是非とも読書を勧めたい一冊の本がある。「資本主義が嫌いですか」(竹森俊平)はサブプライムがリーマンショックに発展した直後に書かれたが、私の知る限りその後の展開を的確に予測した書を読んだことがない。恐怖で狂乱状態の時正しく先を見通した稀有の書である。専門外の私にはいささか難解だったが、苦労してでも読む価値は十分ある。
それが如何に難しいかは「国家破局カウントダウン」(上野泰也)を読むとわかる。日本の財政赤字と人口構成問題に警鐘を鳴らす書だ。問題指摘は極めて的確なのだがそれに基づく対処法が当たり前で誰でも思いつきそうなもので残念だ。決して駄本だという積もりはない、寧ろ読書を勧めたい佳作の一つだ。だが、期待が大きいだけに読書の最後に失望感を味わう。
(2.5)検証「国策逮捕」 東京新聞特別取材班 2006 光文社 ライブドアの粉飾決算と村上ファンドのインサイダー取引の経緯を克明に追跡したNF。国策捜査とは世論の求めに応じ時代のけじめをつける為、ありとあらゆる法律を適用して立件にこぎつける捜査という。特にライブドア流錬金術の3点セット「株式交換による企業買収」「投資事業組合」「株式分割」を使った自社株売却・利益還流システムの捜査経緯が詳細に説明されている。難解だが立件・有罪に値したと思う。
(2.0+)特捜検察の闇 魚住昭 2001 文芸春秋 元特捜でオウム真理教・浅原彰晃の主任弁護人、死刑廃止運動のリーダー、バブル時代の経済犯罪の弁護人、東京特捜出身のやり手の弁護士の安田好弘氏が、中坊率いる住管機構の債権回収に対し不正行為を教示して妨害したとして逮捕され一審途中までの経緯を描いたもの。後の大阪特捜の偽装事件(小沢一郎の政治資金捜査)に繋がる特捜の問題指摘がなされていると感じさせ興味深い。
(2.5‐)国家破局カウントダウン、日本を救う三つの処方箋 上野泰也 2011 朝日新聞出版 やたら長い書名だが私が最も危惧するテーマだ。震災直後に書かれたが、今日現在の政治の在り方にも示唆的な内容だ。財政赤字と人口問題でそれほど遠くない先に破局が来ると警告するもので、問題指摘の詳細まで私と波長が合う。しかし、その対策が観光や移民を含めた総人口増加しか浮かばない。そこに問題の深刻さがあるのかもしれない。
(3.0)資本主義が嫌いですか 竹森俊平 2008 日本経済新聞書き出しで「リスク」と「不確実性」の違いを説明しサブプライム危機を解説し読者を惹きつける。その後、経済学の専門概念「動学的効率性の条件」を駆使し世界的貯蓄過剰とバブルなど難解な論理が展開される。我慢して読み続けると2005年にサブプライム危機が悪化し世界金融危機に発展すると予測した論文と議論が紹介される。当時の制度や取引慣行が如何に危機を連鎖させるか正確に予測した佳作。
(2.0+)メルトダウン 榊原英資 2009 朝日新聞出版 リーマンショックの翌年の年が明けまだ興奮が残っている頃に書かれた。経済官僚というより学者然として理路整然と90年代以降のバブルと金融政策の関係を描いている。議論のベースは著者がソロスとの交流で共感した市場原理主義の弊害だ。だが、過去は明確に説明できても現在何が起こっていて将来どうなるか、明日のことすら見通せてないように感じる。
(2.0+)イギリス 矛盾の力 岐部秀光 2012 日本経済新聞 日本と比べてイギリスは良い点をあげつらう本だ。しかし、優れている点が時代が変わればマイナスになることも多々ある。著者自身がそのことに気が付いているのが救い。最後に日本は失敗に厳しい、失敗した人に敬意が足りないというのは私も普段から感じている重要な指摘だと思う。
(2.0+)必ず柔らかな明日は来る 曽野綾子 2005 徳間文庫 戦後我国だけで通用する似非ヒューマニズムの常識をきっぱりとたしなめる名言集。例えば、事件の風化の何が悪い、安易に謝罪を求める、(学校より)家庭こそ教育、浮世離れした平和主義者は珍獣、死は後世の為、等々。自助独立・自己責任をモットーとする私の心に響く言葉が沢山あった。
(1.5)脱ガラパゴス戦略 北側史和・海津正信 2009 東洋経済新報 題名に惹かれ読んだが期待外れの至極当たり前の内容だった。リーマンショック後の’09年晦日現在の認識で同情するが、東欧の景気を不安視し、パナソニックやシャープの取り組みを評価するトンチンカン。肝心の脱ガラパゴス戦略は日本技術と文化を組み合わせて売れというものだが陳腐で説得性に欠ける。
(2.5)永遠の0(ゼロ) 百田尚樹 2009 講談社文庫 特攻で戦死したゼロ戦パイロットの実の祖父の最後を辿る孫の姉弟を描いたもの。最初の500ページはNF風に関係者のインタビューで戦争と海軍の実態と祖父像を実録風に描き、最後の50ページで小説風にどんでん返しで締める。所々で泣けてくるが、底流にある海軍の官僚的体質とマスコミの戦後民主主義的体質批判が娯楽小説を越えて訴えてくるものがある。それが普通の小説と違い評点をつけた理由だ。
「永遠の0(ゼロ)」(百田尚樹)は上記の書評の繰り返しになるが、特攻(カミカゼ)を通じて極限に追い詰められた生身の兵士と、それを材料扱いする海軍の官僚的体質、パイロットより戦闘能力を優先にするゼロ戦の開発コンセプトに焦点を当てた小説スタイルのNFである。一読に値する。
最近、毎回のように読書量が減った言訳をしている。今回もそれなりの理由はある。総選挙の分析、お正月、パソコンの乗り換え、ハワイ旅行、自宅の改装工事契約、と読書の時間が十分取れなかった。それに正直言うと、「資本主義が嫌いですか」にはてこずった。読み切るのに随分時間がかかった。次回はもっと良い本を沢山紹介したい。■