伊岡瞬著『翳りゆく午後』(2024年12月20日集英社発行)を読んだ。
集英社文芸ステーションでの内容紹介 (伊岡さんへのインタビューあり)
「人を轢いたかもしれない」
厳格な父親からの一本の電話。それが悪夢の始まりだった――
80歳目前の武は、教職退任後、市民講座で教える地元の名士。父の武と同じ教職に就く敏明は、妻の香苗と反抗期の息子・幹人との平凡な生活を送っていた。
このところ父の愛車に傷が増え、危険運転が目に余るようになってきたため、敏明は免許返納を勧めるが武は固く拒絶する。
さらに、市民講座の生徒である西尾千代子と武との親密な関係を怪しむ噂が広がり、敏明は悩みを深めていた。
そんなある日、近隣で悪質な轢き逃げ事件が発生。
「あれって――まさか」
疑念に駆られ、事件の真相を探る敏明が辿り着いた“おぞましい真実”とは? 『悪寒』『不審者』『朽ちゆく庭』に続く、不穏で危険な家族崩壊サスペンス!
東京西部の七峰市に住む大槻敏明は悩んでいた。同じ市内の実家で一人暮らししている80歳目前の父・武がまだ車を乗り回しているのだ。中学校校長だった武は認知症が疑われるのに敏明の助言を受け付けない。
武は生涯学習センターの講師を務めているが、スナックのママの西尾千代子と親密な関係だとの噂を聞いた。
敏明は武の車にへこみや傷を見つけ、近くでひき逃げ事件があったことを知る。しかも、武は敏明に「人を轢いたかもしれない」と言う。本当に事故を起こしたのか?
高齢運転事故を起こした家族に対する激しい社会的非難や、自分の教師の立場を心配し、敏明は調べ始めるが……
旧家の出で、資産を持つ父とスナックのママとの関係は? 父の行動を懸命に調べ、振り回されていく小心な敏明。しかもこの間、何も聞かされない妻との間がギクシャクし、敏明を無視する息子も居て、家庭崩壊に近づいていく。
主要人物
大槻敏明:47歳。前の中学校に居ずらくなる事があって、私立「白葉高校」に代わった。現代国語教諭。
大槻武:父80歳。敏明と同じ七峰市の実家で一人暮らし。元校長で頑固者。市の生涯学習センタの講師。大槻家は旧家で土地を多く持つ。
大槻香苗:敏明の妻。反抗期の一人息子・幹人は特に敏明とは口をきかない。
西尾千代子:武が講師の市民講座の生徒。若く見える65歳。スナックのママ。
門脇:警視庁七峰署刑事課
初出:「小説すばる」2023年7月号~2024年8月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
父は事故を起こしたのか、事件に巻き込まれたのか? 女性の役割は? 息子は関係しているのか?
心配性なのに、父にも息子にも問い詰められない小心者の敏明にイライラしながら感情移入してしまい、緊迫感あるサスペンスに引き込まれてしまう。