hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

森絵都『風に舞いあがるビニールシート』を読む

2024年08月03日 | 読書2

 

森絵都著『風に舞いあがるビニールシート』(文集文庫も20-3、2009年4月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋BOOKSでの担当編集者より

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり……。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。解説・藤田香織

 

また、第6話の表題作は、2009年、NHKの土曜ドラマで5回に渡り放送された。

 

初出:「別冊文藝春秋」2005年3月号~2006年1月号(一部改題)。

単行本:2006年5月文藝春秋刊

 

 

「器を探して」:最後が意外で、恐ろしい。

「犬の散歩」:恵利子と義母が二人して競い合うようにビビちゃんの良い所を挙げて、最後はヴィヴィアン・リーだの、原節子だのとエスカレートしていくのが笑えた。

「ジェネレーションX」:若い石津がいい味出していて、一方、最後の一言が切なくて、笑っちゃう!

「風に舞いあがるビニールシート」:確かに難民保護のUNHCRの現実は抑えても抑えても舞いあがるビニールシートなのだろう。死を賭してその中に入り込んで行く人々が現実に存在するのだ。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

森絵都は、童話作家で、優しさ、暖かさがあるとは思っていたが、リアルな描写もうまく、「何なんだこの人は?」と思う。

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

以下、私のメモ

 

いつも、読んでもらうには長々と書きすぎるのは分かっているが、この作品だけは私のためにここに充分書き残して置きたい。

 

「器を探して」

天才的ケーキ職人でお嬢様経営者のヒロミに、美濃焼の器を探しに行って欲しいとクリスマス・イヴの朝に唐突に言われた黒子役の弥生は憤ったが、信奉するヒロミに観念して多治見へ出張した。婚約者の高典からはたびたびのメールがあり、今夜はプロポーズで「僕を選ぶのか、あの女を選ぶのか」と迫られている。
多治見の窯元で、弥生を釘付けにした瀬戸黒は、引出黒というめちゃくちゃ手間がかかる技法で作られていた。ヒロミのプディングと融合した光景を想像した弥生は、30万円、しかもフィーリングのあった客にしか売らないという男に……。

 

「犬の散歩」

昭和チックな「スナック憩い」のホステスの恵利子は何のために水商売を始めたかというと、ワンちゃんのためだという。32歳の主婦・恵利子は、捨て犬や迷い犬など行き場のない犬を自宅で預かって里親を探す活動をする「仮宿クラブ」のボランティア活動をしているのだ。
八幡山の保健所の施設には、昨年1.5万匹の犬猫が収容され、1.2万匹が殺処分されたという。収容された犬に残された時間は7日間だけ。家庭犬として再出発をはかれると認められた犬だけはしつけ訓練を施される。保護団体は譲渡先を探したり、微妙なラインにいる犬を引き取ったりする。
長くこの活動をしている恵利子の友人の尚美は云う。「自分はこの犬たちの1割を救っているんだって思いじゃなくて、ここにいる9割を見捨てているんだって思いなの」

 

「守護神」

裕介は、日中はホテルでバイト、夜は夜間大学と時間がなく、卒業のためにはまだ4本もレポートを書かねばならない。1本だけでも代筆を依頼するため伝説的な代筆の達人学生・ニシナミユキを探す。
ようやく見つけた彼女に2年続けて断られたが、心の内をしゃべることになって、結局なにも得るものはなかった。しかし、唯一もらったダサい二宮金次郎の携帯ストラップが裕介には意外なほどたくましい守護神に感じられた。

 

「鐘の音」

仏像・不空羂索観音像の修復に尋常ではないほどに思い込みを持って情熱を燃やす本島潔は、マニュアル通りに修復しようとする親方・松浦に反抗し、本体修復から外される。
25年後、潔は当時の同僚・吾郎に会って、昔を思い起こす。仏像の種類、修復師の仕事内容の解説が興味深い。

 

「ジェネレーションX

雑誌社の40歳に近い野田健一は、直立不動で詫びて低頭するが図太さが透けて見える新人類の若い玩具メーカーの石津と共に、車で2時間以上のクレーム先に謝罪に行く。
途中、あきらかに私用電話がかかってくる。「じゃあ、もう一件だけ、いいっすか」と、気楽な調子で次々と電話を掛けまくる石津。「君、仕事中だよ」の言葉を飲み込んだ健一も、青空同窓会でも計画しているのか、などと思わず想像してしまう。
「フジリュウは放っときゃいいんじゃないのか」と、つい引き込まれて思わず話に乗ってしまった健一に、石津は「普段は放ってるんです。けど……」……「高校時代の野球部メンバーと草野球するんですよ」

……「あの……野田さん、野球やってたんすか」

その後の話もここに書きたいが、あまりにも長くなったので。是非本を読んでください。いい話で、しかも最後の一言が切なくて、笑っちゃう!

 

「風に舞いあがるビニールシート」

里佳は、使えない社員は解雇され、使われ過ぎた社員の多くは過労で退社する投資銀行で5年勤めたが、仕事に誇りを持てず、難民を保護し支援する国連機関UNHCRの応募し、一般職員として内勤勤務していた。里佳はエドと結婚するが、再び専門職員となったエドは次から次へと、危険な紛争地へでかけ、7年、間の東京生活で里佳と過ごす日は数えるほどで、すれ違いのまま離婚した。世界の紛争は常にどこかで燃え盛っている。風は止まらないし、ビニールシートは抑えても抑えても風に舞い上がってしまう。
そして、エドがアフガンで死んだという知らせに里佳は立ち直れない。一般職員の里佳に上司のリンダは専門職員の資格を取って、紛争地へ出ていくことを勧めるのだが……。

 

 

 

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阪井裕一郎『結婚の社会学』を読む

2024年07月31日 | 読書2

 

阪井裕一郎著『結婚の社会学』(ちくま新書1789、2024年4月10日筑摩書房発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

結婚をめぐる常識は、日々変化しています。事実婚、ステップファミリー、同性パートナーシップ、選択的シングルなど、一対の男女による結婚→出産というモデルではとらえきれない家族のかたちがたくさんあるのです。この本では、国際比較、歴史的比較、理論という三つの視点から、結婚というものを解き明かしていきます。当たり前を疑ってみることで、「ふつうの結婚」「ふつうの家族」という考え方を相対化できるはずです。

 

(1)「結婚しない人が増えると少子化が進む」は間違い。
諸外国の例では、未婚率が高くとも、結婚という形態をとらずに子を産み、家庭を営むケースが少なくないからで、出生率は必ずしも低くならない。

 

⑵「女性の就労率が上がると出生率が下がる」も間違い。OECDのデータなどでは、女性の就労率が高い方が出生率が高い。女性の就労を支える社会全体の意識と体制が整っているほど、子育てはしやすいからだ。

 

推計では、2000年生まれの女性の約31%が生涯子どもを持たないし、孫を持つ確率は50%ともいわれるそうだ。

 

「結婚の常識を疑うというのが本書に通底する問題意識となります。多くの人が「自分のせい」「自分だけ」と思い詰めている問題が、実は社会的な問題であるということに気づくというのはきわめて大事なことであり、社会学にはそれを示す責務があると思っています。」

(見合結婚以上に、恋愛結婚において、より強い学歴同類婚と職業同類婚の原理が働いていた。恋愛による配偶者選択にも一定の社会的な力が働いていたのだ)

「社会学はわれわれが個人的なことだと信じていることの社会的な側面を問うことを重視する学問です。」

 

 

阪井裕一郎(さかい・ゆういちろう)

1981年、愛知県生まれ。慶應義塾大学文学部准教授。専門は家族社会学。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。福岡県立大学人間社会学部専任講師、大妻女子大学人間関係学部准教授を経て、2024年4月より現職。著書に『仲人の近代』(青弓社)、『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社)、共著に『結婚の自由』(白澤社)、『社会学の基礎』(有斐閣)、共訳書にエリザベス・ブレイク『最小の結婚』(白澤社)などがある。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

結婚について社会学の立場から論じている。確かに、結婚相手を選ぶことは極めて個人的な問題だと思うが、その背景には社会的問題が横たわっていて、本書はそれを説得力ある形で提示している。

 

家庭というものは、何を基軸として作り上げるものなのだろうか? 

 

それにしても、自民党保守派の人々が自らの主張を広める力がなく、代わりに法律で縛り付けようとしているために、日本の活力を奪い、人口減少に拍車をかけ、日本が世界から引き離される原因を作っている。非国民め!

 

 

 

 

以下、私のメモ。

 

序章 「結婚」を疑う

・1970年に生まれた女性の50歳時点での、日本の無子率(子どものいない割合)は27%と先進国で最も高い。

・1990年代以降、欧米の多くの国で婚外同棲カップルが増加し、婚外子が増加した。

・日本の婚外子割合は約2%と、極端に低い(EU、OECD平均は40%超)

 

第1章 結婚の近代史

・1872年、明治政府は国民を管理するために、皇族以外のすべての国民の戸籍を作成した。

・仲人を介した見合い結婚は、江戸時代には約5%しかいなかった武士階級にほぼ限られていた。庶民の結婚媒介は「若者仲間」「娘仲間」を中心に行われ、夜這いが標準的だった。見合いは明治時代に大衆化した。

・1930年に公営結婚相談所が開設された。国家事業として、人口政策と優性政策のためだった。

 

第2章 結婚の現代史

・戦後、結婚すると夫婦単位の新戸籍を作ることになり、三代戸籍は禁止された。

・1970年代に恋愛結婚が見合結婚を上回り、職場結婚がしばらくの間、3組に1組とトップになった。生涯未婚率は5%を割る「皆婚社会」を支えたのは企業社会だった。

・見合結婚以上に、恋愛結婚において、より強い学歴同類婚と職業同類婚の原理が働いていた。恋愛による配偶者選択にも一定の社会的な力が働いていたのだ。

 

第3章 離婚と再婚

・最近の離婚件数は、その年の婚姻件数の1/3にあたる数値。

・日本の結婚の26.7%が再婚(2020年「人口動態調査」)。ステップファミリーの家族形成に問題が多い。

 

第4章 事実婚と夫婦別姓

・婚外出生率はUE平均もOECD平均も40%。日本は2.4%。

・自分自身や社会状況に対する若者のリスク意識の高まりが、結婚を回避し同棲のような穏やかな関係性を選択するという指摘がある。

・世帯変更届により住民票で続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」と記載しているのは事実婚。そうでなくても、結婚しているとの意識を持ち、二人の関係をオープンにしていれば事実婚で、内縁とは違う。

・夫婦別姓を認めていないのは国連加盟国で日本だけ。

 

第5章 セクシュアル・マイノリティと結婚

・生物学的性別と性自認が一致していないことは、従来、性同一性障害と呼ばれていたが、世界的にはトランスジェンダーが一般的な呼び名になった。生物学的性別が女性で性自認が男性なあば「トランスジェンダー男性」と呼ばれる。

・「同性愛者はすべての同姓を常に性的にみている」と思い込む人が多い。

 

終章 結婚の未来

ジェンダー法学者のマーサ・A・ファインマンは、性的関係に基づく特権や保護はすべて廃止すべきだという立場から法的な結婚制度の廃止を提唱している。「どうして結婚が国家の援助と公的扶助を受けるために支払わなくてはならない入場料にならなくてはいけないのか。どうして家族を、結婚関係をつうじて定義しようとするのだろうか」

 

 

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岩井圭也『われは熊楠』を読む

2024年07月29日 | 読書2

 

岩井圭也著『われは熊楠』(2024年5月13日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋BOOKSの紹介文

カテゴライズ不能の「知の巨人」、その数奇な運命とは

「知る」ことこそが「生きる」こと

研究対象は動植物、昆虫、キノコ、藻、粘菌から星座、男色、夢に至る、この世界の全て。
博物学者か、生物学者か、民俗学者か、はたまた……。 

慶応3年、南方熊楠は和歌山に生まれた。
人並外れた好奇心で少年は山野を駆け巡り、動植物や昆虫を採集。百科事典を抜き書きしては、その内容を諳んじる。洋の東西を問わずあらゆる学問に手を伸ばし、広大無辺の自然と万巻の書物を教師とした。
希みは学問で身をたてること、そしてこの世の全てを知り尽くすこと。しかし、商人の父にその想いはなかなか届かない。父の反対をおしきってアメリカ、イギリスなど、海を渡り学問を続けるも、在野を貫く熊楠の研究はなかなか陽の目を見ることがないのだった。
世に認められぬ苦悩と困窮、家族との軋轢、学者としての栄光と最愛の息子との別離……。
野放図な好奇心で森羅万象を収集、記録することに生涯を賭した「知の巨人」の型破りな生き様が鮮やかに甦る!

 

南方熊楠(みなかた・くまぐす)は、1867年和歌山市に生まれ、子供の頃から野原を歩いて動植物の採取に熱中していて「天狗」(てんぎゃん)と呼ばれていた。両替商、金物屋を営む豊かな商家の次男に生まれたが、商売に興味が持てず、「我(あが)は、この世のすべてを知り尽くしたい」と願っていた。

 

東京の大学予備門の合格したのは良いが、19歳の時、強烈な脳病に襲われ、和歌山に帰った。アメリカの農学校に入ったが、講義が嫌いで直ぐ辞めて、25歳になってからロンドンへ渡った。独学で「東洋の星座」に関する論文を書いて「ネイチャー」掲載された。伝手を頼って大英博物館へ出入りし、手つかずの東洋美術の目録作りを依頼される。しかし、トラブルを起こし、日本へ帰り、和歌山県田辺で隠花植物(花を持たない植物の総称)の採取・研究に入れ込んだ。

 

南方熊楠は、生涯で『ネイチャー』誌に51本の論文が掲載されるなど、国内外で大学者になったが、生涯を在野で過ごした。6か国語に通じ、博覧強記で、先進的業績、膨大な採取資料を残したが、癇癪もち、変わり者で、奔放自由で純粋な生き方を貫いた。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

在野の学問の巨人、変人の熊楠の生涯を要領よく描いている。328頁と大部で、巻末の参考文献は40数冊を数えるが、彼の全容を捉えたているとは言えないし、私には熊楠が分かったという気はしない。なにしろ世界を股にかけた巨人なので、やむを得ないだろう。

日本人離れした、まさに在野の学問の巨人が明治の世にはいたことをもっと若者には知ってもらいたい。

 

 

岩井圭也(いわい・けいや)

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。

2018年『永遠についての証明』で野性時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー
2023年『完全なる白銀』で山本周五郎賞候補、『最後の鑑定人』で日本推理作家協会賞候補
2024年『楽園の犬』で日本推理作家協会賞候補
2024年『われは熊楠』直木賞候補

その他の著書に『水よ踊れ』『生者のポエトリー』『付き添うひと』『暗い引力』「横浜ネイバーズ」シリーズなど多数。24年5月、刊行。

 

Web別冊文藝春秋 岩井圭也ロングインタビュー

熊楠の人生って面白いことがありすぎて、全部書きたくなっちゃう。孫文と仲が良かったとか、アメリカへ留学していた頃、旅先のキューバでサーカス団についていったとか、伝説には事欠かない。彼の身に起きたことを順番に書くだけで十分に面白いので、小説としての切り出し方が難しいんです。

 

 

以下、私のメモ

 

粘菌:不定形の痰のような変形体の時期には、自ら動き回ってバクテリア等のエサを捕食する。周囲に食物がなくなると、小型のきのこのような形状の子実体(しじつたい)に変化し、胞子を撒き散らし、また変形体になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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河崎秋子『ともぐい』を読む

2024年07月25日 | 読書2

 

河崎秋子著『ともぐい』(2023年11月20日新潮社発行)を読んだ。

 

新潮社の内容紹介

明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河崎流動物文学の最高到達点!!    第170回直木賞受賞作

 

舞台は明治期、日露戦争前夜の北海道東部、白糠の山中。世間と距離を置き、一頭の猟犬と山奥の粗末な小屋に住む猟師・熊爪(くまづめ)は、必要がなければ白糠の町には下りず、山中で自給自足の暮らしを送っている。

 

熊爪が村田銃で鹿を撃ち、腹を裂いて内臓を引きずり出し、新鮮な肝臓を味わう場面から物語は始まる。
仕留めた鹿を担いで白糠の町に向かう。熊爪にとって唯一の社会との接点である門矢商店の井之上良輔が、獲物を高額で買い取ってくれるのだ。良輔の屋敷には妻・ふじ乃、目の見えない少女・陽子がいた。

 

熊爪は山の中で負傷した阿寒の猟師・太一と出会う。冬眠せず狂暴化した、穴持たずの熊を追いかけてきたのだが、逆襲されて目を潰されていた。山中に男を残して行けば、熊が食い、人の味を知る。やむをえず、熊爪は彼を助け、穴持たずの熊を狩る決意を固める。その対決が彼の運命を変えることになる。

 

熊との闘いで大きな傷を負った熊爪は、山で生き続けるか、炭鉱で働くか、決断を迫られる。そこに、陽子の存在がからんでくる。

 

 

初出:小説新潮2022年8月号~2023年7月号

 

 

河崎秋子(かわさき・あきこ)

1979年北海道別海町生まれ。

2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞
2014年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、同作で2015年度JRA賞馬事文化賞
2019年『肉弾』で第21回大藪春彦賞
2020年『土に贖う』で第39回新田次郎文学賞を受賞

2023年 本書『ともぐい』で第170回直木賞受賞。

他書に『鳩護』『絞め殺しの樹』(直木賞候補作)『鯨の岬』『清浄島』など

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

熊爪は獣に近い生活をしていて、獣たちの中で生きるために人里で暮らす人間とは違う割り切った考え方をする。この山男の考え方を、それも面白いと感じる私は、四つ星にしたが?

 

鹿を捌く場面など、皮膚を切り開いて、その下の臓物を掴みだし、滴る血は流れ、微かな腐敗の臭いが始まるなど生々しい描写がえぐく、読む気にならない人も多いのではと思う。私は平気で冷静に読める質なので四つ星にした。

 

まさに文明社会が固定されようとする直前の時代の話で、山と里の他にも、新時代に移ろうとする時代にはいろいろ面白そうな話がありそうだと思った。

 

 

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万城目学の略歴と既読本リスト

2024年07月24日 | 読書2

 

万城目学(まきめ まなぶ)

1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒。化学繊維会社で経理を担当しながら小説を書く。

2006年『鴨川ホルモー』でボイルドエッグズ賞受賞しデビュー、2009年映画化、舞台化
2007年『鹿男あをによし』で直木賞候補、2008年TVドラマ化
2009年『プリンセス・トヨトミ』で直木賞候補、2010年映画化
2010年『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』で直木賞候補
2024年『八月の御所グランド』で直木賞受賞

その他、『偉大なる、しゅららぼん』が映画化、『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『あの子とQ』

エッセイ、『べらぼうくん』『万感のおもい』

 

 

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万城目学『八月の御所グランド』を読む

2024年07月23日 | 読書2

 

万城目学著『八月の御所グランド』(2023年8月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋BOOKSの紹介

第170回直木賞受賞作! 感動、感涙の傑作青春小説

死んだはずの名投手とのプレーボール
戦争に断ち切られた青春
京都が生んだ、やさしい奇跡


女子全国高校駅伝――都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。
謎の草野球大会――借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。

京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは--

今度のマキメは、じんわり優しく、少し切ない
青春の、愛しく、ほろ苦い味わいを綴る感動作2篇

 

 

「十二月の都大路上下(カケ)ル」

3年生と2年生のレギラー5人が都大路を走り、1年生はコースに散って応援する予定だった全国高校駅伝。突然、1年生の坂東(さかとう)はコーチに呼ばれ、地区大会優勝の功労者、心弓(ココミ)が貧血で欠場するから、代わりにアンタが走れと言われてびっくり。1年生では咲桜莉の方が、タイムが良いのだが、坂東の伸びを買われたのだ。しかし、絶望的方向音痴で、試走していないコースを間違わないか坂東は心配する。しかも、アンカーなのだ。

 

スタートは赤ユニホームの選手とほぼ同時で、唯一の曲がり角も、「右だよ、右!」の声に救われ、ラスト近くまで頑張って並走した。しかし、謎は、歩道を「誠」の字の着物を着たコスプレ(?)集団が走っていたことだった。

 

「八月の御所グラウンド」

丸ごと地獄の釜である八月の京都で、「あなたには火がないから」と、彼女に振られて旅行がなくなった4回生の朽木(くつき)は多聞から呼び出されて焼肉を食っていた。多聞は、三福教授からの卒業の交換条件として、炎天下の御所G(京都御所内にあるグラウンド)で朝6時から行われる野球5試合にメンバーを集めるという条件を出され、3万円の借財のある朽木も参加させられた。

 

毎試合、メンバー集めが困難で、研究室の学生の他、多聞が働く祇園のクラブの同僚でぎりぎり9名。誰かが休み、欠員必須の時、偶然やって来た中国留学生の烈女・シャオさん、その次も、えーちゃん他2名が偶然来て辛くもメンバーが揃う。謎のメンバーの正体は?

 

 

初出:「オール読物」の「十二月の都大路上下ル」2022年5月号、「八月の御所グランド」2023年6月号

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

「十二月の都大路上下(カケ)ル」:駅伝を走る選手の不安な心理が良く書けていて、元ジョギング愛好家としては「そうそう、そうなんだよな」と面白かった。スポーツ選手らしく、思いやりあるが、気持ちよくさっぱりしていて、好い話!

 

「八月の御所グラウンド」:今まで何十年も、メンバーが集まらない時には謎の人物が偶然のように現れて試合が成立してきたという。この謎の人物が現実の人なのか、亡霊なのか、判然としないまま話が進むところが面白い。

 

万城目さんの小説には、いつも亡霊なの?と疑いたくなる人が登場して、ミステリアス。

 

万城目学の略歴と既読本リスト

 

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堂場瞬一の略歴と既読本リスト

2024年07月22日 | 読書2

 

堂場瞬一(どうば しゅんいち)

1963年茨城県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。読売新聞社勤務のかたわら小説を執筆。

2000年スポーツ小説『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞。
2001年『雪虫』第二作は警察小説だった。
2012年末、読売新聞社退社し、専業作家となる。
2015年『警察回りの夏』で第36回吉川英治文学賞受賞。
2021年、作家デビュー20周年を迎えた。

著書に「警視庁犯罪被害者支援課」「警視庁追跡捜査係」「ラストライン」シリーズ『罪の年輪 ラストライン6』ほか、『小さき王たち』『0』『幻の旗の下に』『聖刻』『八月からの手紙』『傷』『誤断』『黄金の時』『Killers』『社長室の冬』『バビロンの秘文字』(上・下)『犬の報酬』『絶望の歌を唄え』『砂の家』『ネタ元』『動乱の刑事』『宴の前』『帰還』『凍結捜査』『決断の刻』『チーム3』『空の声』『ダブル・トライ』『鷹の系譜』『誤ちの絆』『ラットトラップ』など多数。

 

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堂場瞬一『罪の年輪』を読む

2024年07月21日 | 読書2

堂場瞬一著『罪の年輪 ラストライン6』(文春文庫と24-24、2024年3月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

玉川上水の河川敷で元小学校教員の小村春吉87歳が遺体で発見された。高齢の犠牲者に戸惑う岩倉だったが、やがて自首してきた三嶋輝政も87歳、岩倉にとって過去最高齢の容疑者だった。三嶋は殺人の経緯については素直に自白するが、なぜか動機だけは頑なに語ろうとしない。知り合ってから60年越しに起きた殺人事件の真相は?

 

犯人はすぐに自首してきたのだが、動機は黙秘していて分からない。60年前の砂川闘争で何らかの恨みがあったにしても、なぜ今頃殺人なのかが分からない。厳しが有能な教師だったという殺された小村の教え子を探して、何か恨みを買うような事がなかったか尋ねるが……。

 

岩倉:立川中央署刑事、ガンさん、55歳、記憶力抜群。本籍は本部・捜査1課で、現課長・石本から捜1復帰を誘われる。定年は65歳。元妻は大学教授、大学2年の娘千夏。恋人は20才年下の舞台女優の実里。

末永:立川中央署・刑事課長。岩倉の年下だが上司。

戸澤:岩倉の教育を受ける捜査パートナー。コミュニケーションに難。中野中央署長の長男

平沼多佳子:立川中央署刑事、28歳。打てば響く聡明さ。

小村春吉:玉川上水で死体で発見された。87歳、元小学校教諭、退職後無料の学習塾、施設入居。

三嶋輝政:殺人を自首。87歳。動機は黙秘。小村とは60年以上前の砂川闘争で知合う。逮捕されたが、不起訴だった。息子は照英。

 

 

本作品は文春文庫のための書下ろし

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

久しぶりに読む警察小説なので、警察内部の力関係、人間模様は面白かった。

 

結局、面白く読めたので、四つ星でもよいのだが、謎解きには工夫がなく、最後の場面でも緊迫のシーンがない。単独犯かどうかもはっきりしないで終わっている。

 

塾の生徒の名簿が見つかり、何人かに「S」のマークが付いていたというところで、私には恨みの種がわかってしまった。

 

堂場瞬一の略歴と既読本リスト

 

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方丈貴恵『アミュレット・ホテル』を読む

2024年07月19日 | 読書2

 

方丈貴恵著『アミュレット・ホテル』(2023年7月30日光文社発行)を読んだ。

 

光文社の紹介

殺し屋、詐欺師、窃盗グループの皆様……
犯罪者御用達ホテルにようこそ

アミュレット・ホテルは2つのルールさえ守っていただければ、どんなサービスでもご提供いたします。偽造パスポートでも、グレネードランチャーでも、ルームサービスでお申し付けください。ただし、ルールを破った方には、それ相応の対価を支払っていただきます。警察に通報したりはいたしません。我がホテル探偵は優秀ですから。秘密裏にきっちり処理させていただきます。
ホテル支配人 

 

アミュレット・ホテルの本館は通常のホテルだが、別館は全てスイートルームで会員資格を有する犯罪者しか立ち入りも許されない。9階までが低層フロアで、10階以上が高層フロア。

 

アミュレット(amulet)は、「お守り」の意味で、一般的には「魔除けのお守り」に使われる装飾品のこと。

 

主な登場人物

師岡:ホテルのオーナー。元犯罪集団のトップ

桐生:道家の秘書のきゃしゃな女性。道家に育てられた「殺し屋エレボス」なのだが、ホテル探偵になる。

水田:几帳面なホテル従業員。用心棒。

道家:40年にわたり、不可能と思われた犯罪の計画を立て、成功させてきた。今、病の床にある。

 

佐々木:強請(ゆすり)屋。絞殺される。

信濃:詐欺グループ『エリス』のボス。30代後半。

伊田:主に海外で活動する殺し屋。40歳以上だが美人。

深川:美術品を贋作に変える窃盗グループ『プロメテウス』の幹部。30代前半。

明石:フィクサーとして複数の犯罪組織をまとめていた。毒殺される。

桂:国内最大級窃盗グループのリーダー。

 

 

「アミュレット・ホテル」

9階の密室で、佐々木が絞殺され、傍らにハウスキーパーの遠谷が倒れていた。

 

「クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人」

佐東は道家を裏切って明石の下についた。殺し屋エレボスを恐れ、見張り8人で別荘に籠っていたのだが…。

 

「一見さんお断り」

アリアが膨大な財産を相続するために必要なキーホルダーを木庭有麻に盗まれ、『ケルベロス』の下っ端スリの瀬戸博貴は幼馴染のアリアのために取り返そうとする。

 

「タイタンの殺人」

犯罪業界のトップクラス5名が集まる『ザ・セブン』(タイタン会議、ホテル出資者の会)が5年ぶりにホテル別館で開かれた。師岡のライバルの武器密輸王・笠居が殺され、疑われた師岡が大ピンチに陥る。

 

初出:「ジャーロ」73号(2020年9月)~86号(2023年1月)

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

登場人物が多すぎて、いずれも犯罪集団のボスなので、混乱する。話も同じようなパターンが多い。

 

ミステリータイプとしては、密室など本格物なのだが、謎のレベルが低い。

 

 

方丈貴恵(ほうじょう・きえ)

1984年兵庫県生まれ。京都大学卒。兄弟推理小説研究会に所属していた。

2018年、『遠い星からやって来た探偵』が第28回鮎川哲也賞最終候補
2019年、『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞受賞しデビュー
2023年には『名探偵に甘美なる死を』が第23回本格ミステリ大賞候補
2024年『アミュレット・ホテル』が・第24回本格ミステリ候補作

その他、『孤島の来訪者』

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柚木麻子の略歴と既読本リスト

2024年07月16日 | 読書2

柚木麻子の略歴と既読本リスト

 

1981年東京生まれ。恵泉女学園中学・高等学校卒。立教大学文学部フランス文学科卒。
2008年「フォーゲットミー・ノットブルー」でオール読物新人賞受賞、同作を含む『終点のあの子』で2010年にデビュー。

2015年 『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞受賞、直木賞候補

その他、『私にふさわしいホテル』、『あまからカルテット』、『嘆きの美女』、『王妃の帰還』、『ランチのアッコちゃん』、『伊藤くん A to E 』(直木賞候補)、『本屋さんのダイアナ』(直木賞候補)、『BUTTER』    、『マジカルグランマ』(直木賞候補)、『らんたん』、『ついでにジェントルメン』、『オール・ノット』、『ナイルパーチの女子会』、『あいにくあんたのためじゃない

マンガ『魔法使いの心友』の原作

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柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』を読む

2024年07月15日 | 読書2

 

柚木麻子著『あいにくあんたのためじゃない』(2024年3月20日新潮社発行)を読んだ。

 

新潮社の特設サイトの紹介

過去のブログ記事が炎上中のラーメン評論家、夢を語るだけで行動には移せないフリーター、もどり悪阻とコロナ禍で孤独に苦しむ妊婦、番組の降板がささやかれている落ち目の元アイドル……いまは手詰まりに思えても、自分を取り戻した先につながる道はきっとある。この世を生き抜く勇気がむくむくと湧いてくる、全6篇。

 

 

特設サイトの著者メッセージ

 

読者の皆様へ

自分の機嫌を自分でとれない方にたのしんでいただけたらありがたいです。
めんや 評論家おことわり→ラーメンを実際に作ってみて気づいたことを全てかきました。
BAKESHOP MIREY’S→若い方に相談をもちかけられると、ついつい力技で一瞬で解決してしまいたくなる、私の悪いところから生まれた話です。
トリアージ2020→これは実際に私の身の回りで起きたことがもとになっていて、私の鎖骨の間にも抜糸の跡があります。
パティオ8→これも私の友達から聞いた話がもとになっています。zoomで吐いたのは私の話です。
商店街マダムショップは何故潰れないのか?→昔から商店街マダムショップがきになっていて、ようやく最近、中に入ったり、購入することができるようになりました。その度に、女主人たちがなぜか驚いた顔をすることから、生まれた話です。
スター誕生→どうして、この話を書こうと思ったか、理由は伏せますが、強いて言うならば、MCワンオペがうっかり言ったことは、私が本当にたまたま口にしたことです。

 

第171回直木賞候補作。ちょっと毒のある6編の短編集。

 

「めんや 評論家おことわり」

「全方位型淡麗大航海時代の幕を切ったと言われる、今年で創業50年「中華そば のぞみ」は、…」で始まるラーメン・オタクのうんちく、詳細なこだわりが続く。(参考文献に『最新解説 ラーメンの調理技法』があった。)
ラーメン評論家・ラーメン武士が炎上し、謝罪する。受け入れられ、招待された「のぞみ」に行くと、被害者達が集合していて、過去の悪行を突き付けられ、つるし上げにあう。

 

BAKESHOP MIREY’S

新幹線が停まるようになって栄え始めた街の留学斡旋会社に勤める秀美は、焼き菓子を出す小さな店舗を始めたいというアルバイトの未怜を応援し、入れ込んで行く。

 

トリアージ2020

多数の患者の中で一人でも多くに命を救うために治療の優先順位を決めることが「トリアージ」。
一人暮らしの升麻梨子は妊娠し、つわりが酷くてひきこもり状態となり、TVの「トリアージ~呼吸器内科医・宝生雅子~」にはまっていた。麻梨子はこの長寿番組の話題をつうじてフォロワー18万人といいう「よこちん」と知り合った。ネットで何も食べられないと嘆くと、よこちんの母という横山典子が訪ねてきて……。

 

パティオ8

「中庭で子どもが騒いでも気にしないこと」が入居条件の「パティオ6」で、101の宮本が子どもたちをうるさいと怒鳴る。子どもを中庭で遊ばしている間に仕事している母親たちは……。

 

商店街マダムショップは何故潰れないのか?

次々とシャッターを下ろす商店街で客が入っているのを見たことがない婦人雑貨店「ドゥリアン」の不思議。

 

スター誕生

90年代に美少年グループデビューし、40代半ばでようやくキャスターに収まったが、打ち切りがささやかれる真木信介。40代くらいの女がファミレスでカメラに向かってヒステリックに、YouTuber「独居老人しげる」に無断撮影したとまくし立てている動画が拡散され続けている。この女性がカッコ良く、「MCワンオペ」と名付けられて人気なのだ。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

直木賞候補作品なので読んだのだが、他人に配慮せず撮影優先のYouTuber、善意の押し付け者など、登場人物に共感できず、悪意の仕返しなど後味の悪さが残った。爽快だった『ランチのアッコちゃん』が懐かしい。

 

例えばラーメンの作り方など細部は魅力的なのに、舞台設定、展開にわざとらしさ、人工的な部分があり、素直に読み進められない。筋をひねりすぎるので、話がすっと入ってこない。

 

魅力的なタイトルはどこに行ったの?

 

 

柚木麻子の略歴と既読本リスト

 

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新川帆立『女の国会』を読む

2024年07月11日 | 読書2

 

新川帆立著『女の国会』(2024年4月15日幻冬舎発行)を読む。

 

幻冬舎による作品紹介

選挙に弱い政治家は、誰かの言いなりになるしかない。
だから――。
強くなりたい。

国会のマドンナ“お嬢”が遺書を残し自殺した。
敵対する野党第一党の“憤慨おばさん”は死の真相を探りはじめる。
議員・秘書・記者の覚悟に心震える、政治×大逆転ミステリ!

野党第一党の高月馨は窮地に追い込まれた。
敵対関係にありつつも、ある法案については共闘関係にあった与党議員・朝沼侑子が自殺したのだ。
「自分の派閥のトップも説得できていなかったの? 法案を通すつもり、本当にあったの?」
死の前日の浅沼への叱責が彼女を追い詰めたのではないかと批判が集まり、謝罪と国対副委員長の辞任を迫られてしまう。
だが、長年ライバル関係を築いてきた高月には朝沼の死がどうも解せない。
朝沼の婚約者で政界のプリンス・三好顕太郎に直談判し、共に死の真相を調べることに。

 

 

秘書の沢村が原案を作り、高月が中心メンバーとなり、超党派の議連を組んで成立する見込みだった「性同一性障害者に関する法律の改正案」が提案できなくなった。
野党の高月は、周囲に議員がいる前で、与党のお嬢・朝沼に「私、憤慨しています」と抗議した。朝沼は「急に三好幹事長が反対にまわったんです」と言い、さらなる高月の追及にさめざめと泣きだした。

そして、翌々日、お嬢が死んだ。青酸カリを飲んだという。高月は四面楚歌に陥り、沢村とともにお嬢の死の謎に迫る。

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

あくまで一例に過ぎないのだが、国会での法案成立への動き、脅し、取引が具体的で面白い。最後の最後の謎解きは強引で無理筋だが、それまでの話が面白いので、許そう。

 

痩せていて、強烈な言葉で追及する男勝りの女性議員は現実にも散見する。しかし、高月は、カラッとしたぼやき・嘆きなど真の強さを見せる。強烈な外面と内面を見事に描いた著者の腕は確かだ。権力者の男たちの中で奮闘する女性議員にエールを送ろう。

 

 

新川帆立(しんかわ・ほたて)の略歴と既読本

 

 

 

以下、私のメモ

 

野党・民政党

高月馨:NPO出身の衆議院議員。国対副委員長。46歳。憤慨おばさん。

沢村明美:高月の制作担当秘書。29歳

田神:幹事長。高月の育ての親。

 

与党・国民党

三好派:三好顕造(幹事長。83歳)、三好顕太郎(顕造の息子、42歳、朝沼の婚約者、金堂は秘書)、朝沼侑子(お嬢、ウソ泣きお嬢。46歳。父が元首相。国対副委員長)

最大派閥陽三会:諸川(首相を狙うボス)、山縣(三度目の選挙は危ない。秘書は井阪)

 

毎朝新聞社・政治部

明石(特オチを恐れず、特ダネを狙う記者)、和田山怜奈(明石の部下、33歳。顕太郎担当。死の直前に朝沼からのメモを受信する)

 

 

他人を脅かすときは、ニコニコ笑いながら話すのがよい。(高月)

 

選挙に弱い政治家は、誰かの言いなりになるしかない。たいていは極端な思想の支持団体に頼る。(高月)

 

駅前で毎朝元気よく挨拶をする。名前を言う。それだけだ。毎朝そこにいて、いつも頑張っている人として覚えてもらえれば良い。内容のあることを言う必要はない。

 

高月が次回の公認を外されそうになったとき、地元のボスとの宴会を設定し、自分は赤い着物を着て踊り、沢村にはスケベお爺に隣の席へ座らせた。結果、次回の公認に見込みが立った。
沢村は国会議事堂の池の赤い鯉を見て、高月の覚悟を知った。黒いスーツの男が行き交う国会で、いろどりのあるのは、女性議員と赤い鯉だけだ。
しばらくして、高月が沢村に深く頭を下げて宴会のことを謝った。沢村はぼそっと言った。「そういうときは、あの、ありがとうって言ってほしい、です」……。沢村が差し出した手を高月が力強く握り、照れたように笑って言った。「女の国会へようこそ」

 

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草笛光子『いつも私で生きていく』を読む

2024年07月07日 | 読書2

 

草笛光子著『いつも私で生きていく』(小学館文庫く15-1、2018年8月12日小学館発行)を読んだ。

 

小学館の内容紹介

草笛光子 女優84歳 初めての自叙伝
80代を過ぎてなお、美しく輝き続けている草笛光子さん。そんな草笛さんが初めて半生を語り下ろした話題の1冊です。毎日の生活から、健康や美容、グレイヘアの誕生秘話、女優生活、そして「老い」と付き合い方まで。巻末エッセイは女優の中谷美紀さん。「いつまでも美しく、気高く自由なお姿に羨望を隠しきれません」(本文より)。

 

まえがき

長年女優という仕事でいろいろな女性を演じてきましたが、私自身の人生は波乱万丈からは程遠く、自叙伝的な本は出すつもりはありませんでした。しかし、普段の生活は? 健康や美容で気を付けていることは? 心も元気に保つコツは? 「老い」についての思いは? などを書いてみないかと問われて、初めての自叙伝を書いてみました。

 

第1章 「毎日の健康法」 体も心も“元気”でいたい

特に舞台のお芝居は“体力”がものをいいます。70歳を過ぎてからパーソナルトレーナーをつけてトレーニングするようになりました。実感しているのは、身体がぶれにくくなり、転ばなくなったことです。

 

第2章 「美容とおしゃれ」私らしく楽しみたい

がん闘病の女性役を演じ、坊主頭になって、公演が終わって髪がほんの少し伸びたころNHKの仕事が来た。スタイリストから「おしゃれだからそのままで」と言われて、ベリーベリ―ショートの白い髪で出演し好評だった。70歳少し前から白い髪のままでいるようになり自然体になった。

 

第3章 「女優人生」 こわいもの知らずで挑み続けてきた

・女優であれば、「役」の後ろに自分は隠れていることができます。草笛光子という芸名もまた私の「役」です。

・私が入学した現・横浜平沼高等学校の舞踏サークルには1年先輩に岸恵子さんがいました。

・26歳のとき、作曲家の芥川也寸志さんと結婚し、お嫁に行く朝、両親、祖父母の前で、「おじいちゃん長いあいだ……。私、ちょっと行ってきます」と胸がいっぱいになって、あいさつしました。1年9カ月、ほんとうに“ちょっと”だったと、あとあとまでの語り草です。

・37歳のとき、「ラ・マンチャの男」でアルドンサ役を演じましたが、何度目かの再演(4公演目)で私は降ろされ、別の女優さん(上月晃)に代わり、くやしくて、毎日「こんちくしょう、こんちくしょう」でした。歯をくいしばっていたところ、「シカゴ」の出演が決まったのですが、なんと相手役がその女優さん(上月晃)になって苦しみそのものでした。しかし、「ミュージカルは苦しくても、辛くても、自分が楽しくないと…」と教えられ、後は無心に稽古できました。

 

第4章 「人間関係」 群れずに、出会いを大切に  略

第5章 「このごろ思うこと」 「これまでのこと」ではなく「これからのこと」を  略

あとがき  略

文庫のための長いあとがき  略

 

 

本書は、2012年5月にベストセラーズより刊行。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

気楽に一気読みした。

長年、競争が厳しい業界でトップを走ってきた秘密は、のんびりした雰囲気の根っこにある負けず嫌いだと思った。この二つがバランス良く持ち合わせていることが草笛さんの宝だ。


特に舞台での芝居の仕事は、体力勝負でもあり、年と共に節制や運動を怠らないことが必須だ。同時に、演出家などに可愛がられるなど人間関係にも配慮するなど頭も良くないと難しいだろう。さらに、芝居は常にチャレンジしないと生き続けられないらしく、厳しい世界だ。

 

 

草笛光子(くさぶえ・みつこ)

1933(昭和8)年生まれ、横浜市出身。

1950年松竹歌劇団に入団。
1953年「純潔革命」で映画デビュー。
主な出演映画に「社長シリーズ」『それから』『犬神家の一族』『沈まぬ太陽』『武士の家計簿』など。

2016年のNHK大河ドラマ『真田丸』では真田信繁の祖母役を務めた。

日本ミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。

舞台・映画・テレビと幅広く活躍し、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、毎日芸術賞、日本アカデミー賞助演女優賞など受賞多数。

1999年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章。

「週刊文春」にて隔週でエッセーを連載。

90歳の草笛光⼦さんが100歳の主⼈公・作家 佐藤愛⼦を演じる『九⼗歳。何がめでたい』が2024年6月21日全国公開。

 

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高田純次『50歳を過ぎたら高田純次のように生きよう』を読む

2024年07月06日 | 読書2

 

高田純次著『50歳を過ぎたら高田純次のように生きよう 東京タワーの展望台でトイレの順番ゆずったら本が出せました』(2022年4月10日主婦の友社発行)を読んだ。

 

主婦の友社による紹介

高田純次が「50歳からのごきげんな歳のとり方」について適当に語ります! どうせ生きるなら元気に、楽しく、適当に! 現在74歳の高田純次が50歳以降を振り返りつつ、毎日をご機嫌に過ごすヒントを何となく語ります。人生100年時代と急に言われてもどうすればいいんだよ? あるいは、もう50歳過ぎちゃったけど何して生きればいいの? みたいなことに少しでも引っかかりを感じている人にはちょうどいいヒントがあります。おまけに暇つぶしにももってこい!

 

ダ・ヴィンチより

50歳を目前に控えこれからの生き方に漠然とした不安を抱えていたという本書の編集者が東京タワーのトイレでロケに訪れていた高田さんとたまたま遭遇し、工事中のため1つしかなかった洗面所を高田さんから「お先にどうぞ!」とニッコリ譲られたという実際の出来事が、そのままタイトルになっている。カメラが回っていないところでもゴキゲンな高田さんに「なんて素敵なんだ!」「少しでも高田さんのようになれたら毎日楽しいだろう」と、いたく感激し、企画をオファーしたという(しかし、ご本人は全く覚えていなかったらしい)。

 

 

昔も今もブレずに空気を読まない高田さん。そのコツは?

(高田)はっきり言って、空気を読むってことはブレてるってことだから。空気を読んでばかりだとブレちゃうから、へんに読まないのがいい。
空気は読まないで、ゆっくり吸うっていうのが生きていくコツだろうね。……

 

今の年齢まで生きてきて、最も苦しんだことや大変だったことは?

(高田)やっぱりトラウマになってるのは大学受験で失敗したこと。
だからいまだに夢をみるのよ。合格発表の掲示板を見にいって、自分の番号を探すと言う夢を。

 

 

5章 高田純次が振り返る「過去の適当&ゴキゲン名言」

 

「オレは普段、大きいおっぱいのことも考えるけど、小さいおっぱいのことも考えるよ」『適当論』より

75歳の解説 「大器晩成とは、無能なものを慰める唯一の言葉」

(冷水の名言? 「肩凝るんだって? 揉んであげるよ、肩こりの原因の方を」)

 

終活では?

まわりの人に伝えたいこと  まずは女房だろう。伝えたいことは「死にました!」でいいかな(笑)。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

質問に高田さんが答える形になっていて、答えも10行程度で、字も大きく、220頁で、あっという間に読める。気楽に、笑いながら読めるので、軽る~いものが好きな私としては四つ星。ばかばかしいものが嫌いな人は二つ星。

 

純次さんは、「読まなくてもいいよ。買ってくれたら」って言ったらしいんですが、私、買わないで借りて、しかも読んでしまいました。スンマセン。

 

 

高田純次(たかだ・じゅんじ)

1947年(昭和22年)1月21日、東京・調布市生まれ。タレント・俳優。

都立府中高校を経て、1968年に東京デザイナー学院卒業。

1972年、自由劇場の「マクベス」を観て感動、同劇団の研究生に。
1973年、イッセー尾形らと劇団結成も、1年足らずで解散。宝石の卸会社に就職、3年半のサラリーマン生活を送る。
1977年、30歳の時に柄本明、ベンガル、綾田俊樹が結成した劇団「東京乾電池」に入団。アルバイトをしながら、演劇活動を続ける。
1980年、「笑ってる場合ですよ! 」、1982年に「笑っていいとも! 」に出演、世に知られる。
1985年に「天才・たけしの元気が出るテレビ! ! 」でさらに知名度がアップ。
1987年、グロンサンのCM「5時から男」でブレイク、一躍有名タレントとなる。

以後、バラエティー番組や、ドラマなどに出演して、「平成の無責任男、適当男」といわれ、芸能界で独自のポジションを築く。
2015年には「じゅん散歩」開始。

現在もCM、ドラマなどで活躍。特にCMでは「CMの帝王」などといわれるほど、数多くのCMに起用されている。

著書に「多面人格のすすめ」「適当論」「適当日記」「裏切りの流儀」「適当川柳」

 

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伊岡瞬『水脈』を読む

2024年07月03日 | 読書2

 

伊岡瞬著『水脈』(2024年1月31日徳間書店発行)を読んだ。

 

徳間書店からの紹介

【著者からのコメント】 
真壁、宮下という〝無茶〟な刑事コンビが初登場した作品が『痣』(徳間文庫)でした。
その後、この2人に人気が出て、わたしの作としてはめずらしくキャラがひとり歩きし、版元をまたいであちこちの作品に登場することとなりました。(少しでも顔を出している作品の総部数は
80万部を超えます)

 あの二人組が、本作『水脈』で、堂々〝主役〟として戻ってきます。そして、シリーズものを書かないわたしとしては、初の「続編」チャレンジになります。

 今回は、エリート血統の帰国子女という「お荷物」のお守りをしながら、未知の闇に挑みます。
事件を解決するのか、ぶち壊すのか。最後まで流れゆく先がわからない『水脈』をご堪能いただければと思います。

【あらすじ】
神田川の護岸に設けられた排水口から、遺体が発見された。台風の雨で増水した影響で、遺体は地下水路の「暗渠」を通って流れ着いたようだ。死後数日経過しており、猛暑で一部は腐敗も始まっていた。

和泉署に合同捜査本部が立てられ、宮下は久しぶりに真壁と組むが、そこには“お客様”も加わることになった。暗渠に妙に詳しいその客は謎に包まれていた――。

この事件は濁流のひとつにすぎない。

地底には、見えない「水路」が無数に広がっている――

 

登場人物

宮下真人:主人公。ワトソン役に近い。警視庁高円寺北署所属。奥多摩分署時代に真壁と組む(『』)。一橋大卒で気弱だが意外としたたか。
真壁修:傍若無人の濃いキャラだが、能力は高い。警視庁捜査一課へ引き抜かれたが、遊軍で特務班所属。

未歩グレース小牧:犯罪心理研究の大学院生で長官官房の高橋審議官の姪だとの触れ込み。暗渠に詳しい。

森川悠斗:コンビニでバイトする21歳の大学3年生。神田川の護岸に設けられた排水溝から遺体で発見。

今井朝乃:一人暮らしの73歳。空腹で夫のDVを受けている木村菜緒子と6歳のさくらに手を差し伸べる。

SSBC:捜査支援分析センタ:警視庁刑事部の実在組織。「分析捜査支援」(防犯カメラの画像解析、電子機器の解析)と「情報捜査支援」(犯罪の手口などから犯人像を分析するプロファイリング)よりなる。

 

 

初出:「読楽」2021年11月号~2023年2月号

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

地味な小説だなあと読み始めたが、杉並区の神田川近辺が主な活動範囲で身近な地名が出て来て興味をひかれたこともあるが、引き込まれて一気読み。

 

謎の女性・小牧未歩が、真壁の鼻を明かすほどの活躍を期待したのに、それ程でもなく少々がっかり。

 

ヤクザ組織は上下関係が厳しいので捜査方法としては単純だが、半グレ集団が頭の特殊詐欺グループは、必要に応じて実行者を集める融通無碍の得体のしれない組織で、捜査は難航する。まるで張り巡らされた暗渠のような闇組織だ。彼らは金のためなら人を殺すこともためらわないが、金にならない余計なことは寝返りもしたくないという。

 

東京に張り巡らされた下水道網は詳細な地図が存在するが、川・小川を少しづつ埋め立てた暗渠の完全な地図は存在しない。参考文献に暗渠関係の本が4冊挙がっている。何にでも専門家やマニアはいるものだ。

 

 

伊岡瞬の略歴と既読本リスト

 

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