内閣支持率の急低下
野田内閣の支持率が劇的に低下した。9月に発足以来支持率は30ポイント低下し36%、不支持が53%になったと25日の日本経済新聞は報じた。一川・山岡大臣の問責決議、原発事故収束宣言、消費税増税、公務員給与削減先送り等が支持率低下の原因として上げられている。
そして来年度予算案が極めて評判が悪い。震災復興関連を除く歳出は6年ぶりに前年度より減って90.3兆円。歳入は税収の42.3兆円に対し国債発行が44.2兆円で、今年度並みの44兆円にとどめたというが、別枠の震災復興や年金財源を含めると予算規模は実質96兆円であるという。これが「史上最悪の予算」といわれる所以だ。
平行して政府与党は消費増税を含む社会保障と税の一体改革の素案取りまとめに入った。八ツ場ダムの建設再開などを理由に党内の反対が噴出し、党税制調査会は昨日予定していた論点整理ができず初日からつまずいた。政権運営に変調を来たし「政治の混迷」といわれ始めた。
「選挙至上主義」の重罪
デジャヴー、民主党最後の希望だった野田政権もいつか来た道を辿り始めたのか。だが、私には想定の範囲内である。というのは今年の8月に「短命政権の構造」(http://blog.goo.ne.jp/ikedaathome/d/20110809 )で指摘した「政治を機能させない構造」に野田政権も否応無くはめ込まれたからだ。選挙棄権者が無責任に「誰がやっても変わらない」というのはある意味正しい。
参院で多数を取る野党の自公両党が政局狙いで右を向き、そして与党内の相当数を占める小沢派が機を見て賞味期限を過ぎたマニフェストを盾に左を向く。党内外の「選挙至上主義」的アプローチが妥協できない状況を作り野田内閣は身動き取れない。最大多数が物事を決める民主主義制度が作った落とし穴だ。
元々野田政権にとって頼りは世論だった。政権発足時、野田新首相は支持率に一喜一憂しない政権運営と言ったが、選挙至上主義の野党・小沢派対策には世論の後押ししかない。だが、冒頭に述べたようにここに来て頼りの野田首相の支持率は急降下したのだから先々が思いやられる。
「福祉ポピュリズム」が国を覆う
このように政治が機能しない根底にはネジレ国会に加えて「福祉ポピュリズム」が我国を覆っていることがある。毎年社会保障費が消費税2%の比率で上昇しているが、歳出削減と税収増の痛みは上記の選挙至上主義者の狙う「政局」のネタにして先送りするばかり。
弱者及び格差問題を取り上げる報道は、一方で救済を負担する側の痛みにも同情し、どちらの問題にも政府批判する矛盾に平気だ。結果として歳出が増加一方となる「福祉ポピュリズム」が国民の間に蔓延している。小沢グループの選挙に弱い若手議員はこの手の雰囲気に極めて敏感に反応している。
最近の首相5代に亘って我国はこの「不幸な悪循環」に嵌まった。この悪循環の潤滑油となっているのがマスコミの政局至上主義報道だ。政策に賛否を明らかにせず政権の対応を非難する報道は、現状のネジレ国会では政治の混迷に手を貸している責任を負う。私には国民に阿り軍部を煽って我国を破滅に向わせた戦前の新聞の姿とダブってくる。今度はギリシャ化に手を貸すのかと。
「負担なき社会保障」の行く末
菅前首相時代に官僚不信で政治が機能しない、政治主導はどこに行った、と両方の報道が見られた。だが、野田首相になって官僚主導か否かの議論より、財務省の言いなりという指摘が増えたように感じる。だが、重要なのは誰が主導するかではなく政策そのものであり、それがキチンと実行されるか否かだ。政策を論じないで官僚主導を非難するのは国民をミスリードする。
その野田政権の政策に大筋大きな誤りはないと私は思うが、一部に疑念があるのは事実だ。今党内で紛糾している来年度予算には、八ツ場ダムの建設再開や整備新幹線などを含めたのは誤りだと私も思う。政策なき政局から理念に基づく論争に戻り、小沢派の反対論に正統性を与えた。
しかし、この国の行く末を決める現在の最大テーマは「消費税を含む社会保障と税の一体改革」であることを肝に銘じて欲しい。欧州危機を招いた最大の原因は「負担なき社会保障」である。八ツ場ダムの為に国の最大テーマが議論されず先送りされるといった本末転倒の事態にならないこと祈りたい。■