今野敏著『探花 隠蔽捜査9』(2022年1月20日新潮社発行)を読んだ。
神奈川県警刑事部長となった竜崎のもとに現れた、同期入庁試験トップの八島という男。福岡県警から赴任してきた彼には、黒い噂がつきまとっていた。さらに横須賀で殺人事件が発生、米海軍の犯罪捜査局から特別捜査官が派遣されることに――。次々と降りかかる外圧に、竜崎は警察官僚(キャリア)としての信念を貫けるのか。新展開の最新刊。
横須賀の薔薇で有名なヴェルニー公園で刺殺遺体が発見され、横須賀署に捜査本部が設置された。目撃者の堂門はナイフを持った白人が逃走したと語った。横須賀米軍基地と、NCIS(海軍犯罪捜査局)と警察の領分について議論し、捜査担当者リチャード・キジマが捜査本部に現れた。日本側は米軍の捜査参加に拒絶的だったが、竜崎は自分の責任で参加させた。
やがて、被害者は三竹という福岡の運送業者と判明し、福岡・横須賀間フェリー開通との関連が……。
探花:中国の科挙の最終合格者のうち、首席が状元、2位が榜眼(ぼうがん)、3位が探花。
神奈川県警
竜崎伸也:新任の神奈川県警刑事部長。東大法学部卒のキャリア。妻は冴子、長男は邦彦、長女は美紀。
佐藤実:神奈川県警本部長。竜崎の二期上。
阿久津参事官:刑事部長の補助役。情報通。
板橋捜査一課長:現場を任せられるベテラン。
八島:福岡県警から警務部長へ異動。東大法学部卒で竜崎と同期。入庁時の成績1番。2番伊丹、3番竜崎。
我孫子:横須賀署長。57歳。
伊丹:警視庁刑事部長。竜崎の同期で幼馴染。私大出。
大西渉:福岡選出の文部科学副大臣。八島が取り入った。
真喜田:北九州の指定暴力団・真喜田組組長。大西と小学校同級生。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
シリーズ9作目となると、安定の筆力、安心して読め、そして面白い。
ただ、全体が単調で、竜崎が悩むような山場が欲しかった。
警察官僚の真骨頂を常に発揮し、まったくぶれず、単調とも言える竜崎には、最後の方では少々飽きる。息子・邦彦の危機では厳しい判断を迫られるかと思ったのだが、肩透かし。
陰険で竜崎も危ないかと思わせる八島が、オドオドするだけでほとんど出番がないのはもったいない。さらに、せっかく捜査に引き込んた特別捜査官・キジマや、相棒にさせられたベテラン刑事・潮田の活躍の場がほとんどなかったのも残念。
今野敏(こんの・びん)
1955年北海道三笠市生まれ。上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。東芝EMI勤務を経て、執筆に専念する。1999年空手道今野塾を主宰。
2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞
2008年、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞
2017年、「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞 を受賞。
さまざまなタイプのエンターテインメントを手がけているが、警察小説の書き手としての評価も高い。
近著に『宗棍』『ロータスコンフィデンシャル』『暮鐘 東京湾臨海署安積班』『ボーダーライト』『清明(せいめい) 隠蔽捜査8』、本書『探花 隠蔽捜査9』『無明 警視庁強行犯係・樋口顕』など。