宮下奈都著『太陽のパスタ、豆のスープ』(集英社文庫2013年1月発行)を読んだ。
式場も予約し、友達にも知らせたのに、突然、婚約を破棄された“あすわ(明日羽)”。彼女が周囲の人々の距離を置いた助けで、少しづつ前に進んで行くというシンプルな物語。
叔母のロッカ(六花)さんは、溺れる者が掴むワラのごとき、ドリフターズ・リスト(漂流者のリスト)を作ることを勧める。何んでもいいからやりたいことを書いて、それをひとつずつ実現させるリストだ。まず、あすわが書いたのは、「食べたいものを好きなだけ食べる。髪を切る。ひっこし。おみこし。たまのこし」
幼馴染の京(京介、戸籍は男性)、美貌のエスティシャン桜井恵、会社の同僚で、同時に豆スープを作って売る郁ちゃん、おみやげに3百円のアイスが喜ばれるとは思いもせず100円のアイスを3個買う父、「毎日のご飯があなたを助ける」と語る母。
初出:2010年1月単行本で発行
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
極めて単純な失恋からの回復、成長物語で、丁寧な語り口、日常の些細なことをくみ取る点はなかなか良いのだが、もう少し起伏とか、突っ走る流れなどが欲しかった。中盤、ちょっとダレ気味でもある。
気遣いできる気の良い人ばかりで、全体にまったり、ぬるめ。
この著者の、日常のディテールをくみ取る力には優れたものがある。食べ物の描写はさすがだ。
あすわは、母がイタリアに興味を持っていたことなど知りもせず、考えもしなかったとの記述がある。たとえ娘であっても、多くの子どもにとっては、母は母でしかない。
宮下奈都(みやした・なつ)
1967年福井県生れ。 上智大学文学部哲学科卒。
2004年、「静かな雨」が文學界新人賞佳作に入選、デビュー。
2007年『スコーレNo.4』
2009年『遠くの声に耳を澄ませて』、『よろこびの歌』
2010年本書『太陽のパスタ、豆のスープ』、『田舎の紳士服店のモデルの妻』
2011年『 メロディ・フェア』、『 誰かが足りない』
2012年『窓の向こうのガーシュウィン』
参考「作家の読書道」