薬丸岳著『刑事弁護人』(2022年3月20日新潮社発行)を読んだ。
新潮社の内容紹介。
現役女刑事による残忍な殺人事件が発生。弁護士・持月凜子は同じ事務所の西と弁護にあたるが、加害者に虚偽の供述をされた挙げ句、弁護士解任を通告されてしまう。事件の背後に潜むのは、幼児への性的虐待、残忍な誘拐殺人事件、そして息子を亡くした母親の復讐心? 気鋭のミステリ作家が挑んだ現代版「罪と罰」。
凛子に、被疑者・現職の警察官・垂水涼香の弁護依頼が入る。容疑は殺人。被害者・加納怜治は涼香の通うホストクラブのホスト。涼香は加納の部屋で襲われたため仕方なく酒瓶で加納の頭を殴ってしまったと容疑を否認。4年前に息子を亡くし、夫もうまくいかなくなった涼香は、ホストクラブ通いは単なる気晴らしで、加納との間に特別な関係はないというのだが。
涼香に接見した凛子は、所長・細川の強い勧めで、気が進まないながら態度が良くない西と二人で弁護を担当することになる。調査を進めると、被害者の加納には窃盗の前科があり、ホストとコンビニのバイト以外にも別の仕事があったらしい。
加納と涼香の関係は単なるホストと客なのか? 警察官である涼香は真実を語っているのか? 古巣の警察から憎まれ、かならずしも容疑者第一でないことから弁護士たちにも評判が悪い西を凛子は信頼できるのか?
初出:「小説新潮」2017年2月号~2021年1月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
凛子が語り手だが、推理は西が先行し、「すべての点がつながったらきちんと話す」(p334)となかなか凛子に推理過程を明かさない。コナンドイル(シャーロックホームズ)以来の伝統的手法だ。
息子の復讐のためなら母親は手段を選ばないというテーマが基盤になっているので、私には、涼香の謎はかなり早い段階からなんとなく推測できた。それでも加納の正体に不明な点があり、話に引っ張られて一気読みしてしまった。
刑事弁護人は、常に正義を追及するのか、場合によっては目をつむってでも被疑者の唯一の見方として働くのかという問題は、純粋に突き詰めていっても意味がない問題で興味が湧かなかった。
以下、メモ
持月凛子:主人公。30歳。人権派弁護士として名高い細川正隆の「細川法律事務所」に所属する新人弁護士。弁護士だった父は7年前、高嶋千里に殺された。弁護し大幅減刑した犯人に、子供を殺された母親だった。
西大輔:凛子の同僚。37歳。愛想が悪く、担当する被告人の利益を第一としない法廷態度で、弁護士仲間にも評判が悪い。大学在学中に司法試験に通りながら警察官となる。5年前に曙川(あけがわ)事件で退職後、細川に拾われてあらためて弁護士になったという変わり種。弁護士になってまだ3年。
日向(ひなた)清一郎:捜査一課刑事。西大輔と警察学校同期。
桧室(ひむろ):公判担当検察官。相棒は入庁6年目の女性検事・須之内。上司は菅原。
垂水涼香(たるみ・すずか):33歳。埼玉県警毛呂署に勤める現職の警察官。結婚9年目の新聞記者の夫は輝久。4年前に3歳の息子の響(ひびき)を亡くした。母は晴恵。
加納怜治:涼香の通うホストクラブのホスト(ショウゴ)で、バンドのボーカル(ミドくん)でもある。デビュー間近のときに窃盗事件の犯人とされ、デビューを逃した。
葉山文乃(あやの):一人で育てていた4歳の息子・俊太郎を誘拐事件で殺された。逮捕された林哲成は否認したが、垂水が見つけた証拠が決め手で起訴された。
曙川事件:6年前民家が全焼し、刺し傷のなる資産家の内海茂雄・幸代の遺体が発見され、借金していた曙川が逮捕され自供したが、裁判で否認した。捜査陣の一員の西は弁護側証人として違法な捜査が行われたと証言した。
「裁判を受けた方が楽かもしれない」という涼香に西が言う。
「どういう経緯であれ、人を死なせたのが事実であるなら、あなたは楽をしてはいけないんです。……たとえどんなに苦しかったとしても、その人たち(亡くなった人、親睦など関連の人)に事実を伝えなければいけない。それが人の命を奪ってしまったあなたの最低限の務めだと私は思います」(p208)
ペドフィリア(英: pedophilia):幼児・小児(通常13歳以下)を対象とした性愛・性的嗜好。俗にペド。