hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

高田郁『晴れときどき涙雨』を読む

2015年12月05日 | 読書2

 

 高田郁(かおる)著『晴れときどき涙雨 高田郁のできるまで』(幻冬舎文庫2014年12月5日発行)を読んだ。

 

『みをつくし料理帖』の作者・高田郁、初のエッセイ集。漫画原作者・川富士立夏時代に漫画雑誌「オフィスユー」に執筆したエッセイと書き下ろし長編エッセイで構成。

 

法曹界を志し挫折、交通事故にあい後遺症に苦しんだ日々、阪神淡路大震災の経験、時代小説の世界へ行きたいと思い続ける。弱者に寄り添う姿勢を感じる優しさにあふれたエッセイ。

 

 

「あかんたれ」

 司法試験の論文式の合格発表の日、危篤状態の父に合格の知らせを届けたくて電話で問い合わせた。ダメだった。・・・

 子どもの頃から、自分さえ何とかすれば今ある状況を変えられる、という局面でそうできた例(ためし)がない。トイレの手洗いで顔をバシャバシャと洗いながら、あかんたれ、あかんたれ、と胸のうちで繰り返した。・・・病室に戻ると、父が目を開けて私の帰りを待っていた。・・・

「まだ死なれへんなァ」

マスクの下で、父は短くそう言った。

 翌年も、その次の年も、さらにその次の年も、私は受かることができず、その度に父は死の淵から生還を果たした。思えば何とあかんたれな娘と、心配性の父親なのだろう。

 

「パンと牛乳」

小さな個人経営の学習塾講師の職を得ていたが、やがて

給与の支払いが滞り、他の講師は引き揚げて、教室と生徒だけが残った。中学三年生は受験を控えていた、『とにかく受験が終わるまでは』とそこに踏み止まったのは、私自身、生き方に甘いところがあったが故である。・・・熟が正式に倒産したのは、全員の進級・進学が定まった四月一日。

 

「幸せになろう」

「このクラスで一番気にくわんのはお前や」

 女性の体育教師から名指しでそう言われた頃から、いじめの試練は始まり、二学期の始業式、男子生徒によって暴力を振るわれた。肋骨骨折に内臓損傷で緊急入院し・・・。

後にその教師が不祥事で捕まった新聞記事が出て、「こんな人間のために今まで・・・」と思った。

理不尽ないじめに遭っている子どもたち、どうか死を選ぶ前に、あなたを苦しめた相手を見返す道を歩いて欲しい。・・・苦しんだ分、とびきり幸せになろうね。

 

「明日は味方」

両眼の網膜に立て続けに孔が開いた。もし今、筆を折るとしたら一番の後悔は何だろう、と。「まだ時代小説を書いていない」――それが大きな心残りだった。

 時代小説のみを対象とする文学賞に応募し、最終選考に残り、奨励賞に選ばれた。授賞式で憧れの山本一力からサインをもらった。「俺が一番好きな言葉なんだ」と言って返された本には「明日は味方」とあった。

 

 

「スローモーション」「姫の日々」

 青信号の横断歩道で車に跳ね飛ばされて頭からアスファルトに落ちた。中心性脊髄損傷になった。

右手の握力4kg。お箸より重たいものが持てないのである。・・・根気よくリハビリを続けるうちに、「お箸しか持てない姫君」から「小皿も持てる姫君」、「パン皿も大丈夫な姫君」へと、・・・

 

 

初出:2012年7月集英社クリエイティブより刊行

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

『みをつくし料理帖』の愛読者としては、なぞが多い高田郁の生まれるまでが分かり、大満足。

 

 10年間司法試験と格闘して挫折、交通事故の後遺症で苦しみ、阪神淡路大震災を経験し、漫画原作者から時代小説作家への転身に失敗する。

 それでも書きたいことにこだわって、ついに『みをつくし料理帖』で大成功。それでも確実にできることだけにこだわり、友人から「非効率な人」と呼ばれるほど丁寧な仕事をする。

 そんな彼女をつい応援してしまう。まるで周囲の者を皆味方にしてしまう、『みをつくし料理帖』の澪(みよ)のようではないか。

 

 

高田郁(たかだ・かおる)

1959年、兵庫県宝塚市生れ。中央大学法学部卒。
1993年、川富士立夏の名前で漫画原作者としてデビュー。高田郁は本名。
2006年、短編「志乃の桜」
2007年、短編「出世花」

2009年~2010年、『みをつくし料理帖』シリーズ『第1弾「八朔の雪」、第2弾「花散らしの雨」、第3弾「想い雲」

2010年『 第4弾「今朝の春」

2011年『 第5弾「小夜しぐれ」

『 第6弾「心星ひとつ」』

2012年『 第7弾「夏天の虹

みをつくし献立帖

2013年『 第8弾「残月」』

2014年『第9弾「美雪晴れ』『第10弾「天の梯」

 

その他、『 ふるさと銀河線 軌道春秋』『銀二貫』『あい 永遠に在り

エッセイ、本書『晴れときどき涙雨』

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