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代のアメリカ人男性は父親の世代より少ない収入しか稼いでないというブッキング研究所などのシンク・タンクが参加した調査報告が先週報じられた(CNN Money 5/25)。何時の時代も前の時代よりは良くなるという素朴な「アメリカン・ドリーム」信仰に反するショッキングな内容だという。
記事によると2004年の30代男性の平均年収は35000ドルで、1974年の40000ドルより12%も落ち込んだという。一方世帯の年間収入は1964年から1994年の間に平均32%増加したが、1974年から2004年の30年では9%増に留まっているという。
報告は70年代から生産性の改善が収入の伸びに反映されなくなった結果であると指摘している。収入の落ち込みを女性の働きでカバーした結果、世帯単位では何とか収入増やしたということであろう。家計レベルで言うと働き手を増やして豊かな生活を維持しているということのようだ。
実は上昇していた中流階級
もう一つ政治的な意味合いを持って主張されてきた「崩壊する中流階級」常識に真っ向から反する記事を30日のワシントン・ポスト紙が報じている。記事によれば中流階級は減少しているが、それは貧しくなったのではなく上流階級に移動しているためだという。
この調査は対象を29-59歳の働き盛りの家庭に絞って行われた(平均収入が63000ドル)。1974年から2004年の30年間に年収3万ドルから9万ドルの世帯が47%から39%に減ったが、9万ドル以上の世帯が9%増え3万ドル以下の世帯の比率が変化しなかったという。
データは民主党が折に触れて政府を攻撃する「アメリカ中流階級の終焉」は根拠がなく言い過ぎだと示唆した。調査の信憑性に疑いを持つ向きがあるかもしれないが、クリントン時代の経済合同委員会に参画しどちらかというと民主党よりの経歴を持つローズ博士による調査と伝えている。
調査では女性の労働参加率上昇を除いても収入は増加しているという博士の主張は最初の記事と反するが、調査対象を29-59歳に絞った結果の差異であると私は推測する。
エリート職の増加が上昇要因
更に詳細に見てゆくと、マネージャや専門職の所謂エリート職が着実に増加、熟練労働職数がほぼ変わらない一方で、未熟練労働職が1979年以降一貫して減少しているという。工場の熟練労働は熟練事務職に置き換わる一方で、未熟練労働は海外に流出したと思われる。
報告は同時に米国の85%の富が20%の世帯に片寄る問題を指摘し、15-25%の家庭が中流階級の生活の維持にアップアップしていることを認めているという。
この二つの報告はメディアなどで流布され良く言い古された「常識」といえどもそこで思考停止せず、具体的なデータでその実態を把握しない限りミスリードされる恐れがあることを示している。そうしないで安易な減税や補助金の政治解決が問題解決に繋がらないと記事は結んでいる。
日本でもバブル崩壊後に実行された巨額の公共事業など考えさせる例は多い。良く議論されることの多い格差問題についてここで何度か議論してきた。同じような誤りを犯す恐れがあると思いでこれからも視点を変えて指摘していきたい。■