
山へ入り、山と共存するマタギのような山人の中には山で不可思議な体験をされる方がおられるそうです。
それは例えば“キツネに化かされた”“暗闇に光が漂っているのを見た”などといった民話に出てくるような話ですが、常識では説明のつかないようなことが山では実際に起こることがあるようです。
この“山怪”という本は田中康弘というマタギカメラマンが実在するマタギや山と共存して暮らしている山人から聞き取った話をまとめた本で、これが思いのほか面白い本でした。
しかし“マタギカメラマン”なんてジャンルがあるのには驚きですね。
「山怪-山人が語る不思議な話-」田中康弘
聞き取った話のほとんどは完成された話でも教訓めいた話でもないヨモヤマ話のようなもの。
“山でこんなことがあったんだよなぁ”的な話で、薄気味悪い話からヨタ話みたいのまであるけど、マタギが体験したとされる話はリアルさがありますね。
次は日本に実在する5人の女性のマタギ(女猟師)たちへ取材して書かれた珍しいルポです。
マタギカメラマンらしく獲物の解体シーンなどの写真も多数含まれていて、興味深い話が揃っていましたよ。
「女猟師-わたしが猟師になったワケ-」田中康弘
ところで、先ほどの「山怪」には“現代版「遠野物語」”とのキャッチコピーが添えられています。
「遠野物語」は民俗学者“柳田国男”が岩手県の遠野地方に伝わる民話を、遠野地方出身で民話などの蒐集家“佐々木 喜善”が語った言葉を聞き取ってまとめた名著と呼ばれる本です。
しかしながら100年以上前に書かれた本ですから当時の文体で書かれており、過去にチンプンカンプンのまま読み終えた本だったのですが、今は新訳として現代語に書き直されたものがいくつかあるようです。
名著と呼ばれる本を新訳本(現代語)でしか読みきれないのは情けないが、京極夏彦のリミックス版でやっと遠野物語を読みきれましたわ。
「遠野物語remix」京極夏彦×柳田国男
さて、「遠野物語」はあの水木しげるも書いています。
“怪=妖怪”になるのかと思ってましたが、水木しげる本人が狂言回し役で登場して“全て妖怪の仕業だ”とは書きつつも、原作を忠実に説明するかのようにビジュアル化してもらえてありがたい。
水木しげるがこれを書いた時、齢87歳だったというから、やっぱりあの先生は妖怪やね。
「水木しげるの遠野物語」原作 柳田国男、水木しげる
ということでこの「山怪」、重版を重ねていて注目されているとのことです。
どんな読者層に受けているのか興味があるところですね。