hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

川上弘美『なめらかで熱くて甘苦しくて』を読む

2013年03月30日 | 読書2


川上弘美著『なめらかで熱くて甘苦しくて』(2013年2月新潮社発行)を読んだ。

小学生からおばあさんまでの人生の各段階での女性の根源としての性への思いを描く5編。各編で主人公は異なり、互いに関係はない。

新潮社の「刊行記念インタビュー」で川上さんはこう言っている。

最初は「性欲」について書こうと思っていたんです。でも書きはじめてすぐ、それだけ取りだすことはできないとわかった。生きること、死ぬこと、セックスのこと、それらは一人の人間のなかでいつもまじりあっている。どんなふうにまじりあっているのか、それを考えながら書きました。


「aqua(水)」
小3で同級生となった水面と汀が高校生になるまでを描く。高1の水面は「セックスってどういう感じのものなんだろう」と想像し、夢に見ても、よく分からず、「想像力の限界だな」と可笑しくなってしまう。

「terra(土)」
「わたし」が同じ大学の沢田と、沢田の隣に住んでいて、亡くなった加賀美という女性について話している。沢田は身寄りのない加賀美の骨壷を持って、わたしと寺のある山形へ出かける。
その話の中に、私が紐で手首を括る記述が、複数回挿入される。「甘い思いはほとんどない。ただあなたの体とわたしの体をふれあわせたい。」

「aer(空気)」
そのしろものはとてもやわらかくて垢がたまりやすくて熱くてよくわめくものだった。しろものが出てきた時は苦しくて痛くてずるっとしていて時々は途中で眠ってしまってようやく出てきたらあんまり紫色でみにくいのでがっかりした。
と、始まる。
体がコドモをつくることを欲する、そのために男と恋愛をするように体がしむける。狂ったように男を好きになり、・・・コドモができる。するととたんに男は必要ではなくなる。ほらやっぱり、どうぶつじゃん! かんたんすぎて、涙がでる。

「ignis(火)」
男女の30年に亘る関係を描く。(参考『伊勢物語』)

「mundus(世界)」
子供の頃埋めたブリキ箱/2人の愛妾を持つ祖父/ナミとキミという化け猫/“それ”の不在、等々、捉え難い話がバラバラと並べられる。
新潮社の「刊行記念インタビュー」で川上さんは

川端の「掌の小説」のように独立しても読め、一篇の話としてつながっても読めるものにしたかったんですね。それでなんとなく「/」を使ってみました。自分のなかにあるごったなイメージを投げ込んでみました。



初出はいずれも「新潮」、aqua:2008年1月号、terra:2008年8月号、 aer:2009年1月号、ignis:2009年7月号、mundus:2012年9月号



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

「セックスと性欲のふしぎを描くみずみずしく荒々しい作品集。性と生をめぐる全5篇。」なる宣伝文句に眉をひそめて、しかたなしに(?)読んでみた。性描写なしで、性の根源に迫ろうという試みのようであった。(ガクッ)

「aqua」での少女時代、主人公の水面の他に多くの友人が登場し、名前を覚えようとするが、以後はほとんど登場せず、結局水面と汀の話だとわかる。読みにくい。

「terra」は、トーンがまったく違う文が混ぜ合わされ、終盤で「わたし」が実は・・・となる。混乱させられるが、もう一度ゆっくり噛み締めると、じっくり味がでる。

「aer」は、女性の自分の産んだコドモに対する微妙な気持ちの揺れ、変化が興味深く、確かに女性は動物的だと思う。もちろん、いい意味でで~す。

読んでる時は、物足りないし、わけわからないし、「こりゃ、二つ星だな」と思っていたが、読み終わってから、パラパラ読み返しながら、この感想文を書いていると、ジワーっと、良さがしみだしてくる。意外と良いかも、この小説。



川上弘美の略歴と既読本リスト




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