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短金利差の縮小が2005年夏頃から顕著になり、昨年7月以降遂に逆ザヤになったという「異常事態」について何度か書き込みをした。当時長短金利の縮小・逆転の理由は二つの過剰、即ち世界的過剰流動性と輸出国の過剰貯蓄が定説であると紹介した。
ところが昨年12月を底に長短金利逆ザヤが縮小し始めた。5月になって、米国の長期金利が急上昇しFFレート(短期金利)に急速に接近してきた。これは何を意味しているのだろうか。逆ザヤの世界はどういう世界で、今後何処に向かっているのだろうか。
逆ザヤになった昨年7月に遡ること2年前からこの3年間の世界的超低金利が世界的好況をもたらし、住宅ブーム、好調な企業業績と買収による株高を実現したという見方がある(NYタイムス6/15)。世界で不況な国が一つも無いという未曾有の好況に沸き、業績好調・雇用改善・物価安定が続いていた。
原油価格が高騰し、米国の経常赤字が悪化、世界的に金融引き締めをしているにもかかわらず、経済学的に見て考えられない程の「好都合な非常識」が続いていいのだろうかと専門家は疑いの目で見ていた(武者陵司ドイツ証券副会長-楽天証券)。
「非常識」はかつて無い規模の過剰流動性を媒介して中国・インドの低賃金労働力を最適活用し得られた利益をポケットに入れる構図から生まれた。議論はあるだろうが、利益を自国に還元すべき明快な理由は道徳的なものを含めても私には見当たらない。(別途議論したいと思う。)
中国やインドの労働市場は徐々に逼迫してきており、賃金上昇が続いている。先進国の賃金に近づいていく内に、どこかで上記の「好都合な非常識」構図が崩れるはずだ。長期金利上昇はその変化の兆候かもしれない。それは全く違った分野から突然現れるかもしれない。
今回のボンド価格急上昇が何を意味するか明確な説明はないが、上記構図が変化する兆候という見方がかなりある。例えば上記NYタイムスは企業買収資金が細る一方、住宅ローン金利上昇は悪化している返済を更に滞らせ、物価を上昇させる恐れがあるとみている。
証券会社・経済誌などの見方は概して「世界的ディスインフレの終わりの始まり」(楽天証券)とか、「長短金利の本来の姿への回帰」(NB Online)とか意外にプラスの見方が多い。その視点から日銀の金利上昇を正常化すべきと期待する向きがある。
しかし何故か、私には余り自信のない予測の様に聞こえる。それは上記のように長期金利上昇による住宅ローン会社の苦境、特に一旦落着いたサブプライムローンの返済が再度滞り始めると、持ち直しが予測されるようになった米国経済に深刻な影響が出る恐れがあるからだ。
先週末に持ち直した米国証券市場とドル高に引っ張られて、今日の東京市場も円安・株高となり今のところ悪い材料とは見られていない。しかし、長期的には今年末にかけて金利上昇とインフレが進む環境が醸成されていく感が強まってきたように私には思える。■