hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

新川帆立『帆立の詫び状 おっとっと編』を読む

2024年09月05日 | 読書2

 

新川帆立著『帆立の詫び状 おっとっと編』(幻冬舎文庫、し50-2、2024年6月10日幻冬舎発行)を読んだ。

 

裏表紙の作品紹介

目が覚めると、身体に異変があった。やる気がみじんも湧いてこない。3年で10冊の本を刊行してきた著者は、ある日突然頑張れなくなった。ケンブリッジ、パリ、フィレンツェ、ローマ。旅しては書き、書いては旅する日々の中、気づくと活力はゼロに。文芸業界、執筆スタイル、己の脳に至るまで様々な分析を試み辿り着いた現在地。夫の解説付。

 

帆立の詫び状 てんやわんや編』に続く新川帆立のエッセイ集第二弾。

なんで詫び状かというと、締め切りを破りまくっていながら、エッセイを理由に遊び回っているから。

 

第一章は、旦那さんについてロンドンに引っ越した帆立さんの「満喫! ヨーロッパ滞在篇」

第二章は、帆立さんが偏愛している腕時計などの「奔走! 偏愛編」

第三章は、帆立さんの小説を究めようとする「迷走! 小説修行篇」

あとがきは、帆立さんの素顔を紹介する旦那さんによる「夫のあとがき」

 

巻頭の8頁は、あくまで取材だと強弁するヨーロッパを満喫する帆立さんの写真など。

 

第一章「満喫! ヨーロッパ滞在篇」

ケンブリッジのフォーマル・ディナー/初めてのオペラ/超高速な英国式回転寿司/‥‥

第二章「奔走! 偏愛編」
バッグ愛好家の腕時計探し(数百万円の時計を購入)/愛しのトマトパスタ

/ジェンダーをめぐる冒険(冒険ができるのは男性の中でもごく特殊な男性だけなのに、冒険は男のものというのはおかしい。運動音痴の帆立さんは作家・今野敏主宰の空手塾に参加し、ハマってしまった)

 

第三章「迷走! 小説修行篇」

私の脳のつくりについて(事務作業・スケジューリングが苦手な帆立さんはADHD(注意欠如・多動性障害))だと分かり、薬によりかなり改善した/‥‥

 

 

本書は2022年10月~2024年4月、幻冬舎plusで連載したものに、加筆・修正し、副題を付けたもの。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

帆立さんは、頭がいいし、スポーツ以外は何でもできるが、今はたまたま小説を書いている人と思っていた。しかし、小説のことをとことん考え、文法や小説講座などで学び、当面はとにかく量を書くことを課し、力をつけたいと、真剣に努力をしていることが分かった。

 

また、事務作業やスケジュール管理に抜けが多くて悩んでいたが、学校の成績は良いし、人当たりも良いので、まったくADHDとは思ってみなかった。それとわかってスッキリし、納得できたという。

 

様々な事に対して、真正面から取り組んでいく。興味を持ったら学校や講座でちゃんと学ぼうとする向学心とフットワークの軽さが素晴らしい。バッグや腕時計にかける情熱には畏れ入る。ここでも徹底した情報収集。

 

アメリカのフォトグラファーに頼んだ著者近影が笑える。日本の女性を対象にして、やさしさいっぱいに撮ってくださいと頼んだのに。これ以上ない巨大な花飾りなどド派手な演出、自信満々のポーズ。この写真が著者近影だったら、見事に、めっちゃ反感かうで!

 

 

新川帆立(しんかわ・ほたて)の略歴と既読本

 

 

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吉田修一『静かな爆弾』を読む

2024年09月03日 | 読書2

 

吉田修一著『新装版 静かな爆弾』(中公文庫43よ-4、2022年2月25日改版、中央公論新社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

テレビ局に勤める俊平は、公園で出会った聴覚にハンディキャップを持つ女性・響子と恋に落ちる。静かで穏やかな日々を重ねる二人だが、音によって隔てられた世界は恋しさと戸惑いを同時に生み、やがてすれ違いが積み重なっていく。この気持ちは、本当に伝わるのか。言葉にならない思いが胸を震わせる、忘れられない恋愛小説。  (解説)宇垣美里

 

 

本書は『静かな爆弾』(2011年3月版、中公文庫)に解説を加え、改版・新装したもの。

 

 

吉田修一の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

テレビ局で休みなく働く早川俊平と、音が聞こえないハンディキャップを持つ響子の恋。

極上の恋愛小説とまでは言えないが、本当の相手のことを知らないのではないかという不安を抱えながらの恋愛模様が丁寧に描かれる。響子の心の内は語られることがないので、読者も俊平と同じように不安を持つ。

 

明治神宮外苑の景色の中で、おずおずとした二人の出会いが静かに美しく描かれる。

 

音のない世界に住む響子は、帰って来て部屋に入ってきた俊平に気づかず、自分の世界に居てそのままTVを見ていたり、すぐ後ろで若者が喧嘩しているのにそのまま芝生に座っていたり、もどかしいメモでの二人の会話からは静かすぎる彼女の不可思議を理解できない俊平の寄る辺なさが見事に表現される。
さらに、TV局の、ようやくつかみ取った多忙な仕事の中で、寝る時間もなくフラフラになりながら、彼女に何日も連絡できなかったために……。

 

フリーアナウンサーの宇垣美里さんの解説が、的確、簡潔な表現ながら、二人の気持ちのすれ違いを巧みに解説している。

 

 

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一穂ミチ『ツミデミック』を読む

2024年08月31日 | 読書2

 

一穂ミチ著『ツミデミック』(2023年11月30日光文社発行)を読んだ。

 

光文社の内容紹介

大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中に話しかけてきた女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う優斗は――「違う羽の鳥」
調理師の職を失った恭一は、家に籠もりがち。ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣に住む老人からもらったという。翌日、恭一は得意の澄まし汁を作って老人宅を訪れると――「特別縁故者」
渦中の人間の有様を描き取った、心震える全6話。

 

第171回直木賞受賞作

コロナ禍で壊れた日常の中で、市井の人々が犯した「罪」にまつわる6編の短編集。
題名はパンデミックと罪を掛け合わせた著者の造語。

 

「違う羽の鳥」

夜の雑踏のただ中にいる時、死後の世界ってこういう感じかな、とぼんやり考える。

と始まる。

優斗は大学を中退し、居酒屋のビラ配りのバイトをしているが、なかなか受け取ってもらえない。雑踏の中で、意味のあるまなざしを感じた。目があった若い女は同級生・井上なぎさを名乗った。

「井上は――井上なぎさは死んだんや、線路に飛び込んで。お前の言うてる『踏切ババア』って、井上のお母さんやないか。ネタにしてええこととちゃうぞ」

“Birds of a feather flock together” 同じ羽の鳥は群れる=類は友を呼ぶ

 

「ロマンス☆」

パンデミックの影響で経営難に陥った美容師の夫・雄大に当たり散らされる妻・百合は、ワンオペ育児で疲弊し切っていてギスギスしている。入浴する夫が「出るまで洗い物中断な、シャワーの水流弱くなるとイラつくから」と言われて、シンクの前で拳を握る百合。

道ですれ違ったスポーツタイプの細い自転車に乗ったフードデリバリー・サービスの男。整った顔立ち、現実離れした容貌だった。歯車が狂いだす。

 

「憐光」

15年前、豪雨の中、川に落ちて死んだ唯は、杉田先生の車に親友の登島つばさが乗り込むところに居合わせた。しかし、二人はまったく気づかない。二人は、唯の骨がようやく発見されたので唯の母の住む家に行くのだ。

憐光(りんこう):光をあてると発光し、光を取り去ると直ちに消滅するものを「蛍光」、発光がそのまま持続するものが「燐光」。

 

「特別縁故者」

元板前の恭一は、調理師専門学校を出てからずっと勤めていた割烹から、人員整理され、職探しが難航している。息子の隼(しゅん)が、古い一軒家の偏屈老人から旧札の一万円札を貰ってきた。お礼の澄まし汁を作って、あわよくばを期待して、訪れる。

特別縁故者:肉親でなくとも、身の回りの世話をしていれば財産分与の対象となる可能性のある者。

 

「祝福の歌」

絶対音感を持つ高校の音楽教師・妻の美津子は音痴の達郎の歌を毛嫌いする。高校生の娘・菜花は妊娠していて、絶対産むと意志強固だ。達郎は勤め先から寄り道1時間、歌を歌いながら母の住むマンションへ月1,2回寄る。隣の近藤さんの奥さんの様子が最近あきらかにおかしい。
最近、達郎は女の白い手に首を絞められる夢を見る。自分の子かどうかを疑う菜花の相手に激怒した達郎は、菜花に「腹の子は諦めろ。あいつはだめだ。」と大声を張り上げた。その瞬間、母が「あんたは何を言ってるんだ!」と頬を張った。達郎の母は‥‥。

 

「さざなみドライブ」

アフターコロナの今も癒えぬ傷を抱えたが5名が集まる。アカウント名「キュウリ大嫌い」(売れない小説家)、20代後半の女性「マリーゴールド」、少女「毛糸モス」、中年の「あずき金時」(俳優の遠藤)が、66歳の発起人「動物園の冬」(毛利)の車で人里離れた林道へ向かう。今から死ぬために。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

何か落ち着かない、不思議な設定で、先が読めない危うさに、ついつい焦って一気に読んでしまった。幽霊が登場したり、明らかに精神に異常をきたしている人の話など、いつもなら覚めてしまい、白けて読むのに!

 

人々が隔離され、各人のストレスが極言となるという社会実験が行われたコロナは作家達に千載一遇のチャンスを与えたらしい。今頃になって、コロナ禍で異常をきたした人の小説を読むことが多くなったような気がする。

 

一方で、夫婦の間の日常のささいなすれ違い、いらだちなどが、巧みに捉えられ、苦笑いしながら読むしかない。

 

 

一穂ミチ(いちほ・みち)の略歴と既読本リスト

「好書好日」に、今の社会に対する思い、作品に込めた思いを語る一穂ミチさんのインタビューがある。

 

 

 

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今野敏『夏空』を読む

2024年08月29日 | 読書2

 

今野敏著『夏空 東京湾臨海署安積班』(2024年3月18日角川春樹事務所発行)を読んだ。

 

「角川春樹事務所」の内容紹介

外国人同士がもめているという通報があり現場に駆けつけると、複数の外国人が罵声を上げて揉み合っていた。ナイフで相手を刺して怪我を負わせた一人を確保し、送検するも、彼らの対立はこれでは終わらなかった……。(「略奪」より) 高齢者の運転トラブル、半グレの取り締まり、悪質なクレーマー…… 守るべき正義とは何か。揺るぎない眼差しで安積は事件を解決に導いていく――。 ドラマ化もされた大ロングセラー「安積班」シリーズ熱望の最新刊! おなじみの安積班メンバーに加え、国際犯罪対策課、水上安全課、盗犯係、暴力犯係など、ここでしか味わえない警察官たちのそれぞれの矜持が光る短編集。

 

「東京湾臨海署安積班」シリーズに属する10編の短編集。おなじみのメンバーがそれぞれ独自の力を発揮する。

 

初出:「ランティエ」2022年12月号~2023年9月号

 

 

今野敏の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

「東京湾臨海署安積班」シリーズは20冊近く刊行されている。楽しんで書いている著者の筆は走っていて、4冊目の私には主な登場人物のキャラは頭に入っているので、会話もお馴染み感があって、安心して楽しめた。それだけに想定の範囲内ではある。

 

短篇集だから話に深みはなく、ドン電返しはない。そのかわり、国際犯罪対策課など警察の今までに登場しない組織が出て来て、本当にこんなことまで取材できるのと言うような警察内部の組織間の軋轢、力関係などが示され、さすが警察小説の第一人者と感心しきり。

 

 

 

以下、メモ

 

「目線」

隅田川で遺体が発見され、被害者はアパート住人で近隣住民とトラブルが絶えなかった54歳の門倉。安積等は水上安全課の警備艇で現場に向かう。
犯行現場を映したスマホ映像が、金目当てでTV局に持ち込まれ、局は警察に情報提供した。映像から門倉と対立していた60歳の守屋が浮かび、犯行を自供した。

 

「会食」

課長から安積に調べるよう言われた。署長が暴力団幹部と会食したと記者が副署長に耳打ちしたという。

 

「志望」

署長が、刑事として有望な地域課係員・武藤を刑事課に引っ張りたいと。安積は、管理職向きの村雨をどこかの署に係長へ出して、空に武藤をと動いてみる。武藤は事件現場の人込みの中から……。

 

「成敗」

高速道路上のトラブルで被害者が35歳の津山、被疑者は70歳の丸岡で、罪を認めている。丸岡は空手5段だった。

 

‥‥

 

シリーズの主な登場者

榊原課長:東京湾臨海署刑事組対課・課長。安積と相楽の上司。

安積:主役。刑事組対課・強行犯第一係長。通称、安積班を率いる。45歳。上司にもはっきりと言う。

村雨:安積に忠実に仕事し、部下を厳しく指導する。堅苦しいほど基本に忠実。
桜井:村雨に厳しく指導されている。安積班で一番若い。
須田:ぽっちゃり体型で機敏でないが、勘は人一倍鋭い。捜査が行き詰った時には頼りになる。
黒木:須田と組む。常にキビキビと動く。剣道5段。

水野:女性刑事。須田と同期。美人。

相楽:刑事組対課・強行犯第二係長。通称、相楽班を率いる。40歳前。安積をライバル視。

真島:刑事組対課・組対係(組織犯罪対策係)係長

速水:安積と同期。交通課の白バイ野郎で自由人。

 

 

・江戸は水の町だった。吉原も、舟で行くのが表門で、陸のは裏門だった。

 

 

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新川帆立『帆立の詫び状 てんやわんや編』を読む

2024年08月25日 | 読書2

 

新川帆立著『帆立の詫び状 てんやわんや編』(幻冬舎文庫し50-1、2024年2月10日幻冬舎発行)を読んだ。

 

裏表紙の作品紹介

デビュー作『元彼の遺言状』が大ヒットし、依頼が殺到した新人作家はアメリカに逃亡。ディズニーワールドで歓声をあげ、シュラスコに舌鼓を打ち、ナイアガラの滝で日本メーカーのマスカラの強度を再確認。さらに読みたい本も手に入れたいバッグも、沢山あって。締め切りを破っては遊び、遊んでは詫びる日日に編集者も思わず破顔の赤裸々エッセイ。

 

新川帆立のエッセイ集。なんで詫び状かというと、締め切りを破りまくっていながら、エッセイを理由に遊び回っているから。

エッセイの達人向田邦子の『父の詫び状』は、暴君の父親の事情を描いた切ない話だが、帆立さんの詫び状は、才能溢れ、おじさんの鼻の下を延ばさせる可愛げな女の子がアメリカ生活をエンジョイするという楽し気な話だ。

巻頭の8頁はいかにも今時の女の子という帆立さんの写真。

 

第一章は「アメリカ逃亡編」
デビュー作が売れて、メディアや文芸業界との距離の取り方に迷い、混乱の末、旦那さんについてアメリカへ行くことにした。
アメリカでの、エスニックフード、ありのままの自分を受け入れ、愛す「ボディポジティブ」のムーブ、バッグマニアとしてのうんちくなど。

山手線の内側が2つ入る大きさのウォルト・ディズニー・ワールドで楽しむ。

 

第二章は、「あれもこれも好き」
アニメにハマり、バッグ・バーキンを求めてさまよう
(私が、そんなに高いのかと、楽天で検索してみたら、なんと約500万円! 傍に送料無料とあるのが笑えた)

 

第三章は「やっぱり小説が好き」

新人作家が直面する色んな「初めてのこと」に一喜一憂、てんやわんや。

 

 

本書は2021年7月~10月、幻冬舎plusで連載したものに、加筆・修正し、副題を付けたもの。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

帆立さんファンは五つ星、すべてに恵まれた女性に反感がある人は三つ星。

 

「売れるときに、売れるものを書く」と迫られ、必死に応えていた帆立さん。コロナ禍で出会うことがなかった読者から、感謝の言葉をいただいて、感激した。果たしてこんなこと続けていっていいのだろうかと思い悩んでいたが、私の小説は誰かの役に立っている。文学賞なんて別にいらないなと思った。

 

 

新川帆立(しんかわ・ほたて)の略歴と既読本

 

 

 

以下、私のメモ

 

第一章は「アメリカ逃亡編」
デビュー作が売れたのに混乱の末、旦那さんについてアメリカへ。

エスニックフード万歳:あれもこれもと大盛を食べて1年、4キロ太った。

ファッションとボディポジティブ:
服装は全体にカジュアルで軽装、機能的。プラスサイズの人でもショートパンツを穿くし、シニア女性がミニワンピースを着ることもある。自分たちのありのままの姿を受け入れ、愛していこうという「ボディポジティブ」のムーブが10年ほど前から起きている。

バッグ愛好家の見るアメリカ1,2、3:
プラダ、バレンシアガ、ミュウミュウ、ポッテガ・ヴェネタ、グッチ、エルメス、シャネル、ルイ・ヴィトン、ハイブランドのバッグは一通りたしなんだ。アメリカへ来てコーチのバッグにドハマりし、ウンチクが続く。

フロリダでのバケーション:ウォルト・ディズニー・ワールドは山手線の内側が2つ入る大きさ。

 

第二章は、「あれもこれも好き」
アニメにハマりました1,2/ 趣味はなんですか バーキンを求めて

 

第三章は「やっぱり小説が好き」

新人作家が直面する色んな「初めてのこと」に一喜一憂、てんやわんや。

執筆や改稿、校正などは好きで楽しい。しかし、人前へ出なくてはいけない仕事は楽しいのだが、疲れてストレスになる。そして、なにより今年デビューした新人作家に、悪気のないおじさんたちがニコニコして「可愛いって言われたいだけなんだろう?」「あ~東大生って感じですね~」などと言う。

 

ドラマ化脚本を読むと、絶対口出ししたくなる。苦渋の決断として脚本は事前に読まないことにした。しかし、原作利用許諾契約書は大切だと思い、熟読する。

 

幸いなことに、「売れっ子」街道に踏み出した状態だが、作品の内容が浅い、軽い、ウケを狙っている、と語られることもある。普段本を読まない人たちにリーチできたことは良かったが、反面、古くからの文芸マニアやコアファンの皆様には冷ややかに見られている(ような気がする)。将来的な文学賞へのノミネートは遠のいたと感じている。

 

出版各社からは「アラサー女性が主人公のお仕事小説で、できれば映像化できるようなものを」というニュアンスの依頼ばかりがくる。原稿の〆切はきつい。「売れるときに、売れるものを書く」必要がある。果たしてこれでいいのだろうかと思い悩んでいる。

私の小説は誰かの役に立っている。そういう「誰か」のために、これからも書いていけばいい。文学賞なんて別にいらないなと思った。商業作家たちに真摯なあり方に気づかされた。

 

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森絵都『できない相談』

2024年08月23日 | 読書2

 

森絵都著『できない相談』(ちくま文庫も29-1、2023年3月10日筑摩書房発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

夫の部屋の掃除はしない。マッサージ店で指名をしない。“ワンちゃん”呼びはしたくない。バリウム検査で作法を貫く。結婚指輪はどこかに消えた。くだらないような気もするし、ちいさい事とわかってもいる。「だけどコレだけは譲れない」、そんな何かが誰にもきっと一つはあるはず――。こだわりを許して生きていくのは、なかなか案外悪くなさそう。38篇の物語に文庫版限定の2篇を追加収録!

 

212頁で40篇、1篇平均約5頁の掌篇小説集。というより私には、星新一のひねりの効いたショートショートを思い出させる。

 

「webちくま」で2016年から3年にわたって、レジスタンスをテーマに、原稿用紙5枚の短篇を書き続けた。一冊の本『できない相談 piece of resistance』にまとめ、さらに2篇を追加して単行本化したものだ。

 

創作の背景が語られるインタビューが面白い。

最初の「2LDKの攻防」は、一度文句を言われて以降、頑なに夫の書斎を掃除しない妻と、妻の下着を畳まない夫の話で、ほぼ森家の話。

38番目の「電球を替えるのはあなた」は、トイレの電球が切れているのに、お互いに相手がやるべきと思い、決して取り換えようとしない夫婦の話で、森家の話に近い。

最期の「噂の真相」は、森さんの母親が血相を変えて〝あなた、離婚したの?〟って電話してきた話だ。

 

 

タイトルの「できない相談 piece of resistance」とは、「人が何かにこだわっていじましく守っている姿って、微笑ましくもある」、「本人は真剣なのにどこか滑稽味がにじみ出る」ということ。

 

東京ドームの片隅で:コンサート会場で終了前に出て混雑を避ける彼女を許せなくて

時が流してくれないもの:犬の里親希望者が「ワンちゃん」と言うのが許せなくて

スモールトーク:絶え間なく話しかける美容師が許せないが

……

 

 

本書は2019年に筑摩書房より単行本として刊行されたものに「島田祐一」「噂の真相」を書き下ろし、文庫化したもの。

 

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

数ページの掌篇小説は、ポイントはほぼ1か所。40篇のうち、私が「そうなんだよ」と思ったり、「なるほど」と感心したのは20篇ほどで、「かもね」と思ったのが10篇、通り抜けたのが10篇と言った感じ。かなりな高確率だと思う。

本全体の筋はないので、通勤途中など切れ切れでも楽しめるので、四つ星にすべきだったかも。

 

一方で、「できない相談」というテーマで統一して40篇を書き上げたのは、さすが上手の森さんだ。

 

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城アラキ『妻への十悔』を読む

2024年08月19日 | 読書2

 

城アラキ著『妻への十悔 あなたという時間を失った僕の、最後のラブレター』(2024年5月10日ブックマン社発行)を読んだ。

 

ブックマン社の内容紹介

淳子さん――。
僕があなたを失って14年が経った。
あの日、あなたに言われて約束したよね。
「無理心中なんて嫌だからね。後追い自殺もダメ」。
僕はまだ、生きている。あなたを失った時間を――。

……

『バーテンダー』など数々のヒット作を生み出した漫画原作家の城アラキは、最愛の妻から突然の余命宣告を受ける。
混乱して子供のように泣き出す夫と、どこまでも冷静な妻。
「ふたりだけのことだから、最後までふたりだけで生きたい」
妻の願いにより、残された数か月をほぼふたりきりで過ごす夫婦。
共に過ごした30年間の、更に濃密な3か月間。
愛して、愛して、愛した妻の、最期の言葉――。
「淳子さんの心の本当の奥底にあった孤独感は、 やはり僕には分からなかった」
妻を失って壊れた心は、簡単には戻らない。もう戻ることはないのかもしれない。
それでも、美しくて、強くて、聡明だった淳子さんを残したい。
同じように誰かを失くした、誰かのために。
城アラキが2年以上の歳月をかけ、悩み、迷いながら綴った、妻への愛と後悔のエッセイ。

 

 

第1章より

振り返ると青山アンデルセンの小さな袋を手にした淳子さんは、そのまま僕の前を横切り、左横に座りながら、それはあまりに突然の言葉だった。
「膵臓がんだって。もう一度正確な検査しないとハッキリしないけど、まず間違いないって。レントゲン見たけど、肝臓にも3か所転移があって、結構大きい。ステージⅣのbだから、手術するのも無理。助からないみたい」

「アンデルセンって、青山店だけはお店でパンを焼いてるんだって、だから美味しいのかな。美味しいよね。食べる?」

……

「何があっても無理心中なんで嫌だからね。後追い自殺もダメ」
横顔は穏やかに微笑んでいた。その口調は明るく、いつものようにどこかのんびり、おっとりとしていて他人事のようだ。

 

以下、ガン告知を受けてからの二人の闘病の歩みが語られ(全体の2/3)、そのあいだに、淳子さんが亡くなってから、あるいは二人の出会いからの城さんの思い出話(1/3)が字体の色を変えて挟まれる。

 

 

城アラキ(じょう・あらき)
漫画原作者。立教大学在学中からライター活動を始め、コピーライターを経て漫画原作者に転身。

テレビドラマ化・アニメ化された「バーテンダー」をはじめ酒と酒にまつわる人間関係を、コミックの巻数にして優に100を超えて描き続けている

漫画原作を手掛けた作品に、『ソムリエ』シリーズなど。

単著として『バーテンダーの流儀』『負けない筋トレ』など。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

闘病模様がかなり詳しく書かれていて、この部分は真剣に読む気にもならず、さらりと読んでしまった。

 

がん告知の当初から、あっさりと悟ったかのような言動の淳子さんに驚かされる。本心なのかはわからないのだが。ただただ混乱し、感情が乱高下する城さんを、しょうがない人ねと言う風に温かく見つめる淳子さんに感心する。

同時に、まるでダメな男の代表で、酒ばかり飲んでいる城さんにあきれるが、私が同じ立場だったら、毅然としていられるか自信がない。

 

地方都市・浜松で大切に育てられた典型的お嬢様で、美人だった淳子さんが、放埓な大学生活を送る城さんに惚れて、東京で一緒に暮らし、卒業後、別れて実家に戻り、結婚する。数年で婚家を飛び出して、東京の城さんの元に飛び込んでくる。この辺りの、当時の一つの典型的恋愛模様も簡潔に描かれていたので、面白く読めた。

 

 

目次

プロローグ 人生の地図
第1章 青山、1月。 「無理心中なんて嫌だからね」
第2章 八ヶ岳、2月。「あなたには、絶対に我慢できないくらいの痛み」
第3章 八ヶ岳、3月。「二人で共に有る」
第4章 浜松、3月。 「僕に、自殺の可能性はありますか?」
第5章 最後の部屋、4月。「愛おしくて、ならない」
第6章 「その後」を生きる
エピローグ 妻への十悔

 

 

メモ

予期悲嘆:悲しみを予想する。医療などでは、誰かの死を想った時から始まる、悲しみや別離の先取りを意味する。

 

葬儀の悲しみの違い:親戚は、子供たちも帰るべき日常の生活がある。その上での悲しみだ。しかし、妻を、夫を、子供を亡くした時、帰るべき家庭の日常そのものの形は変わってしまって、もう二度と戻りはしない。

 

下顎呼吸:死の直前に起こる呼吸。呼吸が苦しいのか少し喉をかきむしるように手を伸ばし、首を反らせて口を開け「ハッ、ハッ」と短い呼吸を繰り返す。

 

「大丈夫、死ぬことなんて怖がらなくていい。生きているうちは死は絶対に追いつけないんだから」(アキレスと亀のように)

 

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岸惠子『岸惠子自伝』を読む

2024年08月17日 | 読書2

 

岸惠子著『岸惠子自伝 卵を割らなければ、オムレツは食べられない』(2021年5月1日岩波書店発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

戦争体験、女優デビュー、人気絶頂期の国際結婚、医師・映画監督である夫イヴ・シャンピと過ごした日々、娘デルフィーヌの逞(たくま)しい成長への歓びと哀しみ……。その馥郁(ふくいく)たる人生を、川端康成、市川崑ら文化人・映画人たちとの交流や、中東・アフリカで敢行した苛酷な取材経験なども織り交ぜ、綴る。

円熟の筆が紡ぎ出す芳醇な自伝

 

横浜での少女時代/映画女優/イヴ・シャンピと結婚/離婚し国際ジャーナリストに/孤独を生きるの五部構成。各部の最初は美しい岸さんの写真で、中にも思い出の写真が挿入されている。

 

 

12歳で横浜空襲に遭い、大人の言うことを聴かず横穴防空壕 から飛び出して一人だけ生き残った。「もう大人の言うことは聴かない。十二歳、今日で子供をやめよう」と決めた。

平沼高等学校の舞踏サークルでは草笛光子と一緒だった。

 

松竹の研究生になり、鶴田浩二と共演し、カメラマンから「山猫みたいなすごい女の子が出てきた」と言われた。やさしかった鶴田浩二から「今のままでいなさい。この世界のあくに染まって、女優臭くなっちゃダメだ」と言われたが、<わたしはそれほど素直で簡単な女の子ではないのよ>と胸の中で呟いた。

 

24歳の時、「君の名は」で一世を 風靡 したスターの座をかなぐり捨て、「雪国」を最後に医者で映画監督のイヴ・シャンピと結婚するためパリに降り立った。当時は円を持ち出すことができず身一つだった。

 

突然電話がかかってきて「ごしょのにょかんちょうでございます」と言った。美智子さんからのお食事会への誘いだった。美智子さまの素晴らしい話しぶりについては、この本をお読みください。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

長が~く映画界で活躍し、ジャーナリストでもある岸惠子の自伝だ、興味深く読める。映画人、川端康成、王、長嶋、力道山など様々な著名人が登場し、危険な紛争地での突撃行動など世界的な話もあり、文筆家としても優れているので、わかりやすく、ユーモアも漂う。

 

山本富士子を現代的にした典型的美人だが、単なるお姫様女優ではない。厳しい芸能界を生き抜き、ジャーナリストとしても活動したのだから、当然気が強く負けず嫌いだ。しかし、その行動を見ると、常に優雅で芯が強く、頭の良い人だと思う。

 

 

岸惠子(きし・けいこ)
1932年横浜生まれ。

1951年女優デビュー。
1957年医師・映画監督であるイヴ・シァンピとの結婚のため渡仏。
1963年娘・デルフィーヌ誕生。
1976年離婚。

1987年NHK衛星放送『ウィークエンド・パリ』のキャスターに就任。
1994年『ベラルーシの林檎』で日本エッセイストクラブ賞受賞

女優として映画・TV作品に出演し、主演女優賞のほか数多くの賞を受賞。作家、国際ジャーナリストとしても活躍を続ける。

 

 

以下、私のメモ

 

市川監督から山本周五郎の(江戸の貧乏長屋の)「かあちゃん」をやって欲しいと言われた。もうじき68歳になる岸さんは、いくらなんでも25歳若返るのは無理だと、旧友の敦子さんに言うと、彼女は「大丈夫! 5人の子供を産んだ江戸の女は、今時の女と違って、老いさらばえていていいのよ、その顔で充分や」と言った。

 

山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」のナレーションを任された。「ひどい声のうえ、このごろ、ひび割れたりもしてきて……」と言うと、監督は「あなたは、昔からそういう声でしたよ」

(私は、原作「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」(「竹光始末」)も読んだし、この映画もTVで見たが、素晴らしかった。岸惠子のナレーションもしんみりとして良かったし、最後のちょっとした場面に大女優が登場するのも感激した)

 

 

[映画]
『君の名は』、『亡命記』(東南アジア映画祭最優秀主演女優賞受賞)、『雪国』、『おとうと』、『怪談』、『約束』、『悪魔の手毬唄』、『細雪』、『かあちゃん』(日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞)、『たそがれ清兵衛』ほか多数。

 

[著書]
『巴里の空はあかね雲』(新潮社、日本文芸大賞エッセイ賞受賞)、『砂の界へ』(文藝春秋)、『ベラルーシの林檎』(朝日新聞社、日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『30年の物語』(講談社)、『風が見ていた』(新潮社)、『私の人生 ア・ラ・カルト』(講談社)、『わりなき恋』(幻冬舎)、『愛のかたち』(文藝春秋)、『孤独という道づれ』(幻冬舎)ほか。

 

 

目次

Ⅰ部 横浜育ち
 1 港町横浜/ 2 「細い」というコンプレックス/ 3 疎開の風景/ 4 「今日で子供はやめよう」/ 5 黒い太陽/ 6 泥棒と痴漢/ 7 恩師のひとこと/ 8 「映画」という不思議

第Ⅱ部 映画女優として
 9 女優デビュー/ 10 はじめての主役/ 11 スターという怪物/ 12 大俳優の役者根性/ 13 美空ひばり讃歌/ 14 『君の名は』の時代風景/ 15 「にんじんくらぶ」の設立/ 16 『凱旋門』と語学の特訓/ 17 日仏合作『忘れえぬ慕情』/ 18 『雪国』そして決別

第Ⅲ部 イヴ・シァンピとともに
 19 旅立ち/ 20 パパラッチの襲来/ 21 イヴ・シァンピ邸/ 22 ちょっといい話――長嶋茂雄、王貞治、そして岸本加世子/ 23 言葉ノイローゼ/ 24 義父母に魅せられて/ 25 復帰、そしてゾルゲ事件/ 26 市川監督との出会い/ 27 「にんじんくらぶ」の終焉

第Ⅳ部 離婚、そして国際ジャーナリストとして
 28 離婚/ 29 学生街の新居/ 30 サン・ルカス岬の想い出/ 31 ジプシーの「ハンナばあさん」/ 32 『細雪』の風景/ 33 飲まなかったシャンパーニュ/ 34 イラン「天国の墓場」/ 35 ナイル河遡行/ 36 『砂の界へ』と日本の知識人/ 37 NHK・BSのパリキャスター/ 38 イスラエル過激派の襲撃

第Ⅴ部 孤独を生きる
 39 遠い家族/ 40 三度目の別れ/ 41 帰郷/ 42 「わりなき」ことども

 エピローグ

 終わりに/岩波現代文庫版あとがき/岸惠子略年譜

 

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森絵都『みかづき』を読む

2024年08月13日 | 読書2

 

森絵都著『みかづき』(集英社文庫も27-4、2018年11月25日集英社発行)

 

裏表紙にはこうある。

昭和36年。放課後の用務員室で子供たちに勉強を教えていた大島吾郎は、ある少女の母・千明に見込まれ、学習塾を開くことに。この決断が、何代にもわたる大島家の波瀾万丈の人生の幕開けとなる。二人は結婚し、娘も誕生。戦後のベビーブームや高度経済成長の時流に乗り、急速に塾は成長していくが……。本屋大賞で2位となり、中央公論文芸賞を受賞した心揺さぶる大河小説、ついに文庫化。

 

集英社 文芸ステーションの特集が詳しい。

文庫本だが600頁を越える大部。本屋大賞2位の力作。

 

戦後すぐから現代まで、塾経営に関わる親子三世代の物語。時代が移り変わって行く中で、学習塾・千葉進塾の変わっていく姿と、吾郎、千明、蘭、一郎と大島家の3代の民間教育への考え方の変遷と対立。

 

 

一軒家を借りて吾郎と千明が始めた塾は、受験競争を煽る受験屋と非難・軽蔑され、隠れて塾に通う時代を経て、大きく成長していく。時を経て、吾郎はあくまで補習、千明は進学と目的が乖離し、時代の要請を得て進学塾へ発展していく。

 

公教育への反発で強固な信念で突っ走る千明、用務員から塾講師となったカリスマ的教育者の吾郎。
千明の連れ子・蕗子(ふきこ)は公立学校の教師になる。2人の間の子供である、我が強く利己的な次女蘭は新形式の塾を創設し、三女菜々美はバンクーバーのグリンピースで活動する。さらに蕗子の子・一郎は長じて、塾へ通えない貧しい子共達の学びの場を作る。
いずれも両親の影響・母への反発の下で、それぞれが自分なりの考えで、教育に関する自分の考えを築いて行動し、大島家はバラバラとなり、拡大していくが……。

 

 

本書は、2016年9月、集英社より刊行。

初出:「小説すばる」2014年5月号~11月号、2015年2月号~9月号、2015年12月号~2016年4月号

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

年寄りには大部過ぎるし、前半は人物が類型的で、ありがちな通俗的な話に留まっているので飽きる。しかし、後半にかけて、強気一方の内面暴露という常套手段にひっかかり、幾くたびか、感動してしまう場面があって、どうなるのかと引き込まれてしまった。数々の名言も光っていて、少々甘いが五つ星にせざるを得なかった。

 

次々と前政策を覆す新たな改革を打ち出す文部省の基で変化し続ける教育界の流れ。その中で吾郎と千明が各々目指した教育の流れ。そんな親を見て育った三姉妹、孫のホームドラマも楽しめた。

 

 

私は、自分で考えることはもちろん重要だが、学ぶこともやはり何と言っても必須で、重要だと思っている。しかし、オウムの事件で、成績優先の高等教育を受けた優秀な人物たちが、いかにも下劣な麻原彰晃にひっかってしまったという事実が、日本の教育の根本に、何か欠けるものがあることを示していると、今でも私の心の奥にうずく傷となっている。

 

 

以下、メモ

 

教育は、子どもをコントロールするためにあるんじゃない。不条理に抗う力、たやすくコントロールされないための力を授けるためにあるんだ……。(統一最重視の体育系教師に突き付けたい言葉)

 

知は力であり、容易にコントロールされないために学ぶのだと、自分の頭で考える力を身につけてもらうために教えるのだと。

 

「常にしゃかりきに何かを追ってきた妻(千明)を、かって自分は永遠に満ちることのない三日月にたとえたことがある。……(妻は、)(教育は)常に何かが欠けている三日月。教育も自分と同様、そのようなものであるかもしれない。欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むのかもしれない、と」(吾郎の言葉)

 

以上

 

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森絵都『獣の夜』を読む

2024年08月07日 | 読書2

 

森絵都著『獣の夜』(2023年7月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。

 

朝日新聞出版の紹介

原因不明の歯痛に悩む私が訪れた不思議な歯医者(『太陽』)。女ともだちをサプライズパーティに連れ出す予定が……(『獣の夜』)。短編の名手である著者が、日常がぐらりと揺らぐ瞬間を、ときにつややかにときにユーモラスにつづった傑作短編集。

 

3年7カ月ぶりの森絵都の新刊、短篇7編。

 

出展・初出は、2016年~2022年の様々な異なるメディア。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

著者が短篇の名手だとは知らなかった。一筋縄ではいかず、スリリングな展開にドキドキし、最後に驚かされてしまう。ふとしたことで、自分の心の中を覗き込むことになる話が多いかな。

何か不思議な雰囲気で、切ない話が多いが、しみじみとした後で、なぜか心が軽くなっている。

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

 

以下、私のためのメモで、ネタバレぎみ。

 

「雨の中で踊る」

永井(タク)は、入社25年目。10日間のリフレッシュ休暇の旅行がコロナ禍で中止。むなしく過ごした休暇最終日に家を出てふと海を目指す。途中で出会ったオカ(ヨ-スケ)と道連れとなり、生き方のカリスマ(トシヤ)に会うことになる。
何もしないで耐えてきたタクは、妻と娘の住む我が家に自分の居場所がないと嘆く。トシヤが歌う「人生とは、嵐が通りすぎるのを待つことじゃない。雨の中で踊る。それが人生だ。 “Life isn't about waiting for the storm to pass,  it's about learning how to dance in the rain.”」(シンガー・ソングライターのVivian Greenの言葉)

 

「Dahlia」(ダリア) 5ページ足らずの超短編

“ATTACK”(??)後、変わり果てた日本。「正しいことは移り変わるけど、美しいものは変わらない」。人間の業(ごう)にまみれた大地を照らす一面のダリア畑を頭に描いて私は車を走らせる。

(説明を拒否しているような話で、どうとれば良いのか不思議な気持ち)

 

「太陽」

激しい歯痛に襲われた加原はようやく見つけた歯科医院を訪れる。風間院長は虫歯でなく代替ペイン(心因的歯痛)だという。加原は風間に電話で「最近ある男性と別れた」と打ち明け、風間は「今日一日集中して彼のことを考えてみてください」と指示する。痛みに変化は無いので、犯人探しは続き、結局、豆〇だと分かる。

 

「獣の夜」

大学時代のサークル仲間で元カレの泰介から紗弓に電話で、泰介に代って妻の美也を鎌倉野菜を食べる誕生日のサプライズパーティに連れ出すように依頼された。パーティーは、出来る人なのに男癖が悪かったカトマリの発案だという。美也はその前にどうしても肉が食べたいと二人でジビエ・フェスタに参加し、呟いた。「…人はそうそう変わらないし、最近はべつに変わらなくてもいいって気がしてきたよ」

肉食女子の意趣返し。

 

「スワン」

お金待ちのボンボンの彼氏・ハタくんから小枝への就職祝は、別荘の沼に浮かぶスワンボートだった。ハタくんがプロポーズし、小枝が一人で漕ぎ出すと、水面がおかしい! スワンが「あなたの心の澱(おり)ですよ」とささやく。理想を求める母親と応えられない娘の確執だった。次にハタくんが乗り、最後に母と娘で乗った。

 

「ポコ」   3ページの超短編

大好きな飼い犬・ポコは肺全体に腫瘍が広がったが、七転八倒しながらも最後の最後まで生きようと頑張って死んだ。小4の朔は、ポコをあれほどしがみつかせた何かが、きっと、この世界にはあるはずだと、恐れなかった。

 

「あした天気に」

テルテル坊主は明日に期待するから作る。しかし明日が待ち遠しいとの思いは、今の会社に入ってからはもちろん、大学に入ってからもない。ふと懐かしくなってテルテル坊主を作ってしまったが、スコア150の悲惨な腕で、明日は接待ゴルフなのだ。
夢の中に登場したテルテル坊主は、最近は出番がないのに作ってもらって、お礼に天気に関することなら3つ願いを叶えるという。
とりあえず、明日はゴルフが中止になるくらいの大雨をお願いした。

無事大雨となった翌日、3連休の2日目、実家に帰った。久しぶりに高校の3人組の一人、小春を呼び出し、明日が3歳の息子・光樹の初めての運動会と知る。明日を晴にとテレテル坊主に願う。
親友の阿良太は高3の12月、雪の日にスリップ事故に巻き込まれて即死したことで思いついて、3つ目のお願いを決めた。
運動会の当日、一位となった光樹を高い高いした男は……。
テルテル坊主は「グッジョブ! でしょ。ね、ね?」と言うのだが……。この8年間、親友の死を言い訳にしていた俺は! 俺のあしたを晴にできるのは俺自身だけだったのに。

 

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森絵都『カラフル』を読む

2024年08月06日 | 読書2

 

森絵都著『カラフル』(2011年11月11日講談社発行)を読んだ。

 

クレヨンハウスの内容紹介

死んで魂になったぼくは天使業界の抽選に当たり、自殺した少年の人生をやり直すチャンスをもらう。しかし、平穏に見えた新しい人生は、最悪なことばかり。
デビュー20周年、新しくて、温かい、もう一度読み返したい作品。

 

ヤングアダルト小説の代表作。

 

一度死んだ「ぼく」は、天使のプラプラに「おめでとうございます、抽選にあたりました!」と言われる。自分でも何か覚えていないのだが「前世の過ちを償う」ために下界で誰かの体に乗り移って過ごす「ホームステイの修行」を行うことになる。
「ぼく」の魂は「小林真」という中学3年生の少年に乗り移り、修行が始まった。

 

小林真は自殺し、死亡宣告された直後に生き返り、家族は驚喜する。しかし、天使からは、父親は会社の上司が逮捕され上が空いて喜び、母親は不倫していて、兄は意地悪く、真は学校でいじめられていると知らされた。「ぼく」は真の両親に反抗的となり、家を出たが、不良少年に襲われ重傷を負い、お気に入りのスニーカーを奪われてしまう。

 

回復後、「ぼく」は学校で早乙女と友人となり、父と釣りに行って色々話し、真の家族との関係は改善する。
家族の真への愛情を知った「ぼく」は、プラプラに「真の魂を真の体に返してやりたい」と相談する。

 

 

本書は、1998年7月に理論社から刊行された『カラフル』を加筆修正したもの。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

齢81にして、自分では若いと思っていても、さすがに中学生の気持ちにはなり難く、文体、内容ともに、そら事として身を入れて読んでない自分がいた。

 

しかし、ときどきある話ではあるが、他人の身体に魂として入り込むという前提は、「真」と「ぼく」を分離する必要があり、話を面白くしている。また、家族や同級生の表面的な感情、その奥の気持ちなど丁寧に描けてはいる。

 

 

天使のプラプラのこの言葉がいいね!
「そう、あなたはまたしばらくのあいだ下界ですごして、そして再びここへもどってくる。せいぜい数十年の人生です。少し長めのホームステイがまたはじまるのだと気楽に考えればいい」

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

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森絵都の略歴と既読本リスト

2024年08月05日 | 読書2

森絵都の略歴と既読本リスト

 

 

森絵都(もり・えと)

1968年、東京生まれ。女性。
日本児童教育専門学校卒業後、アニメーションのシナリオ作成。早稲田大学第二文学部卒。

1990年、『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。翌年椋鳩十児童文学賞受賞。

その後も数々の作品で多数の児童・ヤングアダルトの文学賞を受賞している。
1999年『カラフル』は産経児童出版文化賞受賞、映画化
2003年『DIVE!!』小学館児童出版文化賞受賞、映画化
2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞受賞
2017年『みかづき』で中央公論文芸賞受賞。

他に『にんきものの本』シリーズ、『おどるカツオブシ』、『永遠の出口』、『いつかパラソルの下で』、『ラン』、『この女』、『クラスメイツ』、『出会いなおし』、『カザアナ』、『あしたのことば』、『生まれかわりのポオ』、『架空の球を追う』、『獣の夜』、『できない相談』など。

アンソロジーに、『チーズと塩と豆と』(角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織)、『最後の恋 Premium つまり、自分史上最高の恋。』(阿川佐和子、井上荒野、大島真寿美、島本理生、乃南アサ、森絵都、村山由佳)。

 

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森絵都『風に舞いあがるビニールシート』を読む

2024年08月03日 | 読書2

 

森絵都著『風に舞いあがるビニールシート』(文集文庫も20-3、2009年4月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋BOOKSでの担当編集者より

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり……。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。解説・藤田香織

 

また、第6話の表題作は、2009年、NHKの土曜ドラマで5回に渡り放送された。

 

初出:「別冊文藝春秋」2005年3月号~2006年1月号(一部改題)。

単行本:2006年5月文藝春秋刊

 

 

「器を探して」:最後が意外で、恐ろしい。

「犬の散歩」:恵利子と義母が二人して競い合うようにビビちゃんの良い所を挙げて、最後はヴィヴィアン・リーだの、原節子だのとエスカレートしていくのが笑えた。

「ジェネレーションX」:若い石津がいい味出していて、一方、最後の一言が切なくて、笑っちゃう!

「風に舞いあがるビニールシート」:確かに難民保護のUNHCRの現実は抑えても抑えても舞いあがるビニールシートなのだろう。死を賭してその中に入り込んで行く人々が現実に存在するのだ。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

森絵都は、童話作家で、優しさ、暖かさがあるとは思っていたが、リアルな描写もうまく、「何なんだこの人は?」と思う。

 

森絵都の略歴と既読本リスト

 

以下、私のメモ

 

いつも、読んでもらうには長々と書きすぎるのは分かっているが、この作品だけは私のためにここに充分書き残して置きたい。

 

「器を探して」

天才的ケーキ職人でお嬢様経営者のヒロミに、美濃焼の器を探しに行って欲しいとクリスマス・イヴの朝に唐突に言われた黒子役の弥生は憤ったが、信奉するヒロミに観念して多治見へ出張した。婚約者の高典からはたびたびのメールがあり、今夜はプロポーズで「僕を選ぶのか、あの女を選ぶのか」と迫られている。
多治見の窯元で、弥生を釘付けにした瀬戸黒は、引出黒というめちゃくちゃ手間がかかる技法で作られていた。ヒロミのプディングと融合した光景を想像した弥生は、30万円、しかもフィーリングのあった客にしか売らないという男に……。

 

「犬の散歩」

昭和チックな「スナック憩い」のホステスの恵利子は何のために水商売を始めたかというと、ワンちゃんのためだという。32歳の主婦・恵利子は、捨て犬や迷い犬など行き場のない犬を自宅で預かって里親を探す活動をする「仮宿クラブ」のボランティア活動をしているのだ。
八幡山の保健所の施設には、昨年1.5万匹の犬猫が収容され、1.2万匹が殺処分されたという。収容された犬に残された時間は7日間だけ。家庭犬として再出発をはかれると認められた犬だけはしつけ訓練を施される。保護団体は譲渡先を探したり、微妙なラインにいる犬を引き取ったりする。
長くこの活動をしている恵利子の友人の尚美は云う。「自分はこの犬たちの1割を救っているんだって思いじゃなくて、ここにいる9割を見捨てているんだって思いなの」

 

「守護神」

裕介は、日中はホテルでバイト、夜は夜間大学と時間がなく、卒業のためにはまだ4本もレポートを書かねばならない。1本だけでも代筆を依頼するため伝説的な代筆の達人学生・ニシナミユキを探す。
ようやく見つけた彼女に2年続けて断られたが、心の内をしゃべることになって、結局なにも得るものはなかった。しかし、唯一もらったダサい二宮金次郎の携帯ストラップが裕介には意外なほどたくましい守護神に感じられた。

 

「鐘の音」

仏像・不空羂索観音像の修復に尋常ではないほどに思い込みを持って情熱を燃やす本島潔は、マニュアル通りに修復しようとする親方・松浦に反抗し、本体修復から外される。
25年後、潔は当時の同僚・吾郎に会って、昔を思い起こす。仏像の種類、修復師の仕事内容の解説が興味深い。

 

「ジェネレーションX

雑誌社の40歳に近い野田健一は、直立不動で詫びて低頭するが図太さが透けて見える新人類の若い玩具メーカーの石津と共に、車で2時間以上のクレーム先に謝罪に行く。
途中、あきらかに私用電話がかかってくる。「じゃあ、もう一件だけ、いいっすか」と、気楽な調子で次々と電話を掛けまくる石津。「君、仕事中だよ」の言葉を飲み込んだ健一も、青空同窓会でも計画しているのか、などと思わず想像してしまう。
「フジリュウは放っときゃいいんじゃないのか」と、つい引き込まれて思わず話に乗ってしまった健一に、石津は「普段は放ってるんです。けど……」……「高校時代の野球部メンバーと草野球するんですよ」

……「あの……野田さん、野球やってたんすか」

その後の話もここに書きたいが、あまりにも長くなったので。是非本を読んでください。いい話で、しかも最後の一言が切なくて、笑っちゃう!

 

「風に舞いあがるビニールシート」

里佳は、使えない社員は解雇され、使われ過ぎた社員の多くは過労で退社する投資銀行で5年勤めたが、仕事に誇りを持てず、難民を保護し支援する国連機関UNHCRの応募し、一般職員として内勤勤務していた。里佳はエドと結婚するが、再び専門職員となったエドは次から次へと、危険な紛争地へでかけ、7年、間の東京生活で里佳と過ごす日は数えるほどで、すれ違いのまま離婚した。世界の紛争は常にどこかで燃え盛っている。風は止まらないし、ビニールシートは抑えても抑えても風に舞い上がってしまう。
そして、エドがアフガンで死んだという知らせに里佳は立ち直れない。一般職員の里佳に上司のリンダは専門職員の資格を取って、紛争地へ出ていくことを勧めるのだが……。

 

 

 

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阪井裕一郎『結婚の社会学』を読む

2024年07月31日 | 読書2

 

阪井裕一郎著『結婚の社会学』(ちくま新書1789、2024年4月10日筑摩書房発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

結婚をめぐる常識は、日々変化しています。事実婚、ステップファミリー、同性パートナーシップ、選択的シングルなど、一対の男女による結婚→出産というモデルではとらえきれない家族のかたちがたくさんあるのです。この本では、国際比較、歴史的比較、理論という三つの視点から、結婚というものを解き明かしていきます。当たり前を疑ってみることで、「ふつうの結婚」「ふつうの家族」という考え方を相対化できるはずです。

 

(1)「結婚しない人が増えると少子化が進む」は間違い。
諸外国の例では、未婚率が高くとも、結婚という形態をとらずに子を産み、家庭を営むケースが少なくないからで、出生率は必ずしも低くならない。

 

⑵「女性の就労率が上がると出生率が下がる」も間違い。OECDのデータなどでは、女性の就労率が高い方が出生率が高い。女性の就労を支える社会全体の意識と体制が整っているほど、子育てはしやすいからだ。

 

推計では、2000年生まれの女性の約31%が生涯子どもを持たないし、孫を持つ確率は50%ともいわれるそうだ。

 

「結婚の常識を疑うというのが本書に通底する問題意識となります。多くの人が「自分のせい」「自分だけ」と思い詰めている問題が、実は社会的な問題であるということに気づくというのはきわめて大事なことであり、社会学にはそれを示す責務があると思っています。」

(見合結婚以上に、恋愛結婚において、より強い学歴同類婚と職業同類婚の原理が働いていた。恋愛による配偶者選択にも一定の社会的な力が働いていたのだ)

「社会学はわれわれが個人的なことだと信じていることの社会的な側面を問うことを重視する学問です。」

 

 

阪井裕一郎(さかい・ゆういちろう)

1981年、愛知県生まれ。慶應義塾大学文学部准教授。専門は家族社会学。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。福岡県立大学人間社会学部専任講師、大妻女子大学人間関係学部准教授を経て、2024年4月より現職。著書に『仲人の近代』(青弓社)、『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社)、共著に『結婚の自由』(白澤社)、『社会学の基礎』(有斐閣)、共訳書にエリザベス・ブレイク『最小の結婚』(白澤社)などがある。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

結婚について社会学の立場から論じている。確かに、結婚相手を選ぶことは極めて個人的な問題だと思うが、その背景には社会的問題が横たわっていて、本書はそれを説得力ある形で提示している。

 

家庭というものは、何を基軸として作り上げるものなのだろうか? 

 

それにしても、自民党保守派の人々が自らの主張を広める力がなく、代わりに法律で縛り付けようとしているために、日本の活力を奪い、人口減少に拍車をかけ、日本が世界から引き離される原因を作っている。非国民め!

 

 

 

 

以下、私のメモ。

 

序章 「結婚」を疑う

・1970年に生まれた女性の50歳時点での、日本の無子率(子どものいない割合)は27%と先進国で最も高い。

・1990年代以降、欧米の多くの国で婚外同棲カップルが増加し、婚外子が増加した。

・日本の婚外子割合は約2%と、極端に低い(EU、OECD平均は40%超)

 

第1章 結婚の近代史

・1872年、明治政府は国民を管理するために、皇族以外のすべての国民の戸籍を作成した。

・仲人を介した見合い結婚は、江戸時代には約5%しかいなかった武士階級にほぼ限られていた。庶民の結婚媒介は「若者仲間」「娘仲間」を中心に行われ、夜這いが標準的だった。見合いは明治時代に大衆化した。

・1930年に公営結婚相談所が開設された。国家事業として、人口政策と優性政策のためだった。

 

第2章 結婚の現代史

・戦後、結婚すると夫婦単位の新戸籍を作ることになり、三代戸籍は禁止された。

・1970年代に恋愛結婚が見合結婚を上回り、職場結婚がしばらくの間、3組に1組とトップになった。生涯未婚率は5%を割る「皆婚社会」を支えたのは企業社会だった。

・見合結婚以上に、恋愛結婚において、より強い学歴同類婚と職業同類婚の原理が働いていた。恋愛による配偶者選択にも一定の社会的な力が働いていたのだ。

 

第3章 離婚と再婚

・最近の離婚件数は、その年の婚姻件数の1/3にあたる数値。

・日本の結婚の26.7%が再婚(2020年「人口動態調査」)。ステップファミリーの家族形成に問題が多い。

 

第4章 事実婚と夫婦別姓

・婚外出生率はUE平均もOECD平均も40%。日本は2.4%。

・自分自身や社会状況に対する若者のリスク意識の高まりが、結婚を回避し同棲のような穏やかな関係性を選択するという指摘がある。

・世帯変更届により住民票で続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」と記載しているのは事実婚。そうでなくても、結婚しているとの意識を持ち、二人の関係をオープンにしていれば事実婚で、内縁とは違う。

・夫婦別姓を認めていないのは国連加盟国で日本だけ。

 

第5章 セクシュアル・マイノリティと結婚

・生物学的性別と性自認が一致していないことは、従来、性同一性障害と呼ばれていたが、世界的にはトランスジェンダーが一般的な呼び名になった。生物学的性別が女性で性自認が男性なあば「トランスジェンダー男性」と呼ばれる。

・「同性愛者はすべての同姓を常に性的にみている」と思い込む人が多い。

 

終章 結婚の未来

ジェンダー法学者のマーサ・A・ファインマンは、性的関係に基づく特権や保護はすべて廃止すべきだという立場から法的な結婚制度の廃止を提唱している。「どうして結婚が国家の援助と公的扶助を受けるために支払わなくてはならない入場料にならなくてはいけないのか。どうして家族を、結婚関係をつうじて定義しようとするのだろうか」

 

 

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岩井圭也『われは熊楠』を読む

2024年07月29日 | 読書2

 

岩井圭也著『われは熊楠』(2024年5月13日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋BOOKSの紹介文

カテゴライズ不能の「知の巨人」、その数奇な運命とは

「知る」ことこそが「生きる」こと

研究対象は動植物、昆虫、キノコ、藻、粘菌から星座、男色、夢に至る、この世界の全て。
博物学者か、生物学者か、民俗学者か、はたまた……。 

慶応3年、南方熊楠は和歌山に生まれた。
人並外れた好奇心で少年は山野を駆け巡り、動植物や昆虫を採集。百科事典を抜き書きしては、その内容を諳んじる。洋の東西を問わずあらゆる学問に手を伸ばし、広大無辺の自然と万巻の書物を教師とした。
希みは学問で身をたてること、そしてこの世の全てを知り尽くすこと。しかし、商人の父にその想いはなかなか届かない。父の反対をおしきってアメリカ、イギリスなど、海を渡り学問を続けるも、在野を貫く熊楠の研究はなかなか陽の目を見ることがないのだった。
世に認められぬ苦悩と困窮、家族との軋轢、学者としての栄光と最愛の息子との別離……。
野放図な好奇心で森羅万象を収集、記録することに生涯を賭した「知の巨人」の型破りな生き様が鮮やかに甦る!

 

南方熊楠(みなかた・くまぐす)は、1867年和歌山市に生まれ、子供の頃から野原を歩いて動植物の採取に熱中していて「天狗」(てんぎゃん)と呼ばれていた。両替商、金物屋を営む豊かな商家の次男に生まれたが、商売に興味が持てず、「我(あが)は、この世のすべてを知り尽くしたい」と願っていた。

 

東京の大学予備門の合格したのは良いが、19歳の時、強烈な脳病に襲われ、和歌山に帰った。アメリカの農学校に入ったが、講義が嫌いで直ぐ辞めて、25歳になってからロンドンへ渡った。独学で「東洋の星座」に関する論文を書いて「ネイチャー」掲載された。伝手を頼って大英博物館へ出入りし、手つかずの東洋美術の目録作りを依頼される。しかし、トラブルを起こし、日本へ帰り、和歌山県田辺で隠花植物(花を持たない植物の総称)の採取・研究に入れ込んだ。

 

南方熊楠は、生涯で『ネイチャー』誌に51本の論文が掲載されるなど、国内外で大学者になったが、生涯を在野で過ごした。6か国語に通じ、博覧強記で、先進的業績、膨大な採取資料を残したが、癇癪もち、変わり者で、奔放自由で純粋な生き方を貫いた。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

在野の学問の巨人、変人の熊楠の生涯を要領よく描いている。328頁と大部で、巻末の参考文献は40数冊を数えるが、彼の全容を捉えたているとは言えないし、私には熊楠が分かったという気はしない。なにしろ世界を股にかけた巨人なので、やむを得ないだろう。

日本人離れした、まさに在野の学問の巨人が明治の世にはいたことをもっと若者には知ってもらいたい。

 

 

岩井圭也(いわい・けいや)

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。

2018年『永遠についての証明』で野性時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー
2023年『完全なる白銀』で山本周五郎賞候補、『最後の鑑定人』で日本推理作家協会賞候補
2024年『楽園の犬』で日本推理作家協会賞候補
2024年『われは熊楠』直木賞候補

その他の著書に『水よ踊れ』『生者のポエトリー』『付き添うひと』『暗い引力』「横浜ネイバーズ」シリーズなど多数。24年5月、刊行。

 

Web別冊文藝春秋 岩井圭也ロングインタビュー

熊楠の人生って面白いことがありすぎて、全部書きたくなっちゃう。孫文と仲が良かったとか、アメリカへ留学していた頃、旅先のキューバでサーカス団についていったとか、伝説には事欠かない。彼の身に起きたことを順番に書くだけで十分に面白いので、小説としての切り出し方が難しいんです。

 

 

以下、私のメモ

 

粘菌:不定形の痰のような変形体の時期には、自ら動き回ってバクテリア等のエサを捕食する。周囲に食物がなくなると、小型のきのこのような形状の子実体(しじつたい)に変化し、胞子を撒き散らし、また変形体になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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