
ピカソも同様に「新古典主義の時代」に移行していったといい、その後「シュルレアリスムの時代」を経て、ナチスドイツを非難する「ゲルニカ」へと続いて行きます。
下は写実的な人物像と並行して制作が続けられたピカソのキュビズム絵画の1点だという。


パブロ・ピカソ「輪を持つ少女」

新しい表現方法を見出そうとする考えと、その時代の時代背景や世相などに影響を受けながらアートが発展してきた系譜が垣間見えるような美術展でした。
湧き出るように同時多発的にムーヴメントが発生するなんてことは、今後も有り得るのか何てことを考えてしまいます。


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小倉 宗 個展「禿カムロ KAMURO」~ギャラリーからころ~

2024-06-23 19:30:30 | アート・ライブ・読書
 小倉 宗さんから個展のポストカードを送って頂いておりましたので、大阪は高槻市にある「ギャラリーからころ」へ作品を見に訪れました。
小倉さんの作品を見るのは昨秋に開催されたアート・イン・ナガハマ(通称AIN)以来のことですから約8カ月ぶり。
また、AINで最初に小倉さんの存在を知ったのは2007年のことですから、17年来のファンになります。

これまで10数枚の絵画と4枚の銅版画と絵本の「じゃんけん戦争: あっちの国こっちの国」を所有していますが、欲しくなる作品が次々と生み出されてくるので終わらない。
あっそうそう!小倉さん直筆の当方の似顔絵なんていうウルトラ・レアな絵もありますよ。



これまでも個展の情報を入手することがありましたが、如何せん遠くでの開催が多くて中々行けないのですが、高槻市くらいならと足を延ばしました。
ビルの1Fにある「ギャラリーからころ」へ一歩足を踏み入れると、四方に色彩豊かな小倉作品が展示され、オグラ・ワールドが広がる。
会場内では大きな黒い犬がウロウロと歩いていて、ギャラリーだけどアットホーム感もあります。



入って右側の壁には8枚の絵が展示され、ユミンや卑弥呼や鳥、大津絵をモチーフにした絵が並びます。
昔の小倉さんの作品にあった怖い感じや尖がった感じの絵はすっかり消えて、穏やかで優しく愛情に溢れた作品が並びます。



入口の対面の壁には2枚の絵が展示されていて、テーマになっている「鳥」はこの何年かよく見る題材で、「禿」は最近の題材のようです。
断片的にしか見てはいませんが、かれこれ17年も同じ作家さんの絵を見ていると、色使いや描きたい絵の変遷が何となくだけど分かるような気がします。



ギャラリースペースの左側お壁には、大津絵の鬼の念仏が2枚と赤い鶏冠の鶏の絵が2枚。
特に一番右の絵は伊藤若冲の鶏図を意識したかのような大きな作品で目を引きます。



入口側の壁には5点(写真は4点)の絵が並び、それぞれテーマは違うようです。
禿・ペンダント・ペア・(ギター)などが登場しますが、時刻はいつもルナティックな三日月の出る夜です。



「まどろみ」という絵はネットで見た時に“愛情と優しさに満ちた絵”だなぁと魅力を感じていた絵で、やっと実物を見ることが出来ました。
オグラ・オレンジを背景に空にはクレセント ムーン。まどろむ2人はまるで母親が小さな子供と優しい時間を過ごしているかのようです。



「禿ユミン」は遊女見習いの童女が花魁になったような絵です。
今回の個展では花魁の姿をしたユミンや女性の絵が他にもありました。
個展のタイトルが「禿カムロ KAMURO」ですので、「禿」が新しいテーマになってきたようですね。



若冲を連想させる大作「ふたり」は真っ赤な鶏冠に雄雌で色分けされた羽色が綺麗です。
背景のグラディエーションが鶏の派手さを引き立たせていますね。



「ギャラリーからころ」に「ぶらっくほーる」という絵本が売ってあり、文が霰雫 霙(あらずくみぞれ)さん、絵が小倉宗さんですのでさっそく購入しました。
霰雫 霙さんの文は、稲垣足穂の世界観を思い起こさせる言葉が並び、タルホの宇宙的感性とでも呼べるようなファンタジー世界が描かれます。
夜のレストランにやって来た男が水晶や月や星の飲み物や料理を平らげていく独特の別世界観です。



小倉さんの絵は「じゃんけん戦争: あっちの国こっちの国」の頃のスタイルの絵で描かれている感じです。
霰雫 霙さんの文がとても良く、霰雫さんの文と小倉さんの絵の相乗効果で別世界への扉が開かれます。



「禿カムロ KAMURO」展は四方全てに絵が展示された明るい雰囲気のギャラリーで、今回の展示作品は色合いが明るい作品が多かったことあって華やかな個展でした。
個展で展示された作品のうち、どの作品が秋のアート・イン・ナガハマで見られるでしょうか?楽しみですね。
尚、「ギャラリーからころ」では7/14~20に開催される『もちよってん♡わたしの好きな○○〇♡』にも小倉さんの作品が出展されるそうです。


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「四白展」(やまなみ工房)~湖のスコーレ~

2024-06-07 05:48:48 | アート・ライブ・読書
 長浜市のJR長浜駅から黒壁スクエアを歩いて行ったところに「湖のスコーレ」というカフェやショップの入った商業文化施設があります。
滋賀の特産品の鮒ずしにちなんで発酵食品をテーマにしたお店が入り、チーズ製造室で作られたチーズの販売やチーズを使った喫茶店などが入っている。

また文化棟には今では絶滅の危機にあるようなサブカル系の本屋さんがあり、棚にはセレクトされた新刊書籍と古書が並びます。
文化棟2Fには滋賀県甲賀市のアートセンター&福祉施設「やまなみ工房」の作家の作品が展示・販売されている。
展示されているアールブリュット作家は定期的に入れ替わり、いつでもアールブリュット作品を目にすることが出来ます。



現在、展示・販売されているのは「やまなみ工房」の四白さんの作品で、カラフルな色彩で書き殴ったような作品と綺麗に塗り分けられた作品に傾向は分かれる。
下は「オランウータン」という作品でサイケデリック調の色彩鮮やかな迷路の中にコミカルタッチのオランウータンが笑っているように見えます。


「オランウータン」

四白さんは、幼少の頃から自然の中で遊ぶことが好きだったが、青年期を迎え、行き場のないエネルギーをパンク・ロックなどのサブカルチャーに求めるようになる。
その後、大学でアートを学ぶようになるが統合失調症を発症し、大学を中退して放浪。
友人のイベントに参加した際に「やまなみ工房」を知り興味を持ち入所されたとあります。(会場の案内板から)

「マッドシティ」という作品では、描き込んだ「オランウータン」とはカラフルな色使い以外は全く傾向の違う作品になっています。
四白さんは、70~80年代辺りのロック・アーティストをモチーフとした作品も描かれいて、影響を受けたロックアーティストが伺われる。
5/11には湖のスコーレでライブ・ペインティングのパフォーマンスがあったそうです。


「マッドシティ」

3人のロッカーの絵は、一番左がゴッドファーザー・オブ・パンクとも呼ばれるイギー・ポップ。
絵は Lust For Lifeを地で行くようなジャンキー・タッチの絵。

真ん中は言わずと知れたローリング・ストーンズのキースリチャーズ。ヘビースモーカーのキースが煙草をくわえてギターを弾く姿は恰好がいい。
四白さんのキース・リチャーズは前回湖のスコーレで展示されていたキースの絵とは全く違うのが興味深いところです。

右はザ・クラッシュのフロントマンのジョー・ストラマー。
London Callingはバンドでコピーした記憶があります。


「イギー・ポップ」「キース・リチャーズ」「ジョー・ストラマー」

デイビット・ボウイをモデルにした2枚の絵は、全く個性の違う描き方になっています。
勝手に想像するなら、左が80年代初頭の「レッツ・ダンス」のような都会の垢ぬけたロック・スターのような感じ。
右はジギー・スターダスト時代のグラム・ロックか、ドラッグからの更生をしたベルリン三部作時代へのオマージュみたいな感じ。


「デイビット・ボウイ」「デイビット・ボウイ」

ロックアーティストは他にもトム・ウエイツやニック・ケイブを描いた絵があります。
両方のアーティストともに名前のみで音楽に馴染みはありませんが、下のニック・ケイブの絵はインパクトがあって魅かれる作品です。


「Nick Cave」

他府県でも同様かもしれませんが、アールブリュットへの理解や共感が高まってきており、作品に接する機会が増えてきています。
滋賀県では街の中やお店や商業施設やホテルのロビーなどでアールブリュット作品を目にすることがあります。
何度も見る作家さんが居られれば、初めて目にする作家さんも居られて、その奥行きの広さには驚くばかりです。


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つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人 ―たとえば、「も」を何百回と書く。~滋賀県立美術館~

2024-06-05 06:52:22 | アート・ライブ・読書
 滋賀県立美術館では「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人『―たとえば、「も」を何百回と書く。』と題したアールブリュット展が開催されています。
この美術展は45人の日本のアールブリュット作家の作品が約450点展示される大規模な美術展で、多様性に富んだ作品が鑑賞出来ます。

美術展の構成は「1 色と形をおいかけて」「2 繰り返しのたび」「3 冒険にでる理由」「4 社会の密林へ」「5 心の最果てへ」で構成されます。
滋賀県では馴染みのある作家や書く都道府県で活躍されている作家、既に製作を止めてしまわれてる作家など多様な作家の作品が集められています。



「第1章 色と形をおいかけて」では伊藤善彦さんの粘土細工の作品「鬼の面」「鬼の顔(土鈴」が気にかかる。
伊藤さんは30年に渡って粘土作品を制作されていたといい、生前“人間の、奥の奥には、鬼が棲んでいる”と発言されていたといいます。



畑中亜未さんの「一灯式青い蛍光灯」「一灯の裸電球」「二灯の裸電球」「赤ちょうちん」...などの作品は灯りに興味を持った作品群です。
絵の中に作品名を書き込んでいて、ごくシンプルなクレヨン画ですが味わい深い。



舛次崇さんの絵には「きりん2」「ノコギリとパンチとドライバーとトンカチと左官」「うさぎと流木」などのタイトルが付いている。
絵とタイトルはパッ見ると合っているように見えないが、それはモチーフを独自の視点で見ているからなのでしょう。



「やまなみ工房」の作家の中でも有名な鎌江一美さんの作品「かお」は、ヒダのような突起物で作品が覆われるまでの初期の作品とのこと。
突起物に覆われた「まさとさん」とは少し違う鎌江さんの作品の源流ともいえる作品群です。



カラフルな色彩の楽しそうな絵を描かれるのは八重樫道代さんで、作品は「ダンス」と「チャグチャグ馬コ」です。
チャグチャグ馬コってなんぞやというと、岩手県滝沢市の蒼前様(農業の神・馬の守り神)の祭りに登場する馬たちのようです。



「第2章 繰り返しのたび」では繰り返し反復するミニマル・ミュージックのような作品が並び、齋藤裕一さんの作品はその典型的なものになります。
タイトルは「ドラえもん」や「はみだし刑事」なのですが、ドラえもんは「も」の反復で描かれ、「はみ」の反復ははみだし刑事のこと。



色鮮やかなマーカーの反復で描かれるのは上田志保さんの「こゆびとさん」。
小人?小指?恋人を連想させるキャラクターは上田さん独自のイメージの世界で、現代アートの作品のようにも見えます。



「第3章 冒険に出る理由」では木村茜さん、伊藤峰尾さん、佐々木早苗さん、石野敬祐さんの制作風景が動画で流されます。
それぞれの作家の日常の製作風景は、生活の一部のように日常に融け込んでいます。
まだ半分とはいえ、たくさんの作品を見て疲れたので、会場の中にある額縁のような枠の奥にある庭園を望むソファーで一息入れる。



「第4章 社会の密林へ」でインパクトがあったのは、宮間栄次郎さんの「横浜の金魚の帽子おじさん」シリーズでしょうか。
宮間さんは横浜の繁華街を自転車に乗って回遊するパフォーマンスをされていたといい、その奇抜で派手な服装から「帽子おじさん」と呼ばれるようになったそうです。





作品の横には宮間さんご自身が写るスライドが流れています。
ご本人の姿も楽しそうですが、映像に移っているギャラリーも笑顔です。



木工で精密なバスやトラックや車を作られているのは西本政敏さんは、メーカーのロゴまで再現した完成度の高い作品です。
この精密な表現は、通所する福祉施設で木工を担当して得た技や知識が役に立っているようです。



太い線でデフォルメされた平野信治さんの作品は「志村けん(子役)」「舘ひろし」「モナ・リザ」「ライオン」のタイトルが付いている。
平野さんは志村けんに特別な想いがあったといい、縁あって志村けんに直接バカ殿を描いた作品を渡す機会に恵まれたそうです。
しかし、その翌日から絵を描かなくなってしまったといいます。



みんなほっぺがピンク色の人物画を描かれるのは大久保寿さんで、実際に人物名が付いている絵と無題の絵があります。
平野さんは46歳から絵を描き始められ、大胆な線でサッと描いたように見えて、実際はとてもゆっくりと指を動かして描かれていたそうです。



ペーパークラフトで角ばった女の子たちを作るのは石野敬祐さんでタイトルは全て「女の子」ですが、イシノ52のような作品群です。
製作風景は第3章で見ることが出来ますが、とても手早く器用に女の子たちを作り出していかれます。



「第5章 心の最果てへ」では記憶や精神疾患によって見ることの出来たモチーフを作品にしたものが多く登場します。
内山智昭さんは聴覚障害があって意思表示が困難だった頃、粘土造形を始めて精神的に落ち着きを得ていかれたそうです。



上は「遠い国の人」、下は「花を抱いた女」。
内山さんは5~6年間に300点近い作品を製作されてそうですが、手話を身に着けて施設を退所して以降、作品は全く製作されなかったそうです。



昭和の時代には封切り映画がやってくると、映画の宣伝用の看板が描かれることがあり、蛭子能収さんも「ガロ」でデビュー前に看板店で絵を書いていたそうです。
木伏大助さんは、小学校の時に映画館や街角に貼られた映画のポスターを毎日眺めていて、福祉施設に入ってから映画ポスターそっくりの絵を描き始められたそうです。
役者の名前まで正確に書かれていますので、その記憶力たるや恐るべしです。



富塚純光さんの「青い山脈物語111万円札と花を貰ったの巻」「青い山脈物語8おっかけられたの巻」は彼の記憶を絵と言葉で描いたもの。
壁一面に貼られた記憶のメモから月一回の絵画クラブで1枚を選び、渾然一体の作品となっていくという。



美術館では図録が販売されていましたので購入して、各作家の詳細を知り、参考にさせて頂きました。
滋賀県立美術館はアール・ブリュットを収集方針に掲げる国内唯一の公立美術館で、世界有数のアール・ブリュットのコレクションを有する美術館となったようです。



アールブリュット作品には現代アート作品を感じさせる作品や現代アートへ影響を与えたと感じられる作品があります。
現代アート系の作品は作為的に意味を求めるような作品がありますが、アールブリュット作品は無作為なところに魅力があるのかもしれません。


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Borderline~ボーダレス・アートミュージアム NO-MA

2024-06-03 06:31:31 | アート・ライブ・読書
 NOMA美術館の案内文によると、Borderlineという言葉には「境界」「境目」とい意味があると同時に「どちらともいえない」「曖昧な」という意味を含むとあります。
今回の美術展では使用用途を思わせるのに用途がない作品、使用用途をなくして作品にしてしまった作品など境界の不明瞭な作品が展示されています。

境界線を引くわけではないけど、ボーダーレスアートの名にふさわしく、出品者はアールブリュット作家が4人、美術家が2人、企画デザイン会社1社の内訳となる。
ボーダレスは境界がないこと、ジャンルに分けられないことの意味で、ボーダーラインを曖昧にしてカテゴリーに当てはめることができないものが並べられる。



昭和初期の町屋をリノベーションしたNO-MA美術館の前庭では、山田浩之さんの陶芸作品「壁を取りはずして向こうを見る」という大きな作品が出迎えてくれます。
山田浩之さんは、信楽の陶芸作家で陶歴は約30年。数々の陶芸展で受賞歴のある作家さんのようです。



山田浩之さんの作品を検索すると、酒器やぐい呑や皿、急須や花器などオーソドックスな陶器から個性的で独創的な作品まで幅広いようです。
展示されていた「CAVE340 コメット」は得体の知れない生き物のような作品で、「CAVE340 BIG FOOT」の方はデフォルメされた足。
作品は全て陶器にスピーカーが埋め込まれており、BIG FOOTは実際に音楽を聴くことが出来るようになっていた。





現在67歳になるという山ノ内芳彦さんは、鳥取で生まれて「田舎で死にたくない」という気持ちで東京に出て15年暮らしたといいます。
田舎で暮らしたくないという18の頃の気持ちはよく理解できる話で、同じ思いで都会へ出て行ったのは当方も同じでした。



その後、30歳を過ぎた頃に帰郷されて、そこで木の中に生命の形を感じ取り、木の仕事をするようになったといいます。
材料はその辺にある伐られた庭の木や捨てられた木などを使い、声がかかればもらったり伐りに行ったりするそうです。



上は「クスノキの椅子」で下は「イチョウの寝台椅子」。
イチョウの椅子には腰かけてみると、何とも言えない落ち着いた気分が味わえて木の優しさに包まれます。
作品は元あった木の形が想像できない姿に彫り出しており、樹齢の長い木の持つ生命感のようなものを際立たせています。



下田賢宗さんは、15歳の時にイクラの柄のポスターが欲しくなったけど、探してもそんな柄のパジャマは売っていなかった。
そこで、白い服をマジックや絵の具と一緒に下田さんに渡すと、彼はあっという間にイクラの絵を描き上げて欲しかったパジャマを手に入れたといいます。

下田さんは「自分が大好きなものに包まれて眠りたい」という思いを叶えるため、オリジナルのパシャマを制作されてきたといいます。
作品は「イクラのパジャマ」「かぼちゃのてんぷらのパジャマ」「はだいろおちんちんのパジャマ」。



山崎菜邦さんは、カラフルな糸を繰り返し縫って一点物の服を仕立てていきます。
今年2月に滋賀大学で開催された「やまなみ工房」のアールブリュット展では全身が縫物のヒトガタになっていましたが、今回は「Yシャツ」が出品されています。



吊るされたYシャツは空調の風でゆっくりとゆらゆら動いている。
机の上に置かれたYシャツは機能を失った何者でもないものに変化していっています。



少しいびつな形をしたかわいらしい箱は、臼井明夫さんの「臼井BOXシリーズ」です。
臼井さんは箱を作っては周りの人にあげていたといい、箱はいびつですが工夫を凝らして丁寧に作られた作品です。



高丸誠さんは眼鏡を作り、ほぼ毎日自分で作った眼鏡をかけているそうです。
レンズはなく眼鏡としての機能は果たしていませんが、“形状は使用用途を思わせるのにその用途がない作品”ということになります。
展示は、眼鏡屋さんの商品が並べてある棚のように見えます。



geodesign〈ジオデザイン〉は株式会社ジオが企画・デザインした商品で、面白ろアイデア文具を商品化したもの。
レタスだけどメモパッドになる、食卓にあるねり梅やわさびやしょうがのチューブはカラーマーカー、割り箸がボールペン、豆腐パックが付箋紙。

鯛の形をした醤油のタレビンは、醤油の香りがするペンで、<ケチャップ香る>醤油鯛ペンなんてものまである。
どこまでから雑貨であり,どこからが雑貨ではないかという範囲設定が分からない不思議な製品カテゴリーにある文化・雑貨の世界です。




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