hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

前進座劇場が閉館になる

2012年03月04日 | 日記
吉祥寺南町の井の頭通り沿いにある前進座劇場が来年1月の公演を最後に閉館する。



手前の白い建物が南町コミュニティーセンターで、その向こうの窓のない煉瓦色の建物が前進座劇場だ。さらに奥の青い看板のあるのが築40年以上の吉祥寺南病院で、耐震性強化のために前進座劇場の土地を購入して拡張する。

前進座は劇場の南側に小さく古い事務所と若手の稽古場を持っていて、これを新施設にして劇団活動は続けたいとしている。



かって前進座劇場建設の際には、全国三万余の署名、武蔵野市などの強い後押しにより都知事の「特別認可」がおり、さらに、松本清張氏を代表とする募金委員会がつくられ、一年の間に全国から1億9千万円が寄付されて、この地に劇場を建てることができ、そして、今年30周年を迎える。

前進座劇場閉館のお知らせ」には、代表 中村梅之助によるこのような感謝の言葉が書かれ、次のお願いが記されている。

現在、私たちはこれまで歴史を積重ねてきたこの吉祥寺南町三丁目を拠点として、演劇活動を存続できるよう、第一種低層住居専用地域内ではありますが、なんとか事務所・稽古場の新施設をこの地に建設させていただきたく建築基準法第48条の許認可を、武蔵野市長はじめ武蔵野市都市整備部「まちづくり推進課」「建築指導課」に請願しております。
 何卒、ご近隣の皆さまにもご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げる次第でございます。


伝統の歌舞伎界の中から新展開を求めて誕生した前進座。吉祥寺の地に育ったこの大衆芸術活動を、何ごとにも優先される経済効率には直接寄与しないからこそ、もっとも住みたい街、吉祥寺は応援すべきだと思うのですが。


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角田光代『幾千の夜、昨日の月』を読む

2012年03月03日 | 読書2

角田光代著『幾千の夜、昨日の月』2011年12月角川書店発行、を読んだ。

著者が20代の頃に旅したベトナム、モンゴル、エジプト、ペルー、モロッコの砂漠ツアーなどでの夜の話、あるいは日常のなかでの夜に関するエッセイが24編収録されている。

ビビリ屋だという角田さん、外国、それも未開発地域が多いから、ひとり旅なら夜は恐いだろう。手違いで夜に空港に着いてしまって、知らない土地でホテルまでの夜の道、部屋の中の巨大ヤモリ、群れるゴキブリ、道をふさぐ酔っ払いや、あやしいベンツ等。夜は恐ろしい。でも、若かった角田さんは進む。

モロッコでのだいだい色に強烈に光る月や、怖いほどの星空の下にあるモンゴルの平原の夜。

夜は黒ではなく灰色だった。灰色のなか、ただ大地が広がっている。何もない。人工物も、そうでないものも、大地以外は何ひとつない。かたまりの夜のなかに立っているようだった。



知らない町で彼と会い、もともと駄目だと思っていた一人勝手な恋の終わりを悟る。「じゃーね」といって最後の別れをして、誰もいない夜の駅のベンチで「恋、だめだったなあ」と思う。

あまりに平凡だと思っていた友が、どうでも良いことには妥協してしっかりと目標を持っていたことに驚く。夜を徹して語り合った夏の林間学校の二段ベッド。

臨終を迎えようとしていた母と過ごす消灯時間が過ぎたあとの病室。

アジアの奥地に入り、ビクビクしながら小さな店で食事をとっていると、見知らぬ男が近づいてくる。こわごわ見上げると、突然、その男は、鼻の下に人差し指と中指を当てて言った。   「カトチャン ペッ!」
角田さんは腰が砕けたという。

初出:月刊誌「本の旅人」2008年4月から2010年3月



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

私など夜というと、眠れない夜、一歩先も見えない夜、満点の星の夜などしか思い浮かばないが、夜というテーマに絞っても、もう一歩進んでこれだけの話を書いてみせる角田さんの筆力に、当たり前だが、平伏。

角田さんは「子供のころには夜がなかった。」という。そう言えば私も子供の頃は、夜は早く寝ろと言われ、ふすま越しに楽しそうに話す大人たちの声を聞きながら布団の中で涙をこぼしていたのを思い出した。

年取った私はもはや安宿には泊まれない。若い時でも不潔な部屋は無理だった。角田さんはすごい。

安宿には種類ある。当時アジアでは3千円くらいのホテルは超高級安宿だった。トイレもバスも部屋にあり、シャワーからはちゃんとお湯が出、ベッドは薄くてもマットレスがあり、シーツは清潔である。千円程度なら中級宿、シャワーは水だけだがバストイレはとりあえず部屋にあることが多い。その下に数百円の超低級安宿がある。バストイレ共同、ベッドにはシーツなんて敷かれていない。長旅のバックパッカーはたいてい、超低級に泊まっている。

角田光代の略歴と既読本リスト

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綿矢りさ『かわいそうだね?』を読む

2012年03月01日 | 読書2
綿矢りさ著『かわいそうだね?』2011年10月文藝春秋発行、を読んだ。

デビューから10年、まだ子供と思っていた綿矢さんも、はや28歳。ようやく中篇2作より成る5作目が出版された。

かわいそうだね?
百貨店のブランド店で働く28歳の樹理恵(じゅりえ)の恋人は、アメリカ育ちで無口な隆大(りゅうだい)。ところが彼が、元彼女のアキヨが就職できず困っているので自宅に居候させる、ダメというなら樹理恵とは別れる、と言い出す。
彼が好きなのは樹里恵というのだが、ワガママが言えない性分の彼女は迷って・・・。

亜美ちゃんは美人
さかきちゃんと亜美ちゃんは高校時代に出会い、大学、社会人、と常に一緒。さかきちゃんはちょっと天然で、自分よりはるかに美人の親友に、常に複雑な思いを持つ。そして卒業して2年後、人からほめられ続けた亜美ちゃんが「初めて本気で人を好きになった」と相手を連れてきた。彼の職業説明は意味不明、チンピラ風で、亜美ちゃんを下僕のごとく扱う。

初出 かわいそうだね?:「週刊文春」2011年2月10日号~5月19日号
   亜美ちゃんは美人:「文學界」2011年7月号



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

ダイナミックな筋立てや、奇抜さはないが、ところどころに綿矢さんらしい細かい観察、ささいな心理描写が光り、全体を見下ろす冷静な目で描かれている。物足りなさは残るが、小さな冴と、女性のいやらしさを描いていながらほんわかした雰囲気がある。

「亜美ちゃんは美人」は、美人とそれなりの二人の組み合わせで、昔から良くある話で新味はない。細かな心理描写と、亜美の心をとらえる上っ調子の男性の描写がだけが光る。少女2人を“ちゃん”づけで語る三人称で書いているのだが、文自体はさかきちゃんからの視点だ。ちょっと違和感があるが、こんな試みも面白い。

以下、本筋に関係ない点をいくつか。

7ページほど携帯メールの引用が続くのが今時。また、パンプスの語りがナウイ(??)。
パンプスを買うかどうか迷っているお客に、友達が「うーん。わりとメスっぽい感じ?」という。
・・・あたし、安いコストで作られてるし、デザインもケバいけど、いい男ひっかけたくて~、とパンプスが頭の悪そうな声でしゃべりだし、お客さんがだまって靴から足を抜く。

これって、表紙の絵にあるパンプスのこと?

樹理恵は英会話の外国人講師に相談を持ちかける。会話の英文のあとに、彼女が理解したとおりのいいかげんな直訳の日本語が並ぶ。 “エックス(ex)”という単語をクリスマスとか十字架とかのことだろうかと解釈したままで、元恋人を指す言葉とは訂正されないままになっている。
これらも、なにか必死で、新しげな表現を探し、雰囲気をだそうとしているようで、綿谷さんを応援したくなる(美人は得)。

まったくベッドシーンは登場しない。「身体を重ねてひさしぶりの彼の肌のぬくもりに愛が深まったのも事実。」とあるだけだ。これも、綿谷さんファンのおじいさんには嬉しい。



綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える
2010年、『 勝手にふるえてろ



文藝春秋の特設サイトより

かわいそうだね?

樹理恵(じゅりえ):百貨店勤務でしっかり者の28歳。同い年の彼氏・隆大と交際順調だったはずが、彼の家に元彼女のアキヨが転がり込んで以来、悩みが絶えない毎日に。

隆大(りゅうだい):28歳、会社員。アメリカ育ちのため日本語にやや不慣れ。7年間つき合うも帰国後にふってしまった元彼女を助けるため、自宅に受け入れる。

アキヨ:30歳、無職。学生時代から家出同然でアメリカで暮らすが、隆大と一緒に帰国。家賃が払えなくなり、就職活動期間中だけ彼の家に住むことに。

綾羽(あやは):樹理恵の職場の後輩。年下ながら修羅場経験豊富なため、こと恋愛面では頼れる相談相手。隆大&アキヨ・元サヤ説を主張。



亜美ちゃんは美人
さかきちゃん:顔のパーツは地味ながら野性的な色気も備えたまあまあの美人。だが「抜群の美人」と並ぶと不利は否めない。高校時代からずっと冷静に亜美ちゃんと友達づきあいしてきた。(私は、最後の最後に坂木蘭と署名があり、“さかき”が苗字だとわかった)

亜美ちゃん:嫉妬や陰口すらはねのけて誰もが夢中になるほど可愛く、居るだけで視線が集まる容姿に恵まれたうえ、性格も悪くない。高校時代からさかきちゃんを「親友」として特別扱いしてきた。

長野さん:さかきちゃんと亜美ちゃんが大学で所属した山岳サークルの幹事長。

小池くん:大学時代に「亜美研究会」なるサークルを一人で立ち上げておきながら、生身の亜美には関心がないと言い切る変わり者男子。卒業後、さかきちゃんに意外な指摘を……。

崇志(たかし):大学卒業後に亜美ちゃんが出会い、「初めて本当に人を好きになった」とまで言わしめる彼氏。だが、紹介されたさかきちゃんは驚愕することに!



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