黒田泰三著『もっと知りたい文人画 大雅・蕪村と文人画の巨匠たち』(アート・ビギナーズ・コレクション、2018年4月20日東京美術発行)を読んだ。
解説の文が多い本とはいえ画集の紹介を書くのは私には無理。以下、私のためのメモ。
はじめに 知的な遊戯としての絵画
…文人画は、ひと言でいうと、表現技術よりも制作動機が重要視されるというあまり例のない芸術なのです。…絵は拙(下手)でもいいのです。何故なら画家は、絵を描くことを遊戯と捉えるからです。…社会の桎梏から自らを解放する手段としての遊戯心です。いわば真剣な遊戯心。…いわば、(それまでの音楽の流れの中で登場した)フォークソングの台頭のようなものです。
序章 文人画とは
文人画でいわれる「自娯」とは「自ら楽しむ」という意味。非職業的で、技巧を求めず自ら娯しみ、遊戯の精神を忘れない。
第一章 池大雅
池大雅と与謝蕪村の合作「十便十宣帖」(国宝、じゅうべんじゅうぎちょう)のうち大雅は「十便図」を担当。山麓における自然の恵みを享受した老人の快適な生活を描いている。例、釣便(ちょうべん)は家に居ながらの釣りに便利。吟便は窓から見える山々の景色が自然と詩想を浮かばせて便利。
第二章 与謝蕪村
凍てつく京都、雪が降りしきる東山とその手前に広がる花街祇園のほんのり明かりが灯った家並みを描いた「夜色楼台図」(国宝)。
「十便十宣帖」のうちの「十宣図」。同じ時期京都にいたが互いにほとんど交わることなかった大雅と蕪村が合作を残したことは奇跡的だ。
風雪に耐える鳶と鴉を描いた二幅の「鳶鴉図」。厳しい寒さの中、太い枝に並んで止まる二羽の鋭い目つきのカラスの姿は哲学的だ。
第三章 文人画の巨匠たち
忠勤な武士だったが、50歳で脱藩し、漂泊の画家となった浦上玉堂の描くのは、もくもくと入道雲のように立ち上がる抽象画のような奇怪な山山。その他、優れた陶工でもあった木米(もくべい)、田能村竹田、西洋画のように描く谷文晁、渡辺崋山が紹介される。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
日本の文人画に興味がある人は是非読んで、眺めてもらいたい。解説文も分量が多く、丁寧に解説している。
絵画の全体図のほかに、部分をクローズアップした数枚の写真が示されている場合が多く、全体図ではわかりにくいところがはっきりわかる。例えば、「夜色楼台図」で、屋根に積もった雪の質感などがわかる。
黒田泰三(くろだ・たいぞう)
1954年福岡県生まれ。九州大学文学部哲学科美学美術史専攻卒業。
出光美術館学芸部長・理事を経て、現在明治神宮ミュージアム開設準備室長。
博士(文学)。専門は日本近世絵画史。
主な著書に『思いがけない日本美術史』(祥伝社新書、2015)、『もっと知りたい長谷川等伯』(東京美術、2010)、『国宝伴大納言絵巻』(中央公論美術出版、2009)、『思いっきり味わいつくす伴大納言絵巻』(小学館アートセレクション、2002)、『狩野光信の時代』(中央公論美術出版、2007)ほか。