かぶれの世界(新)

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私的・787バッテリー問題

2013-03-16 21:57:27 | 社会・経済

 昨年、実家から東京に戻る時乗ったANAの飛行機は新しい機体だった。「これが噂の787か」とCAに確かめた。機内はゆったりした空間に新しい装備で快適だった。その後の行き来は事情でJALに変え、お馴染みの747に戻った。先月もJALを利用、当然787に切り替わってなかった。

 日本のエアラインが世界に先駆けて導入したボーイング社製787の事故調査が難航している。事故当初は焼け焦げた日本製のリチウムイオン・バッテリの問題が疑われ、次にバッテリーの過充電が疑われたが原因と特定できなかった。バッテリー・セルの一つがショートし、その熱が他のセルに伝播し熱暴走を起こした事は突き止めたが、そもそも何故ショートしたか原因不明だ。

 しかし、航空機を出荷できず売り上げがたたないボーイング社は当然として、日本を始め世界の航空会社は787が飛ばないと毎日巨額の損失が積み上がっていく。ボーイング社はバッテリー・ショートの根本原因は不明のまま、ショートしても熱暴走しない改善策を打って当局の許可を得て試験飛行を開始した。いわば「臭いものに蓋」の筋の悪い対策、追い詰められた選択だった。

 私の想像ではボーイング社は技術責任者(通常、CTO:Chief Technology Officerという)がいて、その指揮下に社内外の頭脳を投入して調査し対応策を練った結果だと思う。社内的にはCTOが責任を負い、社外的には社長が責任を負って改善策を推進しているはずだ。このやり取りの空間は巨大な圧力が掛かっていると想像する。ボーイング社では改善策を決定するまでに技術者対技術者、技術者対経営者の激論が交わされたと思う。

 何故そう思うかというと規模は遥かに小さいが私にも経験があるからだ。技術判断が経営に決定的な影響を与える事態に遭遇した。90年代初め、私は購入電子部品の品質を認定する技術部門の責任者になった。突然の人事異動で製品開発部門から落下傘で降りてきた管理者で、要するにこの領域では無知な上司だった。

 人事異動から間もなく、競合他社の携帯商品のバッテリーが発火してリコールする騒ぎが起きた。バッテリーが燃えたらしい。人体に危害を与え火事の原因になる深刻な事故に発展する恐れがありリコールは当然だった。マスコミが取り上げる事件に発展した。

 突然、素人部長に難問が突きつけられた。我社の製品は大丈夫か、販売店は心配している、安心して売ってくれと言えるか、3日間で営業に返事できる答えをくれと言われた。マスコミは他の会社の製品についても疑いを持っていたと思う。既に何万台も出荷しており、万が一問題があれば数億円の損失は避けられない状況だった。

 だが、専門外の私は経験豊かな担当課長に頼るしかなかった。それまで経験したことのない圧力が掛かり眠れない日が続いた。当時も今もバッテリーは扱いが厄介で、近年も各社の色々な携帯製品で問題を起こしている。彼とそのチームはその日のうちに競合他社の商品を入手し調査を開始し、3日目には同じと思われる現象を再現させ制御回路に原因があるとつきとめた。

 私の悪夢は3日間で終ったが、ボーイング社の技術部門と経営陣の責任者は2ヶ月続いている。今回のボーイング社の改善策は根本原因が分からないまま、バッテリーのセルの異常を封じ込めて広がらないようにした中途半端なもので、CTOはさぞかし寝覚めが悪いのではと私は同情する。再発すれば彼はクビ、だが今となっては腹をくくっているだろう。■

コメント
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