小黒一正・小林慶一郎著『日本破綻を防ぐ2つのプラン』日経プレミアシリーズ141、2011年11月日本経済新聞出版社発行、を読んだ。
小黒一正氏担当の財政再建を進めるためのプランAと、
小林慶一郎担当の財政再建は失敗するだろうから、そのときにショックを和らげるプランB
の提案だ。
まず、「第1章 破綻が近づく日本財政」で財政の悲惨な現状が分かりやすく説明される。次に、「第2章 財政再建をめぐる神話」で、“国債を買っているのは日本人だから破綻しない”、“増税なしで、成長とインフレで財政再建できる”が神話に過ぎないことが示される。
プランAは、消費税を25%以上に上げて、歳出削減をするというオーソドックスなものだ。
そのため、
(1)政治から独立した専門家集団「世代間公平委員会」で税率・保険料率を決める。
(2)社会保障費を一般会計予算から切り離し、財源を固定化する。
(3)速やかに消費税率を20%にする。
などの提案よりなる。
プランBは、財政破綻は避けられないから、そのショックの吸収策であり、奇策だ。
政府が中心となり、外貨投資のファンドを設立し、為替リスクを政府が保証して、数百兆から一千兆の外貨投資を行う。結果として、為替差益や、円安による輸出拡大で、財政破綻時の急激な円安を緩和できるという提案だ。
さらに、国債の暴落が通貨安を招くが、日本国の為替差益という「保険」により国債が確実に償還されることを市場が予測すれば、投資家は国債に不安を持たず、結果として国債は暴落しない、という主張なのだが。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
第一章は現状分析で分り易い。第二章、三章のプランAは常識的な話なのだが、対策は政治的仕組みの提案になっている。現状、財政再建がちっとも進まないのは政治に問題がある以上、そうならざるを得ないのだが、経済学者による統治機構の提案は、現実性の裏付けがないのではと疑い深くなってしまう。
プランBは、どうみてもインチキ臭い。こんな錬金術がなりたつのだろうか。そもそも、数10兆円、数100兆円の対外投資が現実に実行できるとも思えない。
しかも、この話があらゆる場所に何度も繰り返し、くどいほど登場する。
小黒一正 (おぐろかずまさ)
一橋大学経済研究所世代間問題研究機構准教授。1997年京都大学理学部卒後、大蔵省(現財務省)入省。一橋大学博士(経済学)。財務総合政策研究所主任研究官などを経て、2010年から現職。内閣府経済社会総合研究所客員研究員。専門は公共経済学。 <主な著書>『2020年、日本が破綻する日』、『震災復興』(共著)、『Matlabによるマクロ経済モデル入門』(共著)などがある。
小林慶一郎 (こばやしけいいちろう)
一橋大学経済研究所世代間問題研究機構教授。1991年東京大学大学院修了後、通商産業省(現経済産業省)入省。シカゴ大学大学院博士課程修了(Ph.D.in Economics)。経済産業省課長補佐、経済産業研究所上席研究員を経て2010年より現職。専門はマクロ経済学。 <主な著書>『日本経済の罠―なぜ日本は長期低迷を抜け出せないのか』(共著)、『経済ニュースの読み方』などがある。
目次
はじめに
第I部 プランA 日本破綻を回避する正攻法
第1章 破綻が近づく日本財政
第2章 財政再建をめぐる神話
第3章 財政・社会保障を再生する7つのプラン
第II部 プランB 破綻回避と成長への戦略
第4章 破綻平準化のためのマクロ政策
第5章 世界経済と日本経済の今後
第6章 日本の成長戦略
第7章 国債暴落に備える政策体系
第8章 震災後の財政と経済
第9章 TPP参加問題をめぐる論点
第10章 経済政策の政治性
主要参考文献
おわりに
補論