有川浩著『ヒア・カムズ・ザ・サン』2011年11月新潮社発行、を読んだ。
たった7行のあらすじから有川浩が小説「ヒア・カムズ・ザ・サン」を生み出し、同時に演劇集団キャラメルボックスの成井豊が演劇を創作した。さらに、上演された舞台の設定と登場人物を生かしたもう一つの小説「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」を有川浩が書いた。
本書には、有川浩による、ほぼ同様な設定に基づく2つの物語「ヒア・カムズ・ザ・サン」と「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」が収められている。
真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた・・・。
「ヒア・カムズ・ザ・サン」
小説雑誌「ポラリス」編集部で働く真也は「ものに宿る人の思いを感じ取れる」能力で作家の気持ちに寄り添う編集者として評価されている。一方、同僚のカオルは体当たりで作家の懐に入って仕事している。
アメリカの映画脚本家「HAL」がカオルの父で、20年ぶりに帰国するという。しかし、「HAL」の正体は不明のところがあって・・・。
「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」
真也とカオルはそろそろ結婚がという関係。死んだと言っていたカオルの父親が生きていて、アメリカから帰国する。急な仕事で、真也ひとりが彼を出迎えることになる。現れた父親は、調子がよく、都合にあわせて嘘ばかりつく人だったが、ある事情があり・・・。
なお、「ヒア・カムズ・ザ・サン」“Here Comes The Sun”は、1969年発表のビートルズのアルバム『アビイ・ロード』に収録されているジョージ・ハリスン作の曲の題名。長かった冬に別れを告げ、春が来たことを歓迎するという内容。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
話としては面白く読めた。しかし、ほぼ同じ設定で似通った話が2つというこの本の構成は、一つのチャレンジなのだろうが、なじめない。小説と演劇の差なら受け止められるが、2つの小説では戸惑うし、もっと明確な差が欲しい。
ちょっと遠慮と距離のある恋人同士の関係の描写、会話には、趣きがあり、心地良い。また、冒頭かなり枚数を費やして、作家と編集者の関係が描かれているが、「編集者は作家の心に寄り添うもの」との主人公の話は、きっと現実への批判もあるのだろう。
有川浩(ありかわ・ひろ)の略歴と既読本リスト