僕はびわ湖のカイツブリ

滋賀県の風景・野鳥・蝶・花などの自然をメインに何でもありです。
“男のためのガーデニング”改め

やまなみ工房『岡本俊雄』展~湖のスコーレ~

2024-07-15 19:17:17 | アート・ライブ・読書
 『アールブリュット』は本来は「正規の美術教育を受けていない人による芸術」の意ですが、日本では障がい者の表現手段として受け入れられています。
生の芸術と呼ばれるアールブリュットは、伝統や流行・教育などに左右されず自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した芸術ともされます。

長浜市の黒壁ストリートにある商業施設の“湖のスコーレ”では定期的に「やまなみ工房」の作家による美術展が開催されており、作品の販売もされています。
今回の美術展では岡元俊雄さんという墨汁と割り箸1本のみを使用して人物画を中心に描画される作家さんの作品展となります。



写真で紹介される岡元俊雄さんの描画スタイルは、肩肘を付いて寝転びながら描く独特のスタイルで、その絵は荒々しく力感のある絵です。
人物の眼差しは絵を観るこちらを見つめるような視線で、その視線の先から何かを問いかけているのか?はたまた何かを伝えようとしているのか?



展示された絵の9枚は「男の人」というタイトルが付いており、「女の人」が2枚、「イス」が1枚でもう1枚は「デビィッド・ボウイ」の絵です。
展示室の西面の壁には「男の人-Man-」の絵が展示されており、対面の東面の奥には「女の人-Woman-」が展示されて対を成している。


「男の人-Man-」2022

YouTubeに公開されている制作風景を見ると、まず細い線で目・鼻・口や顔の輪郭を描き、その後に墨を塗り重ねていくようで、飛んだ墨の飛沫も絵の一部になっています。
涅槃像のように半身の状態で横になっていて、よく絵のバランスがとれるものだなぁとも思いますが、手の届く位置は墨が塗り重ねられて色が濃くなっているようにも見えます。


「女の人-Woman-」2021

岡元さんは甲賀市の「やまなみ工房」に所属されていますが、集団生活が苦手なため作品倉庫を専用のアトリエにしてもらって作品作りをされているといいます。
絵を描きながら物思いに耽ったり、放心したように仰向けになって転がったりと、自分だけのアトリエで自由な時間を過ごされているようです。


「男の人-Man-」2018 「イス-Chair-」2012

絵を年代に沿って見直してみると、基本の表現は同じでも、少しづつ描き方が変わってきているようにも見えます。
下の絵は重ね塗られた部分が多く、闇に包まれた人間の目だけがこちらに視線を送ってきているような作品です。


「男の人-Man-」2022 「男の人-Man-」2020 

今回の展示会では2枚だけ出品されている「女の人」です。
岡元さんは工房の見学者の中にお気に入りの女性を見つけると、途端に赤ん坊のような笑顔になったりもするようです。


「女の人-Woman-」2021

岡元さんは絵を描く時にお気に入りの音楽を聴きながら描かれるそうですが、今回唯一名前のある人物がデビィッド・ボウイです。
アールブリュットの作家さんでデビィッド・ボウイをモチーフにされる方がおられますが、ボウイを見ていると描きたい衝動が湧いてくるのかもしれませんね。


「デビィッド・ボウイ」2018

アールブリュットの作家の方は、作品が完成した時のイメージで描かれているのか、その時その時の感覚で描いておられるのでしょうか。
完成すると、塗りたくったような絵に見えて実は刺戟を感じる絵になっていたりするので、観る方の受け取り方の自由さという面白さがあります。


「男の人-Man-」2021 「男の人-Man-」2020 

余談になりますが、お中元用の洋菓子を「たねや」さんに買いに行った処、「アート×和菓子 Limited Edition2024」と題する商品がありました。
「やまなみ工房」と「たねや」のコラボ商品のシリーズがあり、福祉とアートと商品が一体化するPJは滋賀県ならではの良さを感じます。


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キュビスム展―美の革命ピカソ、ブラックからドローネ、シャガールへ ~京セラ美術館~

2024-07-04 05:50:00 | アート・ライブ・読書
 京都市左京区岡崎の京セラ美術館で開催されている「キュビスム展」の終了日が近づいてきましたので、平安神宮の大鳥居の横にある京セラ美術館を訪れました。
「京セラ美術館」は元は「京都市美術館」の名で知られており、2020年のリニューアルに伴って京セラが命名権を取得して現在の名前になったようです。

訪れるのは「京セラ美術館」になってからは初めてで、「京都市美術館」時代の「ルネ・マグリット展」以来になります。
今回のキュビスム展は、全14章に構成された約112点の作品が展示され、日本では50年ぶりとなる大規模なキュビズム展と紹介されています。



京セラ美術館は、1933年に開館したという現存する日本の公立美術館では最古の建築物で、帝冠様式という和洋折衷の建築様式の建物です。
外装はクラシックな造りとなっており、内装は西洋のお城の内装ような見事さです。





「キュビズム以前 その源流」ではポール・セザンヌの「4人の水浴の女たち」などキュビズムに影響を与えたとされる作家の作品が展示されている。
セザンヌはモネやルノワールと印象派で活動していたとされますが、グループを離れて伝統的な絵画の約束事にとらわれない独自の絵画様式を探求したとされます。
そういったセザンヌの試みはブラックやピカソに影響を与え、後に「セザンヌ的キュビズム」と呼びいる作品につながっていくという。


ポール・セザンヌ「4人の水浴の女たち」

新しい表現の可能性を見出そうとしたパブロ・ピカソやアンドレ・ドランはアフリカやオセアニアの造形物に美的価値観を見出したといいます。
この時代の前衛芸術家たちが伝統的な規範に挑戦するための拠り所として「プリミティヴィスム」に影響を受けたというのは実に興味深い話です。


ヨンベあるいはウォヨの呪物(コンゴ民主共和国)


ダンの競走用の仮面(コートジボワール)

アフリカやオセアニアの造形物に影響を受けたピカソがプリミティヴィスムに影響を受けたとされる作品が「女性の胸像」とされます。
仮面のような顔のラインと突き出した鼻。
伝統的な西洋画の域を逸脱した作品ですが、ピカソにしてはまだ青青の時代や薔薇色の時代からキュビズムに移行し始めた頃の作品のようです。


ピカソ「女性の胸像」

ピカソと共にキュビズムを牽引したというジョルジュ・ブラックは“私たちはザイルで結ばれた登山者のようでした”と結びつきの深さを語ったといいます。
初期キュビズムと呼ばれる時代は、セザンヌやプリミティヴィスムの影響を受けていたといい、ブラックも「大きな裸婦」という作品を残しています。


ジョルジュ・ブラック「大きな裸婦」

キュビズムはこの後、「分析的キュビスム」や「総合的キュビスム」と呼ばれる時代に入ります。
作品はどんどんと抽象画化していき実験的な手法へと変わっていきますが、その時代のピカソとブラックの作品は見分けが付かない状態になります。


パブロ・ピカソ「肘掛け椅子に座る女性」


ジョルジュ・ブラック「ギターを持つ男性」

キュビズムは、新しい表現を求める若いっ芸術家たちの間に瞬く間に広がり、多くの追随者を生んだといいます。
その中からフェルナン・レジェとフアン・グリスの二人はキュビズムの発展に欠かすことのできない芸術家とされます。


フェルナン・レジェ「形態のコントラスト」


フアン・グリス「ヴァイオリンとグラス」

アポリネールによって「オルフェウス的(詩的)キュビズム」の発明者と呼ばれたのはロベール・ドローネーとソニア・ドローネーの夫妻。
異質な要素を同一画面に統合する「同時主義」という手法は、古代(三美神)と現代(エッフェル塔)が同一画面に登場する「パリ市」に顕著に表れています。


ロベール・ドローネー「パリ市」

第8章の「デュシャン兄弟とピュトー・グループ」ではニューヨーク・ダダの中心人物のマルセル・デュシャンの作品が出てきます。
ダダは、既成の秩序や常識に対する否定・攻撃・破壊といった思想を特徴とし、同時多発的かつ相互影響を受けながら発生した芸術運動です。
ダダイズムはヨーロッパやアメリカではっせいしますが、根底には意味のない芸術とするのは第一次世界大戦によるニヒリズムがあるといいます。


マルセル・デュシャン「チェスをする人たち」

同じ章にフランシス・ピカビアの作品があり、聞いたことのある名前だなぁと思っていたが、この方は横尾忠則さんが「芸術の父」として憧れてきた作家でした。
おそらくは横尾忠則関係の本かなんかで読んで記憶の片隅に残っていたのだと思います。


フランシス・ピカビア「赤い木」

この辺りから黄金比・非ユークリッド幾何学・四次元の概念・運動の生理学分析とキュビズムを理論的に結び付けようとする理論が出てきます。
理論や概念的に観る近代美術には正直ついていけない部分があり、その難解さに悩まされますが、美術は結局はその作品が好きか嫌いかの判断でいいのだと思います。


マルク・シャガール「ロシアとロバとその他のものに」

モンパルナスの習合アトリエ「ラ・リュッシュ(蜂の巣)」にはフランス以外の国から若く貧しい芸術家が集い、キュビズムを吸収しながら独自の前衛的表現を確立していったとされます。
その中には当時のロシア(ベラルーシ)から来たマルク・シャガールやイタリア人のアメデオ・モディリアーニなどがいたといいます。


アメデオ・モディリアーニ「女性の頭部」

20世紀初頭のロシアにはフランスのキュビズムとイタリア未来派が同時期に紹介され「立体未来主義」として展開したといいます。
ロシア・アヴァンギャルドの画家ミハイル・ラリオーノフの「散歩:大通りのヴィーナス」は最近見たアールブリュットの作家の作品のように見えて驚きました。


ミハイル・ラリオーノフ「散歩:大通りのヴィーナス」

第一次世界大戦によってダダイズムが芽生えたのと同様に、フランス人芸術家の多くが前線に送られ、キュビズムに大きな影響を与えます。
ピカソは非交戦国のスペイン出身だったため戦地には行かず、大戦中のキュビズムを担ったといいます。


パブロ・ピカソ「若い女性の肖像」

キュビズムを代表する作家は大戦後、「秩序への回帰」と呼ばれる保守的風潮によって、複雑で実験的な試みを避け、伝統的な技法の絵画に変わっていったようです。
ピカソも同様に「新古典主義の時代」に移行していったといい、その後「シュルレアリスムの時代」を経て、ナチスドイツを非難する「ゲルニカ」へと続いて行きます。
下は写実的な人物像と並行して制作が続けられたピカソのキュビズム絵画の1点だという。


パブロ・ピカソ「輪を持つ少女」

新しい表現方法を見出そうとする考えと、その時代の時代背景や世相などに影響を受けながらアートが発展してきた系譜が垣間見えるような美術展でした。
湧き出るように同時多発的にムーヴメントが発生するなんてことは、今後も有り得るのか何てことを考えてしまいます。


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小倉 宗 個展「禿カムロ KAMURO」~ギャラリーからころ~

2024-06-23 19:30:30 | アート・ライブ・読書
 小倉 宗さんから個展のポストカードを送って頂いておりましたので、大阪は高槻市にある「ギャラリーからころ」へ作品を見に訪れました。
小倉さんの作品を見るのは昨秋に開催されたアート・イン・ナガハマ(通称AIN)以来のことですから約8カ月ぶり。
また、AINで最初に小倉さんの存在を知ったのは2007年のことですから、17年来のファンになります。

これまで10数枚の絵画と4枚の銅版画と絵本の「じゃんけん戦争: あっちの国こっちの国」を所有していますが、欲しくなる作品が次々と生み出されてくるので終わらない。
あっそうそう!小倉さん直筆の当方の似顔絵なんていうウルトラ・レアな絵もありますよ。



これまでも個展の情報を入手することがありましたが、如何せん遠くでの開催が多くて中々行けないのですが、高槻市くらいならと足を延ばしました。
ビルの1Fにある「ギャラリーからころ」へ一歩足を踏み入れると、四方に色彩豊かな小倉作品が展示され、オグラ・ワールドが広がる。
会場内では大きな黒い犬がウロウロと歩いていて、ギャラリーだけどアットホーム感もあります。



入って右側の壁には8枚の絵が展示され、ユミンや卑弥呼や鳥、大津絵をモチーフにした絵が並びます。
昔の小倉さんの作品にあった怖い感じや尖がった感じの絵はすっかり消えて、穏やかで優しく愛情に溢れた作品が並びます。



入口の対面の壁には2枚の絵が展示されていて、テーマになっている「鳥」はこの何年かよく見る題材で、「禿」は最近の題材のようです。
断片的にしか見てはいませんが、かれこれ17年も同じ作家さんの絵を見ていると、色使いや描きたい絵の変遷が何となくだけど分かるような気がします。



ギャラリースペースの左側お壁には、大津絵の鬼の念仏が2枚と赤い鶏冠の鶏の絵が2枚。
特に一番右の絵は伊藤若冲の鶏図を意識したかのような大きな作品で目を引きます。



入口側の壁には5点(写真は4点)の絵が並び、それぞれテーマは違うようです。
禿・ペンダント・ペア・(ギター)などが登場しますが、時刻はいつもルナティックな三日月の出る夜です。



「まどろみ」という絵はネットで見た時に“愛情と優しさに満ちた絵”だなぁと魅力を感じていた絵で、やっと実物を見ることが出来ました。
オグラ・オレンジを背景に空にはクレセント ムーン。まどろむ2人はまるで母親が小さな子供と優しい時間を過ごしているかのようです。



「禿ユミン」は遊女見習いの童女が花魁になったような絵です。
今回の個展では花魁の姿をしたユミンや女性の絵が他にもありました。
個展のタイトルが「禿カムロ KAMURO」ですので、「禿」が新しいテーマになってきたようですね。



若冲を連想させる大作「ふたり」は真っ赤な鶏冠に雄雌で色分けされた羽色が綺麗です。
背景のグラディエーションが鶏の派手さを引き立たせていますね。



「ギャラリーからころ」に「ぶらっくほーる」という絵本が売ってあり、文が霰雫 霙(あらずくみぞれ)さん、絵が小倉宗さんですのでさっそく購入しました。
霰雫 霙さんの文は、稲垣足穂の世界観を思い起こさせる言葉が並び、タルホの宇宙的感性とでも呼べるようなファンタジー世界が描かれます。
夜のレストランにやって来た男が水晶や月や星の飲み物や料理を平らげていく独特の別世界観です。



小倉さんの絵は「じゃんけん戦争: あっちの国こっちの国」の頃のスタイルの絵で描かれている感じです。
霰雫 霙さんの文がとても良く、霰雫さんの文と小倉さんの絵の相乗効果で別世界への扉が開かれます。



「禿カムロ KAMURO」展は四方全てに絵が展示された明るい雰囲気のギャラリーで、今回の展示作品は色合いが明るい作品が多かったことあって華やかな個展でした。
個展で展示された作品のうち、どの作品が秋のアート・イン・ナガハマで見られるでしょうか?楽しみですね。
尚、「ギャラリーからころ」では7/14~20に開催される『もちよってん♡わたしの好きな○○〇♡』にも小倉さんの作品が出展されるそうです。


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「四白展」(やまなみ工房)~湖のスコーレ~

2024-06-07 05:48:48 | アート・ライブ・読書
 長浜市のJR長浜駅から黒壁スクエアを歩いて行ったところに「湖のスコーレ」というカフェやショップの入った商業文化施設があります。
滋賀の特産品の鮒ずしにちなんで発酵食品をテーマにしたお店が入り、チーズ製造室で作られたチーズの販売やチーズを使った喫茶店などが入っている。

また文化棟には今では絶滅の危機にあるようなサブカル系の本屋さんがあり、棚にはセレクトされた新刊書籍と古書が並びます。
文化棟2Fには滋賀県甲賀市のアートセンター&福祉施設「やまなみ工房」の作家の作品が展示・販売されている。
展示されているアールブリュット作家は定期的に入れ替わり、いつでもアールブリュット作品を目にすることが出来ます。



現在、展示・販売されているのは「やまなみ工房」の四白さんの作品で、カラフルな色彩で書き殴ったような作品と綺麗に塗り分けられた作品に傾向は分かれる。
下は「オランウータン」という作品でサイケデリック調の色彩鮮やかな迷路の中にコミカルタッチのオランウータンが笑っているように見えます。


「オランウータン」

四白さんは、幼少の頃から自然の中で遊ぶことが好きだったが、青年期を迎え、行き場のないエネルギーをパンク・ロックなどのサブカルチャーに求めるようになる。
その後、大学でアートを学ぶようになるが統合失調症を発症し、大学を中退して放浪。
友人のイベントに参加した際に「やまなみ工房」を知り興味を持ち入所されたとあります。(会場の案内板から)

「マッドシティ」という作品では、描き込んだ「オランウータン」とはカラフルな色使い以外は全く傾向の違う作品になっています。
四白さんは、70~80年代辺りのロック・アーティストをモチーフとした作品も描かれいて、影響を受けたロックアーティストが伺われる。
5/11には湖のスコーレでライブ・ペインティングのパフォーマンスがあったそうです。


「マッドシティ」

3人のロッカーの絵は、一番左がゴッドファーザー・オブ・パンクとも呼ばれるイギー・ポップ。
絵は Lust For Lifeを地で行くようなジャンキー・タッチの絵。

真ん中は言わずと知れたローリング・ストーンズのキースリチャーズ。ヘビースモーカーのキースが煙草をくわえてギターを弾く姿は恰好がいい。
四白さんのキース・リチャーズは前回湖のスコーレで展示されていたキースの絵とは全く違うのが興味深いところです。

右はザ・クラッシュのフロントマンのジョー・ストラマー。
London Callingはバンドでコピーした記憶があります。


「イギー・ポップ」「キース・リチャーズ」「ジョー・ストラマー」

デイビット・ボウイをモデルにした2枚の絵は、全く個性の違う描き方になっています。
勝手に想像するなら、左が80年代初頭の「レッツ・ダンス」のような都会の垢ぬけたロック・スターのような感じ。
右はジギー・スターダスト時代のグラム・ロックか、ドラッグからの更生をしたベルリン三部作時代へのオマージュみたいな感じ。


「デイビット・ボウイ」「デイビット・ボウイ」

ロックアーティストは他にもトム・ウエイツやニック・ケイブを描いた絵があります。
両方のアーティストともに名前のみで音楽に馴染みはありませんが、下のニック・ケイブの絵はインパクトがあって魅かれる作品です。


「Nick Cave」

他府県でも同様かもしれませんが、アールブリュットへの理解や共感が高まってきており、作品に接する機会が増えてきています。
滋賀県では街の中やお店や商業施設やホテルのロビーなどでアールブリュット作品を目にすることがあります。
何度も見る作家さんが居られれば、初めて目にする作家さんも居られて、その奥行きの広さには驚くばかりです。


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つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人 ―たとえば、「も」を何百回と書く。~滋賀県立美術館~

2024-06-05 06:52:22 | アート・ライブ・読書
 滋賀県立美術館では「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人『―たとえば、「も」を何百回と書く。』と題したアールブリュット展が開催されています。
この美術展は45人の日本のアールブリュット作家の作品が約450点展示される大規模な美術展で、多様性に富んだ作品が鑑賞出来ます。

美術展の構成は「1 色と形をおいかけて」「2 繰り返しのたび」「3 冒険にでる理由」「4 社会の密林へ」「5 心の最果てへ」で構成されます。
滋賀県では馴染みのある作家や書く都道府県で活躍されている作家、既に製作を止めてしまわれてる作家など多様な作家の作品が集められています。



「第1章 色と形をおいかけて」では伊藤善彦さんの粘土細工の作品「鬼の面」「鬼の顔(土鈴」が気にかかる。
伊藤さんは30年に渡って粘土作品を制作されていたといい、生前“人間の、奥の奥には、鬼が棲んでいる”と発言されていたといいます。



畑中亜未さんの「一灯式青い蛍光灯」「一灯の裸電球」「二灯の裸電球」「赤ちょうちん」...などの作品は灯りに興味を持った作品群です。
絵の中に作品名を書き込んでいて、ごくシンプルなクレヨン画ですが味わい深い。



舛次崇さんの絵には「きりん2」「ノコギリとパンチとドライバーとトンカチと左官」「うさぎと流木」などのタイトルが付いている。
絵とタイトルはパッ見ると合っているように見えないが、それはモチーフを独自の視点で見ているからなのでしょう。



「やまなみ工房」の作家の中でも有名な鎌江一美さんの作品「かお」は、ヒダのような突起物で作品が覆われるまでの初期の作品とのこと。
突起物に覆われた「まさとさん」とは少し違う鎌江さんの作品の源流ともいえる作品群です。



カラフルな色彩の楽しそうな絵を描かれるのは八重樫道代さんで、作品は「ダンス」と「チャグチャグ馬コ」です。
チャグチャグ馬コってなんぞやというと、岩手県滝沢市の蒼前様(農業の神・馬の守り神)の祭りに登場する馬たちのようです。



「第2章 繰り返しのたび」では繰り返し反復するミニマル・ミュージックのような作品が並び、齋藤裕一さんの作品はその典型的なものになります。
タイトルは「ドラえもん」や「はみだし刑事」なのですが、ドラえもんは「も」の反復で描かれ、「はみ」の反復ははみだし刑事のこと。



色鮮やかなマーカーの反復で描かれるのは上田志保さんの「こゆびとさん」。
小人?小指?恋人を連想させるキャラクターは上田さん独自のイメージの世界で、現代アートの作品のようにも見えます。



「第3章 冒険に出る理由」では木村茜さん、伊藤峰尾さん、佐々木早苗さん、石野敬祐さんの制作風景が動画で流されます。
それぞれの作家の日常の製作風景は、生活の一部のように日常に融け込んでいます。
まだ半分とはいえ、たくさんの作品を見て疲れたので、会場の中にある額縁のような枠の奥にある庭園を望むソファーで一息入れる。



「第4章 社会の密林へ」でインパクトがあったのは、宮間栄次郎さんの「横浜の金魚の帽子おじさん」シリーズでしょうか。
宮間さんは横浜の繁華街を自転車に乗って回遊するパフォーマンスをされていたといい、その奇抜で派手な服装から「帽子おじさん」と呼ばれるようになったそうです。





作品の横には宮間さんご自身が写るスライドが流れています。
ご本人の姿も楽しそうですが、映像に移っているギャラリーも笑顔です。



木工で精密なバスやトラックや車を作られているのは西本政敏さんは、メーカーのロゴまで再現した完成度の高い作品です。
この精密な表現は、通所する福祉施設で木工を担当して得た技や知識が役に立っているようです。



太い線でデフォルメされた平野信治さんの作品は「志村けん(子役)」「舘ひろし」「モナ・リザ」「ライオン」のタイトルが付いている。
平野さんは志村けんに特別な想いがあったといい、縁あって志村けんに直接バカ殿を描いた作品を渡す機会に恵まれたそうです。
しかし、その翌日から絵を描かなくなってしまったといいます。



みんなほっぺがピンク色の人物画を描かれるのは大久保寿さんで、実際に人物名が付いている絵と無題の絵があります。
平野さんは46歳から絵を描き始められ、大胆な線でサッと描いたように見えて、実際はとてもゆっくりと指を動かして描かれていたそうです。



ペーパークラフトで角ばった女の子たちを作るのは石野敬祐さんでタイトルは全て「女の子」ですが、イシノ52のような作品群です。
製作風景は第3章で見ることが出来ますが、とても手早く器用に女の子たちを作り出していかれます。



「第5章 心の最果てへ」では記憶や精神疾患によって見ることの出来たモチーフを作品にしたものが多く登場します。
内山智昭さんは聴覚障害があって意思表示が困難だった頃、粘土造形を始めて精神的に落ち着きを得ていかれたそうです。



上は「遠い国の人」、下は「花を抱いた女」。
内山さんは5~6年間に300点近い作品を製作されてそうですが、手話を身に着けて施設を退所して以降、作品は全く製作されなかったそうです。



昭和の時代には封切り映画がやってくると、映画の宣伝用の看板が描かれることがあり、蛭子能収さんも「ガロ」でデビュー前に看板店で絵を書いていたそうです。
木伏大助さんは、小学校の時に映画館や街角に貼られた映画のポスターを毎日眺めていて、福祉施設に入ってから映画ポスターそっくりの絵を描き始められたそうです。
役者の名前まで正確に書かれていますので、その記憶力たるや恐るべしです。



富塚純光さんの「青い山脈物語111万円札と花を貰ったの巻」「青い山脈物語8おっかけられたの巻」は彼の記憶を絵と言葉で描いたもの。
壁一面に貼られた記憶のメモから月一回の絵画クラブで1枚を選び、渾然一体の作品となっていくという。



美術館では図録が販売されていましたので購入して、各作家の詳細を知り、参考にさせて頂きました。
滋賀県立美術館はアール・ブリュットを収集方針に掲げる国内唯一の公立美術館で、世界有数のアール・ブリュットのコレクションを有する美術館となったようです。



アールブリュット作品には現代アート作品を感じさせる作品や現代アートへ影響を与えたと感じられる作品があります。
現代アート系の作品は作為的に意味を求めるような作品がありますが、アールブリュット作品は無作為なところに魅力があるのかもしれません。


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Borderline~ボーダレス・アートミュージアム NO-MA

2024-06-03 06:31:31 | アート・ライブ・読書
 NOMA美術館の案内文によると、Borderlineという言葉には「境界」「境目」とい意味があると同時に「どちらともいえない」「曖昧な」という意味を含むとあります。
今回の美術展では使用用途を思わせるのに用途がない作品、使用用途をなくして作品にしてしまった作品など境界の不明瞭な作品が展示されています。

境界線を引くわけではないけど、ボーダーレスアートの名にふさわしく、出品者はアールブリュット作家が4人、美術家が2人、企画デザイン会社1社の内訳となる。
ボーダレスは境界がないこと、ジャンルに分けられないことの意味で、ボーダーラインを曖昧にしてカテゴリーに当てはめることができないものが並べられる。



昭和初期の町屋をリノベーションしたNO-MA美術館の前庭では、山田浩之さんの陶芸作品「壁を取りはずして向こうを見る」という大きな作品が出迎えてくれます。
山田浩之さんは、信楽の陶芸作家で陶歴は約30年。数々の陶芸展で受賞歴のある作家さんのようです。



山田浩之さんの作品を検索すると、酒器やぐい呑や皿、急須や花器などオーソドックスな陶器から個性的で独創的な作品まで幅広いようです。
展示されていた「CAVE340 コメット」は得体の知れない生き物のような作品で、「CAVE340 BIG FOOT」の方はデフォルメされた足。
作品は全て陶器にスピーカーが埋め込まれており、BIG FOOTは実際に音楽を聴くことが出来るようになっていた。





現在67歳になるという山ノ内芳彦さんは、鳥取で生まれて「田舎で死にたくない」という気持ちで東京に出て15年暮らしたといいます。
田舎で暮らしたくないという18の頃の気持ちはよく理解できる話で、同じ思いで都会へ出て行ったのは当方も同じでした。



その後、30歳を過ぎた頃に帰郷されて、そこで木の中に生命の形を感じ取り、木の仕事をするようになったといいます。
材料はその辺にある伐られた庭の木や捨てられた木などを使い、声がかかればもらったり伐りに行ったりするそうです。



上は「クスノキの椅子」で下は「イチョウの寝台椅子」。
イチョウの椅子には腰かけてみると、何とも言えない落ち着いた気分が味わえて木の優しさに包まれます。
作品は元あった木の形が想像できない姿に彫り出しており、樹齢の長い木の持つ生命感のようなものを際立たせています。



下田賢宗さんは、15歳の時にイクラの柄のポスターが欲しくなったけど、探してもそんな柄のパジャマは売っていなかった。
そこで、白い服をマジックや絵の具と一緒に下田さんに渡すと、彼はあっという間にイクラの絵を描き上げて欲しかったパジャマを手に入れたといいます。

下田さんは「自分が大好きなものに包まれて眠りたい」という思いを叶えるため、オリジナルのパシャマを制作されてきたといいます。
作品は「イクラのパジャマ」「かぼちゃのてんぷらのパジャマ」「はだいろおちんちんのパジャマ」。



山崎菜邦さんは、カラフルな糸を繰り返し縫って一点物の服を仕立てていきます。
今年2月に滋賀大学で開催された「やまなみ工房」のアールブリュット展では全身が縫物のヒトガタになっていましたが、今回は「Yシャツ」が出品されています。



吊るされたYシャツは空調の風でゆっくりとゆらゆら動いている。
机の上に置かれたYシャツは機能を失った何者でもないものに変化していっています。



少しいびつな形をしたかわいらしい箱は、臼井明夫さんの「臼井BOXシリーズ」です。
臼井さんは箱を作っては周りの人にあげていたといい、箱はいびつですが工夫を凝らして丁寧に作られた作品です。



高丸誠さんは眼鏡を作り、ほぼ毎日自分で作った眼鏡をかけているそうです。
レンズはなく眼鏡としての機能は果たしていませんが、“形状は使用用途を思わせるのにその用途がない作品”ということになります。
展示は、眼鏡屋さんの商品が並べてある棚のように見えます。



geodesign〈ジオデザイン〉は株式会社ジオが企画・デザインした商品で、面白ろアイデア文具を商品化したもの。
レタスだけどメモパッドになる、食卓にあるねり梅やわさびやしょうがのチューブはカラーマーカー、割り箸がボールペン、豆腐パックが付箋紙。

鯛の形をした醤油のタレビンは、醤油の香りがするペンで、<ケチャップ香る>醤油鯛ペンなんてものまである。
どこまでから雑貨であり,どこからが雑貨ではないかという範囲設定が分からない不思議な製品カテゴリーにある文化・雑貨の世界です。




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映画「パーフェクト・デイズ」とルー・リード「パーフェクト・デイ」

2024-03-29 12:20:20 | アート・ライブ・読書
 最近、有料チャンネルと契約してみたら、見たいコンテンツがそれなりにあってコスト・パフォーナンスは中々良いのではないかと思っています。
とはいえ、年に何回かは劇場の大画面で映画を見たいですし、現場の雰囲気を感じながらホールで音楽や落語を聞きたくなります。

久しぶりに映画館に行きたいなぁと上映予定を検索すると、ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司・主演の「パーフェクト・デイズ」が公開されているのを発見。
公開は2023年12月22日からでしたが、ロングラン上映になっていたため、まだ見ることが出来たのは偶然の幸運でした。



主人公の役所広司は、決められたルーティーンのように毎朝外の掃き掃除の音で目覚め、歯磨きと髭のカット、自動販売機のコーヒーを買って仕事に出かける。
仕事はトイレ清掃員で几帳面に掃除した後は銭湯に行き、安い定食屋で一杯飲んで、帰宅後は古本屋で買った本を読んで寝る。

何の変哲もない同じ日常の繰り返しながら、昼に神社の境内でサンドイッチを食べながら古いフイルムカメラで木漏れ日を撮ったり、木の苗があったら持ち帰って育てる。
違った選択をするとしたら、出勤や移動時にカーステでかける60年代後半から70年代の音楽のカセットテープのチョイスになる。



流れる音楽は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、オーティス・レディング、映画の主題にもなっているルー・リードの「パーフェクト・デイ」。
パティ・スミスにローリング・ストーンズ、ヴァン・モリソン、アニマルズ、キンクスなど。

特にルー・リードの「パーフェクト・デイ」は、1972年にアルバム『トランスフォーマー』に収録された曲で、映画の途中とエンドロールの2回流れて重要な役割をしている。
この曲は、いろいろなアーティストにカバーされており、2002年に演奏された三大テノールのルチアーノ・パヴァロッティとのコラボレーションは感涙もの。

他の映画で使用されて印象の深いところでは、1996年のイギリス映画「トレインスポッティング」で主人公のレントンがヘロインを打って昏睡状態となるシーンに流れる。
海外ドラマシリーズでは「ウエストワールド」シーズン4の第5話でシャルロットが路上で始まった舞踏会の曲として血まみれの指のピアノ弾きが演奏する。



役所広司は無口な男の設定でセリフは極端に少ないが、微妙な表情の変化の演技で第76回カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞しています。
同僚の柄本時生のいい加減さやホームレス風の田中泯は存在感があり、共演者は目立ち過ぎない程度に役を演じています。

行きつけの一品料理屋のママの石川さゆりが「朝日のあたる家」を唄いますが、これは浅川マキのバージョン。
演奏は、何と一品料理屋の常連客のあがた森魚が弾くアコギです。映像で見るあがた森魚、これは個人的に嬉しく感じた場面です。



映画は途中からそれぞれの登場人物の事情を交えながら進んで行きますが、東京スカイツリーが近くに見えるアパートは古めかしく、部屋には生活感はない。
部屋にあるものは、ロックのカセットテープと本とせんべい布団と着替え程度。
豊かさのようなものはない変わりに喪失感のようなものもなく、ただ淡々と同じ日常を暮らしている。

バーのママの元夫で死期の近い三浦友和の「影は重なると濃くなるのかな。結局、なにも分からないまま人生を終えるのだ」という言葉は印象に残る。
三浦友和の問いかけに対しての返答は「濃くなってますよ!変わらないなんて、そんなバカなことはないですよ!」と答える。


(パンフレットが映画館で売り切れていたのでネットで購入)


映画のラストシーンは、車を運転する役所広司が微笑みから感極まったような表情へと変わっていくシーンが長回しで続きます。
流れる曲は、ニーナ・シモンの「フィーリング グッド」。
サビは、♪ 夜が明けて 新しい一日が始まる 私は私の人生を生きる 最高の気分だ ♪と歌われる。

映画の主題となっているルー・リードの「パーフェクト・ディ」の歌詞では下のように歌われる。

 ただただ完璧な一日だ
 公園でサングリアを飲んで
 そして、その後辺りが暗くなって、僕たちは家路に着く

 ただただ完璧な一日
 動物園で、動物達にエサをあげて
 それから映画でも観て、そして家に帰る
 あぁ、なんて完璧な一日なんだろう

 <中略>
 自分の蒔いた種は、すべて刈り取らなくてはいけない
 自分の蒔いた種は、すべて刈り取らなくてはいけない
 自分の蒔いた種は、すべて刈り取らなくてはいけない

この映画はいい意味で余韻の残る映画だったと思います。
当方の場合、この映画への入口は60~70年代の音楽でしたが、映像美であったり役者のファンであったりする人もおられると思います。
あるいは金延幸子さん、古本のウィリアム・フォークナーや幸田文やパトリシア・ハイスミスなのかもしれません。
選択のセンスの良さが際立って、見る人の心のどこかをかぎ針で引っ掛けていくように、隠れた素材が随所に埋め込まれている映画でした。


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やまなみ工房『山と湖』展 vol.02~@湖のスコーレギャラリー~

2024-02-12 18:10:10 | アート・ライブ・読書
 “地域の食と、ものづくり。長浜からはじまる暮らしの学び。”をコンセプトに開業された湖のスコーレの2周年にあたり『山と湖』展 vol.02が開催されています。
「湖のスコーレギャラリー」では年間を通して「やまなみ工房」の作家の作品を展示されていますが、今回の『山と湖』展は作家数が盛り沢山の美術展になっています。

今回の美術展では「やまなみ工房」に通われている90数名の作家の中から25名の作品を1点づつ展示されており、個性的な作品群が並びます。
知らない作家の作品を含めて色彩豊かで力強さを感じる作品が並び、それらの絵は生き生きとして輝いて見えます。



館内には1Fのエントランスに展示されていた1枚、2Fには24作品が並び、よく美術展で見る「やまなみ工房」の作品以外の絵が選ばれているように感じた。
粘土作品やダンボールや繊維などを使った立体作品はなく、カラフルで色鮮やかな作品を選定したかのような華やかさがあります。



四白さんの「キース リチャーズ2」はテレキャスターを持ったキースでしょうか、エレキギターをかき鳴らすキースを描いた作品です。
四白さんはキース リチャーズの他にもデヴィッド・ボウイやイギー・ポップも描かれているようで、70年代くらいのロックを好まれているのかな?



意図的に絵の具を流したような作品は、左が鵜飼裕之さん、右が榎本朱里の作品で両方とも「タイトル不明」となっています。
共に力強い作品ですが、特に右の榎本さんの作品は深山の森林の中で流れ落ちる滝を描いたような印象があって魅かれる作品です。



左のアクリル絵の具を押し付けたように描かれた作品は、藤木敦仁さんの「タイトル不明」。
右のアルファベットの文字を書き連ねた作品は、宮下幸士さんの「英語」。
英字新聞の文字を書き写した作品のようですが、言葉の意味は彼のみぞ知るといった感じです。



貼り絵教室を営む祖母の影響を受けたという服部大将さんの「無題」は包装紙を下地にして油性ペンと色鉛筆で描かれています。
図鑑等からモチーフとなる素材を選ばれているといい、この魚群はお魚図鑑から選ばれたのでしょうか。



「弦楽四重奏曲No.15 /ベートーヴェン」を描かれた森雅樹さんは、ジョン・ケージのアメリカ実験音楽に影響を受け興味を持つようになったそうです。
スティーヴ・ライヒや武満徹などの現代音楽、灰野敬二などのノイズミュージック、オルタナティヴ・ロックやポスト・モダン音楽を好まれるという。

デザイナー学院でグラフィックデザインを学ばれたことがあったようなので、絵の技術はありつつも、前述の音楽に影響された作品もあるようです。
弦楽四重奏曲第15番を聞いたことはありませんが、この弦楽四重奏曲は晩年近くのベートーベンが重病で中断しながらも書き終えた曲だという。
シンプルでミニマムな絵にはそんな時代のベートーベンの心境に投影するものがあるのかもしれない。



赤や黄色の下地の上にたくさんの丸が描かれている作品は、北村悠さんの「タイトル不明」。
現代美術のアブストラクトのような作品は、電車や新幹線等の大好きな鉄道の書籍を机上に置いて場と整えると、彼女の制作活動は始まるのだという。



一人一作品なので作風を垣間見ることは出来なかったものの、選りすぐりの作品揃いでアアートの持つエネルギーを感じることが出来ました。
滋賀県では世界的に有名な作家の美術展は稀にしか巡回してきませんが、アールブリュット作品に出会う機会は多いですね。


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滋賀大学✖やまなみ工房アールブリュット~湧き上がる創造性が結実する場とは?~

2024-02-08 17:18:18 | アート・ライブ・読書
 「やまなみ工房」は、滋賀県甲賀市にある知的・精神・身体に障がいを持った人たちが利用している福祉施設であると共に、日々アート作品を生み出している場でもあります。
思いのままに自分の世界を映し出す作品群は、県内外各所で展示され、なかには世界的に評価されている作家の方を生み出しています。

滋賀大学と「やまなみ工房」は、連携協定を結んで多様性を尊重する社会の形成をめざして協力することになり、そのキックオフが今回のアールブリュット展とのことです。
滋賀大学では今後設立予定の新棟に「やまなみ工房」の作品を常設予定としていますので、教育学部のみならずデータサイエンス学部からの視線での考察が期待できます。



滋賀大学は彦根城のお堀を挟んだ彦根城の一角のような場所にあり、アールブリュット展は大正時代に建てられた講堂の中で行われます。
学内に入ってレトロ感の漂う講堂に入るとまずインパクトのある作品が目に入り、その迫力に度肝を抜かれます。



一番左の作品は吉田楓馬さんの「シリトリモンスタ-」という作品で、廃材のようなものを組み合わせてモンスターが積みあがった作品。
吉田楓馬さんは30歳くらいの若い作家ですが、21歳から「やまなみ工房」に通って創作活動に打ち込まれているそうです。
日々の葛藤の中で不安感や負の感情と向き合いながらも、日々作品を生み出しておられているようです。



保育園の頃に見た仮面ライダーの番組では、仮面ライダーではなく魅了されたのはやられ役の怪人の方だったという。
作品は怪人やシマウマが積み重なって出来ており、タイトルがシリトリモンスターなんでシリトリになっているのか考えてみたが繋がらなかった。



隣に展示されているヒトガタは栗田淳一さんの「無題」で、人体図をデフォルメして作ったような作品でインパクトがあります。
死者なのか聖なるものなのか捉え方は個人の自由ですが、この切迫感に気圧される気分になります。



同じ作品を裏側から見ると、そこには頭部に仮面のようなペルソナな顔、腹部には本質と感じられるような本体があるように見える。あるいは逆かも?
吉田さんの栗田さんの共通点は、十代の時に病を発症して二十代のある時期からやまなみ工房へ通うようになった30代の青年です。

違うのは栗田さんは芸大に在籍していたことがあり、フィギュア製作の学校にも一時期通っていたこと。
いづれも病の影響により退学されていますが、美術教育を受けた栗田さんがアールブリュットを模写する事が、自分自身のアールブリュットを探す行為となっているという。



糸を縫ったり刺繍をしたりして作られた作品は、山崎菜那さんと瀧口真代さんの作品です。
「やまなみ工房」では絵画・陶芸や粘土工芸・立体など多様な作品を作られていますが、その中のひとつに生地や糸やボタンなどを使った作品群があります。

左の山崎さんは、きれいな洋服やおしゃれへの憧れから縫い重ねるように作られた作品は一点物の洋服を仕立てるが如く。(「タイトル不明)」
右の瀧口さんの作品は布地に糸を変えながら何度もかがり縫いを繰り返すため、鮮やかな鱗のように見えるため「かいじゅう」のタイトルが付けられているという。



滋賀県でアールブリュット展は美術館で開催されることもありますが、古い建造物の中で展示されることが多々あります。
今回も大正期のレトロな講堂に展示されており、普段一般人が入れない場所で見る美術展はレトロと現代美術がうまく融け合っています。



講堂の左側にはKATSUさんの3枚の絵が展示されており、それぞれ「メトロポリス」「タワーシリーズⅢ」「タワーシリーズⅡ」とタイトルが付けられています。
絵は建物が構築されてゆくかのように上へと細かな線で積み上げられていて、いつ完成するとも知れないガウディのサグラダ・ファミリアのようにも感じられる。



今回の展示作品は作家17名・約40点の作品が展示されており、場所が講堂ということで作品間の距離があるので空間の良さを満喫出来ます。
会場には訪れる人が絶えず、駐車場には他府県ナンバーも多く、鑑賞されている方はじっくりと見ておられてアールブリュットへの関心の高さが伺えます。



井上優さんは70歳を過ぎてから絵を描き始めたといい、現在「やまなみ工房」で最年長の方のようです。
70歳まで眠っていた絵の才能は、70歳で描き始めることで開花し、大きな紙に連なる人の姿を描かれています。



上の絵は「ひと」というタイトルが付いており、下の絵は「女の人」と名付けられている。
描かれた人の姿はシンプルながら生き生きとしており、みな鑑賞する人の方を見つめています。



宮下幸士さんの「日本の地図」は、実際には存在しないようで実は存在する彼の視点の中にだけ存在する町の地図に見える。
細かく書かれた地名は存在する自治体名や地名だったり、人の名前のだったりするが、街は濃く描かれたビルから放射線状に広がりを見せます。



田村拓也さんの絵画は、人の姿が升目状にカラフルなマーカーで塗分けられている。
色の選び方に規則性があるのかと思いきや、そうでもないようです。



城谷明子さんは雑誌や画集から選んだ人物や動物等がモチーフとなるようで、絵の中にモチーフが溢れんばかりに描き込まれています。
1枚目は「海洋生物」と名付けられていろいろな魚が描き込まれており、2枚目は「モンゴルの人とドイツの人」という不思議なタイトルの絵です。





「やまなみ工房」の施設長の山下完和(まさとさん)に恋する鎌江一美さんは「やまなみ工房」でも特に知名度が非常に高い方のひとりです。
ヒダのように粒々とした突起物で覆われた作品は何か別の世界からやってきた生き物のように見えるが、これは「まさとさん」をモデルにした作品です。
(「私がプレゼントしたひざかけを使うまさとさん)」



「やまなみ工房」の山下施設長は「障害のあるなしに関わらず、一人ひとりの得意なことや大好きなことをお互いに認め合える社会になって欲しい」と話されているという。
「お互いに認め合える社会」というのは簡単そうで実は難しいことなんですけどね。




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「orite Art青岸寺」は光のアート~早川鉄兵「切絵原画展」~

2023-12-13 06:15:15 | アート・ライブ・読書
 米原駅のすぐ近くにある青岸寺は、庭園の美しさと何時間でも過ごしていられそうな落ち着いた空間の寺院で、参拝するととても心安らかな気持ちになれる寺院です。
また、抹茶やほうじ茶を使ったスイーツの美味しい喫茶去(kissa-ko)で注文したケーキや飲み物を楽しみながら庭を眺められるのも魅力のひとつとなっています。

青岸寺はかつて近江守護職の佐々木京極道誉によって建てられた光泉寺があったとされますが、戦乱の兵火によって焼失してしまったという。
その時に本尊の聖観音像のみが難を逃れて、江戸時代まで小堂に祀られていたのを遊行していた僧が見て心を痛め、1650年に入山して再建したとされます。



復興した青岸寺は曹洞宗に改宗されて禅刹となって今日に至ります。
ご住職は檀家が十数軒だけで他の仕事と兼業せざるを得ない状況だったのを、お寺に住職はいるべきと考えて拝観者を増やす努力をされてきたそうです。

国指定の名勝庭園の知名度の向上や坐禅会の開催、寺カフェである喫茶去のオープンやライトアップなどのイベントの開催など。
その結果、安らぎを求めてやって来る拝観者は増加し、年間の拝観者数は1万人を超えるようになったようです。



玄関を入ってすぐの間にはmoss-connectさんの「苔テラリウム」が3つ展示されています。
3つの作品はそれぞれ青岸寺の風景の一部を再現しているのだそうです。

ガラスの器の中に敷き詰められた苔の上に庭園の景石や石灯籠をあしらい、庭の木も再現されています。
上からライトを当てていて、ガラスの容器の中に広がる世界は庭園の一部を再現した以上の世界観を感じます。



「陶あかり」の大橋丈夫さんの作品は、ひとつひとつの陶器から発せられる光もさることながら、襖や壁に映し出される光と影が美しい。
計算されてデザインされているのだと思いますが、襖絵に浮かび上がる光の模様が混じり合った不思議な光景です。



別の場所での展示では光の漏れ出る陶器の美しさと壁に映し出される光と影、置いてある台にはリフレクションが写り込んでいる。
本堂に展示の「組子行燈」や西川礼華さんの翠色という絵画を含めて、展示されている作品は全て光を使ったアートとなっています。



早川鉄平さんの作品は「本堂エリア」では天井に吊るされた行燈が各所にあり、「喫茶去」のスペースでは原画が並べて展示されています。
早川さんの作品は光を利用した切り絵とボードにした作品がありますが、やはり真骨頂は光で照らし出す作品ではないでしょうか。



早川鉄平さんの作品は年々街のあちこちで見かけるようになり、寺院や商業施設でのイベントも多くなって、すっかり売れっ子の作家さんです。
当方も機会があるたびに見に行っていますが、毎回新たな発見のある作家さんだと思います。



国の名勝指定の「青岸寺庭園」は、後方に控える太尾山を借景としており、枯山水庭園にも池泉庭園にも姿を変える仕掛けが施してあります。
普段の庭園は枯山水ですが、庭の横にある降り式井戸に雨などで一定量の水が溜まると庭園に水が流れて池泉庭園に変わります。
以前に梅雨の時期に雨で水が溜まった頃に訪れましたが、同じ庭園でありながら全く違う印象の庭園になっていたことに大変驚いた記憶があります。



雨の少ない今の時期は庭の池にあたる部分が苔に覆われており、雨続きだとこの苔の池に水が満たされる。
この庭園は三代目の住職・興欣和尚が『楽々園』の作庭に関わった井伊家家臣・香取某氏に依頼して1678年に作庭されものだそうです。



庭の横の渡り廊下を歩いて行った先にあるのは明治37年に建立された書院の「六湛庵」で、今回はこの書院で早川鉄平さんの切絵障子「補陀落山図」が展示されています。
9月終わりから10月いっぱいの土日祭日にはライトアップイベント「光明の灯り」が開催されていたそうです。
(「orite Art青岸寺」は11月30日で終了しています。)



昨年の「光明の灯り」にも昼に訪れたので一度は見た作品ですが、何度見ても息を潜めたくなるようなインパクトを感じます。
六湛庵にいた時間はやや陽が射してきていたので切絵障子の絵が明るく照らされていました。



障子は12枚になるのでしょうか。
鳳凰と虎は生息していませんが、他は全て滋賀県に生息している動物や鳥や魚たちです。



庭園前の喫茶去(kissa-ko)のある部屋まで戻ってくると、“どこでもドア”のような立派な造りのドアが部屋の中にある。
ノブを持って開いてみるとドアが開いて、向こう側には庭園が見えます。



ドアの向こうの世界は「補陀落山」でしょうか?
「補陀落山」は、観音菩薩の降臨する霊場で南インドにあると伝説では伝えられています。
“どこでもドア”で補陀落山へ行けるのか!←行けません。



縁側の向こうには青岸寺庭園が広がっているが、手前にはドアがある。
「悟りのドア」と呼ばれているそうですが、禅問答で語りかけられているようでもあります。



では、喫茶去(kissa-ko)でスイーツを楽しみます。
注文した品は、“抹茶テリーヌとコーヒーのセット”と“抹茶プリンと抹茶のセット”です。
禅語の「喫茶去」は“どんな理由があってもご縁があり出会った方に自分ができるおもてなしをする心”だといい、禅や茶道では有名な言葉だそうです。

  

余談ですが、昨年の「光明の灯り」にやってきた時は時間が早すぎたので、青岸山の裏の太尾山に登って太尾山城址を巡りました。
「八田山」と「太尾山」の山頂、「軍艦岩」と「蛮人岩」の奇石を越えて「湯谷神社」へ下山しましたが、低山ながらなかなかの急登続きの山でした。


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