東野圭吾著『虚ろな十字架』(2014年5月25日光文社発行)を読んだ。
11年前、娘を強盗に殺害された中原道正を訪れた当時の担当刑事・佐山は、離婚した元妻の小夜子が刺殺されたと告げる。小夜子とは、犯人の蛭川の死刑を望み、裁判をともに戦ったがその後離婚し、連絡し合っていなかったが、小夜子は離婚後もライターとして被殺害者遺族のために盛んに行動していた。
蛭川は、かつて強盗殺人を犯し、刑務所で無期懲役だったのだが、更生良好とした仮出所し、強盗殺人を犯したのだ。死刑判決だったなら愛美は殺されなかったのだ。
小夜子はいう。「今の法律は犯罪者に甘いですからね。人を殺めた人間の自戒など、所詮は“虚ろな十字架”でしかない」
花恵は問う。少年の時に一つの命を奪ったとして刑務所に入り、ろくな反省もしない“虚ろな十字架”と、罰から逃れても、その後、何人もの命を救いながら生きるのと、どちらが償いになると思いますか?
この作品は書下ろし。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お好みで)(最大は五つ星)
充分な面白さを保ちながら、重い死刑制度の是非を読者に問うという力量はさすが。
ミステリーとしては途中から、おおよその最後の予測がついてしまうが、まあまあかな。
被害者家族の死刑を望む気持ちは良く書けているし、死刑制度の是非の問題提起も小説的によくできている。しかし、最後に出てくる、小夜子の、贖罪も認めない全く一方的な強弁は、娘を殺された直後ならわかるが、強引過ぎる。
死刑について私が思うこと
私は死刑制度には反対だ。無期でなく終身刑を設けるべきと思う。
現在の無期という制度は、殺人しても無期で、その後いつのまにか出所してしまうのも問題だが、刑務所を出た後も、受け入れ体制がないためもあり、結局社会復帰できず再犯する人が多いのが問題だ。
死刑というのは、殺したら、殺し返すということだし、なかには本当に悔いて、贖罪し、更生して人生を送る人もなかにはいるのだろうし。
死刑が残酷な殺人行為の抑止になっているというのも、本当に残忍な殺人者には効き目がないようだし、一時の怒りにまかせた殺人に対しては、死刑という抑止効果はないだろう。
多くの場合は全く落ち度のない被害者が命を絶たれ、被害者の家族は、犯人がいまだに生きているのは理不尽と思い、死刑を望むことが多いだろう。しかし、死刑になってももちろんそれで心が晴れるわけではない。
死刑と決まると、犯人の贖罪の気持ちが薄れる可能性もある。命はかけがえのないものというが、殺人犯も死刑となれば、自分のかけがえのない命で償うのだからと、反省、贖罪の気持ちが薄れる可能性もあるのではないだろうか。
登場人物
中原道正:ペット葬儀社「エンジェルボート」経営。娘の愛美を殺された。
神田亮子(りょうこ):40歳、中原の部下
浜岡小夜子:中原道正の元妻。フリーライター。娘の愛美を殺され自分も刺殺される。被殺害者遺族の会に参加。
浜岡里江:小夜子の母。裁判への被害者参加を決意
浜岡宗一:小夜子の父
仁科史也(ふみや):富士宮市の中学で一学年下の沙織と付き合う。現在慶明大学附属病院の医師
仁科花恵:史也の妻、町村作造の娘
仁科翔:史也と花恵の長男、花恵の連れ子
仁科由美:史也の妹
仁科妙子:史也と由美の母
井口沙織:幼稚園の時母を亡くし、父洋介と二人暮らし。富士宮市の中学で史也と付き合う。
井口洋介:沙織の父。化学工業製品会社の技術者。
町村作造:小夜子殺しで自首、仁科花恵の父
町村克枝:仁科花恵の母、50歳前の癌で死亡
田端祐二:花恵と付き合う。詐欺師。
蛭川和男:中原道正と小夜子の娘、小2の愛美(まなみ)を殺す。48歳
平井肇:蛭川の弁護士
佐山:警視庁捜査一課
日山千鶴子:小夜子の大学の同級生、出版社経営。
イグチ:小夜子が取材した女性、30代、情緒不安定で盗んだ物を食べ2度刑務所に入る
山部:弁護士。被殺害者遺族の会