柚月裕子著『盤上の向日葵』(2017年8月25日中央公論新社発行)を読んだ。
埼玉県の山中で伐採作業中に発見された身元不明の白骨死体。時価600万円という初代菊水月作の名駒が一緒に埋められていた。かつて棋士を目指し奨励会で挫折した佐野巡査は、県警捜査一課のベテラン刑事、石破と組んで、7組しかないという名駒の持ち主をつきとめるべく、地べたを這うような捜査を進める。それから4ヶ月、二人の刑事は、冬の天童市に降り立ち、世紀の一戦が行われようとしている竜昇戦会場へ向かう。
二人の刑事による一歩一歩進む捜査の現在の話と、幼少期の上条桂介の過去の話が交互に語られる。
少年・桂介は、長野県諏訪市に暮らし、幼いうちに母を亡くし、父親からは虐待を受けて育った。彼を気にかけていた元教師の唐沢がその人並みならぬ将棋の才能に気づき、東京へ出てプロを目指すよう助言するが、桂介は父親の支配から逃れられない。
2018年本屋大賞第二位になったミステリー
本書は、2015年8月から2017年4月まで、「読売プレミアム」連載の同名タイトルの書籍化。
上条桂介:プロ棋士養成機関の奨励会を経ず、ITベンチャーの成功者から転身してプロになった東大卒の人気棋士で「炎の棋士」と呼ばれる。
上条庸一:桂介の父。妻春子が亡くなった後で、酒とばくちにおぼれ、桂介を虐待する。
東明重慶(とうみょうしげよし):賭け将棋で飯を食う「真剣師」のなかで歴代最強。「鬼殺しのジュウケイ」。元アマ名人だが、素行が悪く棋士になれなかった。「将棋を指したら超一流、人としてはろくでなし」
兼埼元治:「鉈わり元治」と恐れられる「真剣師」。一局百万円で最後の勝負を求めている。
唐沢光一朗:諏訪市の元教師で将棋は自称三段。妻は美子。少年・桂介に将棋を教え、励まし、援助する。
佐野直也:大宮北署地域課巡査。奨励会を26歳の年齢制限までに卒業でいず、棋士になれなかった傷を抱える。
石破剛志:埼玉県警捜査一課警部補のベテラン刑事。45歳。捜査力は抜群だが、態度が悪く、嫌われ者。
橘雅之:大宮北署署長
五十嵐:県警捜査一課管理官
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
563ページの大部だが、面白く、スイスイ読める。数か所登場する棋譜は読み飛ばしたが、話の筋を読み取るには支障ない。
柚月さんの作品は、相変わらず仕事はできるが、性格が悪いオジサンがいきいきと憎たらしく活躍し、真面目一方の相棒の若手をいじり、面白味を倍加させる。ただし、この若手の佐野が面白味に欠ける。奨励会崩れらしい、どこか鋭いところを見せて欲しかった。
なぜ高価な将棋の駒を埋めてしまったのか、殺されたのは誰なのかという疑問は最後の方まで残るのだが、最初から犯人の目星はつくのでミステリー上の面白味は少なく、途中でいろいろ登場するいわくありげな人物、事情も大部分が回収されず、胸に引っ掛かったままになる。
メモ
奨励会:満23歳の誕生日までに初段になれないと退会。半年に一度の三段リーグ戦を勝ち抜いた2名だけが四段になり、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段にならなければ退会。
「この仕事(刑事)は、昔から四Kと呼ばれてな。絡まれ、嫌われ、煙たがられる」
「もうひとつのKはなんだ」
……
「上から、こき使われる」